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一月一酒 第10回

初出:月刊ハンガリージャーナル 2005年3月号

Pinot noir 2002
醸造家:Gál Tibor (1958-2005)
地区名:Egri borvidék

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 今月(注:2005年3月)は悲しい知らせとともに始めなければなりません。ハンガリーを代表するワイン醸造家の1人、ガール・ティボル氏は2月10日、南アフリカ共和国でおきた自動車事故のため帰らぬ人となりました。享年46歳。
 醸造家としてのキャリアをハンガリーで始めたのち、90年代には8年間にわたりイタリア・トスカーナ地方ボルゲリの著名ワイナリー「テヌータ・デル・オルネライアTenuta dell’ Ornellaia」の醸造主任を務めました。ここで彼の名を不動のものとしたのが、2001年度「ワイン・スペクテイター」が世界一に選んだ「ORNELLAIA 1998」でした。
 1993年にエゲルに開いた彼自身のワインセラーからも、数々のワイン品評会やワイン愛飲家の間で高く評価されるワインを生み出しました。彼が初めてエゲル地区に導入したブドウ品種は、今では同地区全域に浸透しています。これ以外にもハンガリー国内の複数のワイン地区において、技術顧問として働きました。
 1998年度のハンガリー・ワインメーカー・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、2001年にはハンガリー共和国騎士十字勲章を受勲したガール氏は、まさに「FLYING WINE-MAKER」として活躍。ブドウの収穫を指導するために向かった南アフリカ共和国の旅が、氏の終の道となったのです。
 ある日誰かが言いました。彼こそ最も知られたハンガリー精神の伝道者である、と。唯一無二の、道を知り、正確無比で、協力を惜しまない、真の職人はこの世を去ってしまいました。
 彼の愛したブドウ品種の1つがピノ・ノワールPinot noirです。彼が名付けた「ハンガリーのブルゴーニュ(=エゲル地区)」において、必ず成功を収めると信じてやまず、そしてそれは正しかった。
 もう何年も愛飲家は年ごとの新しいピノ・ノワールを待ち望むようになり、最近では畑ごとに選別醸造されたものも市場に登場しました。
 ワイン醸造が土壌と気候に影響されることを証明するかのように、ハンガリーで栽培されるピノ・ノワールは、本家ブルゴーニュ地区とは異なったワインをもたらし、より軽く、よりフルーティーなワインとなります。そしてそれは今回紹介する「Pinot noir 2002」において顕著に現れています。ボディーの程好い強さ、濃色果実の香りを持ち、控え目ながらも上品な酸味をもつこのワインは、まさに「ガール風上品さ」と呼ばれる彼の代表作の1つでしょう。食事に供するならば、子牛や羊肉、アヒルや雉肉の料理におすすめです。
 コルクを抜いてグラスにこのワインを注いだときに、ワイン醸造家ガール・ティボル氏が、いかに全身全霊を込め、愛情を持って育んだのか、しばし思いを馳せて下されば幸いです。

原文:TŐZSÉR Róbert
訳文/画像:高久圭二郎

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2002年の天皇皇后両陛下(現・上皇両陛下)のハンガリー国賓訪問の際、故ガール・ティボル氏はハンガリー大統領(マードル大統領)から依頼されて、ハンガリーから両陛下へ送られた贈呈品の一つとしてのワインを醸造しました。これはその際の国会議事堂での午餐会での写真で、子息ガール・ティボル氏が経営する現ガール醸造所のワイン・ビストロ「フージオー」に展示されていたものです(2020年現在は内装が変わっており、この写真は非公開となっています)。

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