手紙社リスト映画編 VOL.9「キノ・イグルーの、観て欲しい映画10作・特別編《勝手にアカデミー賞!》」
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手紙社リスト映画編 VOL.9「キノ・イグルーの、観て欲しい映画10作・特別編《勝手にアカデミー賞!》」

手紙社

あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、1年を振り返る特別編​​「勝手にアカデミー賞!」です。2021年に公開された最新作の中から《主演俳優賞》、《助演俳優賞》、《ドキュメンタリー賞》、《アニメ賞》、《音楽賞》の5つの部門の受賞作品・俳優を勝手に決めてみます。その選考をしてくれるのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、各賞1本ずつ発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、感心し合うというライブ感も見どころのひとつです。

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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。

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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今回も渡辺さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、2021年の映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。

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渡辺:僕たち、毎年年末にその年のね、映画ベスト10を決めるという会もやっているんですけど、それはそれで、今回はまたちょっと違った角度の賞ということで、その作品と被ったり、被らなかったりはあると思うんですが。
有坂:ほんとだね。いつもは年末、今年でいうと今週木曜日(2021年12月30日)にそのベストテンの発表会をやるんですよ。それぞれ外国映画、日本映画を10本ずつ選んで、それをインスタなどで紹介するんですけども、そっちは作品がメインなので、今回の「勝手にアカデミー賞!」は、俳優だったりね、作品でもドキュメンタリーに絞ってとか、そういう形でいろいろ紹介していこうかなと思っています。でも、今回は全然わからないな。何を出してくるんだろう?
渡辺:全然かぶらないと思いますよ! では、始めましょうか。

渡辺の2021年《主演俳優賞》
チョウ・ドンユイ
主演映画『少年の君』監督/デレク・ツァン,2019年,中国・香港,135分

有坂:おほほほ!
渡辺:「チョウ・ドンユイ」という女優さんで、主演した映画は、香港の映画『少年の君』です。内容を簡単にいうと、優等生の女の子と不良少年の“ボーイミーツガール”なんですけど。でも、今どきの中国の受験戦争だったりとか競争社会みたいなのが背景にあって、そこからちょっとはみ出してしまっている優等生なんだけどいじめられっ子と、社会から弾き出されている不良少年という二人が出会って、ラブストーリーかと思いきや、ちょっと全然違う方向に話が進んでいく、と。サスペンスでもあり、社会派でもありみたいな、映画としてめちゃめちゃ深みがあって面白い作品なんですね。この主演のチョウ・ドンユイが高校生を演じていて、高校生にしか見えないんですけど、実は29歳っていう。
有坂:あ、そうなんだ!? へぇー。
渡辺:そう。で、その後の大人になってからも描かれたりするんですけど、もう本当になんだろう、高校生としか思えないような演技をヴィジュアルからしてですね、していまして、その瑞々しさもあり、なんかいじめられっ子的なか細い感じとかも出しながらも、芯はすごく強いっていう、そういう少女を見事に演じきって、しかも29歳だったというのでさらにびっくりするっていうですね。まだレンタルも……2月からですかね。一部レンタルの配信とかで観られたりするんですけど。これはめちゃくちゃ内容としてもおすすめな作品です。
有坂:チョウ・ドンユイは、他はどんな映画にでているんだろうね?
渡辺:他はね、この同じ監督で『ソウルメイト/七月と安生』ってのがあったりして……、中国ではめちゃくちゃ有名みたいで「国民の妹」と呼ばれているらしい(笑)。
有坂:あはは、どの国にもいるよね(笑)。
渡辺:それくらいもう全国区で愛されていて、妹って言われるくらいだからそういう役が多いんだろうけど。
有坂:この映画で、初めてこの女優さんを認識した。
渡辺:うん、俺もそう。
有坂:そうか、国民的な女優さんなんだね。
渡辺:そうみたい。これはね、被らないだろうなと思って。
有坂:そうきたかぁ。

有坂の2021年《主演俳優賞》
エマ・ストーン
主演映画『クルエラ』監督/クレイグ・ギレスピー,2021年,アメリカ,134分

渡辺:おおおー!!
有坂:どメジャー映画、ディズニーの『クルエラ』から。もう最高! 最高すぎでしたね、このエマ・ストーンは。
渡辺:はいはいはいはい。
有坂:彼女はもう、好きな人は『ラ・ラ・ランド』とかね。どの映画を観ても彼女の魅力が出ていて、彼女にぜひ出てもらいたいと思ってキャスティングされているんだなというくらい、はまっている役が多いんですけど、今回のディズニーの『クルエラ』は、これは『101匹わんちゃん』の悪役のクルエラの若き日の姿を描いたオリジナルストーリーですね。まぁ簡単にちょっと説明すると、『101匹わんちゃん』に出てくる毛皮のためにダルメシアンの子犬を捉えようと企てる悪女がこのクルエラですね。デザイナーを夢見てロンドンにやってきた、もともとは地味な少女。まぁ彼女はエステラっていう名前だったんですけど、そのエステラが私利私欲のために手段を選ばない悪女クルエラになっていくまでのストーリー、ということで、もともと地味な少女がヴィラン(悪役)に変わっていくっていう、その二面性をやっぱり演じ分けられる人でないと成立しない訳ではあったと思うんですけど、まぁ見事な、お見事! としか言いようがない演技力。
渡辺:うん。
有坂:あとは、この映画の見どころってたくさんあるんですけど、とにかくファッションはこの映画、まぁデザイナーを夢見てロンドンにきた少女が主人公なので、ファッションの部分に説得力がないと映画として成立しないところがあるんですけど、衣装を手がけたのがジェニー・ビーヴァンっていう人で、この人は『シャーロック・ホームズ』から『マッドマックス 怒りのデス・ロード 』までやるっていう、もうどっちかっていうと何でもござれな人なんですけど、骨太な映画に強いタイプの衣装デザイナーです。彼女自身もすごくパンクな精神を持った人で、アカデミー賞のドレスアップしないといけないような授賞式に、もうバッキバキのライダースを着て出るっていう、めちゃくちゃかっこいい女性なんですけど。彼女と、やっぱりエマ・ストーンの相性が抜群だったなと。彼女のファッションを通したエマ・ストーンの表現の仕方っていうのも素晴らしかったし、それに応えるエマ・ストーンの演技も、なんていうんだろうね、狂気に満ちた姿にも説得力があるし。あと高笑い。
渡辺:うんうん。
有坂:高笑いする演技って、「ああ演技しているなぁ」っていうのが、一番出てしまいやすいんだけど、すごく自然だったし、まぁディズニーの映画なので見どころはバチっと見せてくれるし、完全なるフィクションなんですけど、フィクションの中で、このクルエラって人がほんとに生きているみたいで、演技しているのではなくってこの役を生きているなっていう……実在感っていうのかな。それをすごく感じたので、ある意味、いい意味でディズニー映画らしくないところもこの映画の僕のおすすめポイントでありました。
渡辺:『プラダを着た悪魔』みたいだよね。
有坂: そうだね、そうそう。
渡辺:ファッションもだし、鬼上司に対抗していくところみたいな。それで、ファッションでリベンジしていくっていうパンクな姿とかもあり。
有坂:そうそう。途中のライブシーンとかもかっこよかったし……
渡辺:うん、かっこいい!
有坂:やっぱり世界観をつくり込まないと、こういう映画っていうのはちょっと嘘っぽくなってしまうんですけど、そういう意味では美術、衣装、音楽、映像、とにかくパーフェクトだったんじゃないかなと思います。で、監督は、クレイグ・ギレスピーって人で、この人は、『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』っていう、トーニャ・ハーディングを描いた作品で有名になりましたけども、あの『アイ, トーニャ』では、マーゴット・ロビーが一躍あれでね、まぁずっと順調にキャリアを積んできていたけど、あれで大スターの仲間入りをしたので、やっぱり女優の活かし方が優れた監督なのかなぁなんていうことも思いました。そんな監督とエマ・ストーンのコンビで、なんと「クルエラ パート2」も制作決定したそうです!
渡辺:へー。
有坂:脚本家も同じということで、あのラストのあとの物語も、何年後かに観られると思いますので、ぜひ楽しみにしてください。はい。
渡辺:そうきましたか。
有坂:よかった。エマ・ストーンがかぶったらどうしようかと思った(笑)。

