譲歩
나는 계속 여기 있는데(僕はずっとここに居るのに)
다른 사람에게 눈치채이지 않고(他人に気付かれることなく)
눈치채지 못한 채(気付かれないまま)
무시당한 채(無視されたまま)
그래도 해서 도망칠 수 없다(それでも逃げられない)
마치 길가의 민들레처럼(まるで道端のたんぽぽのように)
땅에 보이지 않는 뿌리가 붙어 있다(地面に見えない根が張っている)
네가 달려와 처음으로 느낀(君が駆け寄ってきて初めて感じた)
너에게 가고 싶다(君の元へ行きたい)
너에게 가고 싶다(君の元へ行きたい)
나는 민들레(僕はたんぽぽ)
네가 있는 곳에 날겠어(君の元へ飛んで行くよ)
바람을 타고(風に乗って)
会えるはずのない、彼女への思いを詰めて、デビューしてからの1年以上を掛けて初めて作った歌。
SNSで公開し、彼女が反応してくれたのが嬉しくて、スクリーンショットまで撮り、別のSNSアカウントを作って勝手にフォローするぐらい好きなのに。
彼女はこの歌が、彼女自身に向けて作られた歌だとは気付かなかった。
それどころか、彼女のSNSではミンスヒョンの事ばかり書いてあって、俺に対する呟きなんか100回に1回ぐらいしか書いてくれてない気がした。
「테이프에 못들어가?(テープに入れないのか?)」
俺が歌うのを止めると、CEOがそう呟いた。
俺は黙って頷いた。
この歌は、世間に対して大々的に広めたくない。
この歌を載せた投稿も彼女の反応を確認した後、すぐに削除した。
デビューして2年も経ってない頃だから、その当時に上げた動画が他のSNSで拡散された形跡もなく、今のところ、俺の周囲とその当時のファンしかこの歌は知らない貴重な歌なのだ。
と、俺は思っている。
ミンスヒョンとユジョンヒョンに、バラードの才能があると褒められてから、俺は作曲の魅力に取り憑かれた。
だから、自分で良いと感じたメロディは、すぐにヒョン達に確認するようにしているし、プロデューサーに認められたパートもいくつかある。
選ばれなかったメロディはcutterに聴いてもらい、慰めてもらうこともしばしばある。
でも、この歌は、下手でも、周りのcutterから認められなくても、このままがいい。
成功してしまった俺には出せない音色。
周囲に囚われてますます根が深くなった俺よりも自由な歌。
そんなままでいて欲しい。
俺の態度に、CEOは困った様に微笑むと静かに休憩室から出て行った。
申し訳ありません、CEO。
でも、そこまで俺は譲歩出来ない。
彼女を好きな気持ちは、本物だから。
『밤에 듣고 싶어지다(夜に聴きたくなる)』
彼女がそう言ったのがよく分かる。
俺もこの歌は夜に歌いたくなるから。
CEOが出て行って、しばらくした後、メンバーが一斉に休憩室に入り込んできた。
ミンスヒョンとシヒョクヒョンは心配そうな顔をしているものの、ミンジュンヒョンとチョンホヒョンが俺にタックルさながらで抱きついてきたから、2人が特別なアクションを起こすことはなかった。
ソンミンヒョンは飄々とした様子で俺の好きなお菓子を持ってきて、ユジョンヒョンは俺の好きなジュースを持ってきていた。
「야아!」
と叫ぶソンミンヒョンを無視して、ユジョンヒョンは俺の額にジュースを当てた。
「오〜차가워요〜(うわー冷たいですよー)」
俺がわざと泣きそうな顔をしてそう言うと、ユジョンヒョンは少し満足気に
「마셔라(飲めよ)」
と言って笑った。
少し遅れて、マンネ(最年少)のジュノが"태양야아아아!"と叫びながら休憩室に入ってきた。
俺にとって唯一の弟分だから、デビュー当時は偉そうに接したこともあったが、今となっては俺よりもジュノの方が頼もしいことも多い。
その結果、呼び捨てに繋がっているかも知れないと思うと、心底笑えてくる。
でも、仮に、俺が彼らの踏み台になることになっても、俺はこの7人を手放すことなんて出来ない。
デビューして5年目でソンミンヒョンが脱退したいと泣いた時、俺は泣いて嫌がった。
ソンミンヒョンの苦労を知らないわけでもないし、ソンミンヒョンの気持ちを尊重したくない訳でもなかったが、今まで辛い事を乗り越えられたのも、このメンバーだったからだと思えた。
だから、誰一人として欠けてほしくないと真っ先に懇願した。
それから何度も話し合い、自分にとってどれだけメンバーが大切かも語り合い、おかげで誰も失うことなく大きな賞を受賞出来るところまでやって来た。
だが、良いことばかりは続かなかった。
デビュー以前からシヒョクヒョンを支えていたヌナのご両親が、末期の癌を患い、シヒョクヒョンはアイドルという仕事と自分の大切な人のプライベートを天秤にかけなければならなくなった。
ヌナから別れを切り出されても、それなら脱退するの一点張りで、シヒョクヒョンの結婚を目立たせないようにするには、それ以上のニュースが必要だということになった。
「할수있어?(やれるか?)」
他のメンバーが、やりたがらないことは重々承知していた。
cutterが嫌がるということだって分かっているつもりだ。
それでも、CUTがCUTとして成り立つためなら、俺は自分の人生を喜んで投げ出そう。
CUTこそ、俺の人生だ。
途端にバチンッと鈍い音が響き、左頬に痛みが走る。
俺が顔を上げるとジュノが泣いていた。
今まで俺を心配していたメンバーが、俺の方を気遣いながらも、オロオロとジュノの方に駆け寄った。
どれだけ歳を重ねても、俺たちにとってジュノはマンネ(最年少)だから。
「형은 바보야(兄さんはバカだよ)」
ジュノはそう言って両手で目を擦り始めた。
そんなジュノを見て、俺は前にも似たような事があったなと、不意に思い出した。
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