【特別企画 夏の怪談】ブラウン管の鬼⑥
父が慌てたようにテレビに近づき、チャンネルを変える。「なんだこの番組」と。
ガチャ、ガチャ。チャンネルを回す。が、全部、砂嵐に鬼。同じ画面である。父はスイッチを消そうとする。
「玄関に行け」
と鬼の声がする。テレビのスピーカーからではなく、団地の部屋の全部の壁から声がする。
母が玄関に行く。
「靴を並べろ」と鬼。
母は靴を並べる。すると鬼は消える。テレビは通常放送に戻る。Sけん、I長介。「だめだこりゃ」「あはははは」「ちゃんちゃん」拍手。その夜は8時だよ全員集合を見て、そのまま終わった。鬼の話はだれもしなかった。
翌日は日曜日。MBは夕方まで遊び、帰った。キッチンに母と父が座っている。なんだか神妙な顔つき。「どうしたの」とMB。
「警察が来た」と母。きょう警察が来ていたらしい。昨夜の8時過ぎぐらいに、この部屋から人が飛び降りたという通報があったという。警察は現場に行ったが、何もない。いたずらかと思って暑に戻ったが、何となく気になるので一応、一晩明けてこの部屋に来たという。
「誰かが飛び降りたとか、そういうことはありましたか」
「いいえ」
「そうですか。たぶんいたずらですね」
「ええ」
「失礼します」といって警察はかえっていった。
本稿つづく
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