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日本国憲法第二十二条

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2.何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

「ちょっと待って、めんどくさいから電話して良い?」と言える友人は限られている。17時間の時差があり、向こうでの生活リズムもよく知らない。何となくLINEを送ると早朝だったり深夜だったり。また逆も然り。
先日も連絡が来たのは朝5時半だった。返信をしたら「随分早起きだね」と驚かれた。「電話できる?」と来たので、朝の支度をしながらだったが「一時間くらいで家出るけどいい?」と聞き、弁当のおかずを詰めながら、化粧をしながら、彼女と他愛もない話をした。

私は海外に行ったことがない。パスポートすら持っていない。そんな私からしてみれば、留学なんて恐ろしくて考えられない。カナダはもうすっかり冬らしい。


元々はただの会社の同期だった。私は埼玉、彼女は福島の支社に配属され、会うのは研修のときのみ。
入社して初めての泊まりの研修で、バス移動の際に一人で座っていた彼女の隣に座ったのがきっかけで初めてお互いに認識した。
短い髪がよく似合う、横顔の美しい女性だった。一人で座っていても寂しそうな雰囲気はなく、凛とした雰囲気だった。少し遅れて乗車した私は他に空いている席がなかったため「隣いいですか?」と声をかけてその席に座った。

バスの中でどんな会話をしたのかは覚えていない。もしかしたらほとんど話してすらいないかも知れない。だけど、その研修の中盤には私のレポートを覗き込み「絵下手すぎるでしょ」と爆笑する彼女をすっかり気に入っていた。
私も彼女も、対外的には真面目でクールな印象だけど、距離が近付くにつれその印象が変わっていく。多分そのことに、かなり早い段階で気付いていたためすぐに仲良くなったのだと思う。



同期たちがどんどん辞めていく中で、3年目研修で集まった東日本の支社に配属になった女性営業で残ったのは私と彼女だけだった。どうしようねえ、いつ辞めようかねえ、と話しながら、毎回課題のロープレに真剣には取り組み、研修担当の講師に褒められていた。研修が終わると、浴びるように酒を飲みながら辞めようとしてるのに何を真面目に、と言いながら笑い合った。

飲みに行っても旅行をしても、とにかく行動のペースと考え方が似ている。彼女も大概極端で分かりやすい。芯があるから、ちゃんと自分の言葉をぶつけることができる。他の人に話すときには気を遣って包んでしまうオブラートも、ごてごてした飾りも、全て取っ払って彼女の前ではストレートに伝えることができる。
ちゃんと、伝わるから。ちゃんと、受け止めてくれるから。

もし彼女がこのまま海外に移住しようとしても、私には引き止める権利がない。だけどやっぱり、せめて福島と埼玉くらいの距離には居たいと思ってしまう。今でも充分連絡は取れているけれど、やっぱり向かい合ってお酒を飲みたい。


以前、noteに「ぴえんは口語ではなく文語」という会話を書いたことがあったが、そのやりとりをしていたのが彼女だ。
「広く大勢の人が知っている、って他に言い換えられるかな?」と聞くと、「人口に膾炙する、とか?」と新しい言葉を教えてくれたのも彼女。忘れないようにいつだったかの記事の冒頭に書いた記憶もある。
“そういう”微妙で絶妙な温度感とベクトルが面白いくらいマッチするから、話していて本当に楽しい。彼女の「分かる」は本当に分かっている「分かる」だし、違うときは「いやそれは、」とちゃんと反論してくれる。

どうでもいい話も、どうでも良くない話も、どちらもできる友人は貴重だ。どうか幸せに生きて欲しい。

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