「選挙の投票率をあげる方法」は?
◆前提
2021年10月の第49回衆議院議員総選挙の投票率は55.93%
2020年7月の第26回参議院議員通常選挙の投票率は52.05%
戦後は70%前後の投票率
1996年に小選挙区比例代表並立制が導入されてから低下傾向
最も投票率が低いのは「20~24歳」、最も高いのは「70~74歳」
小選挙区制では死票が多くなりやすい
小選挙区比例代表並立制は大きな政党・与党に有利
◆「20代の低投票率」は電子投票で解決?
20代の投票率が低いのは、進学により住民票を置く地域(実家)と滞在する地域(下宿先など)が異なるため、投票がしにくい状態にあるからです。
大学生などは、約7割が住民票を移しておらず、そのうち約8割が投票を行っていないようです。生活拠点が実家にある学生(週末には実家に帰っている、私物の多くが実家にあるなど)は特例として転入届の提出が免除されているので、住民票を移していなくても違法とは限りません。
『不在者投票』を行うこともできますが、選挙管理員会などに書類を請求しなければならず手間がかかります。
手間がかかる原因は、市区町村の選挙管理委員会が管理する選挙人名簿をもとに『投票所入場券』を交付しているからです。選挙人名簿は、住民台帳から条件を満たした選挙人を登録しているので、自治体単位で縦割り管理されています。日本には戸籍制度や保険制度もあるうえ国政ですから、投票先が住民票地域に限定されていることに違和感があります。ただ、各都道府県の代表が国政を行うことにも利点はあるので、この仕組みを変えるなら意外と大掛かりな改革になると思います。
解決策は幾つかあると思いますが、そこまで大掛かりではなく実現可能な方法として、『期日前投票』に限り、投票所に設置されたタブレット等から『電子投票』を行えるようにするのではどうかと思います。条件付きで『投票所入場券』をどの地域の投票所でも有効にするということです。
具体的には、投票所入場券にQRコードを付加して、受付で切り離して認証印を押します。QRと認証印を設置端末から読み取ることで、専用アプリで投票先が自動選定され、投票するという流れです。
時短になるうえ、他の地域への投票も行えなくなりますし、選挙当日までに投票済みの投票所入場券を確認しておけば、重複投票も防止できます。
なぜ期日前投票のみかというと、記入式よりは少し時間がかかる可能性があるからです。投票用紙と電子投票の両方を設置したとしても、当日だと行列ができてしまうかもしれません。
各自のスマホから投票が行るようになった方が便利だと思う人もいるかもしれませんが、たとえマイナンバーカードでの投票が可能になっても、端末情報が残らないシステムなのか検証できません。
QRコードは情報を解析できます。
QRコードの利点であり欠点でもある部分は認証印でカバーします。
ただ、30代の投票率も47%であり、投票率は年齢層順に差が出ています。
全年齢を含めた投票率は50%前後なので、若者だけでなく他の年齢層も投票率が高いわけではありません。
国民の意識改革も必要ですが、投票先が決められないから選挙に参加していない無投票層からすれば、今のままでは投票所に向かうモチベーションに欠けるのではないかと思います。
◆全世代の投票率UPは「不支持票」で
小選挙区制は、各ブロックから1人ずつ当選者を選出する選挙制度ですが、党へ投票する比例代表制との並立制になっているため、個人では1票も得ていない候補者が比例で当選してしまうことがあります。現制度は、候補者を多くたてられる資金力のある政党や与党に有利な選挙制度といえます。
小選挙区制や比例代表制というのは選挙制度の大枠なので、制度内容は調整できます。問題が制度の大枠にない場合、現制度の廃止や中選挙区制等と比較をすることにあまり意味がないので、小選挙区制度の仕組みを調整した方が良いかもしれません。
全年齢層の投票率をあげる公平な方法として、不支持票も投票できるようにするのが良いのではないかと思います。
■ 公約に対する賛成が「支持票」、反対が「不支持票」
通常の支持票と不支持票の両方を投票できるようにして、支持票から不支持票を引いた数を「得票数」とします。マイナス得票の場合は繰上なし、有効得票数に下限を設けます(最低得票数)。それで知名度の低い人が逆に当選しやすくなるといった問題も防げると思います。
この選挙制度なら、与党や知名度の高い人が必ずしも有利とは限らず、マイナス実績が少ない新人が通りやすくなるかもしれません。
若者が当選しやすくなって、政治が若返りする可能性もあります。
「支持できる人がいない」「自分の1票に重みを感じない」等と考える人達は、白票や無投票を選びがちですが、この選挙制度なら不支持票だけを投票することも可能なので、選挙に参加した方が得です。
■ 政党交付金の支出も減らせるかも?