渡辺の2021年《助演俳優賞》
片岡礼子
主演映画『空白』監督/吉田恵輔,2021年,日本,107分

有坂:うんうんうんうん。
渡辺:ちょっと渋いかもしれないけど……。これは、観た人だったらわかると思うんですけど『空白』という映画がどういう映画かというと、万引き少女が店から出た途端に交通事故に遭ってしまうっていうお話で、古田新太さん演じるその父親が、もともと癖がある人物だったのがその事故によってどんどんモンスター化していってしまう。で、その少女を追いかけた店員が、松坂桃李さんで。この二人が主演で、その周りに報道をしていくマスコミだったりとか、また周囲の人物とかを巻き込んで大きな騒動になっていくという話なんですけども。わりと主演二人がメインで引っ張っていく作品なんですが、その周辺に家族だったりとか、関係者だったりとかがいて、この片岡礼子さんは、その周辺人物のある人物の母親という設定なので、さらに、その輪でいうともうひとつ外側の輪に位置づけされているような配役だったんです。なので、登場時間は本当に短いんですね。ただ、このわずかな登場時間に、強烈なインパクトを残す。
有坂:うん。
渡辺:もう、言ったら、そこで涙腺崩壊するような見事な演技を観せてくれたっていうのが、この片岡礼子さんなんですね。あんまりちょっとどういうシーンでっていうようなことは、ここでは……観てのお楽しみっていうことにして。それぐらい、主演からはひとつ、ふたつ離れた位置に配役されている人なんですけど、もう本当にわずかな時間で強烈なインパクトを残すっていう。それも何かトリッキーな役とか、そういうことではないんですね。全然、奇抜な格好をして出てくるとかではなくて、本当に演技で泣かせるっていう。しかも、それがけっこう物語が後半、流れが変わっていくキーの場面だったりもするので、かなり重要なところを担っているというところではあって、なんていうんでしょう、本来だったらその役名とか役者さんまでも、そんなに意識しないくらいの配役のところかもしれないんですけど、それでも「この女優さんすごい!」って唸らせるっていう。観た人は「あの人だなぁ」ってわかると思うんですけど、それぐらいインパクトがあるところなので。助演といってもいろいろありますけど、これぐらいの距離感、配役なんだけど、すごいインパクトというところで選びました。
有坂:この映画はね。その松坂桃李と古田新太の演技合戦みたいなところがあって、で、その二人のエネルギーにまわりが負けちゃうと、作品のバランスが崩れちゃうから、相当難しいと思うんだけど、本当に今、順也が言ったようにわずかな時間で、セリフもそんなに多くない役の中で、本当にもう佇まいですごく感じさせるものがあるんだよね。“女優”っていうオーラがすごい出ていて、すごく印象に残る役だったよね。
渡辺:そうなんですよ。
有坂:……そうきたかぁ。そんなちょっと上品なところを出されると、俺次ちょっと言いづらいんだけど(笑)。
渡辺:(笑)

