特例法の「???」を考える⑤~「手術を強いられている」は嘘かまことか~

第五回です。
手術について
わかりづらくなっていそうなところを今日は掘り下げてみたいと思います。

手術要件は存在しない。
という指摘をここまで重ねてきました。

では、「手術を強制されるなんて人権侵害だ」といった主張は、
そもそもの出発点「手術を強制されている」からして、誤りなのでしょうか。

ところがこれは、
完全に誤りとも完全に正解とも言えない、
というのが私の考えです。

このポストだけではたぶん全然意味不明ですよね。
字数制限におさめようとして、自分でもわかりにくいです!
全部説明しようとしたら以下ほど、字数が必要となりました……。



■どちらの立場から見るか?


同じ「特例法 および その要件」を

戸籍性別を変更したい人 と
戸籍性別変更制度に反対する人 の

どちらの立場から見るかによって、着眼点に違いが出ます。
見ていきましょう。

1.戸籍性別を変更したい人から見ると……

★要件には「手術しろ」とは書いていないので、手術要件は存在しません。
◇しかし、手術なしでクリアできる状態とみなしてくれる医師や家裁の判断が、必ず得られるとは言えないのが現状。

2.戸籍性別変更制度に反対する人(私)から見ると……

★要件には「手術しろ」とは書いていないので、手術要件は存在しません。
◇よって、医師の見立てと家裁の判断次第で、手術なしでクリアできる状態になっているのが事実。

★は同じですが、◇が違うことがわかるかと思います。
私たち、戸籍性別変更制度に反対する人からすると、医師や家裁の判断次第で解釈できる要件なので
「手術要件の維持」なんてものは大元の要件からして存在せず、
また現状の解釈慣例を維持してくれ、と頼むよすがとなる法文も要件もなければ、
解釈範囲がどうなっているかを確認し続けるすべも、
私たちにはありません。
よって、手術要件の維持、それはまぼろしです。
これが、戸籍性別変更に反対する人にとっての「現状維持」の中身です。

では逆に、戸籍性別を変更したい人にとっての「現状維持」は
どうでしょうか?

■若い健康な成人なら実質手術必須、の筈?かもね?いつまでそうかは知らないが。……が現状


戸籍性別を変更したい人が、もし
生殖腺機能が健康に存在し、
また外性器も健康にそのままであれば
おそらく要件4と要件5はクリアすることができません。
(要件5は、たとえばもともとの陰茎サイズによっては陰嚢取ればいける場合がありえる気はするが…)

また健康な体では、X線や抗がん剤を投与する選択肢もとれません。

よって、4と5を、手術なしでクリア解釈させるため
彼らにできることといったら、

ホルモンの副作用がどうなるか?

この点での勝負になるでしょう。
ホルモン投与によって、萎縮した性器、機能が低下した生殖腺。

それを、医師や家裁がどこからクリアとみなし解釈してくれるか?の話ですね。

そして実際には、
医師も家裁も、解釈を攻めるより、これまでの慣例に従って、健康な若い成人については手術(男なら生殖腺+性器外観、女なら生殖腺)を行ったものにのみ変更のための診断書を出してきた……
のではないか、たぶん、そのはず、実際はわからないけど。
……これが正しい現状認識だと思われます。

だから、戸籍性別を変更したい、健康な若い成人の立場になってみれば

・手術する
・もしくは、審判で変更不可となっても何回でも審判にチャレンジできる時間と、本当にクリアできるのか不明なままの心理的負担に毎回耐え、まずそれに付き合って診断書を出してくれる医師を探すところから……

の二択、ということになるのではないでしょうか。
これが彼ら、戸籍性別を変更したい人にとっての「現状維持」です。

そのため、実質的には手術しろと言われている状態だというのも、完全な間違いとは言えないでしょう。
特に同性との結婚を望む場合は、いつ変更できるかはいつ入籍できるかということなので、悠長にかまえていたくない気持ちもあることでしょうし。


■要件を正しく解釈しているのはどっち?

