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棋譜添削⑥(三間飛車対右四間飛車)




 棋譜添削の第六弾です。

 対局者はChouwa君とsasorii君で、今までと同じ。
 戦型もお馴染みとなった、Chouwa君の三間飛車にsasorii君の右四間飛車です。

 今回は、中盤の考え方を中心に棋譜添削したいと思います。
 特に、局面の主張について解説していきます。

 尚、動画を観てから棋譜添削を見て頂くことをおススメしておきます。



26手目54銀まで図

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 54銀は、63から54に銀を上がったのですが、疑問手です。
 理由は、銀が54に来ても65歩からの仕掛けが利かないからです。

 それと、以前にも説明しましたが、この54と44に歩越し銀が並ぶ形は、攻めの形になっていませんので、わざわざここで54に銀が上がっても後手に主張が無いのです。

 ですので、54銀では、63銀型を活かして72飛(A図)とする手が優ります。

A図

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 72飛の意図は飛車先の逆襲です。
 つまり、75歩と位を取られたのを、
「この位はまだ安定している訳ではないので、逆襲して先手の飛車、角を抑え込めるかも……」
と看ている訳です。


 将棋の序、中盤では、「主張」がとても大事になります。

 A図の先手は、
「美濃囲いを完成させ、飛車側の駒を捌けば陣形差が活きる」
と言うのが主張です。

 対して後手は今のところ主張がありません。
 囲いの堅さは先手が優りますし、44銀と上がって角道を閉ざしている形ですので仕掛けの権利もない。

 だとすれば、後手はまず主張を作ることを考えるべきなのです。

 と言うことで、26手目54銀は明らかに疑問手です。

 もっと言うと、腰掛銀という形に拘っているだけの手と言えます。



28手目65歩まで図

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 65歩は、本格的な仕掛けと言うよりは、一歩を手持ちにしようとした手ですが、疑問手となります。

 何故か……。

 先手は、
「美濃囲いを完成させ、飛車側の駒を捌けば陣形差が活きる」
が主張でした。

 その主張に、後手は一歩交換という小さい目的のためだけに喧嘩を売ったようなものだからです(笑)。

 これが、角道が通っていて、本気で喧嘩を売る体制が整っているのなら良いのですが、現状はそうではありませんから。



31手目66歩まで図

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 66歩は悪手や疑問手の類ではありません。

 ですが、主張の弱い一手だとは言えます。

 後手は小さい目的ではありますが、66歩だと一歩交換を成立させてしまいます。

 先手から見れば、相手に主張を通されたというのは、自身が譲歩したということなんですね。
 だとすると、
「美濃囲いを完成させ、飛車側の駒を捌けば陣形差が活きる」
という主張が妨げられる恐れがある訳です。

 なので、個人的には66歩では不満です。
 こう指すのでは57銀型にした意味も弱まりますので……。

 ここは、振り飛車党なら68飛(B図)の一手だと思います。

B図

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 68飛は、
「戦いの起こった筋に飛車を回る」
という振り飛車の考え方の基本に則っていますし、
「美濃囲いを完成させ、飛車側の駒を捌けば陣形差が活きる」
という主張にも沿っています。

 具体的には、後手が抑え込みを図ろうと66歩としても、同銀と取って捌いてしまおうというのが68飛の意図です。
 かと言って、何もしないと74歩~72歩と手筋の垂らしを食らいますので、すでに後手は収拾がつかない状態になっています。

 先手から見て65歩からの一歩交換は、言ってみれば、
「渡りに船」
なんです。

 それを後手に主張を通された上に局面を収める66歩では、美濃囲いの堅陣が泣くんですよ。

 まあ、これは私個人の考え方ですので絶対ではないです。
 実際、66歩としても先手の形勢が著しく悪くなる訳ではありませんし(54銀、44銀の形が相変わらず機能していないから)、他の方法で美濃囲いの陣形を活かすことも出来ます。

 ですが、いつもいつも局面を収めることを選んでいると、戦いの起こし方が下手になるんです。
 相手の主張に譲歩することが染みついちゃうんですね。

 そうなると、戦い方の幅が狭まりますので、損をすることも少なくないのです。

 なので、私なら66歩みたいな手は絶対に指さないです。
 もしどうしても指さなきゃいけないと読んだのなら、舌打ちをしてから指します(笑)。



36手目62飛まで図

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 62飛は、64に浮いた飛車を62にもう一度戻った手です。
 つまり、純粋に二手損をしたことになります。