有坂の2021年《助演俳優賞》
鈴木亮平
主演映画『孤狼の血 LEVEL2』監督/白石和彌,2021年,日本,139分

渡辺:キター!
有坂:『孤狼の血 LEVEL2』といえば、鈴木亮平です。この映画、観た人いるかな? 観た人はみんな鈴木亮平に戦慄し、釘づけになり、トラウマになるような恐怖を与えられたと思いますが(笑)。これはもともと原作小説があって、それを映画化したのが第1作目。で、今回の第2作目は、これは映画版オリジナルストーリーになっています。前作は“ガミさん”という役で役所広司がこれまた素晴らしい演技を観せてくれたんですけども、まぁちょっと訳あって2作目には彼は出てきません。で、その相棒であった松坂桃李が今回この映画の中ではメインです。奇しくも松坂桃李かぶりだね。
渡辺:そうだね。
有坂:で、その松坂桃李の役と言うのは……。この映画そもそも警察とヤクザの話で、結構、その関係がズブズブだったりして、「警察=善」と言うことでは決してなくて、だからこそ、いろんなしがらみの中で、ドロドロのドラマが展開されていく物語になっているんですけども、前回は新人刑事として松坂桃李が出てきて、今回、3年後か、裏社会を松坂桃李が治めているというところから物語が始まります。一旦は平穏になったはずの広島の……架空の都市という設定なんですけど、そこにですね、務所暮らしをしていた男、上林組の組長、上林がですね出所してくるんですけど、その役を鈴木亮平が演じています。もう、とにかくこの映画は、さっきその演技全体のバランスが大事だっていう話をしましたけど、この映画ははっきりって鈴木亮平の演技が凄すぎて、作品のバランスが相当おかしいです(笑)。それくらい、もう彼の演技が映画全体を支配しすぎている。
渡辺:そうだね、主演を食ってしまっているタイプの助演の凄さだよね。
有坂:そう、完全に食ってしまっている。これを別の映画に例えるな『ダークナイト』のヒース・レジャーぐらい。
渡辺:ジョーカーね。
有坂:そう、同じくらい。「そういえばバットマンも出てたよね?」と、「誰がやってたっけ?」って一瞬考えてしまうくらい、あの映画のヒース・レジャーの存在感は圧倒的だったと思います。で、今回の鈴木亮平は、もうね絶対悪です。もう、怪演っていうのがふさわしい演技で、とにかく彼は体が大きいじゃないですか。やっぱり映画において体の大きさっていうのは使いようで、それをすごくいい方向に使ったのが、この映画かなと思うんですけど、とにかく威圧感と、なんだろう、彼のキレたら止まらないあの破壊力みたいなものを、監督もとことんやらせたことが結果的にこの映画のすごく、まぁバランスは悪いんですけど、すごく印象に残る続編になったなというポイントだったんじゃないかなと思います。で、僕、鈴木亮平ってこの映画を観るまでそんなに特別いい印象って持っていなくて……
渡辺:ふーん。
有坂:まぁドラマを観ていないからかもしれないけど。大河とか観ている人は「やっぱり鈴木亮平ってすごいよね」って言うから、まぁ僕が知らないだけかもしれないんですけど、で、わりとテレビでバラエティーとかで見ると、すごく真面目な人で、爽やかで……っていう印象が強かったから、余計にもう巨大スクリーンで圧倒してくる鈴木亮平の存在を受け止められないまま、そのエネルギーに巻き込まれて、終わった頃にはもう拍手したくなるような怪演で楽しませてくれました。はい、で、この人ってすごく頭がよくって、東京外国語大学を出ていて、英語も堪能だってことで、これはもしかしたら渡辺謙に次ぐハリウッド俳優として、アメリカであんな悪役を観せてくれると楽しいなと思うし、やっぱり映画って悪役が強ければ強いほど面白くなるんですよ。そういう意味ではもう近年まれに見る傑作だったんじゃないかなと思います。
渡辺:なるほどね。
有坂:もう1個。これはけっこう暴力シーンとかも、とことんやるんですよ。だから現場の空気って壮絶だったんじゃないかなって想像しちゃうと思うんですけど、実はこれ撮影前に、セクハラ・パワハラ講習をちゃんとやった後に、撮影が始まったら現場でみんな大暴れするっていう形でつくっています。白石和彌っていう人が、すごく映画の制作現場の空気を変えていきたいっていう意思の強い人で、やっぱりもう寝れないのが当たり前みたいな環境じゃなくて、やっぱりみんなが働きたくなるような環境をつくりたいっていうことで、そういうセクハラ・パワハラ講習をした後に、あんな内容の映画をつくっていたんだと思うと、ちょっと逆にゾッとしてきちゃうよね(笑)。
渡辺:(笑)
有坂:そんな白石監督、他にもいい映画がいっぱいあるので、ぜひ観てみてください。
渡辺:この映画、実は俺、Filmarksで関わっていて。
有坂:そうだ!
渡辺:そうなんですよ。
有坂:順也はキノ・イグルーでありながら、Filmarksっていう映画のアプリ?
渡辺:……映画のサービス? で、そこでも関わっていて、なので僕、エンドロールにも名前が載っているんですけど。これは関係者の試写で見たんです。そのときに、初めて台本も何も知らずに観たんだけど、その場に鈴木亮平もいて、あっ鈴木亮平だみたいな。で、観終わったらとんでもない映画で、出てきたら、もう鈴木亮平じゃなくって上林にしか見えない(笑)。
有坂:怖いよね(笑)。
渡辺:それまでは、あっ鈴木亮平だ。ちょっと近くで見てみようって思っていたのに、その後はもう、目があったら殺されるんじゃないかって(笑)。それくらい激変するビフォーアフターで、衝撃度のある作品でしたね、これは。
有坂:これはね、日本のアカデミー賞の賞レースに絡んでこないとね、おかしい。
渡辺:ほんと日本の映画史上でも、かなりトップクラスの悪役という感じだったよね。
有坂:なので、ぜひけっこう暴力シーンはグロいところもあるんですけど、あくまで映画として、映画に出てくる悪役としては本当に圧倒的だし、観ておく価値は間違いなくあると思うので……。
渡辺:そうだね、韓国映画の犯罪ものとかが好きな人は、間違いなく楽しめると思います。なるほど、そうね、俺もちょっとこれは候補には挙がっていました。

