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フリゲ【食糧天使】 プレイ感想

DL不要で遊べるのでまずはリンクと公式あらすじ貼っておきますね。

人間の幸せは、天使の肉でできているーー

物語の舞台は朝の来ない不思議な街。
肉屋を営む孤独な青年・リンは、ある日天使を捌くことになる。
666666番目の天使・リゥリゥは、自分の死に酷く積極的だ。
殺して欲しいと頼むこともあれば、早く殺せと拗ねることも。
けれどひとりぼっちで生きてきたリンにとって、リゥリゥとの時間は大切なものになりつつあって……

幸せとはなにか、生きるとはどういうことなのか。美麗Live2Dが彩る、苦しくて美しい物語を貴方に。

改めてこのタイトル画だけでやっべーな!
でも完全に食肉扱いのビニールパッケージされた白髪赤目の美少女天使って最高に好きな絵面よ!!
あとシナリオ担当のエベさんがnoteのアカウント持っているのでそっちも貼っておきます。


【感想(ネタバレ無)】

まずはネタバレ無(とは言っても短編ノベルゲームなのである程度触れます)での感想。

【閉鎖環境での生きることへの罪悪感】

本作の舞台はものすごく狭く「肉屋の店前」「精肉加工部屋」「自室(上記スクショ)」の三つくらいしか無く、この三つの部屋で構成されたと思しき肉屋から主人公のリンは一歩も外に出ることができない境遇にあります。

※※※

肉屋と言っても、まるで店そのものが石ころ帽子でも被ったかのように誰も見向きもしない。
それでも毎日精肉加工をする。それが与えられた仕事だから。
誰も買わないので生命を無駄にする生業。その罪悪感を少しでも紛らわせるため、リンは余った肉で毎日無理をしてでもコロッケ二つを食べる。
恐らく食べなくても生きて(果たして本当に生きているのか?)いける異常環境。

狂うわこんなん。

※※※

そんな状況下でも、ギリギリで理性を保っているのは皮肉にもリンの罪悪感こそが彼を彼たらしめているのかな、と。
その罪悪感の根幹はネタバレ気味なので割愛しますが、とかくリンはこの無意味な肉屋生活の中で精一杯、生真面目に働いている中々の好青年です(作り笑顔は怖いけど)

無駄な仕事の中で仕事人としての態度を保ち
自分なりにやり甲斐探しをして働きつつも無力感に打ちひしがれ
この異常環境下でもなお生命への尊厳は忘れない

「自分には価値が無い」→「無価値なくせに生かしてもらっている」→「貰った生業は他の生き物の命を奪う仕事」→「でも命を奪われた生物は誰も買ってくれないし、自分もほとんど食べられない」→「なおさら自分には価値がない」

この無限ループの罪悪感!

だからゲーム起動時にこう注意喚起されるのでしょう
メシ食っている時に「この食材ってこうして誰かの生きる糧になった分だけ、自分より価値ある存在じゃない?」とか
「これだけの食材を作ってくれた農家の方々は大変な思いをなさっているのに、自分は相応の値段を支払うほどの財布の余裕も無いんだよな…」とか
そんなこと考える人間がプレイしたらたぶんダメだぞ!!

でもその罪悪感こそが、リンを容易に狂ったり、理性を崩壊させたり、なんならおあつらえ向きな道具がある仕事道具で自殺もさせない強固な自我を形成させているのかな、と考えています。
病んで疲れ果てているけれど、それは自分リンが犯した罪に対する相応の罰で(あるとリンは感じているように私は受け止めました)、罪悪感に対して他者から罰が与えられるのはある種の精神安定にも繋がりますので……

【食べる=エロティシズムではない】

割と食べるという行為をエロティックな表現の代替として扱う作品は少なくありません。
かの仮面ライダーの脚本で有名な井上敏樹先生も、子供向け作品なので食事シーンを性的な意味の代替エピソードとして使っている、という話を御存知の方も多いでしょう。