上記を見ていただくと、

1.手術なしで戸籍性別を変更したい人

★特例法は性同一性障害をもつと定義された人のための法律だ
★手術要件など存在しない
★手術なしでOKと解釈されないのはおかしい
★いつどう解釈されても当然な要件だ
◇だから、現状維持が合憲と出ても、手術なしで解釈を認めるのを公認して、明確な共通認識となる判例を出してくれ!特例法の目的からしても!
(違憲と出て、要件なんて取っ払ってくれると更にいいな!)


2.戸籍性別の変更制度に反対している人(私)

★特例法は性同一性障害をもつと定義された人のための法律だ
★手術要件など存在しない
★手術なしでOKと解釈されないのはおかしい
★いつどう解釈されても当然な要件だ
◇だから、現状維持が合憲と出たところで、“生殖腺手術してない・陰茎陰嚢手術してないままの法的女性”はいつ出てきても(既にいても)おかしくないよ!特例法自体の目的からしても!

となり、最後の要望はまるでちがえど
両者とも、正しく要件を理解・解釈しているんですね。

要件を正しく理解・解釈していない(フリをしてる?)のは
「特例法には手術要件がある。手術要件維持すれば”男性器あるまま女性”の出現を防げる。一点共闘すべし!さあ署名を!」と主張している人たちでしょう。

・つまり要件の「現状維持」にはもとから大きくふたつのルートが中身に含まれている。

①「手術要件」は存在しないにもかかわらず、対象者の適用範囲をせばめて、実質、若くて健康な成人には手術を求める(特に男性)
②「手術要件」が存在しないので、要件どおり、手術を必須としない(男性も、ホルモンで、医師判断でよいとする)
むしろいったん①で実質運用されてきた現状までのほうが不思議なくらいなんですけど、さすがに反発を怖れたのでしょうか。
それでも、のちにいくらでも解釈できる……というか、そのまま要件に沿えば手術要らないじゃん、と言える日が来るように、「手術必須」とは
要件にひとことも書かなかったのであろう。と推測されます。


■特例法アライの認定と、戸変者のマウント

これはまた別記事でも詳しく書くつもりですが、
手術を迫るのは要件解釈の慣例だけ……ではないでしょう。

ひとつは、

特例法アライ(擁護者)の一部女性や男性による認定

・特例法経由の男は女扱いすべきホンモノ
・だってキツイ身体違和があって手術まで望むほどなんだから(涙)
・だから女たちは社会的信頼と安心で受け入れてきた
というスタンス。

これ裏を返せば
手術を望まない・手術しないなんて偽物だ。
偽物には社会的信頼もなくて当然だし、女が安心して受入れるわけねーだろ。
という意味になりますよね。

実際「性器には違和がないのに、戸籍だけ女にしたいとか、意味不明」
「女性スペース入りたいだけの変態じゃん」
といった言葉もSNS上に見られます。

そして

すでに特例法を利用して女性の法的扱い権をゲットした、生物学的男性たちもマウントを取ります。

先日の最高裁の傍聴席で
「手術すればいい」
と言ったのも、特例法利用男性だったそうですね。
「法的性別に耐えられないが身体違和は構わんって何?」なども言ってきたのだということです。(※当記事の、まとめのあとの余談にて、この発言について批判しております)

※その発言を指摘した松岡氏のポストはデマとして批判されていますけど、上記からしてデマではないですね……

彼らからすると
要件緩和や撤廃は
自分のすでに登った「性別移行マウンテン(←彼らの表現のひとつ)」の標高を下げられ、登頂した価値を下げられることですからね。
そして世間からの注目が集まり、
「いや…あなたも男でしょ。え、女湯などにも入ってきてたんですか?最悪だ、出ていって」
と言われる危険性(…)があるんですよ。
(……だから要件緩和・撤廃やみなし緩和に反対しているのであって、女性の理由とはちがうよね。それで、そんな男性たちと共闘?できますか?)

