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購買部門視点でのサプライチェーン温室効果ガス排出削減~第2部:基礎事項編

第2部では、温室効果ガス排出削減について、知っておいた方がよい基本的な事項、および関連制度や組織を取り上げています。ただし特性上、読み飛ばして/流し読みして後で立ち戻ることもできる内容とも思います。ご都合が良いようにお使いください。


第2部:基礎事項編

1.基本的な事項

基礎知識というか、これは知っておいた方がよいのではと思われる項目について、取り上げます。 

まず最初は「温室効果ガス」に目を向けてみましょう。当初は私もこの言葉さえもピンときませんでした。というか、普通に「温暖化ガス」とか言っていました(「温室効果ガス」の方が正しい呼び方とのこと)。そんな素人がまとめた内容になりますので、変なところもありえあすが、どうかご容赦をお願いします。

(1).温室効果ガスとはなにか

温室効果ガスは、英語では「Green House Gas」と記述され、略して「GHG」と呼ばれます。要は、大気中に含まれていれて、太陽の熱を宇宙空間に放出するのを妨げる役割を果たす気体とのことです。気象庁提供の下図がわかりやすく思います。

(2)温室効果ガスの種類

温室効果ガスとしては二酸化炭素(CO2)が大きく取り上げられることが多いようです。しかしそれ以外にもメタン、一酸化二窒素、フロンガス類などがあります。例えばメタンは、放牧牛のゲップでかなりの量が排出されるとのことですが、熱の放出を妨げる効果は二酸化炭素の4倍相当もあるとのことです。

そして温室効果ガスを生じさせる主な活動は、下表のようになります。

(3).温室効果ガス(GHG)の排出範囲(スコープ1,2,3)

次によく耳にする「スコープ1」などの排出範囲に目を向けます。

温室効果ガスの排出範囲にはスコープ1、2、3の区分が設定されています(上図)。
※ただし「サプライチェーン排出量」と呼ぶ場合は、スコープ1~3までの排出量の総和を指します。「供給サプライチェーン分=スコープ3上流」などと記述することもあり、ちょっと混乱しそうな危惧があります。

(4)スコープ3の構成要素

このなかで、自社以外のサプライチェーン部分に関わるのが「スコープ3」です。そしてスコープ3には15個の構成要素(カテゴリ分類)が含まれます。ただし「第1部:概要編」でも述べたように、購買部門に関わるのは、テゴリー1~5が通例です(但し、各社の購買部門担当範囲により、差が出ることもあります)。

下表は各スコープ/カテゴリの定義と、カテゴリごとの温室効果ガス排出の主活動を示しています。

(5)スコープ3排出量の算定

スコープ1と2と違って、スコープ3が扱うのはサプライチェーンでの排出量です(自社との関りは薄くなります)。しかも直接取引先だけを相手にするのだけは済みません。ゆえに、その温室効果ガス排出量を把握するには、本来はサプライチェーン上の全ての排出先から提供された実際の排出値(1次データ)を集計するのが、精度高く値を把握できる理想的な方法です。しかしそれは、途方もない作業、実質的には実行不可能なことです。

ゆえに、自社で把握できる数値を用いて推計する、現実的で簡便な算定方法(原単位を使った推計)が認められています。

これは「活動量(購入金額など)」と「その活動に対する所定の計算係数(排出原単位)」を掛けあわせて算定する方式です。排出量の概算状況を報告するのであれば、この方式でも事足ります。

ここまででが温室効果ガス排出削減で基本的とされている事項のまとめ整理です。

2.GHG排出量削減の制度・動向

次に、制度や関連組織を取り上げます。

(1).気候変動に関する政府間パネル(IPCC)

最初は、これまでも名前が出てきた「気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)」です。そしてこの組織については、気象庁の該当ページWikipedia(よく整理されている)を参照いただくのが適切に思います。

(2).GHGプロトコルと排出量算定・報告基準

次は「GHGプロトコル」です。目にすることも多い用語ですが、温室効果ガス排出量の算出方法と報告方法の基準類のことです。
「Protocol」という用語は、受験英語では「儀礼、慣習」、ITの「通信プロトコル」では「通信する際の約束事」とかで使われます。このあたりがとっつきにくさに繋がっているのかもしれません。

そして「GHGプロトコル」を策定した組織は「GHGプロトコルイニシアチブ」と言うのでうが、この組織名を略して「GHGプロトコル」と記述としている場合があります。例えば、環境省の「サプライチェーン排出量 詳細資料」でも、そうなっています。