※※※

ラーメン大好き小泉さん(アニメ版)も妙にラーメン啜る姿が艶っぽく描かれていたり

めしぬま。なんかもその手のジャンルですね。

「私を喰べたい、ひとでなし」は正に食べるという行為とリビドーにディストルドーが入り混じった作品です。

※※※

でもこの「食糧天使」ってそれ・・じゃないんですよ。

リゥリゥは始終、人間の幸せのために献身・・の姿勢でいます。天使だな……(食糧だけど)。

一方でリンも

こんな調子です。
そもそもリゥリゥの初登場シーンは

これである

食肉なんだから裸なのは当たり前なんですが、リンにとってはもっと当たり前の行動としてとりあえず服を着せる(どうでもいいけど、どうやってあの服の構造で背中の翼を出しているのだろう)。
一緒に添い寝するけどその暖かさが、隣に誰かがいることだけでリンは満たされていた。
食欲と一緒におそらく性欲まで必要とされない環境なのでしょう。

結果として、リンとリゥリゥの間にはどのルートでも愛の絆が結ばれるのですが、その間に性的感情は一切存在しないストーリー構成になっています。
こんな絵面のゲームなのにちゃんとモチーフの天使を扱ったキリスト教的な愛になっているのです!
自己犠牲、献身、源罪、汝隣人を愛せよ……ちゃんとそれらがテーマに織り込まれていて、プラトニックな愛を貫いているという。

酔っ払ったおっさんがワイン片手に「これ俺の血」、もう片手にパン持って「これ俺の肉」とかのたまったエピソードもありますし、元からキリスト教的モチーフってカニバリズムとプラトニックラブとの相性がいいんですよね。

【感想(ネタバレ有)】

ここから先はネタバレ有の感想になります。

【食べる=幸せなのか?】

食べることで、とくに甘いモノなんかを口にすると脳みそから幸せを感じるなんやらが分泌されるらしいですが(詳しいことは面倒くさいので調べない)。

本作の象徴でもあるコロッケは、リンにとって幸せな思い出の味であると同時に、両親を殺した源罪であり、毎日向き合う罪の象徴でもあります。
まるで創世記の善悪の実。

一方で、リゥリゥは「何かを食べて幸せになったとき」の正体をこう明かします。

※※※

ただ現実世界でも「食べ物」って例外なく何かの生命の成れ果てなんですよ。
それが知性を持って、お話ができて、お互いに想い合うことができる存在だったら殺して食べるのをためらうのは当然ですけれども。

でも食べないと生きていけない。
でも生きているのが辛く、どこにも出口が見つからない。
それでも何かや誰かを犠牲にして、食べて、私たちは生きている。

「生きるために生きている」「何も変わらない無為な毎日」「自分の居場所は此処だけ」というのはこの作品をプレイしていて始終感じたところなのですが、そんなもんを維持するための犠牲と罪を重ねながら食べるのって、本当に幸せなんだろうか?

そんな罪悪感がリゥリゥという大変愛らしい姿の、少女の天使として集約されるのです。
……毎日サブカルの美少女を消費しているオタクとしてはなんか何重にも辛い。

正直なところ、このゲームではリゥリゥを殺すかどうかより、リンにとって、リゥリゥにとっての幸せとは何かを問いかけられることが一番辛い。

【END2:感想】

クリアした順番に感想述べていきます。
「リゥリゥをリン自身の手で殺めて精肉するルート」

このルート、最後の最後まではリンにとってはとてつもなく辛いけれど、互いの愛情が通い合ったルートだと思っています。
最初から提示されていたお互いの義務を果たし、お互いに相手の気持ちを尊重し合い、だからこそあんなに愛らしかったリゥリゥをミンチにしてしまう。
……でもこのゲーム、これだけで終わらないんですよね。

これは共通ルートで交わされる約束なのですが

このルートでのみ、約束通りリンはエンジェルクリームをスプーン一匙分食べる。
そうして、訪れる「幸福」は……

確かに幸福なんですけど、天使の肉体って全てが人間を幸せにする麻薬みたいなところがありますからね……
正真正銘文字通り「天使から与えられた幸福」。そこには一分の瑕疵も無い幸せしかないけれど、あれほど己の罪とリゥリゥに向き合ったリンはもういない。

