冬の足先、脱いだ靴。
履き潰すんじゃないかってくらい履いてるお気に入りのブーツ。
心地よくて仕事だって遊びにだって連れ回した。
黒いストッキングと一緒に履いてると、すぬるっと脱げる。
すぬるっ すぬるっ
脱げて黒い足先が顔を出す。
ひんやり すぅうっと
冬の風が足を通り抜ける。そのまま全身をほのかに冷やして、体の空気が入れ替わるような気持ち。
死んだおばあちゃんを思い出したりなんかする。
小さい頃、口酸っぱく言われた「風邪は足から引くんだよ。靴下ちゃんと履きなさい。」
全然言うこと聞かなかったなあ。ごめんね、今やっと分かるよ。
分かった上で、少しだけ冬の風を足で感じる。誰も怒ってくれないから、大人になったんだなと少しだけ寂しくなる。
お気に入りの靴を履き潰しても、足を晒して冷やしても、帰ってお風呂をサボっても、私を叱る声は聞こえない。
あの日私は、おばあちゃんの葬式に行けなかった。バツが悪くて、素行が悪くて、きまりも悪かったから。
叱られることがなくて寂しくなるくらいなら、生きてるうちに怒られに行けばよかった。
貴方に背けた足。今冷えた黒い足。
ブーツを履き直して、つま先の煤をとる。
冷えた足先に触れる冷えた靴底。
踏み締めるしか ないんだなあ。
最低なことして最高になろうよ