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手紙社リスト映画編 VOL.4「キノ・イグルーの、観て欲しい『南欧〜地中海横断〜』な映画10作」

あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「南欧」。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーのおふたり。5本ずつ、お互い何を選んだか内緒にしたまま、ライブでドラフト会議のごとく交互に発表しました! 今回の南欧の定義は、スペイン、イタリア、ポルトガル、ギリシャ。地中海横断です!

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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。

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−−−まずは恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。2か月ぶりに勝った渡辺順也さん(以下・渡辺)が有利な先攻を選択し、後攻は有坂塁さん(以下・有坂)に。今回も「TEGAMISHA BREWERY」のクラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合うという、幸せな1時間のスタートです。相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、それぞれテーマを持って作品を選んでくれているのも見どころ。途中脱線して、違う映画の話で盛り上がったりもありますが、それもまた参考になります。有坂さんの「あの映画だけは先に言わないで……」という祈りは届くのでしょうか!?

渡辺セレクト1.『マンマ・ミーア!』
監督/フィリダ・ロイド,2008年,イギリス・アメリカ,108分

有坂:うん! うん。
渡辺:これはね、もう直球ど真ん中! 舞台はギリシャですね。エーゲ海に浮かぶ、カロカイリ島という島が舞台だそうで。もう『マンマ・ミーア!』のロケ地、舞台地として、人気の観光地になっていると思うんですけど、まさに青い海と白い壁のザ・ギリシャというシチュエーションですね。 作品としてはミュージカルにもなっていて有名なんですが、母と娘の話ですね。この親子はギリシャで小さなホテルを営んでいて、娘が結婚することになって……。それで結婚式のバージンロードは、ぜひ父親と一緒に歩きたいと。そうなったときに、実は父親候補が3人もいたと(笑)。そこで、3人が大集結して、「誰の子なんだ?」みたいなところを巻き込んでいくミュージカル……ミュージカルコメディかな。それで『マンマ・ミーア!』 といえば、ABBAの曲が有名で、もうその曲が浮かんでくるんですけど、海をバックに歌に合わせてみんなで踊って、みたいなところが幸せな、本当にミュージカルの代表作ですね。これ実は続編もありまして、 マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴーという。
有坂:ね、ありました。ちなみに『マンマ・ミーア!』を観たことがある人はいますか?
渡辺:どうでしょう?
有坂:大ヒット、「世界No.1のメガヒット!」って書いてありますね。
渡辺:これは本当に観やすい。
有坂:(コメントを見ながら)お、観た! 劇団四季でも観た。さすがですね(笑)。……これで語り辛くなりますね(笑)
渡辺: (笑)。まあブロードウェイからきてるってのもありますから、劇団四季で観たいですね、確かに。映画版では、メリル・ストリープとアマンダ・セイフライドっていう女優さんが母と娘を演じています。本当に幸せになれる作品なので。もうギリシャのエーゲ海に浮かぶ島というのも、すごくいいシチュエーションだし、作品としても楽しいし、ハッピーになれる作品として、「南欧な映画」のど真ん中かなと。これは、先攻を取らないと危ないぞと思って(笑)。
有坂:季節的にもね、夏だしね。
渡辺:そうぴったり。
有坂:夏にぴったりな、やっぱりあの開放感と。“サマームービー”っていう言葉があるように、やっぱり夏の気分で観たい映画っていうのもあるよね。 冬は冬の気分というのもありますし、そういう意味では王道のサマームービーと言ってもいいかもしれない。
渡辺:そうですね。よかった、先攻で。『マンマ・ミーア!』を紹介できた!(笑)