それって、結局リゥリゥが一番恐れていた結末と何が違うの?という気もしてくるのです。

【END5:感想】

一度他のエンドを見た時に追加選択肢が出ることで行けるトゥルーエンドですね。

リゥリゥは最初から「人間を幸せにするために、殺されて食べられるために生まれてきた」という役目がありました。それを成し遂げられるのがリゥリゥの幸せ。
一方でリンは無為で無価値で大罪を犯してしまった男。生きている意味なんてなくて、辛くて苦しくて、ずっと流されるままに生きてきただけの男。
そんな彼が、果たして余人に理解できるか怪しい理由だとしても、今までの無為で無価値な人生に、リゥリゥに向き合う。

この結果、何が起こったのか詳しいことはリゥリゥは説明してくれません。突然輪光ハイロゥを被って、ふわふわ浮いて、一方的にリンの幸せのために動き出す。
でも明らかに他のルートをプレイするとわかる、ありえないことが起きているんですよね。

リンはなぜか普通の当たり前の世界と生活に戻り、追っ手がやって来ない。
消費期限が切れたら腐ってしまうはずの、人間の世界では天使は焼けてしまうはずのリゥリゥの羽根が、ずっとリンの手の中に残っている。
とにかく何か、リンとリゥリゥが互いの存在を認め合って互いのために生きようという強い意志を持つことで、奇跡が起きた。

その結果が永遠の別離というのは苦いのですが、リゥリゥは今も何処かで生きているはずだ――というか細い希望でも、短い間の奇妙な関係で育まれた愛情だけれども、たったそれだけでリンは生きていける。

幸せって、それだけでいいんじゃないのかな?
これは他ルートをプレイすることでより噛み締められました。

【END1:感想】

キッツイ。

結論を先延ばしにすることで行くルートです。
END2が、リンがリゥリゥの幸せのために辛いのを我慢したルートだとすれば、こちらはリゥリゥがリンのささやかな幸せのために文字通りに身を削ったルート。
天使ってちゃんと痛覚あったんだなってわかる唯一のルートです。知りたくなかったよそんなの。

そうまでして稼いだ時間もあっという間に過ぎ去って、リンも壊れてしまい、リゥリゥも成すべき義務を半端にしか果たせず、幸福管理局贈与課の方すらちょっと憂鬱な気分にさせる実にバッドエンド。

でもそれだけリゥリゥがリンのことを想っているっていうのがわかる結末なので、これがEND5に深みを持たせてくれるんですね。

そうだったらよかったのにね……

【END3:感想】

これは実質リゥリゥと心中するルートですね。
……本当にリンの手でリゥリゥを殺せたら、それはハッピーエンドだったんですが。

幸福管理局贈与課の方はこの「逃げる」ルートだとどっちでも親切だと思います。文句たらたら言っているけど、これはこれで辛い仕事だもん。

【END4:感想】

これが最後に見たエンドで、一度は逃げようとしたけれど、リゥリゥが殺されてしまったので彼女が元々望んでいた通り、精肉することを選ぶルートです。

この後ひたすらに、自己暗示をかけ続けるリンの姿が痛ましい。
与えられた義務を放り出してでもリゥリゥを助けたかったけれど、「リゥリゥの望みを叶えるなんてのは言い訳で、単に自分が死にたくなかっただけなんだろ?」と深層心理で自分を責めていて、こんなに辛いのに報われないなんておかしいと他ルートでは見られない、リンが他者に対して攻撃的で上から目線になるという稀有なルート。

結果としてぶっ壊れたリンに、幸福管理局贈与課の方がリゥリゥの意志を汲んでくれたのかはたまた予定通りに合格したからなのか、素敵なプレゼントをリンに贈って、リンは毎日幸せな義務と仕事を果たす充実した生活を送ることになるわけですが。

「社会的義務=幸せであっていいのか?」と問いかけられるルートのような気がします。

このルートのリンは、リゥリゥのことを忘れてしまっていますが『仕事』を果たす暴力性の発散は、本来の本当の義務でありリゥリゥが望んでいた「リンに殺してもらう」を出来なかった代替行為に見えるんですよね。
幸福管理局贈与課の方だけはちゃんとリゥリゥを覚えているというのが実に皮肉。

