【ショートショート】日曜日から始まる(5)
【創作】「お母さん、私にお見合いって..」
「そうなの。由美ちゃんからの紹介なのよ」
由美ちゃんというのは、母の妹でスナックを経営し、ママもしている。
そのおかげで、顔は広い。
「どう?会ってみる?」
洋子は、頭の中の整理が付かず
黙っていた。
私がお見合い.....。
洋子はひとり娘だ。自分は、お婿さんを貰うのか、それともお嫁さんになるのか、幼い頃から自分なりに考えて来たことだ。
「私、お嫁に行ってもいいの?」
「えっ、そんなこと、気にしてるの?あなたって古風なのね、ふふ」
母にそう言われてカチンと来たので、
「私、お見合いなんてしないわ」
断言した。
「あらあら、ごめんなさい。あのね、お話が来るっていう時が、
その時期が来たっていう事なのよ」
母の話は続く。
「由美ちゃんのお店のお客さんの息子さんなんだって。その方が誠実な方だから、息子さんも良い人なんじゃないかって、由美ちゃん」
さらに母の話は続く。
「由美ちゃん、すぐに洋子にって思ったそうなの。
昔みたいに両家の親が揃って、なんてことじゃないのよ。
由美ちゃんが間に入って、
会いましょうという事らしいわ」
さらにさらに母の話は続く。
「せっかくのお話しだもの。
会ってみるといいわよ。
それから、お付き合いするか、
お断りするか、決めればいいんじゃない?」
黙って聞いていた洋子は頷き、
「少し考えてもいいでしょ」
と、母に告げ、
『でも、会ってから断るなんて事
私に、出来るの?』
と、心で思った。
母は、
「ええ、でもなるべく早く返事を
ちょうだい」
洋子は、「わかった」と言い
帰り支度を始めた。
玄関まで見送りに来た母が傘を見つけて言った。
「まあ、素敵な傘ね。色が良いわ」
と、洋子の傘を褒めてくれた。
「うん.....じゃあね」
と言って、外に出ると、
雨は上がり、西の空は明るく、
家の玄関脇に母が育てた
紫陽花が咲き誇り、
雨上がりにキラキラしていて、
とてもキレイだった。
『せっかくだから、夕飯、食べてきてもよかったな』
今日は、長い1日だったと、雨上がりの歩道をゆっくり歩いていた。
「電話、来ない....」
呟くと、急に悲しくなり涙が出そうだった。
「忘れよう、傘が同じだから、また会おうなんて、普通なら無い事だもの」
自分に言い聞かせるように
気持ちが沈まない様に
心を奮い立たせた。
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