有坂セレクト1.『ミツバチのささやき』
監督/ビクトル・エリセ,1973年,スペイン,99分

渡辺:きたー! 好きだねぇ(笑)。
有坂:サマームービーの話をしておいてなんなんですが、季節的には夏にはあまりふさわしくない、スペインの映画ですけど、もうね、これは紹介させて。
渡辺:はい!
有坂:1973年のスペイン映画で、ビクトル・エリセという監督の長編デビュー作。もしかすると映画デビュー作じゃないのかな、もう1本あるのか……まあ初期作になるんですけど、このビクトル・エリセという人、作品が極端に少ない。これは1973年の映画ですけど、まだご存命で、この映画からもう50年ぐらい経っているわけだよね。
渡辺:10年に1本くらいしか撮らないよね。
有坂:そう、現時点で長編はまだ3本。『ミツバチのささやき』、『エル・スール』『マルメロの陽光』。『マルメロの陽光』っていうドキュメンタリーが90年代なので、もう30年近く新作を撮ってないんです。その間に短編は3本作っているんですけど。
渡辺:そうだよね。
有坂:とにかく、作品を作るペースがゆったりとした監督さんです。それで、このミツバチのささやきっていう映画は、今このFilmarksのページに写っている6歳の「アナ」という女の子が主人公です。この少女が暮らす小さな村に、僕らのような移動映画館がやってくるんです。トラックに映写機とスクリーンを載せて。その小さな村で映画の上映会が開催されるというところから物語が始まります。そこで、流れる映画が『フランケンシュタイン』ですね。その『フランケンシュタイン』を観て、純粋無垢な少女アナは、映画と現実世界の区別もつかないような年齢ですから、もうフランケンシュタインに圧倒される。そうしたら、ちょっといたずら好きのお姉ちゃんがいるんですけど、お姉ちゃんが「アナ、あそこの建物の中に、どうやらフランケンシュタインがいるらしいよ」ということで、妹に対して嘘をつくんですね。 それで、そこの家を恐る恐るも訪れるアナ。そしたら、そこには何かよくわからない兵士がいるんです、1人。男の人がいるんですね。その兵士との交流から始まる物語……という内容です。
渡辺:うんうん。
有坂:ビクトル・エリセの映画っていうのは、さっきの順也が挙げた『マンマ・ミーア!』みたいな、起承転結がはっきりしているタイプの映画ではなくて、どちらかと言うとストーリーは淡々と、平坦な物語です。なんですけど、物語を見せるというよりは何ていうか心の機微みたいな、「今この瞬間、この女の子は何を感じているのだろう? 」とか、説明的なセリフもないので、観ている側がアナの行動とか表情とか、そういうのを読み取って、「あっ、この不安な気持ち、自分にも思い当たるものがあるな」とか、「こんな経験をしたな」とか、自分の過去の経験ともつながるような、そんな作り方をしているのが、この『ミツバチのささやき』です。とにかく、この映画の見所としては、映像美。もう映像が美しすぎる! 女の子が主人公ではあるんですけれども、その小さなスペインの村の風景とか、線路とか、『スタンド・バイ・ミー』みたいに姉妹が線路に立って、電車が来るかなーってレールに耳を当てて聞くとか、そういう印象的なシーンがたくさんあります。言ってみれば、ポストカードにできるような美しい風景の連続です。
渡辺:田舎のね、きれいな風景なんだよね。
有坂:そう、マドリードとかとはまた違う……
渡辺:都会じゃない。
有坂:まず自分たちみたいな観光客では、たどり着けないような小さな村です。そういう村を体験できるっていうのも、 映画のいいところかなと思うんですけれど、そういうタイプの映画です。
渡辺:そうだね。
有坂:で、この『ミツバチのささやき』、 僕がよくされる質問で、「一番好きな映画って何ですか?」って聞かれたときに ……“一番”って難しい! 正直難しくて気分によっても変わるんですけど、ただ、どんな気分の時でも最上位にやってくる一本が、この『ミツバチのささやき』なんです。 なので、これはぜひ自分に紹介させて欲しいなということで。
渡辺:好きだよねー。
有坂:本当に好き! これは劇場公開されるたびに、観に行くくらい好きで。
渡辺:これを俺が選んだら怒るだろうなと思って(笑)。
有坂:ありがとう(笑)。でも、これは実は、スペインの内戦が終わった直後から物語が始まって、その内線直後っていう設定も生かされているらしいんですけど、僕はちょっとそこまでは読み取れなかったんです。でも、読み取れなくても、少女の気持ちだったり、子どもの頃に感じた不安な気持ちとか、なんか子どもの素直さとか、残酷さとかね。そういうものがすごく丁寧に描かれている作品です。なので、 あんまりそういったタイプの映画を見たことがないという方にも、 ぜひチャレンジしていただきたいな、という一作です。
渡辺:なるほど。
有坂」あっ、ここで1個だけ。映画を観るときに、もしかしたらこれ前の回でも話したかもしれないですけど、 いい映画、悪い映画と考える前に、実は「自分がどういう人か」が分かった方が、自分に合った映画っていうのは見つけやすいですよね。
渡辺:うんうん。
有坂:なかでも、「時間感覚」というものに焦点を当ててもらいたいんですけど、例えば同じ1分でも、僕の1分と順也の1分は違うと思います。それは体内リズムとか、自分の中にある時間の感覚とかが違うから。 なので、自分の時間感覚ってどういうものかなって考えると、例えば、すごくスピード感のあるタイプの人だったら、『アルマゲドン』とか『インディペンデンス・デイ』みたいなハリウッド映画が合うし、 もっと丁寧なものが好き、ゆったりしたもののほうが自分に合うなって人は、今紹介した『ミツバチのささやき』みたいなタイプの映画の方が合うかもしれない。でも、例えば『アルマゲドン』みたいな 映画が好きだと普段言っている方でも、『ミツバチのささやき』を観ない方がいいよとは、まったく思いません。逆にこの映画を観ることで、今まで自分には感じたことがない心地よさみたいなものに出会えるかもしれないので、ぜひ、みなさんにチャレンジしていただきたいなと思いますが、そういった時間感覚にもフォーカスして、映画を観るのも面白いかなと思います。