渡辺の2021年《ドキュメンタリー賞》
『ボストン市庁舎』監督/フレデリック・ワイズマン,2020年,アメリカ,274分

有坂:うんうん。
渡辺:ドキュメンタリーは、今年は本当に良作がめちゃくちゃいっぱいあって、どの切り口でいくかにもよって、いろんな作品、どの作品も選べるみたいなくらい今年は豊富だったんですけど、その中で僕が選んだのは『ボストン市庁舎』です。この『ボストン市庁舎』っていうのは、フレデリック・ワイズマンっていうアメリカのドキュメンタリーの巨匠が撮った最新作になります。で、すごいのが、上映時間がなんと4時間半という長さです。しかも、このフレデリック・ワイスマンの作家性として、ナレーションとか説明とかを一切入れない。
有坂:BGMとかもね。
渡辺:そう。だからひたすら対象を撮り続けている形になります。今回、対象となったのが、アメリカの都市・ボストンの市庁舎で働く市長だったり、職員さんたちの仕事ぶりっていうのを、ひたすら客観的に映し続けるっていう作品になります。で、4時間半ひたすらそれを観ているんですけど、物語とかストーリーが特にあるわけじゃないんですけど、ただずっと観ていると、観えてくるものがあるんです。それが、本当にフレデリック・ワイズマンの特徴で、何の説明もない映像をひたすら観ていると、そこからテーマとか、伝えたいことみたいなのが、だんだん浮き上がってくる。それが見えてくるっていうのがすごいんです。で、このボストンはどういう都市かっていうと、ニューヨークから少し離れたところにある東海岸なんですけど、すごくいろんな人種がいる多様性のある街なんですね。なので、いろんな、もうアジア系の人もいるしラテン系の人も、アフリカ系の人もいる中で、人種がごちゃまぜの中でどんな行政が良い姿なのか。そういうことが、だんだん映し出されるものを観ていくと、わかってくるんですね。ちょっとこういうのって観る側が読み取っていくみたいなスタンスのものなので、映画側が懇切丁寧に全部説明してくれるみたいな「今こういうシーンですよ、こういうことを言っていますよ」とか、そういうものではないんですけど、ただ、やっぱりね、これだけ4時間半観ていると、わかってくるものがあるんですよね。それが、このときのテーマでいうと、アメリカってトランプ政権がずっと続いていて、移民は出て行けとかそういう中で、この移民だらけの街は、どういうふうにしているのか、みたいなところが見えてくるんですよね。で、このときの市長っていうのは、名市長と呼ばれている人なので、そういう人がどういう政策をとって、どういうふうに振る舞ってきたのかっていうのが、見えてくるので。行政のあるべき姿とか、今後の何かこの見本になるような、そんなものが垣間見れるというところで、素晴らしい作品だと思ってあげました。
有坂:やっぱり、行政とか政治とかって、そうだと思うんだけど、向こう側で何が行われているのかがわからないじゃない、基本的に。で、この映画を観たときに、僕、(東京都武蔵野市の)吉祥寺に住んでいるんですけど、日本のドキュメンタリー監督で、想田和弘って人がいまして、想田監督に『武蔵野市役所』っていうのつくってほしいなと思って。映画『武蔵野市役所』。で、やっぱりこの『ボストン市庁舎』でいうと、市長だけじゃなくて、いろんなコールセンターの人だったり、いろんな人の仕事が映画の中で描かれていて、やっぱりそれが見えるだけでも、なんだろうなぁ、市役所に対するイメージが変わるんじゃないかな。本当にちゃんと丁寧に仕事をしてくれているんだなぁっていうのを理屈ではなくて、映像で観せてくれることで、もっと協力したいなとか、自分の市に誇りを持てるなとか、やっぱり透明化を図るっていうことは、本当に大事なことだなって、この映画を観てすごい感じた。
渡辺:現場の人がさぁ、自分の判断でこうやって行くじゃん。やっぱり会社とか、いい組織ってそうだと思ってて、手紙社もけっこうそうだと思うんですけど、現場の人が自分の判断でいいと思ったことをやっていくみたいな環境があって、「ちょっと上に指示を仰いでいるので、ちょっと待ってください」みたいなことがない。
有坂:ないよねぇ、この人たち(笑)。
渡辺:そういうのって、すごくいい組織だなと思うんですけど、まさにね、市レベルでそれをやっているっていうのはねすごいなと思いますね。
有坂:これ市長がね、本当にすごく理想的な政治家の、政治家っていうのかな、やっぱりその人が、もしかしたら職場を働きやすい環境にすることで、みんなの良さを引き出しているのかもしれないし、組織としてすごく理想的な形に見えたので、観てほしいですね。市役所割みたいなのがあったよね。市役所で働いている人はいくらで観られますみたいな割引が。すごいよね。これを観た人たちが何を思うか。はい。
渡辺:そうなんです。
有坂:また、そんな上品な映画のあとにあれですが、僕のドキュメンタリー賞はこちらです!

有坂の2021年《ドキュメンタリー賞》
『裏ゾッキ』監督/篠原利恵,2021年,日本,116分

渡辺:出た!
有坂:これは竹中直人、山田孝之、斎藤工の3人が監督を務めた『ゾッキ』という映画があります。これは大橋裕之という人のコミックが原作になっているものなんですけど、その『ゾッキ』のメイキングドキュメンタリーとしてつくられたものになります。で、メイキングっていうと、そういう映画制作に興味がある人しか面白くないかなというイメージがあると思うんですけど、まぁこの映画は前半は完全に映画『ゾッキ』のメイキング、裏側をすごく丁寧に紹介している。後半は途中で映画が完成したところで、コロナ禍になっちゃうんですよ。予定していたスケジュールが全部崩れて、そこからプロモーションをどう展開していこうかっていう、裏側の人たちの話になってくるんですけど。この舞台っていうのが愛知県の蒲郡市です。蒲郡は人口が8万人くらいだったかな。小さな町なんですけど、そこに斎藤工とかがやってくるってことで、諸手を挙げて町おこしの一環みたいな感じで、ゾッキの撮影にみんなが協力をする。そういう裏側とかも描かれているので、市を巻き込むレベルで町おこしってこういうプロセスで行われているんだなぁとか、意外とみんな仕事なんだけどほんとにもう本気でこの状況を楽しもうっていう、そういう気持ちも感じられたりして、けっこう感動的なドキュメンタリーになっています。それで、前半の『ゾッキ』のメイキング部分で、感動できるポイントがいくつかあって、例えば、ピエール瀧が捕まって、出所後初の仕事がこの『ゾッキ』のゲスト出演だったんですよ。で、ピエール瀧を追っている記者とかがいて、あの手この手を使って何とかスクープを取ろうとしている人たちにどういう対応を取ろうかと、で、山田孝之が監督している短編だったんですけど、山田孝之もスタッフの人といろんなことを考えて、なんかこんなに熱い思いで作品を、ピエール瀧を守っているんだなぁっていうのが映っている、映像に映っている。あとは、九条ジョーっていう芸人さん……お笑いの「コウテイ」っていうユニットの九条ジョーっていう人が、斎藤工のパートに役者として出ている、主演で出ているんですけど、彼の存在感が、これまで本当に九条ジョーを知らなかったんだけど、「芸人さんだったんだ?」っていうくらい、すごく役者さん的な佇まいを持った人で。斎藤工パートですごく印象に残るシーンがあったんですけど、僕、『ゾッキ』を観て、『裏ゾッキ』を観たんですね。目黒シネマで二本立てでやっていたので、それで観られたんですけど、自分が印象的だなというシーンが『裏ゾッキ』で映像化されていて、それを観たら、雨で寒い中、ずぶ濡れになって演技をする九条ジョーがいて、カットがかかって、「よかった! でも、もう一回」って斎藤工が、なかなかオーケーを出さないっていうシーンがあるんですよ。斎藤工も自分が俳優だから、彼の状況、しかも初めて俳優をやる痛みもわかった上で、作品をより良くしたいっていうことで、本当に辛そうに「もう一回」って言う、そういうところが映っているので、その粘りがあったからあれだけ心が動いたんだなぁってことが『裏ゾッキ』のなかで描かれている。あとこれは人から聞いた話で、どこかの学校が授業で流したらしい、『裏ゾッキ』だけを。で、それを観た高校生がむちゃくちゃ感動して涙して、そのあと『ゾッキ』を観たっていう。そういう順番でもいいかもしれない。とにかく、作り手の人たちって、僕たちは当たり前のように公開された映画を1,900円とか払って観たり、配信で気軽に観ますけど、本当にこれだけの思いを持ってつくってくれていて、完成した作品。それをまた届けてくれる人たちがいて、それで僕たちはこうやって当たり前のように観られているんだなっていう、そんな当たり前を、何ていうんだろうな、すごくエネルギーをもって伝えてくれる作品が、『裏ゾッキ』かなと思います。山田孝之のイメージも一新されると思うので、ぜひ多くの人に観てもらいたいなと思う作品です。大泣きしました、僕は何度も(笑)。
渡辺:これ、メイキングって、普通、DVDの特典とかに入るようなものなんですけど、これはもうあまりに面白くて、1本の映画になっているっていうところがあるので、それだけの面白さっていうのがありますよね。けっこう市民を巻き込んで映画づくりをしているタイプのものなので、ロケ地を誘致しているところだったりとか、あとはスタッフとかキャストにお弁当を出す人たちがいたりとか、市民が協力して泊まる場所だったりとか、そういう現場で食べるものだったりとかを手配したり、あとは交通整理したりね。そういうのがロケ地の現場と一丸となって映画づくりしているところもちゃんと収められていて、こうやって映画はできていくのかと、そういうのもちゃんと楽しめる作品となっているので、これ単体でも面白いよね
有坂:いや面白いよ! 松田龍平が出ているじゃない、1話目に。なんかその撮影現場で、地元のおばあちゃんが松田龍平を見て、「これから売れるんでしょ、頑張ってね」って言われているシーン。「がんばります!」みたいに松田龍平が言っていて、なんかね、そういうのどかなシーンとか、それに対して俳優の人がどういうリアクションをするかとか、そういうのも含めてね。面白いよね。ぜひ『裏ゾッキ』、観てみてください。
渡辺:なるほど。そうきましたか。

