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【行間を読む】猪木・川合「量子力学 II」 pp. 474-475 (ヘリウム原子中電子の無摂動エネルギー準位・波動関数)

キーワード

  • 摂動論

  • ヘリウム原子

  • エネルギー準位

  • 中心力ポテンシャル

該当箇所

基底状態の電子配置は2電子とも$${n=1, l=0}$$にあり、Schrödinger方程式は変数分離型でそのエネルギーは、

$$
E_{(0)}=E_1\times2=-\dfrac{(2e)^2}{2a_0}\times2=\left(-\dfrac{e^2}{2a_0}\right)\times8=\cdots
$$

(中略)

$$
\begin{array}{rcl}\varphi_0(\bm{r}_1,\bm{r}_2)&=&\varphi_{100}(\bm{r}_1)\varphi_{100}(\bm{r}_2)\chi_\mathrm{s}(1,2)\\&=&\left[\dfrac{1}{\sqrt{\pi}}\left(\dfrac{2}{a_0}\right)^{\frac{3}{2}}\exp\left(-\dfrac{2r_1}{a_0}\right)\right]\left[\dfrac{1}{\sqrt{\pi}}\left(\dfrac{2}{a_0}\right)^{\frac{3}{2}}\exp\left(-\dfrac{2r_2}{a_0}\right)\right]\chi_\mathrm{s}(1,2)\\&=&\cdots\end{array}
$$

疑問点

  • 電荷$${2e}$$の陽子と$${e}$$の電子による引力で、水素の電子のエネルギー$${E_\mathrm{H}=-\dfrac{e^2}{2a_0}}$$にて$${e^2\mapsto2e^2}$$とすればよさそうだが、なぜさらに2倍して$${e^2\mapsto(2e)^2}$$としているのか。

  • 波動関数の導出

解説

エネルギー準位

第1巻 pp. 148- での水素原子のエネルギー準位計算に戻って考える。ポテンシャルを

$$
V(r)=-\dfrac{e^2}{r}\mapsto-\dfrac{2e^2}{r}
$$

とすれば良い。電子質量が陽子質量$${m_p}$$ ($${\approx}$$中性子質量) に比べて圧倒的に小さいので、慣性質量は質量数$${M}$$を使っても、

$$
\mu=\frac{m_eMm_p}{m_e+Mm_p}\approx m_e
$$

のまま変わらないものとして良いだろう。

これによって動径方程式 (5.94) は

$$
\frac{d^2R_l}{dr^2}+\frac{2}{r}\frac{dR_l}{dr}+\frac{2\mu}{\hbar^2}\left\{E+\frac{2e^2}{r}-\frac{l(l+1)\hbar^2}{2\mu r^2}\right\}R_l=0
$$

となる。(5.97) まで変わらずに進め、

$$
\lambda=\frac{2e^2}{\hbar}\left(\frac{\mu}{2|E|}\right)^{\frac{1}{2}}
$$

とすることで、(5.98) と全く同じ形の式

$$
\frac{d^2R_l}{dr^2}+\frac{2}{\rho}\frac{dR_l}{d\rho}-\frac{l(l+1)}{\rho^2}R_l+\left(\frac{\lambda}{\rho}-\frac{1}{4}\right)R_l=0
$$

を得る。ここから先も全く同様の議論ができて、主量子数$${n\equiv\lambda}$$をとれる。$${\lambda}$$の定義からエネルギーを導くと、

$$
E_n=-|E_n|=-\frac{4\mu e^4}{2\hbar^2n^2}
$$

で、水素原子のエネルギーの4倍になっていることがわかる。ボーア半径は水素原子を基準とする物理定数であるから、(5.110) は変わらず

$$
a_0=\frac{\hbar^2}{\mu e^2}
$$

を用いる。かくしてエネルギー準位

$$
E_n=-\frac{4e^2}{2a_0n^2}
$$

が求まる。

ヘリウムに限らず、原子量$${Z}$$の原子中の電子が持つエネルギーは上の議論によって

$$
E_n=-\frac{Z^2e^2}{2a_0n^2}
$$

となる。

波動関数

ここまでの議論で、水素原子と異なるのは、$${E_n}$$とそれを式に含む$${\rho}$$のみである。すなわち (5.102) の形式も変わることなく、

$$
\rho\frac{d^2L}{d\rho^2}+(2l+2-\rho)\frac{dL}{d\rho}+(\lambda-1-l)L=0
$$

のままである。したがって動径方程式を求めるには、ラゲールの陪多項式に照らし合わせて$${L}$$を求め、それを (5.101), (5.99) と順に戻せば良い。波動関数の動径部分は$${e^{-\rho/2}\rho^lL_{n+l}^{2l+1}(\rho)}$$の形をしている。

(5.109) の積分はそのままであるが、この積分変数を$${\rho\mapsto r}$$とするときに注意が必要である。水素と比べてエネルギー準位が4倍になるのであったから、$${\rho}$$の定義 (5.97) に戻って考えると、

$$
\rho=\sqrt{\frac{8\mu|E|}{\hbar^2}}r=2\sqrt{\frac{8\mu|E_\mathrm{H}|}{\hbar^2}}r=2\times\frac{2}{na_0}r\qquad(*)
$$

である。繰り返すが$${a_0}$$は物理定数であって、$${e^2\mapsto2e^2}$$の変化を受けない。よって波動関数の動径部分を$${0<r<\infty}$$で規格化すると、

$$
\begin{array}{rcl}\displaystyle\int_0^\infty r^2dr\left(e^{-\rho/2}\rho^lL_{n+l}^{2l+1}(\rho)\right)^2&=&\displaystyle\int_0^\infty \left(\frac{na_0}{4}\right)^3\rho^2d\rho\left(e^{-\rho/2}\rho^lL_{n+l}^{2l+1}(\rho)\right)^2\\&=&\displaystyle\left(\frac{na_0}{4}\right)^3\frac{2n[(n+l)!]^3}{(n-l-1)!}\end{array}
$$

であるから、規格化されたエネルギー固有関数は

$$
R_{nl}(r)=-\left\{\left(\frac{4}{na_0}\right)^3\frac{(n-l-1)!}{2n[(n+l)!]^3}\right\}^{\frac{1}{2}}e^{-\frac{1}{2}\rho}\rho^lL_{n+1}^{2l+1}(\rho)
$$

によって表される。

特に基底状態$${n=1, l=0}$$においては、(5.108) や上記 (*) 式も適宜使って、

$$
R_{10}(r)=-\left\{\left(\frac{4}{na_0}\right)^3\frac{1}{2}\right\}^{\frac{1}{2}}e^{-\frac{1}{2}\rho}\cdot1\cdot(-1)=2\left(\frac{2}{a_0}\right)^{\frac{3}{2}}\exp\left(-\frac{2r}{a_0}\right)
$$

となる。球面調和関数も考慮すると、

$$
\varphi_{100}=2\left(\frac{2}{a_0}\right)^{\frac{3}{2}}\exp\left(-\frac{2r}{a_0}\right)\frac{1}{\sqrt{4\pi}}=\frac{1}{\sqrt{\pi}}\left(\frac{2}{a_0}\right)^{\frac{3}{2}}\exp\left(-\frac{2r}{a_0}\right)
$$

が得られる。

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