渡辺セレクト2.『ジュリエットからの手紙』
監督/ゲイリー・ウィニック,2010年,アメリカ,105分

有坂:ほうほう……。
渡辺:これは割と新しい作品で、舞台はイタリアです。まさに『ロミオとジュリエット』の舞台となった場所が、この映画の舞台地になっているんですけども、このイタリアの、実際にロミオとジュリエットの大もとになった場所「ジュリエットの家」には、全世界の女性が恋愛相談をジュリエット宛の手紙に書いてジュリエットの家の壁に貼るということをやっているらしいんですね。何て言うんでしょう、サンタクロースに手紙を送るみたいな習慣がありますけど、そういう場所が舞台地になっています。そのジュリエットの家の壁に手紙を貼って恋愛相談をする、というイベントがこの映画のモチーフになっています。主人公はアメリカ人なんですけど、自分の卒業論文の関係でイタリアを訪れて、ロミオとジュリエットの場所に行って、そこで「ここがその場所か」と壁をいじっていたらレンガがごそっと落ちてしまって、 その奥からすごく古い手紙を見つけてしまうんですね。それは50年前に書かれた恋愛相談だったんです。
有坂:いいねぇ、いいねぇ!
渡辺:で、 その内容を読むと、書いている女性もアメリカ人で、イタリアを訪れてイタリアの青年と恋をして、駆け落ちをしようと約束をしたんだけど、その日に思い止まって約束の場所に行かなかった。その後、そのまま国に帰ってていう。だけど、ずっと後悔しているっていうことがその手紙に書かれていたんですね。
有坂:うん、うん。
渡辺:それで、主人公はその手紙を読んでしまったんですけど、どうしようと思ったら、 そのジュリエットへの手紙を、壁にいろいろ貼られているんですけど、それを回収している人 がいて、その人をつけて行ったら、実はジュリエットへの手紙に対して、ボランティアの人たちが返信をしている。一通一通選んで、その人たちに返信をしているというのがわかったんですね。主人公はそれを知って、訪ねて行って「この手紙を、私は読んじゃったんだけど、ぜひ自分に返信をさせてほしい」と頼むんですね。それで返信をすると、50年前の話なので、もう書いた人はおばあちゃんなんですけど、その返信を読んで、わざわざイタリアに来るんですね。それでなんと当時恋をした青年を、青年といっても当時の青年なので今はおじいちゃんのはずなんですけど、彼を探しに行こうと旅に出る! そういう映画なんです。だから、ロードムービーなんですけど、その彼を探す旅の過程っていうのが、イタリアのいろんな町を巡って行くと、その風景がめちゃくちゃ美しいんですね。イタリアのすごく陽気な天気の中で、何ていうんだろう、よく庭に長テーブルを置いてみんなでランチをしたりとか、イタリアって結構大家族で、前回のあれか……
二人:『君の名前で僕を呼んで』! 
渡辺:そう、ここで塁が選んだ。あんな感じでさ、本当に大家族で長テーブルを囲んで、みんなでワインを飲みながら食事をしてワイワイやるみたいな。
有坂:いいよね、あれ。
渡辺: そういうところにおじゃまさせてもらったりとか、そんな旅をしていくんですけどそれがもうめちゃくちゃ最高なんですよ!(笑)
有坂:嬉しそうに話すね(笑)
渡辺:ロレンツォを探す旅がね。
有坂:彼、そうロレンツォね。
