見出し画像

7枚の紙から始まる、私の飾らない本作り/水晶体に映る記憶vol.55

Googleが知らせてくる、
「あと8分で家を出ないと電車に乗り遅れるぞ」と。

歩くスピードが遅い私にとって、この知らせは信用できず、8分の時間なんてあって無いようなものだから、そろそろ家を出ないとまずいということだ。

ああどうしようか、間に合うか?こんなこと考えてる間に時間は食うので、もう心を決めて、

ええい!と、コピー機のスイッチを押した。

どうしても、この場で印刷して、紙に残して
鞄に入れたいものがあった。

この選択が、
今日の色を全く違うものに変えることになる。


最近みた絵のような景色



お世話になっている先輩に、素敵な人を繋いでいただいた。その方は関西にお住まいで、OLをしながら一人本屋さんをしているという。(以降、一人本屋のAさんとする)

オンライン1時間ほどお話をした数日後、あれよあれよという間に直接お会いすることになった。Aさんがよく行くという伊丹にある本屋さんは、偶然にも「私のGoogleマップの行きたいとこリスト」に保存されていた場所だっため、ぜひご一緒したい!!!という願いを叶えてくださったのだ。

14時の待ち合わせ、長針が時計のてっぺんを数分過ぎたあたり、改札から人が駆け寄ってくる気配があった。数分なんて、私にとっては全然遅れたうちに入らないのに、「お待たせしました!」と言葉にするAさんに、真面目で優しい方なのだな、と温かい気持ちになった。

駅からすぐそこにあるという、例の本屋さん。途中、大きなイオンの看板が見えたのと、街の雰囲気が落ち着いているのを感じて、ああ住みやすい街なのかもしれないな、とマスクの中の口角が上がる。


そうこうしているうちに、あっという間に目の前に現れた本屋さん。ガラス張りの表面に、人が腰掛けたロゴが施された店内は、入る前から「素敵な時間になりそうな予感」で溢れていた。


お店に入るやいなや、Aさんがとっても穏やかな声と表情で、沢山の本を紹介してくれた。「この本は作者さんが、、、」「この本の装丁はこんな物語があって、、、」「この本を紹介したら、その人にこんな変化があって、、、」その言葉一つがAさんの内側から出てくるもので、本当にその本が好きなのだという温度が私にも伝わってくるようで。気づけばこの日、2冊もの本をお迎えすることになる。

いつのまにか2人とも本棚に釘付けになり、そのゆっくりした時間の流れの中で、本との出会いを楽しんでいた。

気になる本が何冊もあり、ああまたこれは積読が増えるな、と嬉しい悩みが生まれた時、遠くの方で、Aさんと店主さんの会話が聞こえる。

「あの方は、友人?」と店主さんが話しているのが聞こえて、ああ私の事かもしれない、とそちらへ向かう。「そうなんです。最近オンラインで話して、会うのは初めてで」と答えるAさんの手には、すでに3.4冊の本が重なっていた。(お店に入ってから、20分ほどの出来事である…!)


「初めまして」と言う時はいつも緊張する。いつも忘れてしまう名刺が奇跡的にあったお陰で、デザイナーです、という自己紹介と共に、お二人に名刺をお渡しした。

どんなデザインしているの?という有難い投げかけを入り口にして、ロゴやチラシを作っていることや、なぜ大阪にきたか、をポツリポツリと話した。

私は自分のことを語るとなると、口下手になってしまうのだけど、今日初めて会うはずのAさんがなんとも上手に私の他己紹介をしてくださるのだ。

「ひかりさん、本を作るそうなんです」
そう話してくれたAさんに続いて私も答える

「あ、そうなんです、自費出版で…、準備中なんですが…」
自分の心拍数が上がっているのがわかった。

店主さんが言う。
「どんな本なの?」

あ、今かもしれない。今なのかわからないけど、あれを出してもいいかもしれない。鞄からファイルを取り出す。

「あの、実はこれで…」
7枚の紙を、手渡す。

それは、本のキャッチコピーと、仮の目次、そして一部の中身の文章を印刷した紙だった。

お二人は、ええ持ってきたの?!と驚いている様子で
「紙に書いたものじゃないと、説明できないと思って…」と慌てて補足した私だった。

紙を手に取った店主さんは、1枚目を見つめて、文章を読み始めた様子だった。
そこから、何分経っただろうか、沈黙の中文章を読む店主さん。私とAさんは、互いに本棚を眺めながら、店主さんが読み終わるのを待つ。