こうなると、『「GHGプロトコル」は「GHGプロトコル」によって策定されました』といった意味合いになり、大混乱です。こんがらがって拒否反応になりかねません。

このようなひっかけポイントが存在する排出量算定・報告基準ですが、お勧めは、まずはGHGプロトコルなどを見ずに、環境庁がGHGプロトコルに準拠して公開しているガイドラインを参照することではないでしょうか。国内で考える分には、日本語でもあるこちらの資料の方が、はるかに便利に感じます。

ここまでが、算定・報告基準の部分です。

(2). 関連組織・団体

IPCCは前述しましたが、それ以外に名称を目にすることが多い関連組織・団体を見てみます。なお、これらの組織・団体も前述のGHGプロトコル(≒環境省のガイドライン)を算定・報告基準として使っています。

①CDP

(https://japan.cdp.net / https://www.cdp.net/ja)

まずはCDPです。2000年に発足したNGO(非政府組織)で、2005年から日本でも活動しているとのこと。名称は「Carbon Disclosure Project」に由来しますが、脱炭素だけでなく、水セキュリティや森林資源にも対象を拡大して、現在はCDPという名称になっています。

CDPは、世界各国の企業に環境への取り組みの質問書を送付し、その回答から企業の取り組み状況に評点スコアをつけ、優秀企業を選出する活動を行っています。そして高スコアを得ることは、ESG投資の観点から企業の市場評価が高まり、株価に好影響を与えるとされます。さらに高スコアは、顧客の企業イメージ向上に寄与し。収益増加にもつながるとされています(購入時に環境配慮企業の製品を優先するとの消費者の声を聴くことも多々あります)。

加えて重要なCDPの特色は、日本政府との関りが強いところです。例えば、「CDP気候変動レポート2019」(サプライチェーンレポートではありません)には、当時の小泉環境大臣、鈴木外務副大臣、松本経済産業副大臣が名を連ねて寄稿しました。また、毎年春に開催される「CDPサプライチェーン・アジアサミット」は環境省とCDPの共催となっています(2021年はオンライン開催でしたhttp://www.env.go.jp/press/109165.html)。このような経緯から、CDPへの日本企業の参画も多く、トップランク「Aリスト」に選ばれる企業も数多くなっています(世界でAランク企業が一番多くなっていることもあります)。

一方で前述のように、スコープ3のサプライチェーン領域が注目を集めるのはスコープ1や2より遅い時期となりました。CDPが「サプライチェーンレポート」を発表し始めたのは2012-13年版からで、本格化したのは2016-17年版からです。しかしサプライチェーン領域でのトップランクの「Aリスト」に選ばれる日本企業数は、2019年版の16社から、2020年版では83社、そして最新の2022年版では105社へと最近特に増加しています。
(参考リンク)
サプライチェーンCO2削減優秀日本企業数はさらに増加、ただし「行動の10年(Decade of Action)」で目標達成には加速と規模の拡大が必要-CDPレポート (2022年2月21日)

②SBTi

(https://sciencebasedtargets.org/)

次はSBTi(SBTイニシアチブ)です。
SBT(Science-based Targets: 科学的根拠に基づく目標)とは、産業革命比の気温上昇を2℃未満((努力目標)1.5℃未満)にするために、気候科学の知見と整合した長期的(5年先とか、2050年まで)な削減目標とされます。平たく言ってしまえば、前述のGHGプロトコル標準に基づいた設定根拠がある目標、各企業が独自判断で作っていない目標ということです。

その各企業の目標をSBTi(WWF、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、世界資源研究所(WRI)、国連グローバル・コンパクトの共同運営組織)が内容を審査し、SBTに適合したものであることを認定しています。2022年3月現在、SBTi認定の目標を持つ日本企業は160社、目標作成中(作成をコミットしている)日本企業は36社になっています。

③RE100

(https://www.there100.org/  / RE100の概要-環境省)

RE:100はビジネスでの使用電力を100%再生電力とすることを目標とする国際的なイニシアチブ組織で、2014年に設立されました。CDPの協賛(パートナーシップ)のもと、NGOのClimate Groupが運営しています。そして日本の環境省も2018年6月からアンバサダーとして参画しています。ただしサプライチェーン領域(スコープ3)との関係は必ずしも明瞭ではないように思われます。2022年3月現在の日本企業参加数は66社です。

以上、基礎事項を整理してみました。

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