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素朴な疑問①

 まず1図を見て下さい。

1図

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 この局面を見てピンと来る人は、居飛車党でしょう。
 そう、角換わりの将棋で、先手が早繰り銀に出て、後手が右玉で対抗した局面です。

 56角と打ったのは、75歩 同歩 74歩と桂頭を攻める手と、23角成からの飛車先突破をみた意味。
 先手が66歩と突いてあるのは、56角を打った時に65桂と飛ばれる手を防いだ意味で、基本的に先手が思い描いていた構想である56角を実現させたのが1図だと言えます。

 先手の構想通り……、なことに間違いは無いのですが、実際の形勢はどうなのでしょう?
 後手は桂頭攻めと飛車先突破を同時に受けることが出来ませんので、普通は先手が優位な局面になるのですが……。


 私は1図の局面で後手を持つことが多いです。
 角換わりを先手番で採用していたこともありますが、なかなか狙い通りの攻めが決まっても良くならず、美味しい想いをしたことがあまりないからです。

 なので、角換わりの将棋になる時には決まって後手番。
 先手に何かやってもらって、それに対応して受けに回る展開が多かったりします。


 1図の局面も、今まで何度か食らったことがあります。
 先手が56角の筋を実現させようと最短手順で仕掛けると、こうならざるを得ないからです。

 こうならざるを得ない……、とサラッと書きましたが、少し説明しておきましょうか。

A図

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 A図は1図の仕掛ける以前の局面です。
 A図から、35歩 同歩 同銀 81飛 24歩 同歩 同銀 同銀 同飛 23歩 28飛 62玉 56角で、1図となります。

 プロ棋戦などでよくある展開は、先手が66歩を突かずに35歩と攻める手順ですが(B図)、それには35同歩 同銀に86歩 同歩(同銀は55角があるので後手良し) 85歩(C図)の継歩で反撃する筋があり、難解な形勢となります。

B図

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C図

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 C図の85歩を同歩と取ると、同飛で十字飛車の筋が決まります。
 ですので、先手も85歩を取る手はありません。

 C図から、24歩 同歩 同銀 同銀 同飛 23歩 28飛 86歩 84歩(D図)のように進むのが一般的ですが、D図は後手の87銀と露骨に打つ反撃も相当厳しく、先手も容易ではないです。

D図

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 ですので、先手はB図から仕掛け難い意味があり、A図のように66歩と突くのです。

 A図から35歩と仕掛けますと、同歩 同銀に86歩の筋がありません。
 何故かと言うと、86同銀と取られて55角が両取りにならないからです。

 つまり、A図で66歩と突く手は、35歩 同歩 同銀の時の86歩を防いでいる意味と、1図で65桂と跳ねさせないなどの色々と含みの多い一手で、先手としては一手かけても損にならないとみているのです。


 話を戻しますね。

再掲A図

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 A図で、先手は必ず35歩と仕掛けないといけないかというと、そうでもありません。

 例えば、58金(E図)と浮き駒の金を引き締めるのも立派な一手です。

E図

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 ですが、E図を選ぶと、もう56角の筋は実現しません。
 理由は、後手が一手早く右玉に構えて56角に備えることが可能だからです。

 具体的には、E図以下、81飛 35歩 同歩 同銀 62玉 24歩 同歩 同銀 同銀 同飛 23歩 28飛に、44歩(F図)と突く余裕があるからです。

F図

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 44歩は、56角に45銀を用意した意味です。
 45銀が23角成と75歩の狙いを防いでいるのが分かるでしょうか?

 さらに、44歩 56角 45銀 67角には、55角という厳しい手が後手にはあります。
 先手は56角と打って攻めるつもりだったのに、逆に後手から攻められてしまっているのです。

 44歩は味わい深いですね。
 こういう手を知っておくと、早繰り銀で攻められてもおたおたしないで済みます。

 そうそう……。
 F図でそれでも強引に56角の筋を実現させようと、75歩 同歩 74歩 同銀 56角(G図)と打つ人を時折見かけます。

G図

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 これなら45銀には74角と取れるというつもりです。

 しかし、G図には63角(H図)というピッタリの受けがあり、56角は成立しません。

H図

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 63角に当初の目論見通り23角成は、27歩で先手が痺れますのでね(笑)。


 ……と言うことで、先手が56角の筋を実現するためには、1図を目指すしかないのです。


再掲1図

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 紆余曲折を経て1図に至っていることがお分かりいただけたと思います。

 さて、それでは当初の疑問である、
「1図の形勢はどちらが良いのか?」
ですが、どうなのでしょうか?

 私はずっと思っていたんですね。
「こうなるのなら、後手を持ちたい」
と……(笑)。

 先手が工夫に工夫を重ねた末に実現させた56角を目の前にして……、です。

 実際、1図の局面からの勝率は悪くありませんし、苦戦に陥ったというような記憶もないからです。

 そもそも、75歩の攻め筋は玉頭だから厳しいですが、23角成ってそんなに厳しい攻めなのでしょうか?
 以下、同金 同飛成となっても、後手は予め玉が62に逃げていますから横からの攻めには耐性がありますし、先手は飛車が成れたと言っても三段目ですからすぐに厳しい攻めがある訳でもありません。
 それに、21の桂馬には81飛のヒモが付いていますので、先手はこれ以上攻めるのが難しく感じるのです。

 具体的には、1図から55銀(2図)と先手の攻めを催促します。

2図

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「攻めるぞっ!」
と言っているのに、
「おらっ、やってこいっ!」
と切り返すのですから、55銀は強気な一手ですね(笑)。

 2図以下は、23角成 同金 同飛成 14角 22竜(あくまでも竜を敵陣で使おうとした手) 44角(竜にお引き取り願って、角筋を活用して先手陣攻略を狙った手) 33歩(44角が好位置なので犠打でずらす意味) 同角 27竜 66銀 82銀(手筋) 同飛(避けると後手が悪くなるので取る一手) 21竜 51銀(3図)で、どうでしょうか?

3図

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 3図の駒割は、後手が角と桂の交換で大きく駒得です。
 しかも、51銀とガッチリ受けてあるので、後手陣は当分安泰。
 さらに、66銀とすでに攻め掛かっていますし、次に65桂や47角成の楽しみもありますしで、どう見ても後手が良いと思います。

 かと言って、2図から3図に至る手順で先手が悪手を指したかというと、そうとも思えません。

 他に変化しようとしてもなかなか思わしい手も無いと思うのですが……?


 結論を書くと、1図の56角は成立しないんですね。
 これだけ紆余曲折を経て成立させようとした手なのに(笑)。

 ですが、かなりの高段者でも、こうやって攻めようとしてきたりします。

 ……で、そのたびに素朴な疑問が湧くのです。
「これって、後手が良いと思うんだけどなあ」
と(笑)。


 もし1図の局面になったら、3図までの手順を試してみて下さい。
 きっと良い想いが出来ますから……。

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