■手術までする気はなかったけど、手術した人たちの存在

そんなわけで
戸籍性別を変更したい人の多くは「おおむね手術しなければならないだろうね」という現状に対峙することになります。

よって、手術を希望していたわけではないのに、法令上の取扱いを変えたいがために
手術をした人たちは、本当に実在します。

一例↓

大切な人と入籍するために前進する(戸籍を変えたいを思うこと)それの何を責められましょうか
動機としてなにが不純でしょうか
副作用が時に重篤な健康被害を及ぼすことは重々承知。
現在も副作用と闘い専門的治療を行っています。

http://uchidan.com/notice/234/

女性パートナーと結婚したい立場からしたら、何十年先の閉経を待ってなどいられなかったことでしょう。
そこで、重篤な健康被害を及ぼす可能性を承知の上で子宮・卵巣摘出に踏み切っています。

たとえホルモン投与で生理が止まって陰核が肥大したとしても、排卵は起きている場合もあり、妊娠の可能性はあります。
なので、ホルモン投与だけで必ず絶対に特例法要件クリアとみなされるか、いつそれが叶うか、は不明ですしね。


特例法は上記ブログのように
手術までする気はなかったが、特例法利用したいために手術した人を確実に生み出しています。

また
千田有紀教授が「当事者はセルフID自体を求めてない」と言ってますが

求めている「当事者」は、居ます。
誰を「当事者」と呼ぶのか、なんていう言葉遊びであれば、受け付けませんよ。

■まとめ

「特例法を利用したい人物は、手術を強いられている」は嘘かまことか?

私の回答は、
「ある意味ではそうとも言えるが
そうではない」でした。

そしてなにより戸籍性別変更制度に反対する「男を受け入れさせられたくない」私たちが、知っていなければならないのは

現状維持が合憲と出たところで、
“生殖腺手術してない・陰茎陰嚢手術してないままの法的女性”は
いつ出てきても(既にいても)おかしくないよ!
要件からしても、特例法自体の目的からしても!

・「手術要件の維持」なんてものは大元の要件からして存在せず、
「現状の解釈慣例を維持してくれ」と頼むよすがとなる法文も要件も、
解釈範囲がいまどうなっているか……を確認し続けるすべも、
私たちにはないよ!

ということでしょう。

これが正しい現状把握だと思うのですが、
いかがでしょうか?


(たとえば……

女性の場合は閉経と陰核肥大で変更OKになったのは、
最初からなのか、それとも途中から一部の医師が攻め始めたのかどちらなのか?
そして家裁はそれを認識していたのか?

……ほらね、私たちにはそれを知るすべも、止めるすべもないのです)



続きます


余談

……ではないが、今回のテーマとまた別なのでここで。

傍聴席で閉廷後に「手術すればいい」と言ったとされる男性による
「法的性別に耐えられないが身体違和は構わんって何?」
について、言いたいことがあります。

ホルモンで豊胸や性器萎縮などである程度を変えたら満足な人も居ますし、
性器よりも、顔や喉仏や声帯などを変えたほうが満足な人も居ます。
ガイドラインの「治療」もどこまでを望むかは本人が決めていいとなっています。

それだって「自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者」ですよね?

風呂以外で人に見せることもそうそうない、自分でも常に目に入るわけじゃない性器より、顔まで変えるほうがよっぽど「自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思」があると判断できる……
そういう向きもあるんじゃないですか?
(私は、なにしようが男は男だから断固NOだけど、性器整形より顔および全身整形のほうがまだ意味はわかる気がする。それに、特例法の成り立ちから言っても、「身分証の性別と見た目が合わなくて困る」というのは性器の形の話ではないし)

逆に、性器は整形したらしいけど、他の男らしい特徴はそのまんまじゃん、
服は女性服だけど、どう見ても男じゃないか。
って人見ますよね?
技術的にできることを全てやった、じゃないわけですよね。
お金、体への負担、自分の満足度合い、それらを総合した結果、
「性器整形した。ホルモン入れてる。俺はもうこんなもんでいいわ」と判断したんでしょ?つまり、

「法的性別に耐えられないが身体違和は構わんって何?」
その言葉は、あなたにも当てはまるんですよ。

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