渡辺の2021年《アニメ賞》
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』監督/庵野秀明,2020年,日本,155分

有坂:
渡辺:アニメはちょっとどうしようか悩んだんですが、結果これかなぁって。これはもう大体の人が知っていると思うんですけど、今年の2021年の興行ランキングでも1位。100億円を超えて1位となって、まぁ「エヴァンゲリオン」って長いので、アニメシリーズが始まってから、ようやく今回で完結ということで、ファンじゃない人でもけっこう盛り上がって、観に行ったんじゃないかなと思うくらい、公開当時めちゃくちゃ盛り上がって話題になった作品でした。まぁ僕も一応全部観ているんですけど、そんな熱烈なファンっていうわけじゃないんですけど、やっぱりこれはすごかったっていうか、よくぞこの難しいファンを納得させるような結末に持っていったなっていうのはすごいなと思いましたし、やっぱり庵野秀明ってすごい監督だなと思ったのは、もう全然知らない次元に連れていってくれるというか、観たことのないものを観せてくれる。アニメだから表現できるものを観せてくれるみたいな、そういうのが映画ならではだなぁとか、アニメならではだなぁと改めて思って。観たこともないものを観せてくれたっていうのが、すごい面白かったなと思いました。やっぱり庵野秀明ってちょっとどこか狂っているところがあって、その狂気みたいなところを映像にぶつけてきて、それが「何かわからないけどすごい」みたいな、そういう映像の迫力となって伝わってくるところもあるんですよね。で、この庵野秀明に密着したドキュメンタリーがNHKでやっていて、それを観てもやっぱり「なんかこの人すごいなぁ、命削ってつくっているな」っていうのがすごい伝わってきましたし、なんかそうまでして天才がつくったものっていうのが、すごい感じられた作品だったなと思ったので、これはなんか世間的な興業でもヒットして、そういう映画サイトとかでも評価がめちゃくちゃ高いし、やっぱり実際に観てほんとにすごい作品だなぁと鬼気迫るものを感じたというか、すごい作品だったのであげました。
有坂:こんなにハードルの上がった映画ね、ラストどうやって締めくくるんだって、みんながああでもないこうでもないとネット上で議論して、そんなの見たらつくりたくなくなっちゃうんじゃないかっていうところも、さすが、それをでも庵野秀明は見事に着地させたね。
渡辺:これはすごかったね。
有坂:最後に大コケしたら大変だもんね。
渡辺:終わらせてもらえない(笑)。
有坂:それも面白いけどね。なるほど。