 もし、後手が二手損をわざとしたのなら、それは手損の仕方が分かっていないと言えます。

 手損の仕方……、ってのは聞きなれない用語かもしれませんが、自陣の主張を通すためにわざと手損をして、相手の主張点を崩すテクニックが存在するのです。

 つまり、相手に無駄手を指させるのがわざと手損をするテクニックの目的なんですね。

 では、36手目62飛まで図で、先手が無駄手を指しているでしょうか?
 後手の手損の間に先手が指した手は76飛ですが、これは石田流に組む意味で必要な一手です。

 そうです。
 先手は無駄手どころか有効な手を指してしまっているのです。

 これでは後手は何をやっているか分かりませんね。
 手損をして無駄手を指させようという構想自体が失敗となります。

 ここは84飛(C図)とする手が、正しい手損の仕方です。

C図

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 84飛の意味は、
「先手は86歩と突くしかないだろうけど、すぐに84の飛車を追っ払えるわけでは無い(追い払うには、77桂~85歩の二手が必要だから)。それなら84の飛車を追い払われるまでに争点を作り、77桂~85歩を空振りにさせてやろう」
ってことです。

 これは手筋でして、中飛車左穴熊や相振り飛車では常用されるテクニックなんです。

 では、具体的にどう進展するかと言うと、84飛 86歩 35歩(D図)と玉頭に手をつけるのが後手の狙いです。

D図

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 D図から、後手の理想的な手順を示しますと、35同歩 同銀 77桂 63銀(これも手損ですね) 85歩 34飛(E図)となります。

E図

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 E図は、飛車を64から34に一手で行けるところを、84に経由して34に行っていますので手損をしていますし、54に上がった銀を63に引いていますので計二手損している勘定ですが、その二手分は先手の77桂、85歩に振り替わっており実質得をしていると看ている訳です。

 E図から先手は石田流には組めましたが、攻める場所が左翼なので後手玉から遠く、すぐに厳しく攻められる訳ではありません。

 対して、後手は先手玉のすぐ側に攻撃陣を配していますので、先手がこのまま自玉周辺に手を入れなければ、すぐにでも先手玉に響く攻撃が可能となります。
 具体的には、33桂~13角、36歩などの手が入れば玉頭戦で優位に立てるでしょう。

 まあ、先手もD図からE図まですんなり進める訳もありませんので(D図の35歩を取ってくれるとも限りませんから)、これはあくまでも後手の、
「飛車を34に転換して玉頭戦に持ち込みたい」
という主張なだけですが、それでも、35歩と突いたD図が36手目62飛まで図の無主張な手損をするより優ることはお分かりいただけると思います。

 54と44に並んでいるだけで機能していなかった銀を働かせようとしている点も見逃せないですね。

 ……で。
 賢い読者は、こんなことを感じるのではないでしょうか?

「これって、先手が33手目で36歩と突いたから64飛~84飛~35歩の主張を与えたんでしょう? それなら36歩を突かないで、74歩(F図)とかって飛車側で開戦すれば手段を与えなくて済んだのではない?」

F図

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 そう、仰る通りなんです。
 F図の74歩と開戦を目指す方が、
「美濃囲いを完成させ、飛車側の駒を捌けば陣形差が活きる」
という主張にも則っていますので、36歩より優るんです。

 ただ、後手もすんなり74同歩と取ってくれるとは限りませんので、思う通りにはいかないかもしれません。
 具体的には、74歩に63金と上がり、73歩成 同金(G図)となって、先手が飛車側の駒を捌き切るにはもう少し手が掛かりそうですが、主張に沿って指しているとは言えるでしょう。

G図

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 G図からは、97歩 74歩 97角 42金(55歩 同銀直 45歩 同銀直 53角成を防いだ手) 47金(H図)と進めば、先手は角を味良く活用出来ましたし、後手から飛車の転換もありませんので、今度は堂々と36歩が突けるようになります。

H図

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 D図とH図を較べて、あなたはどちらの先手を持ちたいでしょうか?
 私は後手の金が玉から離れて73の地点にいますので、H図を選びたいですけどねえ……?(笑)



38手目94歩まで図

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 94歩は緩いです。

 今までは74歩に63金が利きましたが、77に桂が跳ねている現状では74同歩と取るしかなくなっているからです。
 74歩 63金 73歩成 同金 65桂 72金 55歩 同銀直 45歩 同銀直 53桂成(I図)があり、先手が優勢となりますので、7筋の歩交換を許すことになります。

I図

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 なので、後手は63金(J図)と飛車先交換を拒否すべきでした。

