実家の猫が一匹になった

四日前に実家の猫が死んだ。
病気だったとか事故だったとかではなくて、だんだん衰弱してほとんど老衰のような感じの死に方だった。寿命だったんだと思う。19歳だった。大往生だ。どこが悪いとかどこが痛いとか、もしかしたらあったのかもしれないけど、すくなくとも見た目にはそういう様子はなかったのでそれもよかったと思う。とはいえかなしい。あのふわふわの毛やあまったれた声とはもう二度と会えないのだと思うとさびしい。とても。
彼女は歴代含め、実家の猫たちの中では群を抜いて甘えん坊だった。よく鳴いたし、すぐ人の膝に乗りたがった。長い毛は細くてやわらかくて美しかった。瞳は翡翠色だった。おかきが好きで、母がおかきを食べていると膝の上ですこしだけ分けてもらっていた。みょうに神経質なところもあって、実家でいっしょに飼っている黒猫がちょっとでも癪にさわる動きをすると、牙を出して唸った。でも噛んだり引っ掻いたりはしなかった。名前をよぶといつもすぐに返事をしてくれた。死ぬ前日も、もうほとんど動けないし声も出ないのに、名前をよぶとしっぽの先を動かして返事をした。母のことが大好きだった。むかしから、母が寝るというとかならず寝室にくっついていった。母がうっかり扉を閉めて寝てしまったときには、開けて開けてと扉の前でしつこく鳴いた。わたしや妹が開けてやるとこっちを見もせずにタタタと中に入っていった。最期は母のベッドの上で息を引き取った。よかったね。
彼女の姉妹猫も実家で飼っていたのだけれど、昨年の12月に死んでしまった。そちらのときも同じように、ほとんど老衰のような感じだった。仲のいい姉妹だったので、いなくなってからはさびしかっただろうと思う。生きていたころはよく寄り添い合って、というよりほとんど重なり合うようにして眠っていた。わたしは天国とかあの世とかを信じていないけど、それでももしそういう場所があるなら、二匹でまた額をくっつけあわせて眠れているといいねと思う。

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