有坂の2021年《アニメ賞》
『竜とそばかすの姫』監督/細田守,2021年,日本,121分

渡辺:おお〜!
有坂:はい、これは超巨大インターネット空間、仮想世界を舞台にした話。まぁ仮想空間と現実世界の両方を舞台にしたアニメです。これも細田さんのほぼオリジナル長編アニメーションですけど、今回、10年に一回、細田さんはインターネットを舞台にした映画をつくっている、『デジモンアドベンチャー』(1999年)、『サマーウォーズ』(2009年)、そして、今回の『竜とそばかすの姫』。それで、やっぱり10年を機につくっていくと、同じインターネットでも最初はもう「一部の若者たちが世界を変えるぞ」みたいな感じで使っていたものが、その10年後サマーウォーズのときはiPhoneができていたんだよね。で、iPhoneが当たり前になって、子どもからおじいちゃんまで使えるようなもの、日常の一部になっている。
渡辺:SNSが出てきてね。
有坂:そう。それで、今回は、それがもっと発展したっていっていいのかわからないですけど、それが進んで、誹謗中傷がネットの世界だけの問題じゃなくて、完全に社会問題になっているっていうことを、けっこう軸につくっている作品じゃないかなと思います。この主人公の女子高生は、お母さんが亡くなってしまって、歌が好きだったけど歌えなくなってしまって、で、現実世界になんとなく居場所がないときに、この仮想空間の<U(ユー)>というところで、自分のアバターを使って歌ったら、そこでみんなから支持されて、その世界の大スターになっていくっていう物語なんですけど。このね、主人公を演じた中村佳穂の歌が、ここのキャスティング間違えてしまうと成立しない映画。ミュージカル映画の主人公みたいな立ち位置だと思うんですけど、もうこの中村佳穂を見つけた細田さん、よくぞ、まだそんなメジャーになっていないときにキャスティングして、彼女にかけたっていうところで素晴らしかったなと思いますし、あとは、その声優でいうと、幾田りら、「YOASOBI」の彼女も声優に初挑戦しているんですけど、なんか彼女がキャスティングされているのってネームバリューもあるしと、ちょっとうがった見方をしたんだけど、びっくりするぐらいうまいね。わかんないんだよね、どの役をやっていたか。だから、アニメの声優問題であるじゃないですか。洋画の吹き替えだと、タレントがやって、全然作品の世界に入り込めないみたいな。細田さんは、やっぱりそういうところではなくて、作品をどれだけ大切に扱っているかっていうのが、そういうキャスティングを見ても改めてわかるなって感じた作品でした。これは『美女と野獣』をモチーフにした物語なので、なじみのあるストーリーなんですけど、そういう古典的な話を近未来のインターネットの仮想空間を使ってアップデートするところもなんか面白いし、現代のおとぎ話として観られる良さはあるかなと思いました。で、あの、アナ雪のキャラクターデザインをやった人が主人公の子を。渡辺:海外の人だよね。
有坂:そうそう、すずとベルか。アバターのベルをキャラクターデザインしたので、なんか今までの細田さんのアニメキャラクターとは違ったものも楽しめるので、まだ観ていないという人は、ぜひ劇場でできればね。
渡辺:歌がね、めちゃくちゃいい、映像もめちゃくちゃきれいなので。ストーリーはツッコミどころがちょっとあるじゃん。
有坂:そう、ツッコミどころ満載。でも、それを話すのも面白いんだよね。「いや、あれないでしょう」とかってね。「どうして、ああなった」って僕らも話しましたけど、そういうツッコミどころがある映画はね、その後の会話も楽しいっていう。ちなみに細田守監督は手紙社でね、もみじ市で僕らがやっているテント映画館に、家族でお客さんで来てくれたことがあって、「細田守だ!」って、細田さんに映画を観せるっていうことがありましたけどね。
渡辺:細田ファミリーにね。しかも、あのときが、『未来のミライ』っていう作品のときで、『未来のミライ』っていうのが、細田さんがこの前に撮った作品なんですけど、それが女の子と男の子がいるっていう家族の話で、まさに息子さんと娘さんを描いた話だったんですけど、その直後にね、テント映画館に来てくれてっていう、「これってミライちゃんじゃん」みたいな、そういうまさに未来のミライのモデルになった細田さんの息子さんと娘さんが、テント映画館に来てくれたっていうことがありました。
有坂:そうやって、手紙社との接点もあったので、改めてこの話を紹介したいなということで、『竜とそばかすの姫』を紹介しました。では、いよいよラストですね。早いもので。音楽はね、次、音楽賞なんですけど、最後。この音楽賞を順也がどういうふうに解釈したかっていうのがちょっと気になるポイントなんだけど。

渡辺:そうですね、いろいろどれにしようかなぁってあったんですけど、まぁやっぱりこれにしようと思ったのは、『アメリカン・ユートピア』です。

渡辺の2021年《音楽賞》
『アメリカン・ユートピア』監督/スパイク・リー,2020年,アメリカ,107分

有坂:うんうん。
渡辺:これは、「トーキング・ヘッズ」のデヴィッド・バーンが、ブロードウェイ用に、もともと『アメリカン・ユートピア』っていうアルバムがあって、それをブロードウェイ用に舞台化したんですけど、それを映画監督のスパイク・リーが映像に収めた作品になります。なので、本当にライブをそのまま映像化したようなものなんですけど、なんかステージパフォーマンスも含めたライブなんですよね。デヴィッド・バーンだけではなくて、彼のバンド……バンドっていうのがそれぞれダンサーだったりとか、楽器をする人だったりとか、彼らが一糸乱れぬフォーメーションで踊り歌うっていう、本当にひとつの完成されたパフォーマンスなんですけど。だから、バンドが演奏するっていうのとはちょっと違う、ひとつの、なんだろうな、出し物を観ているような、そんな圧巻な2時間っていう感じでした。これ観たときも、本当に満席だし、チケットが全然最初取れなくて、このコロナ禍でライブに行けないっていう中で、ほんとにこういうライブ映像を観せてくれたっていうのが、本当にタイミング的にすごく良くて。なんか感想とかを見ても、「あのまま立って拍手して一緒に踊りたかった」とか、「映画館だからお行儀よく観ていたけど、最後スタンディングオベーションしたかった」とか、そういう感想も本当に溢れていて、すごいわかるっていう。それぐらい圧倒された音楽の良さと、本当にそれを「ライブ行きてぇ!」っていう感じにしてくれた作品でした。作品としての完成度もめちゃくちゃあって、それが映画監督のスパイク・リーがやっていて、なんで最初「スパイク・リーがやっているんだろう?」と思ったら、スパイク・リーがやるだけのメッセージ性もすごくあって、これもやっぱりトランプ政権下の中でつくられた作品なので、人種の多様性だったりとか、そういうことをメッセージとしてすごい持っている作品なので、やはりそこはスパイク・リーが監督するだけの内容だったっていうのもあり、いろいろ含めて完成度が高い作品だったので、これもできれば映画館とかで大きいスクリーンで、いい音響のところで観るのが、一番楽しめるだろうなと思いますね。でも、作品としてすごくいいから、ぜひ観てもらいたいなと。
有坂:ステージでさぁ、みんな演奏しているんですけど、ケーブルがないんだよね。だから、ステージがすごいすっきりしたステージなので、そこに同じような衣装を着た人たちが一糸乱れぬ動きで演奏をするんですけど、本当にちょっと現代アートに近いなと。すごいコンセプチュアルで、本当に現代アートの作品を観ているように、だけど音楽だから心は動くし、楽しそうだし。
渡辺:そうそう、コードレスだから本当に自由に動き回るんですよ。普通はコードがあるから、バンドは固定の位置でやるんですけど、それが自由自在に動き回るっていう、それでちゃんとフォーメーションがあるんだよね。
有坂:よく間違えないよね、あれみんな。
渡辺:しかも真上から、俯瞰して撮っているカメラ映像もあったりするからね。すごいフォーメーションがちゃんとしてるっていうのが、わかったりして。ほんとパフォーマンスとしてめちゃくちゃ面白い!
有坂:全然、デヴィッド・バーンとか知らなくても、ほんとに楽しめるし、これを機に彼の音楽だったり、かつてやっていたトーキング・ヘッズっていうバンドの音楽とか、昔撮った音楽ドキュメンタリーも素晴らしいのがあるので、それも観たくなるに違いないと思うので、ぜひ観てほしいね、これはね。じゃあ、僕はですね、音楽賞は解釈の仕方が順也とは違うんですけど、僕の音楽賞は個人、作曲家です。

