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【ショートショート】日曜日から始まる(6)


                                         これまでの話

【創作】日曜日、ずぶ濡れで家に帰った透は、次の日の月曜日、仕事が終わると、急いで会社を後にした。

そして、上着を手に持ち、
走りながら、ネクタイを緩め、
デパートまでやって来た。

傘売り場まで行くと、あの傘を探した。

「無い、無い.....」

近くにいた店員に聞いてみる。

「傘の"え"が木で出来ていて、表が黒がかった紫で、裏が青みがかったオレンジ色の傘、有りませんか?」

店員は、

「少しお待ちください」というと

別の店員に聞きに行った。

首をかしげて戻ると、

「此処にあるものが全てだそうです」

と応えた。

日曜日の店員では無かった。

透は会釈すると、早足でその場を離れた。

「傘を探しているのかしらね。随分、詳しく話してたわよね」

レジにいる店員がその話を聞き、
目を下に向けると、あるメモ書きが目に入った。

「あら、コレ、もしかして....」

周囲を見渡すが、その姿は、
もう何処にも無かった。それでも、向かった方向に、メモ書きを手にして走ってみた。

「もう、外に出ちゃったのかしら。あー気が付くのが遅かったわ」

店員は、残念そうに口にした。



透は、外に出ると、近くのデパートにも行ってみた。
そして、傘専門店にも行ってみた。
だが、何処にも、あの傘は無かった。


「今ごろ探しても遅いのか。
何処の誰かも分からないのに」

透は悔しくて、情けなくてやりきれなかった。

『忘れるしかないのか』

透は天を仰いだ。

ジリジリした真夏の太陽の中、
走り回った透は、汗だくだった。

周りは日傘を差して歩く人がたくさんいて、その中で、あの傘を探す。

見つかるモノでは無い、と分かりながら。

『仕方ない、別の傘を買おう』

透は傘専門店に戻り、黒地の傘を買った。 


そして、表に出ると、早速傘を広げてみた。

気持ちが上がってこないことは、
分かっていた。

それでも、傘を広げ駅に向かって歩く。

駅に着くと傘をたたみ、
スマホを取り出し、
俊介に電話をかけた。

「俊介、明日、何かあるか?
何も無ければ会わないか」

俊介の意思を聞くと、透はスマホを
内ポケットにしまい、電車に乗った。


 洋子はデパートに向かっていた。
昨日、彼は来たのか、どうしても自分で確かめたかった、

傘売り場に着くと、真っ直ぐレジに向かった。
昨日の店員では無かったが、聞いてみた。

「あの、すみません。お尋ねしたいことがあるんですが、昨日の店員さんは、今日は、いらっしゃいますか」

「昨日の店員は、月曜日はお休みなんです。何か、ございましたか」

店員は笑顔で応えた。

「そうなんですね。あの、何か言伝は、有りませんでしょうか」

洋子は勇気を出して、初めての店員に聞いてみた。

「ええっと、少しお待ちくださいね」

と言うと、他の店員に聞きに行く。

店員たちが何やら話をしていた。
そして、急いで洋子の元に戻ると、

「あなた、朝霧洋子さんですか?」

「はい、そうです」

店員たちは、やっぱりそうだったという顔をして、洋子に真正面に向いて

「彼は、さっき来たのよ。傘を探していたの。でも、在庫は無くて、それを告げると早足で行ってしまったの。
その後、このメモを見つけて追いかけたんだけど、その時にはもう、外に出たみたいで行方は、分からないのよ」

『彼が今日、来た?傘を探して?
なぜ?』

洋子は、彼が来たことに安堵したものの傘を探していたことがなぜなのか分からなかった。

「わかりました。ありがとうございました」

と言うと、深いお辞儀をして売り場を離れた。

『どうして傘を?いったい何があったんだろう』

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