見出し画像

自分の位置が分からない時は、気球に乗っている友人に教えてもらう/水晶体に映る記憶

歯医者で歯を削られている時、
怖くて仕方ない気持ちと、私はちゃんと死に向かっているんだなという気持ちの両方がある。


削られたら、もう二度と元には戻らない。
穴が空いて、風をかけられて、消毒して、自分の体とは違う異物を詰め込まれる。その詰め物はいつか劣化して、また虫歯ができる。

こんな繰り返し。
あまりいい気持ちはしないけど、たまにこういう体験をしないと
生きるをサボって空虚なままに息をしてしまうから、生活の中にあってほしい感情だと思う。

80歳で20本の歯を残している祖父が、本当にすごいなとばかり考えながら歯医者を後にした。





1週間前、私は地元である山形に帰省していた

仙台空港についても、山形駅についても、最寄駅についても、あまり「懐かしい」とは思わなかった。

それは、景色の見え方が変わったのだろうか。
もしそうだったら、自分がこの1年で何か変われたのかもしれない。そう、思いたい。


1年前、地元を出た記憶


実家の最寄駅に着くと、祖父が迎えに来てくれた。

車からの景色を見つめて、久しぶりの街を感じていたけど、懐かしくない、という感覚は、気のせいではなかった。


街も、いろんな場所が死んで、生まれ変わって、生きている。

劣化したら新しく修復されて、観光客対策に若者ウケしそうなお店を作るのだ。

古びていて、硫黄臭かった銭湯は潰されて、
新しく建てられた銭湯が賑わっていた。
その銭湯の前を過ぎる時、シャンプーのいい香りがした。

この温泉街は、どんどん知らない街になっていく。歯の治療のように、削られて埋められているときに感じた気持ちと、そう遠くなかった。


わかったのは、きっともう私の好きな街は二度と戻ってこないこと。

そんなことを思いながら実家に着いた。






祖父は相変わらず元気だった。
親戚の中で、一番先に実家に到着した私は、しばらく祖父とお話をした。

大阪での暮らし、出会った人々、パートナーのこと、仕事のこと。
そうか、とたまに相槌を打って聞いてくれた。

普段は無口な祖父だが、その日は珍しくおしゃべりで、こんな話もしてくれた。

ここから先は

1,306字
このマガジンだけの共有にしたいと思った、大切な記憶をお届けします。

今日しか感じ取れないかもしれない有限な感性で、日々の感情や記憶の形を残していきます。自分の感性を守っていきたい、思い出していきたい方におす…

この記事が参加している募集

いつもサポートしてくださり、ありがとうございます。書く、を続けていける1つの理由です。