有坂の2021年《音楽賞》
リン=マニュエル・ミランダ
『ミラベルと魔法だらけの家』
監督/バイロン・ハワード,2021年,アメリカ・コロンビア,102分
『イン・ザ・ハイツ』監督/ジョン・チュウ,2021年,アメリカ,143分

渡辺:今年、大活躍だったよね!
有坂:彼は、今年を象徴する人です。ディズニーの『ミラベルと魔法だらけの家』とか、あと『イン・ザ・ハイツ』、これは両方ともミュージカルですね。さらに、Netflix限定かな、『ビーボ』っていうアニメーション、さらに『tick, tick...BOOM!:チック、チック…ブーン!』っていう4作が、なんと2021年に公開された作曲家です。メインは作曲家で、彼は、ブロードウェイのほうで名をあげた人なんですけど、俳優もやっているし、『tick, tick... BOOM!』では、なんと映画監督にもチャレンジしたっていうことで、もういきなり、まったく僕たちは知らなかったんですけど、「すごい人が急に現れたなぁ」っていう印象がありまして、アメリカでは着実にブロードウェイを中心にキャリアを積んでっていう、現在41歳若手音楽家です。彼はルーツがプエルトリコにあるっていうことで、中南米のちょっとラテンぽいリズムをすごい得意としているので、この『ミラベルと魔法だらけの家』っていうのがコロンビアが舞台の映画なんですけど、すごくキャッチーでディズニーらしいメロディーの中に、ちょっとラテンぽいリズムだったりとか、独特な雰囲気がミックスされて、「ちょっと今までのディズニー映画と違うぞ」っていうのが理屈じゃなくて感覚で伝わるような、そういう意味ではすごく新鮮な映画体験をしたなっていう、本当に彼のリン=マニュエル・ミランダの功績がなかったらと思うので、ぜひ音楽のほうにも注目して観てほしいなという作品でもあります。
渡辺:『イン・ザ・ハイツ』もプエルトリコだね。ニューヨークのマンハッタンにあるイン・ザ・ハイツっていうプエルトリコ系の移民のエリアがね、そこが価格が高騰して追い出されちゃうみたいな、そこと地元民との対立みたいなのをミュージカルにした作品だよね。
有坂:泣けるんだよね、後半に。「旗を揚げろ!」っていう曲で、もう止まらなかったです。
渡辺:ほんと、これは現代版の『ウエスト・サイド物語』みたいな話だよね。今度スピルバーグが、『ウエスト・サイド・ストーリー』をやるじゃん。あれは、めちゃくちゃいいらしいからね。めちゃくちゃいいんだって!
有坂:ハードル上げたね(笑)。
渡辺:めちゃくちゃ期待している。いいらしいので。
有坂:そういう意味では、コロナ禍でストレスもあり、ライブも観られないとかで、映画に音楽を求める傾向は、より強くなっているのかなと。この流れの中で、リン=マニュエル・ミランダっていう人が出てきて、実はその前に、アメリカでは映画音楽を手がける人が、大ベテランばっかりじゃん。ジョン・ウィリアムズとか、ハンス・ジマーとか結構いるんですよ。で、若い人が出てこないなぁと思ったら、パセク&ポール っていうユニットの作詞作曲家コンビがいて、彼らは『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』、今年だと『ディア・エヴァン・ハンセン』。そういうのを手がけたユニット。彼らは、どちらかというとすごく洗練された、フランスのミシェル・ルグランとかに近いようなタイプのほんとジャズとか、クラシックを基調にした作曲家。リン=マニュエル・ミランダは、どちらかというとラテンだったり、南米ラテン・ロックとかそういうものがベースの人なので、それで、同世代なんだよね。ほぼ同世代、なので、これからのアメリカ映画界を引っ張っていく音楽家として、常にここは競争相手として比較されて、これからどんどん大きくなっていくのかなあと思うので、2021年を象徴するリン=マニュエル・ミランダという人を、ぜひ紹介したいと選ばせてもらいました。
渡辺:(上映のタイミングが)コロナで重なったらしい。だから、本当にひとつずつ仕事をこなしていたんだけど、コロナになってずれて同時に出たっていう。
有坂:結果的によかったよね、彼としてはね。
渡辺:一気に名をあげたっていう感じだもんね。
有坂:でも、本当に作曲家目線で映画を観るっていうのも面白かったり、やっぱり自分とフィーリングが合う音楽家っていると思うので、その視点で作品を探して観てみるっていうのもいいのかなと思います。

