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楽になるブッダの教えーコロナで苦しい人々へー

 コロナウイルスの感染拡大が続いています。新年度を迎えて起きた様々な変化も、当面、元に戻ることはないでしょう。
 その中でお仕事を失われた方、人との繋がりを断たれた方、これからに希望を見出せない方が大勢いて、どうしようもない状況を嘆き、この世での暮らしを諦めるという選択をする人の多さが、各種メディアで報じられています。
 この文章が死にたいほど苦しい方に届くかはわかりませんが、仏教の研究に携わる者として、また何よりも僧侶として、生きる指針になる教えを、ブッダの歩みから紹介してみたいと思います。

出家ー環境を変えようー

 私たちは様々な苦しみを感じます。大切な人や物を失ったり、誰からの理解も得られなかったりする中で、生きようという意欲をくじかれることもあるでしょう。仏教の開祖ブッダもそんな苦しみを感じた人物です。ブッダの感じた苦しみは人生に対する漠然とした不安、このままで良いのかという思いだったようです。そんな中でブッダは「何か良いもの」を求めて出家します。
 出家というのは、自分が生活する環境を自分の意思で変えることです。重苦しい雰囲気のする生活や、賛同者のいない環境など、そこにいると気が滅入るところから、逃げ出すことです。
 仏教は心の問題を解きますが、心を整えるためには悪い環境に近寄らず、よい環境に身を置くことが大切です。「逃げちゃダメだ」と思うことなく、「逃げるは恥だが役に立つ」という思いでつらい環境から離れましょう。
 ブッダは出家した後、一人で修行したのではありません。はじめは師匠を見つけて瞑想を習い、さらに仲間とともに修行に励んだようです。出家する前には、自分と同じ方向を向いている同士がいなかったのでしょう。それが環境を変えることで、仲間が見つかりました。ブッダは覚った後に、ともに修行をした仲間に説法をします。仲間内で、みんなが欲しがっていたものを得た一人が、「めっちゃいいだろ」と嬉しそうに語り、それに「まじでいい」と言っている光景をイメージすると、ブッダの初めての説法がとても身近に感じます。
 環境を変えて、仲間を見つけるというのが出家という営みです。苦しいところからは離れて大丈夫というのがブッダのメッセージの一つといえますね。

苦しみと向き合うブッダの教え

 ブッダは覚りを得て自分自身の苦しみを克服しましたが、その境地からどんなことをお話ししたのでしょうか。ブッダが話した苦しみの対処方法はざっくりと四つのポイントにまとめられます。

1 人生は苦しい
2 その苦しみには原因がある
3 苦しみの原因はなくなる
4 苦しみの原因をなくすためには修行が必要

 ブッダは覚りを開き、苦しみから解放されました。その境地から、しかし、人生は苦しいと説きました。ブッダの目にさえ苦しいと映る世の中、私たちが苦しむのは当然です。生きるとは苦しむことだと言ってよいほど、私たちは様々な苦しみを味わいます。
 人生が苦しい、言い換えれば「人生はクソだ」、ということだけをブッダが説いたのではありません。そのクソッタレな人生には、そうなる理由があるとブッダは見抜きます。
 クソッタレな人生の原因はどこにあるのか?それは自分にあるというのが、ブッダの考え方です。

 実に厳しい。

 しかし、ブッダは他人を自分の都合の良いように変えることはより難しく、誰かに頼って生きていくことでは苦しみから抜け出せないと考えました。
 自分を苦しめるのは自分の中にある欲望です。それは狂おしいほどものを欲する貪りであり、あるいは意に沿わないものを退ける怒りであり、さらには自分を他人と比べてしまう自我意識です。これをどうにかしないことには、穏やかな生活はできません。そして、それをどうにかできるのは自分自身です。
 自らの生死の問題に直面した時、子も親もそれを解決する役には立たないと、ブッダはかつて子を失い、仏門に入った尼僧に説いています。お前を救えるのはお前だけだ、そんな叱咤激励をブッダは我々に飛ばしています。
 もちろん、これは苦しい環境から離れた後に、自分を見つめ直してから理解すれば良いものです。しっかりと自分と向き合う時間を取り、傷ついたり、汚れてしまった心を大切にしながら修行を続けることで、心は変わります。やがて欲望がなくなり、平穏な境地に達することができる。ブッダ自身がそれを体現した人です。
 そのような境地に至るためには、修行が必要です。修行と聞くと肉体を酷使する様を思い浮かべるかもしれませんが、仏道修行は心のトレーニングです。
 まず大切なことは、繰り返しますが、心がざわつく環境を一刻も早く離れることです。それなしに修行はあり得ません。そして落ち着ける環境が確保されたら、集中する時間を作りましょう。例えば呼吸の数を数えたり、あるいは怒りを抑えるために友人のことを思い出してみたりします。
 心は散漫な時ほど疲弊します。一方で、何かに集中している時は、心が生き生きします。夢中になって、時の経つのを忘れたという経験が、みなさんにも少なからずあることでしょう。苦しみがない、というのはそんな状態が持続していくことです。

苦しみを緩和するブッダの教え

 今まで話してきたことをまとめながら、日常でできる具体策として提示してみましょう。
 まずあなたが苦しみを感じていて、もうだめだと思っているなら、その環境から逃げてください。心身を守るためには環境がとても大切です。
 職場や恋愛関係、またSNSなど苦しみを感じる環境から身を遠ざけましょう。親子や恋人でも命の危機を感じる状況であれば、とりあえず距離を置きましょう。
 世の中には苦しい人に差し伸べられた手がたくさんあります。どうか自分の逃げ場所を、その手を掴むことで、見出してください。

 次に大切なことは修行ですが、修行とは集中する時間を取ることです。例えば好きな音楽を聴く、散歩をする、深呼吸をするなどが良いでしょう。音楽は聴いている音に集中し、散歩であれば周りの景色を見ながら歩いてみる、あるいは足の裏の感触を感じ取るように意識を向けても良いでしょう。深呼吸をしながら呼吸をする体の動きに意識を向ける。例えば肺の膨らみ、鼻から出入りする空気を観察してみてください。何かに心を向けていくことで、集中することができます。集中は心の深呼吸であり、ストレッチです。

 心にゆとりが出れば、少し冷静に自分の状況を見ることもできるでしょう。自分の苦しみと向き合うことができれば、苦しみに適切な対応が可能となります。苦しみに自分が染め上げられている時、自分が苦しみと一体化している時は、冷静になるのは難しいことです。環境を変え、心を落ち着かせ、集中することができれば、自分を冷静に観察することができます。その冷静さがあなたを助けてくれます。

まとめ

水の中に潜って苦しくなったら水から顔を出すように、苦しくなったらそこから抜け出すこと。

そして好きなことをする、好きなものを食べる、誰かのためではなく自分のために時間を使う、そんな生活をする。

ブッダが示した実践を、私たちの暮らしの中で実践するというのはこんなことだと思います。

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