J図

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57手目35歩まで図

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 35歩は主張に沿っていませんので疑問手です。
 先手の主張はあくまでも、
「美濃囲いを完成させ、飛車側の駒を捌けば陣形差が活きる」
ですので、35歩と玉頭を攻めるのは方向違いです。

 ここは86飛(K図)一択です。

K図

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 以下、72銀 82角 88角 65桂(将来的に桂馬を取られるにしても、一回活用してから取られた方が得) 99角成 55歩(L図)で、先手の飛車側の駒が全て捌けました。

L図

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 K図からL図までには他にも変化がありますが、何れにしても、
「美濃囲いを完成させ、飛車側の駒を捌けば陣形差が活きる」
の主張を実現できる手順になりますので、局面の優位を拡大することが出来ます。

 57手目35歩まで図とL図……。
 どちらが優るかは言うまでもありませんね。



58手目67角まで図

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 67角は悪手です。
 理由は分かりますね?
 先手はただでさえ86飛と回ろうと思っていたのを、追いかけて実現させてくれたからです(笑)。

 ここは35同歩(M図)しかありません。

M図

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 例えばここで先手が86飛と回ったとしても、3筋で一歩もらったことはマイナスに働くことはありませんし、もしも桂でも入手出来れば36桂と打って攻めることも出来ます。
 なので、先手は35歩の意図を継承して71角と打つのでしょうが、それには88角と打ち、62角成と飛車を取っても同金(N図)で後手陣には打ち込む隙がありませんので(71飛や51飛は、72銀と引けば一応受かります)、香を取る楽しみが残ります。

N図

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 つまり、N図のような展開は、後手に主張が出来る上に(駒得狙い)、先手の主張が完遂しにくいので(飛車側の駒を捌く)、後手が35歩を同歩と取らない理由がないのです。



64手目89角成まで図

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 89角成も疑問手です。
 ここもやはり44同歩(O図)と取るべきです。

O図

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 O図では71角くらいですが、43金直と飛車を取らせる催促をし、62角成 同金 71飛(←疑問手だが、すでに局面の流れがおかしい) 61歩(P図)で、先手は桂と香が取れるものの、86の飛車や77の桂が捌けていないので、かなり難しい形勢となります。

P図

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 P図では、後手から45歩 57銀 64角と玉頭戦に持ち込む主張が生まれており、57手目35歩まで図以降の玉頭に手を付けた構想が疑問だったことがうかがえます。



65手目43歩成まで図

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 43歩成も主張に沿っていません。
 ここは35歩 23銀を決めて75歩(Q図)や単に75歩と、あくまでも86の飛車を捌くべきです。

Q図

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 本譜は後手が43同銀と取ってくれましたが、43同金直 44歩 同金 71角には45歩 57銀 99馬(R図)と、後手が粘りながら玉頭戦に持ち込む手があり、先手が好んで飛び込む変化ではありませんでした。

R図

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 同様に、67手目35銀も主張に沿っていない方向違いの疑問手です。



68手目33歩まで図

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 33歩が敗着です。
 35銀と出てきたからにはどっちみち44の地点は攻められますので、要の駒である35の銀を排除する方向で指し手を選ぶべきでした。

 ということで、ここでは79馬(S図)が正着となります。

S図

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 本譜はド急所の44の地点に歩が垂れており、彼我の陣形差もあって後手に粘るべき主張がありませんので、順当に先手が押し切りました。

 ですので、割愛致します。



 今回は局面の「主張」をテーマに添削しましたがいかがだったでしょうか?

 何故、あの手が疑問手なのか……。
 どういう理屈で指し手を展開させていけば良いのか……。
 などの指針となるのが「主張」なんです。

 本局、先手は特に悪くなった局面も無く快勝に見えますが、個人的には大いに疑問です。
 自身の主張を通さずに相手のミスで勝てたに過ぎませんので。
 飛車を捌く順が何度もあったにもかかわらず、最後まで残ってしまっているのでは、ちょっと強い相手に当たればすかさずとがめられてしまいますから。

 一方の後手も反省点が多いです。
 主張のない腰掛銀に固執しただけの26手目54銀や、58手目67角のような相手が主張にない手を指してきたときの対応は、多いに反省すべきだと思います。
 あと、36手目で84飛と回る手筋は覚えておくと活用出来る場面が結構ありますし、O図以下の飛車を取らせて玉頭戦に持ち込むような考え方は、参考になると思います。


 以上で棋譜添削を終わります。

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