【キャラクター感想】

たった三人しかメインキャラいないので語りやすい。

【リン】

両親殺し、という原罪を抱えているせいかとても自罰的で生真面目でちゃんとした裁きを求めている、そういう印象のある心根は優しいお兄ちゃんだと思っています。

リゥリゥとの初対面時に速攻で服着せて逃げろと促し「こんな小さい女の子には高圧的に出れるのか」と自己嫌悪しているあたり、とても小市民でやっぱり卑屈。

END2を見るあたり、本当は田中君を許したかったんだとか許されたかったんだとかそういう願望も見えます。

あと何度も書いてますが、本当はコロッケが好物なんじゃなくて自罰のためなんじゃないのかとか……。
毎日毎日コロッケってワイフ貰ったのかよ。

【リゥリゥ】

わたし、こういう白髪で儚い系美少女大好き!!!!

ENDER LILIESのリリィちゃんとか、CRYSTARの零ちゃんとか、ヰ世界情緒とか、天使のたまごの女の子とか!

こんな美少女天使が「殺して」「食べて」とお願いしてくる倒錯的シチュエーションとか好物に好物を組み合わせたカツカレーみたいなもんだろ!!!!

ゲーム中のLIVE2Dの動く絵だと大変愛らしいんですが、タイトル画やEND1のスチル絵とかで見せる狂気の笑みが……これもまたヨシ!!

※※※

いやまぁ実際のところ、内面あってこそなんですけどね。
最初からリゥリゥは「恐れるな」と彼女なりの思考でリンを諭して勇気付け、リンの求めていることがわかってきたら渋々ながらも付き合って「リゥリゥ」という自分で自分の名前を考え出す。
それを後悔したりもする。
本を読んでもらって、年頃の子どもらしく嬉しそうにする。

「自分の幸せがリンの幸せではない」「リンの幸せってなんだろう?」「リンをどうやったら幸せにできるのかな?」とリゥリゥなりに考えて、ルートごとにリンの意志を汲んでくれて、逃げるルートでは「それは無理」と現実的問題で反論したりもする。

とにかくリンに幸せになってもらいたい。
健気すぎるし、「人間全体」ではなく「リン」に対する健気さが彼女の「食糧天使」として生まれた義務から逸脱してしまっていることが、よりリンとリゥリゥの愛情を深めてしまって義務を果たし辛くなっていく。地獄かよ。

あとそんな優しい内面を隠すためか、結構言い方がキツいのがギャップが出て面白い。
最終的にどれもこれもリンのことを思いやっているからこその言動というあたり、そりゃリンが「他のヤツに殺させたくない」と独占欲出すのも当然というか……。

【幸福管理局贈与課】

各種エンドを迎えていくことで印象が少しずつ変わっていく方。
上級天使はそれはそれで忙しい。それもこれも人間に幸福をもたらすため。結果的に、この方なりに見出した最善のスタンスがあの高圧的で矛盾した言動だとわかるとなんともやりきれぬ……。

立場が違うだけで、この方もリゥリゥと同じく人間に献身的なんですよね。
それどころか同じ天使のリゥリゥにも「お前の替わりなんて掃いて捨てるほどいる」とかのたまっておきながら、END4でリゥリゥを忘れてしまったリンに彼女のことを教えてあげたり、リンが死にたいと言ったらスパッと殺してくれたり、「殺して精肉しろ」っつってんのに手足のミンチ渡してもらうだけで一応目をつむるとか、公的な仕事人であろうとする合間合間に、この方なりの思いやりが決して無いわけではないことがうかがえます。

だからなおさら辛い。中間管理職だもんなぁ……。気苦労が多い。

【総じて】

ノベルゲームは滅多にやらないんですが、食糧天使はカツカレーの目玉焼き乗せセットかよってレベルで、私の趣味嗜好性癖にガッツリ噛み合う作品でした。
短いからこそスパッと遊べたのもあると思います。というかリゥリゥとの思い出が積み重なるほど辛さがマッハで加速しますしね……。

ただ難点を挙げるとすれば、美少女が出てくるまでが長い。
うん、わかっています。田中をコロッケにするまでの過程が大事なのはわかっています。わかっているけど、やっぱり長い。
……この点、リンがイケメンの顔芸できるヤツで飽きにくいというところはありました。

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