見出し画像

初心者のための機動戦士ガンダム兵器解説『MS-09R リック・ドム』

●開発経緯

 ジオン公国軍は南極条約締結により、戦争の長期化を見据え、MS-06に替わる次期主力MSとして、MS-11の開発を進めていました。

 しかし、MS-11に求められたハードルは高く、開発は遅延していました。さらに公国軍は地球侵攻作戦に戦力を割いていたため、宇宙攻撃軍による早期の戦力増強を求める声も大きくなっていき、連邦軍がMS開発に成功したという情報までキャッチしたのです。

 そういった背景からMS-11が配備されるまでの繋ぎとして、新たな主力MSを決めるコンペティションが実施されることになります。MS-09の制式採用を勝ち取ったツィマット社は同機を空間戦闘用に改修し、コンペに挑んだのでした。

 MS-09について、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

●長い稼働時間と高い機動性を獲得

 MS-09は地上戦における高い機動性を獲得するため、脚部にホバーユニットを搭載しました。また、安定したホバー走行を実現するため、シールドをオミットして、重装甲としたことで、機体は大型化してしまいました。

 しかし、空間戦闘では使用しないホバーユニットをオミットし、熱核ロケットエンジンに換装すると、機体内部に大きな余裕が生まれました。そのため、推進剤を多く積載することが可能になり、稼働時間の延長に繋がったのです。

 さらに機体を浮上させるためのホバーユニットを熱核ロケットエンジンに換装したことで、脚部自体を推進器とすることができたため、高い機動性の獲得にも成功しました。

●生産性、運用面でも優秀

 本機の基本構造はMS-09から変更することなく、装備の変更のみで生産が可能だったこともあり、既存の生産ラインを流用することができました。そのため、生産性が非常に高く、コストの高騰を招くこともありませんでした。

 また、ルウム戦役で多くの熟練パイロットを失ったことで、新兵が作戦行動中に推進剤を使い切ってしまうということが頻発するという問題を抱えていた公国軍にとって、推進剤を多く積載でき、稼働時間が長い本機は新兵にでも、それなりの働きが期待できるという大きなメリットがありました。

●MS-06R-2を破り、制式採用へ

 競合相手となったジオニック社のMS-06R-2はスペックだけを比較すれば、本機を上回っており、空間戦闘用次期主力MSに相応しいものでした。

 しかし、MS-06R-2を量産するには、新たな生産ラインを立ち上げる必要があり、高スペック故にコストも高くなります。さらに新兵が扱うには、あまりにも高い操縦技術が求められました。

 その結果、総合的な判断で本機はMS-06R-2を破り、制式採用を勝ち取ることになりました。

●大戦後期を支えた名機

 本機はMS-09から大きな改修が必要なく、生産ラインも流用できたことから、U.C.0079年9月には量産が始まっています。これはMS-09のロールアウトから僅か2ヶ月後のことです。

 その後、配備は瞬く間に進んでいき、数の上ではMS-06には及ばないものの、宇宙軍の主力MSとして、活躍を見せることになります。

 MS-11改めMS-14の配備が始まった頃は既に大戦は末期で、十分な数を投入することができなかっただけでなく、主兵装であるビーム・ライフルは生産性に難を抱えていたこともあり、広く行き渡ることもありませんでした。さらにパイロットの確保もままならず、多くは学徒兵に宛がわれ、その性能を活かすことができませんでした。

 そういった事情もあり、事実上、本機は終戦まで宇宙軍の主力MSであり続けたのです。

“MS-09R リック・ドム”

●スペック

頭頂高:18.6m
本体重量:43.8t
全備重量:78.6t
ジェネレーター出力:1,199kW
スラスター総推力53,000kg
装甲材質:超硬スチール合金
主な搭乗者:バタシャムほか公国軍MSパイロット

●基本武装

○360mmジャイアント・バズ
 一年戦争当時、MS用携行兵装としては最大級の実体弾砲で、巡洋艦クラスであれば、一撃で撃沈させるほどの威力を誇ります。砲弾は後方の弾倉に10発装填されています。キャリフォルニア・ベース占領時に手に入れた戦艦用の360m砲弾およびその生産ラインを利用するため、H&L(ハニーウォール アンド ライセオン)社によって開発されました。基本的に両腕で保持しますが、本機は片腕でも取り回すことができるトルクを有しています。

○ヒート・サーベル
 白兵戦用の兵装で、サーベル部分が白熱化し、敵機を溶断します。発熱デバイスは高効率でエネルギーを熱に変換できますが、消耗が激しいため、基本的には使い捨てになっています。

○拡散ビーム砲
 胸部に装備された短距離ビーム砲です。十分な出力が得られず、眩惑効果や威嚇、牽制に使用されます。

○ビーム・バズーカ
 いくつかの部隊で試験的に運用された携行式のビーム兵器です。エネルギーCAP方式ではなく、ジェネレーター直結型のため、ジェネレーターへの負荷が大きく、冷却システムにも問題を抱えていました。大型なのは技術的に小型化できなかったためです。その分、威力は連邦軍のビーム・ライフルよりも強大でしたが、生産性に難があり、チャージに時間がかかるため、連射性が悪く、制式採用には至りませんでした。また、本兵装を使用していたのは、ジェネレーターを強化した“MS-09RS”だとも言われています。

“ビーム・バズーカ”

●目的はあくまでも“繋ぎ”だった

 本機は対MS戦を意識して開発されたMS-14とは違い、対艦戦に主眼が置かれた“対MSにも対応可能なMS”です。一撃離脱戦法を基本としており、運動性はそれほど高くなく、近接戦は得意ではありません。主兵装のジャイアント・バズも威力こそ高いのですが、弾速が遅く、対MS戦では命中精度に難がありました。

 そのため、連邦軍の主力量産機であるRGM-79に苦戦を強いられることになりますが、本来RGM-79と戦うのはMS-14だったはずなのです。しかし、MS-14の開発が遅延し、連邦軍のMSが本格的に実戦投入されるまでの繋ぎだった本機が戦うことになってしまったのは不幸だったとしか言えません。

 対MS戦闘能力を強化した改良型も開発されますが、時すでに遅く、実戦投入された機体はごく僅かに留まりました。しかし、名機と呼ばれた機体だけあって、後のMS開発に影響を与えることになります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?