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「ネブ博士」

手のひらサイズの
グラントシロカブトの
ぬいぐるみをゲットした

閉店間際の
レジの店員以外誰もいない
子供服 ゲームセンターフロアの隅に
2段になってる すぐ取れそうな景品が
山積みになったクレーンゲームでゲットした

寂れたフロアに
脳に響くチープで軽快な音が
繰り返し再生されてる

小さく丸く
中のビーズのおかげで心地よい重みがある
ずんぐりとしたグラントシロカブト

グラントシロカブトは
ネブ博士の相棒のムシだ

ネブ博士は今何してるんだろう


地元の沖縄は 他県に隣接してない
海が綺麗なだけの島で
どこに行くにも飛行機が必要
交通手段も電車がなく不便だが
平気で時間を守らないバスはあった

この島には
ダーツ ボウリング カラオケ ビリヤード
くらいしか娯楽がない
大学へ進学した理由も正直9割
つまらない島から
地元と家族と上手く馴染めない牢獄から
早く出たかったから

ムシキング直撃世代で
近所のコンビニに置いてあったり
スーパーのゲームコーナーにあった
ムシキングをプレイするのが
当時の僕にとって唯一の娯楽で生きがいだった

ムシキングを簡単に説明すると
今でもゲームセンターに置いてあるような
100円を筐体に入れて
排出されたカードをスキャンし
甲虫を召喚してじゃんけんでの勝ち負けで
戦わせて遊ぶゲーム

そしてそのゲーム内でネブ博士が登場し
僕たちプレイヤーに遊びかたを教えてくれたり
バトル中に助言をくれた

ムシキングが最高だったのは
甲虫自体の演出のカッコよさもあるが
じゃんけんで勝負を決めることにもあった

じゃんけんは
生まれてまず初めに覚える
1番シンプルで1番奥が深い勝負

人と対戦する際は肩が当たるくらい
密接に隣同士でプレイするので
次出す手がバレないように
相手側の手でボタン入力する手を隠したり
親指の付け根でゆっくりボタン押したり と
勝つのに必死だったのを覚えてる
かっこいい甲虫もじゃんけんも僕を熱中させた

ゲームセンターでムシキングをプレイして
家に帰り ゲームボーイでムシキングをプレイする本当に毎日ひたすら
カブトムシやクワガタのことだけ
ムシキングのことだけ考えてた 

ゲームボーイ版のムシキングでも
ネブ博士が登場し手取り足取り
案内役として僕らを指導してくれた

何かの懸賞でムシキング用の
オレンジ色のカードファイルが
当たって 家族で喜んで
ネブ博士にお礼の手紙を書いて送ったことも思い出した

父が僕を車で幼稚園まで迎えにくる日は
300円の小遣いをもらい
いつもの近所のローソンで
ムシキングをさせてくれた

車を飛び出し
バッグに内緒で潜ませていた
コンビニで売られてた実寸大の
ヘラクレスオオカブト(つよさ200)
のフィギュアと

スクールバッグの肩がけ紐に
ガチャガチャで当てた
銀の玉チェーンで繋いだ
体長7センチ程の
ギラファノコギリクワガタ(つよさ200)と
ヘラクレスオオカブトの
ミニフィギュアを揺らしながら入店する

ただその日は父の迎えが遅く
待ってる間に
園庭で砂遊びをしている時から
トイレを我慢していた

僕は小さい時からトイレを我慢するクセがある
オムツをしてた頃から
尿意を催すと
ベッドのへッドボードと窓の隙間に入って
立ちながら我慢した
挟まれると不思議と安心感が生まれてもっと我慢できる気がしたから

だけど正直ローソンを目の前にすると
ムシキングができる
ワクワクの方が圧倒的に勝り
尿意のことなんて忘れた

大事に握りしめた300円をポッケにつっこみ
100円玉を機体に入れ込むと
いつもポポが迎えてくれた

四六時中考えたお気に入りのムシと
そのワザ構成をスキャンし
ぼくのムシとジョインする

ムシキングは大体3戦する
最初はよわいムシからだんだんと
つよいムシと戦う

1戦目のよわいムシを楽々と倒し終えた時
一瞬緊張が解け
外尿道括約筋が緩み
忘れていた にょうい が猛烈に
僕の膀胱にガンガンスマッシュを
かましてきた

しかしいつだって戦いは非情です
待ってはくれない

にょういを極限まで我慢し
2戦目のコガシラクワガタ(つよさ140)

これでどう相手を挟むんだと思うほど
細長いアーチ状の枯枝みたいなツノを持つ
赤錆びたうんてい棒色したクワガタ

つよさ140程度のムシなんて
いつもなら3ジャンケン程で終わるハズが
こんな時に限って あいこ を連打してくる

あいこをだすとムシ同士が
一瞬互いのツノをぶつけて鍔迫り合いをする
その鍔迫り合いのSEが東映の波音のように
テニスのスマッシュ音のように
爽快で心地いい

心地よすぎた
あいこを繰り返すうち
あいこのSEと尿意が呼応しあい
連動してだんだんと満ちてくる波のように
そして確実に にょうい が激しく
ハチャメチャに押し寄せてきてぼくは

大失禁 してしまった

不思議と恥ずかしさも罪悪感もなかった
ぼくはただ まっすぐ目の前のムシと対峙し
ネブ博士からもらった
ヒントのセリフを吟味して冷静に
淡々と次の一手を繰り出す


その後の記憶は正直ほぼない
かすかに覚えてるのは
店員のおばちゃんから
「なんで床濡れてるの」
と声をかけられ
「さいふから水がこぼれた」
とそんなはずのない嘘をつきながら
尚戦いをやめない
下半身だけ濡れてるぼくを叱らず
尿浸しの床をモップで掃除してくれてたような



そのくらい大好きだった
大失禁するほど熱中してた


不純な動機で入学した大学なんか
長くは続かなかった
大学を辞めたあとは
その月生きられる程度に
日雇いバイトを適当にこなしてフラフラしてた

ネブ博士がいてくれたら
なんて言ってくれただろう
なんて声をかけてくれるんだろう
あの時みたいにアドバイスがほしいと思った

周りの結婚 出産
仕事での活躍に勝手に焦りを感じ
自分を追い詰め 苦し紛れに
キラキラした記憶を
楽しかった思い出を
無意識に追ってた
すがりたかった


だけどもう
ネブ博士もムシキングも
熱中してたあの頃の自分も
どこにもいない



…..




いやちがう

ここにいる


ネブ博士の相棒だった
グラントシロカブトがいるじゃないか
今たしかにぼくの手のひらにいる


今度は自分が
ネブ博士みたいに
頼られる存在になりたい

ならなくちゃ


握りしめた拳で
次の一手を考える

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