私はといえば、手汗が止まらない。心臓がうるさい。自分の文章を、店主さんに見ていただいている。どうしようどうしよう。自分の内側にあるものを見てもらう時はいつだって怖いし恥ずかしい。しかし紙に書いた文章は特に、何も飾らない等身大の私だったから、私そのものだったから、恥ずかしいどころの話ではなかった。


3分くらいの時間が、30分くらいに思えた。



ふと、店主さんが口を開く。
「どこかで、文章を習ったの?」


私は、喉元がぎゅっと詰まるのを感じる
「いえ、習ってないです」


そうすると店主さんは一言
「感性か…」と言った。


そこからまたしばらく沈黙して、

「私はこの文章が好きですよ」と話してくれた。「自分の中のことを、こんなにも言葉にしている…」と。

そんなようなことを言われた瞬間、力んでいた体の力が解けて、ちょっと倒れそうになった。褒めてくださった……?ちょっと信じられなくて、他にもたくさん言葉をくれたのに、記憶が朧げになっている。

君の文章に似た本を知っているよ、店にあるかな…という店主さんは、店の奥に消えていく。

その間に、Aさんも紙を読んでくれたのだけど、彼女は「風の時代を生きていく人の文章だ」と表現してくださった。風、、、私が目指す生き方、、、涙が出そうだった。


「あった!!」
店の奥で、声が聞こえた。店主さんが本を見つけたそうだった。

私に手渡してくれたその本は
手のひらサイズの冊子で、装丁をみた瞬間
いい香りがする、と思った。

数枚ページを捲る、言葉のリズムといい、語感といい、心地よい。好き。

「その本、あげるよ」
市販されていないという本のはずなのに、店主さんはそう言った。お代もいらないという。
ちょっと信じられなくて、Aさんに目を配ると、珍しいことではないらしい。店主さんはそういう人だそうなのだ。

私たちが話している間にも、この店には何人ものお客さんがやってきた。その理由が少し、わかった気がした。

店主さんの美味しいコーヒーと可愛い器

14時にきたはずなのに、外はすっかり暗かった。この数時間の中で、私はAさんと、店主と、初めましてとは思えないくらい沢山の話を共有した。

OLをしながら一人本屋を始めるAさんは、なぜ本屋をするのか、きっかけをくれた本は何か、好きなバンドは何か、最近おこった奇跡の数々を教えてくれた。

その様子を、お仕事をしながら聞いている店主さん。

その穏やかな状況に、笑みと頷きが止まらない私。

とっっっても幸せな時間が、そこにあった。



18時、こんなにも時間がたっていたのか!と驚愕する私たち、

ゆっくりと帰る支度と、立ち話をして
名残惜しい、、、と思いながらさようならをした。

また来ます、と告げた私たち。

Aさんは、いつのまにか6冊の本が入った袋を手に持ち、私は3冊の本を鞄にいれて、駅へと歩き出す。

伊丹駅近くのイルミネーションが、あまりにも独特すぎて二人で笑った。





いつ始まるかわからないのだけど、決めたこと。
本を作る過程を、このnoteでも話していこうと思う。音声で。

そして、本を必ず出すね。飾らない本を。

そんな本を作るために、ちゃんと自分の過程を残していきたい。


また、改めてお話させてください。
今日もありがとう。素敵なご縁に感謝。

ここから先は

0字
このマガジンだけの共有にしたいと思った、大切な記憶をお届けします。

今日しか感じ取れないかもしれない有限な感性で、日々の感情や記憶の形を残していきます。自分の感性を守っていきたい、思い出していきたい方におす…

いつもサポートしてくださり、ありがとうございます。書く、を続けていける1つの理由です。