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駒落ちの話⑤「右利きか左利きか(まとめ)」

 六枚落ち下手の定跡別難易度は、次の通りとなっています。

 上手初手32金には、9筋攻め定跡(駒落ちの話②「右利きか左利きか(前編)」)が有効で、3~4級の棋力で攻略可。

 上手初手42玉には、1筋攻め定跡(駒落ちの話④「右利きか左利きか(後編)」)が有効で、3~4級の棋力で攻略可。

 上手初手32金に、1筋攻め定跡(駒落ちの話④「右利きか左利きか(後編)」)は、かなり手強く初段以上の力量が求められる。

 上手初手42玉に、9筋攻め定跡(駒落ちの話③「右利きか左利きか(中編)」)は、かなり手強く初段以上の力量が求められる。

 上手が初手を指すのですから、下手はそれを見てから作戦を決めれば難易度が下がると言うことです。


 ですが、1筋攻め定跡と、9筋攻め定跡の両方を知っている下手って相当いないんです(笑)。
 何故かと言うと、何処の将棋教室でもどちらか一方しか教えないからなんです。

「それって、指導者の怠慢だろう?」
と、思ったかがおられるかもしれませんが、それは違います(笑)。


 何故、指導者の怠慢ではないかと言うと、1筋攻め定跡と9筋攻め定跡、どちらも指し方の要点が似ているからです。
 つまり、学ぶべき考え方がほぼ同じなので、下手が両方とも覚えるメリットが少ないからなんです。

 六枚落ち定跡で下手が学ぶべき考え方は、大きく分けて4点あります。

①端を、効率良く破ること
②端を破ったら、敵陣に飛車を成ること
③竜が成ったら十分な戦力で攻めること(小駒の成駒を作ること)
④小駒の成駒は、上手の金銀にぶつけて交換を狙うこと

 以上の4点得です。

①は、9筋攻め定跡なら、66角や94歩、84角などが該当する手です。

66角までの局面

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94歩までの局面

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84角までの局面

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 1筋攻め定跡なら、26歩や14同香がそうでしたね。

26歩までの局面

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14同香までの局面

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 ②の飛車が成ることは問題ないと思いますが、③の小駒の成駒を作るのは、知らないと少し難しかったと思います。
 9筋攻めなら、75歩。

75歩までの局面

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 1筋攻めは、14歩がド急所と説明しました。

14歩までの局面

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 ④の成駒を上手玉の金銀にぶつけて交換を迫るのは、9筋攻めだと92飛成や54金が該当します。

92飛成までの局面

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54金までの局面

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 1筋攻め定跡では、22成香~14竜までの手順ですね。

22成香までの局面

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14竜までの局面

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 これらのポイントになる局面を見て、
「何だったっけ?」
「どうしてこうなるんだっけ?」
と、思う方はもう一度読み直してみて下さい。

 読み直せばきっと、
「ああ、そうだったっ!」
と、思い出すでしょうからね。


 まあ、ただ……。
 1筋攻め定跡と9筋攻め定跡の両方を覚えておけば、どんな強い上手にも対応できることは間違いないです。
 しょっちゅう指導対局がある将棋教室や、将棋道場の休日トーナメントで駒落ちがあるような場合には、上手初手32金には9筋攻め定跡、上手初手42玉には1筋攻め定跡と使い分けられれば、格段に勝率が上がることは確約できます。


 私が以前通っていた将棋道場は、休日トーナメントに参加する級位者が多かったんですね。
 普通、休日トーナメントって、駒落ちを採用していてもなかなか級位者は勝ちあがれないものなんですが、その道場は上手に厳しい手合いになっていた関係で、ベスト4には段位者が一人だけ……、なんてことが珍しくなかったのです。
 六枚落ち下手のスペシャリストみたいな下手も沢山いました(笑)。

 なので、必然的に上手も右利きか左利きかを見定めるようになっていったと言う経緯があります。
 それじゃないと勝てないんです、高段者が……。

 しかし、たまにいるんです。
 両利きの下手が(笑)。
 もう、こうなると上手はお手上げなんですよね。
 上手の最終手段として、
「わざと端を簡単に破らせて指す」
なんて奥義まで駆使して、屈強な下手に対抗していたのを懐かしく思い出します。


 最後に、
「プロ棋士の先生が、本気の局面を下手にほとんど体験させずに六枚落ちを卒業と言うのか?」
という謎に答えておきます。

 それは、

①端を、効率良く破ること
②端を破ったら、敵陣に飛車を成ること
③竜が成ったら十分な戦力で攻めること(小駒の成駒を作ること)
④小駒の成駒は、上手の金銀にぶつけて交換を狙うこと

 以上の四点が呑み込めていれば、六枚落ち定跡で学ぶほとんどの要素を満たしているからです。

 四枚落ち定跡で、また端から攻略することはやりますしね。
 同じようなことを重複して学ぶのは、下手の成長効率が良くないと言うことなんです。

 プロ棋士の先生は深い考えで指導しておられることが分かっていただけたでしょうか?


 そうそう……。
 六枚落ち下手の両利きの人は、大抵、そんなに強くはなりません。
 良くてもアマチュア初段くらいまでです。
 高段者に辿り着くことは、まあ、まず無いと言って差し支えないくらい、成長が止まります。

 それは、単に六枚落ちの勝ちパターンを覚えているだけだからです。
 たしかに勝ちますが、それではあまり意味が無いのです。
 定跡を片方しか知らなくても、学ぶべき四点を理解していることの方が大きいのです。


 六枚落ち下手で少々負けても良いじゃないですか。
 しっかり考え方をマスターすれば。
 それは必ず平手にも活きてきますからね。


「六枚落ち下手で両利きになることに、何の意味もありはしません」
と、ズルい上手はそう言って、ニヤリと笑うのでした(笑)。


「右利きか左利きか」(了)

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