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悪路だって、マウンテンバイクで走り抜けて、いつか気球に乗りたい/水晶体に映る記憶

日々が静かで、平凡で、
幸せで、ゆったりすぎると、
不安になってしまうことがある。

私が何をしていても、何もしなくても、ちゃんと時間は進んでいくし、
社会は滞りなく回っていくんだよ〜〜ということを突きつけられている感じ。

脳みそだけでも遠くに行きたくて、
スマホを見る。

そうすると、容易に誰かと比較ができる情報で溢れており
美容、貯金、ダイエットの記事が大体バズっていて、
コメント欄の流れはパッケージ化しているようで。


「豊かさ、ってなんだっけ」
最近、そんなことばかり考えている。




昨年の今頃は、こういうことを一人で考え、眠れなくなった。
深夜、同居人のじーちゃんに気づかれないように
こっそり玄関を開けて散歩をするのが日課だった。

田舎だからできた、裸足で駐車場に寝転ぶことも
今ならきっとできない。貴重な時間だったように思う。

駐車場で寝転べなくなったが、こういう会話をしてくれる相手がいるのは去年との大きな違いだ。


「最近ね、日常が穏やかすぎて、不安になるんだけど。
 私たち、ちゃんと変な人生を生きているよね」

乾かしの足りない湿った髪の毛を、枕に押し付けて、
スマホゲームをしている彼に聞こえるように、ぼそっと言った

「うん。そうだと思うよ」

「だよね。逸れた道、だよね。
どこかの選択で、1つでも安定さを求めてたら、きっと今出会ってないし、この人生じゃないよね。」

自分に言い聞かせるように天井を見つめてそういった。

それから彼は、スマホ画面にあった視線をこちらに向けて、こういった。

「しっかり悪路だよ。ただその道をマウンテンバイクで乗りこなせるようになっただけで、悪路なのは変わらない」

悪路、という言葉を使ったとは思えないくらいに
楽しそうな表情で言った。
ああこの人、この波乱すぎる人生を楽しんでいる同類だ。


何もかも反対側の私たちの共通項があるとするなら、
複雑な変化や、考えることを楽しめること。
自分で自分を飽きさせたくないことだと思う。

そんな存在が、今とても有難い。かけがえのないもの。

きっとこれからも、悪路をマウンテンバイクで走り続けて、
あるときはパラグライダーで飛び、あるときは気球に乗ってプカプカするんだろうな。
そんな未来が、ちょっと楽しみになる。

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785字
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