──

有坂:それで、今日カメラの向こう側に特別ゲストで、観客側で、羊毛フェルト作家の緒方伶香さんがきてくれているんですけど、せっかくなので緒方さんの今年のベストワン、一瞬登場してください! せっかくなので。はじめてのパターンですけど。呼び込むっていう(笑)。
緒方:今、二人がおっしゃっていたのを、どんどんメモしていました(笑)。
有坂:緒方さんも「映画がすごい好き」なんていうレベルではないくらい、たくさん映画を観られていたり、面白い会をやられていたりする方なんですけど、持っているのは、「KCC通信」?
緒方:「KCC通信」、これは30年ぐらいやっている、私はもともと凸版印刷っていう会社にいたんですけど、そのメンバーが中心になってつくった映画サークルで、もう30年ぐらい続いているんですけど、荒井晴彦監督さんとか、渡辺武信さんっていう評論家の方が参加されていたりっている会を。でも神戸が主体なので、ちょっと私は参加できないんですけど、コロナの影響で初めてオンライン定例会っていうのが今年から開催されるようになって、東京にいながらにして時々サークルの皆さんと意見交換できるようになったのはすごいなぁと。
有坂:サークルってちょっと軽やかに聞こえますが、ゴリゴリのね(笑)。僕らが参加しづらいなぁって。
緒方:全然、ぜひ参加してください!
有坂:そんな映画好きの緒方さん、なんかそこにあるチラシが気になってしょうがないんですけど。
緒方:今日このイベントがあるっていうので、必死でなんとか仕事を調整して、アップリンク吉祥寺に駆け込んで『ドライブ・マイ・カー』を観たり、やってきました。
有坂:なんかインスタで見ましたけど、その映画が素晴らしかったと。
緒方:ベストワンは、、言っちゃっていいんですか? 今日、お二人はベストワン、作品賞はなかったですよね。
有坂:そうなんですよ。
渡辺:年末に発表するので。
緒方:先に言っちゃっていいんですか? いいですか、私は『ラストナイト・イン・ソーホー』です。もう素晴らしかったです! 本当に。これもよかったです、『プロミシング・ヤング・ウーマン』。地味にそんなに取り上げられていなかったですけど、後でひしひしと伝わってくるものがあって、女性は本当に必見という感じです。
渡辺:キャリー・マリガンも、アカデミーの主演女優賞の候補に入っているんですよね。だから通じるものがありますよね、『ラストナイト・イン・ソーホー』と。
緒方:そうですね。
有坂:早速、『ラストナイト・イン・ソーホー』のパンフレットがきました。さすが手紙社。こんなものまでありました。今コメントで、『ラストナイト・イン・ソーホー』、『プロミシング・ヤング・ウーマン』、気になりつつまだ観られていないというコメントがあります。
緒方:やってやるぞと思っている女子が観ると、すごくいいと思います。期待をいい意味で裏切ってくれる。清々しさがちょっとありました。
渡辺:『プロミシング・ヤング・ウーマン』も清々しい感じですか?
緒方:それは映画サークルでも賛否両論だったんです。特に年配の方は。
渡辺:男性が多いんですもんね。
緒方:そうなんです。ほぼ男性で、ほぼ60前後なんですけど。
渡辺:男性からすると清々しいって言われるとちょっと恐ろしいなって(笑)。
緒方:でも、すごいもめましたこれ。
渡辺:今っぽいっていう感じですもんね。
緒方:キャリー・マリガンさん、すごいかわいい方で、いろんな有名な映画に出てらっしゃいますけど、ここで結構イメチェンというか。
渡辺:これは、今年のベストって言っている人が多いですね。
緒方:えーそうですか。そうだったんですね。
有坂:順也も?
渡辺:いやぁ〜どうかなぁ……。
有坂:言わない(笑)。
渡辺:あぶない、今言いそうになった。
緒方:私がここでちょっと言っちゃったからといって、除外しないで下さいね。
渡辺:なんでですか。
有坂:僕らの中では『プロミシング・ヤング・ウーマン』は、すごく高評価ですね。
緒方:そうでしたか。観た直後は、そんなに思わなかったんですけど、後から考えれば考えるほど、すごい良かったんじゃないかと思えてきて。
有坂:そういうタイプの映画もありますもんね。
渡辺:パンチ力がすごいタイプの映画ですもんね。
有坂:ハンマーで殴られたくらいの衝撃さもあり。
緒方:男性の方が、殴られた感じがありますよね。
渡辺:そうですね。
有坂:いや、でも今の時代に必要な映画だと思うんですよ。社会がこうどんどん変わっていって、男女平等になっていく中で、必然的に生まれた作品だなぁと思っていて。そういう時代の流れが生んだ作品なのかなという気がするので。今観たほうがいい、こういう空気の中で見たほうがいいと思う。緒方さんといえば、『プロミシング・ヤング・ウーマン』、『ラストナイト・イン・ソーホー』。
緒方:『クルエラ』と合わせてみればいいっていうご意見も。
渡辺:そうですね。
有坂:いいことを言ってくれました。お呼びしちゃってすみませんでした。緒方さんでした、ありがとうございます!(パチパチパチパチパチパチ)

──

有坂:スペシャルゲストがね、僕らも全然緒方さんが来てくれるっていうのは知らなかったので、びっくりでね。呼んじゃおうかなと思って、声をかけちゃいました。では、今年の月刊手紙舎のキノ・イグルー「ニューシネマ・ワンダーランド」は、年内最後になるんですけど、何か最後にお伝えしたいことがありましたら。
渡辺:そうですね、さっきも言ったんですけど、僕たち今年のベストを邦画、洋画それぞれベスト10をですね、年末に集まって発表し合うというのをやっているので、まだ選定中でして、これからまだ追い込みで、ギリギリまで未定なんですが。
有坂:そうだね、明日も明後日も観て。
渡辺:ギリギリまで観て決めますので、それはぜひ発表しますのでチェックしていただけたらと。
有坂:それはライブ配信とかではないんですけど、結果を年末にお互いのインスタグラムに発表します。あと順也はnoteもね。インスタだけじゃなくて、インスタを始めたのは今年なんだよね。
渡辺:今年からインスタを始めて。その前から、noteっていうブログのサービスでも、映画の記事をいろいろ書いて発表したりしていますので、そのあたりも、ぜひ映画選びの参考にしていただければなと。
有坂:けっこう面白い視点で、よくこんなに書くなっていうくらい。週1であげているよね。
渡辺:はい、週1で書いてます。
有坂:ぜひ彼の努力に応えてあげてください(笑)。僕からは、僕もインスタで相変わらず毎日いろんな情報を発信しているのと、あとキノ・イグルーのイベントでいうと、2022年は通常1月の3連休で「初笑い上映会」っていうのを神楽坂のムギマルで行っていたんですけど、ムギマルが今年閉店したということで、「初笑い上映会」は今年ありません。で、手紙舎でも展示したり、いろんなイベントにも出たりしている、「ハグジードーナツ」の本の出版記念イベントを、「senkiya」でやるんですけど、そこで1日限りの上映会をハグジーといっしょにやります。ドーナッツと映画、最高の組み合わせでやります。このあたりの情報、1月9日(日)の開催なんですけど、ギリギリですが数日後にはホームページのイベント情報にあげます。あと、横須賀美術館でやる「シネマパーティー」は、『人生フルーツ』というね、ドキュメンタリーを。これも配信されていないものを美術館で上映しますので、ぜひそのあたりの情報も、あわせて追っていただけたら嬉しいです。はい。2022年はぜひもみじ市とかね、手紙社のリアルイベントもできるような、1年になるといいなと思います。はい、では、2021年のキノ・イグルーの「ニューシネマ・ワンダーランド」は、これをもって終わりたいと思います。皆さんどうもありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました!
二人:良いお年を〜!!

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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。

Instagram
キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe

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