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【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日(65)殺し合う原理について

 おれは無神経で元気いっぱいな子どもだったから、骨折したりねん挫したり、泣かしたり泣かされたりしてそのまま育ってしまった。どうでもよかった。自分さえよければそれでいい。とゆー感じ。

 兎に角愛に溢れていた。異様な程に。異常に甘やかされそれが当然だと思って社会に出た。世界。空港や港。

 偏西風や防波堤の向こうの荒波には初めて会った感じだった。知ってはいたけど。知識では。

 恐喝、女の平手打ち、「うるさいわコラ、えーかげんにしろ」という電話、バイト先では竹串を大量に盗んだのではないかと思われたこともある(盗むかそんなもん、ふらーかやー)。銭湯に行けば入れ墨のおじさんたち。「兄ちゃん、背中ながしてくれや」「あ、はい」。雀荘屋では「兄ちゃん、ここおまえらだけやないんやけ、のう」「すいません」などなど。

 海に行けば、きたない。玄界灘。砂が黒い。あぶらが浮いている。きもちがわるい。

 山にいけば、重荷。汗。虫。くさい飯。「水、大切にしろゆうとるやろ」と怒られる。大声で歌わされ、大量にさけ(日本酒)をのまされる。

「は!?ナントカカントカコラアッ」と怒鳴られる。

 おれは菩薩ではないので、恨みは一生忘れない。しつこい性質なのだ。

 そんなこんなは序の口で、そこから先は蟹工船。

 自由とはなんだ。おれはこのままでは終わらない。そうだな。

 今でも時々そうだが、昔のおれはもっと、もっと頑張ろうと思っていた。

 理由は未来は変えられるとまだ思っていたから。

 しかし働いても、働いてもお金はちっとも増えなかった。女たちに顔向けできないままいつまでも寝ていた。起きたくなかった。電車が嫌いだった。

 日が暮れてから池袋に向かった。しかし本を読んだ。『奥の細道』『人間の条件』『日本的霊性』『ホモ・ルーデンス』『エセ―』『バラバ』『石川淳修成』『富士日記』『悪霊』『赤と黒』『カラマーゾフの兄弟』『嘔吐』『詩人と女たち』『少女コレクション』『高丘親王航海記』『渋江抽斎』『草枕』『歎異抄』『セラフィタ』『ゴリオ爺さん』『谷間の百合』『百年の孤独』『ドン・イシドロバロディの五つの難事件』『ロクス・ソルス』『笛吹川』『楢山節考』『警視庁草子』『ソクラテスの弁明』『山之口獏詩集』『弥勒』『一千一夜物語』『パルムの僧院』

 自転車を持っていたのでこいで買い物に行った。

 叔父さんに『悲の器』という本は読んだかと聞かれた。よんでませんとこたえた。さいきんのひとは読まないか、と言われた。


本稿つづく

◇参考・引用
 「未来は俺等の手の中」THA BLUE HERB

#連載小説
#愛が生まれた日

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