各政党には『政党交付金』という助成金が交付されています。
共産党は、この制度に反対しているので受け取っていません。
政党交付金の予算は、人口数×250円で算出され、それを得票数(前回の衆院選、前々回と前回の参院選の得票総数)と議員数に応じて各政党へと割り振られています。
2022年度の交付金予算は約315億円で、各党の交付金額は以下です。
・自民党 159億8200万円
・立憲民主党 67億9200万円
・日本維新の会 31億7000万円
・公明党 29億4900万円
・国民民主党 15億3200万円
・れいわ新選組 4億9800万円
・社民党 2億7100万円
・NHK党 2億6200万円
・参政党 7700万円
議員報酬(基本給、文書通信費、事務費、交通費、秘書給与など)や政治献金は別なので、政党交付金は必須ではありません。
政党交付金は、1994年に作られた政党助成法によって交付されています。
本来の目的は政治献金を禁止するためのもので、献金を禁止するかわりに交付金を出すというのが交付金の名目でした。ところが、政治献金が禁止されたのは「政治家(個人)の資金管理団体」だけで、結局、政党への献金は禁止されませんでした。
そのため、政党は献金と政党交付金の二重取りという状態になっています。
各党の政治家も、政党を介して政治献金と政党交付金を受け取れています。
これを問題視しているのは共産党だけで、その主張通り廃止した方が良いと思います。
制度を残すとしても、今のままでは違憲(実質的な強制献金)です。
250円という金額にも根拠がありませんし、人口数ではなく投票数から算出すべきです。予算は全額を割り振る必要ありませんし、得票数や議員数によって交付額を決めているので、「得票数×100円」といった計算でも良いわけです。
政党交付金の制度は廃止した方が良いとは思いますが、支持票と不支持票を相殺させた得票数に対して国民負担額を決めるのであれば、「得票数」が減るので、連動して支出も減ります。
前回衆院選の比例を例に計算すると、自民党2000万票×250円=50億円なので、不支持票によって得票数が半分になるとしたら25億円です。現在は自民党だけで159億円ですから、かなり支出を減らせます。
◆政権交代を目指すなら支持される政党が必要
これは投票率をあげるための方法で、政権交代しやすくするための方法ではありませんから、政権交代が必要なのであれば、魅力的な政策方針をもった政党が出てこないと難しいのかなと思います。
ただ、白票や無投票よりも明確に「政策方針に対する否定」を表明できます。これはそれなりに重要です。なぜかというと、流動票は分散しやすいため、現在の選挙制度では、一定の支持票を得れば後はどうでもいいという心理が働くからです。
令和3年衆院選の投票率は約56%で、比例でいうと自民党の得票率は約35%ですから、国民の21%しか自民党支持を表明していないことになります。
国民の2割を優遇すれば、8割の人にとっては不利益な法案でも通せてしまうということです。日本は富裕層を優遇すれば政権をとれてしまいます。
どの政党が政権を担っても同じ問題は起こりますが、2割の支持であるならそれとして権限を持たせるべきで、8割の代理人であるかのように法案を通してしまっているのは民主主義的ではないと思います。
個別の政策に対する民意の反映方法は別に考える必要がありますが、不支持票を反映することで、特定層にだけに向いた政策は行い難くなります。人数が多い方が有利だからで、それが本来の多数決ではないかと思います。
選挙戦略が高度化したり、議席の単独過半数が取りにくくなる、連立政権の維持が難しくなる点にも意味はあると思います。
色々と攻防戦をシミュレーションしてみると面白いかもしれません。
ひとつ要素が加わるだけで選挙も政治も面白味が増します。
現状では、自民党・公明党・日本維新(・国民民主)といった上位の議席数をもった政党が手を組んでいるので、政権交代に何か期待するのは難しい状況ですが、決定的な方法ではないにせよ、要素が増えることで安易な手法では政権維持が難しくなる可能性はあると思います。
政権交代を望んでいない人もいるとは思いますが、これはシステムの話なので、実際に政権交代するかどうかは国民次第です。国民が不要と思うなら政権交代する必要はありませんが、交代しにくいシステムであるなら改善しておく必要があります。
システムを改善するには、一旦は政権交代しないと難しいので、こうして考えても現状では頭の体操くらいにしかならないかもしれません。それでも、国民が何を訴えていくのが良いか、こうして考えて方向性を掴んでいくことは無駄ではないと思います。