渡辺:「ロレンツォ知りませんか?」と尋ねると、「俺、ロレンツォだけどっていう人がいっぱい出てきて(笑)。イタリアでよくある名前なので出てきたりするんですけど、そういうのを経てどうなるのか!? という感じでも、その過程がすごい楽しくて。 なんかきっかけも面白いし、その「ジュリエットからの手紙」っていうのが「ロミオとジュリエット」からきているっていうところだったり、ロミオとジュリエットの舞台となった場所が今そういうことになっているっていうのも面白いし、 まあそこからなんか物語を広げて行けるって言うのがとても映画的だし、それがすごい楽しい映画なので。まぁアメリカの割と新しい映画で、主演がアマンダ・セイフライド。あ、なので、さっき紹介した『マンマ・ミーア!』の人です。そのつながりで、ちょっと紹介したかったなと思いまして。ちなみにアマンダ・セイフライドは金髪のすらっとした美女なんですが、ちょっと目つきがきつかったりするので、なんかいじめっ子っぽい顔してるんですね。だから学園ものだったら、絶対意地悪リーダーみたいなタイプなんですけど、でも実際には彼女はいい映画にいっぱい出ているので、結構好きなタイプのものが多いんです。 だから、『マンマ・ミーア!』、『ジュリエットからの手紙』と続けて、ぜひ機会があれば観てほしいなと思います。
有坂:『ジュリエットからの手紙』を観ているのが、意外だなって思った。 あれなんですよ、順也は「ラブストーリーを観ない!」って昔宣言していた男なんですけど、でもいろいろ話を掘っていくと、デートで好きな子と一緒に観に行くときだけは、ラブストーリーを選んで、メグ・ライアンの『めぐり逢えたら』を見たっていう、そういう男なんですよ(笑)。
渡辺:そうなんですよ(笑)。
有坂:なのに『ジュリエットからの手紙』とは。まあ『マンマ・ミーア!』もそういう要素はあるけどね。
渡辺:だから今までだったら見なかったけど、振り返って観たタイプですね。
有坂:観たいなと思ったきっかけは何だったの? アマンダ・セイフライド?
渡辺:アマンダ・セイフライドではなかったね。でも、ちょっと押さえておかないといけないかなあと。
有坂:なんかこう良さそうな映画ってあるじゃん。ポスターデザインとか、キャストとか、ストーリーとか、写真とか、全部そうだけど、そういうタイプの映画でもあったのかな?
渡辺:うんうん、そうだね。
有坂:これは押さえておかないとみたいな。
渡辺:そう、なんか避けてきたからこそ、ぽっかり穴が開いているゾーンなわけよ、ラブストーリーとか。でも、ラブコメとかって実際面白いじゃん? ヒュー・グラントのラブコメとか、一時期観まくっていたときがあって、観てなかったけど面白いじゃんと思って、ジュリアロバーツとかあの時代の。そういう流れでこの映画も見ました。散々見てこなかったけど、面白いなと思って(笑)。
有坂:(コメントを見ながら)アマプラで、リストに入れていますっていう人もいますね。
渡辺:アマプラそうか、入ってるのかな。
有坂:北島さんから「順也、なんてやつだ」って。
二人:笑!
渡辺:どういうことだ(笑)
有坂:ラブストーリー好きなんだろうね、北島さんは。
渡辺:今は見ますよ!
有坂:それは初めて聞きました。良かった。結構王道なところからきてるね。
渡辺:王道なとこから行きますよ。
有坂:全部?
渡辺:どうだろうね(笑)

有坂セレクト2.『スプレンドール』
監督/エットレ・スコーラ,1989年,イタリア・フランス,111分

渡辺:スプレンドール!? おお、何でしょう。
有坂:最初にちょっと説明を忘れたんですけど、今回僕が選んだ5本は、全部 DVDや本を持っている、自分の本棚、DVD棚から選びました。そうそう紹介するのを忘れていた。さっきの『ミツバチのささやき』のDVDがこれです。これが ジャケット。こんな少女の後ろ姿です。大胆なデザインですね!
それで、2本目に紹介する『スプレンドール』は、こういった映画です。見えるかな。一言でいうと「もうひとつの『ニュー・シネマ・パラダイス』」というキャッチコピーがついている映画です。 まさに『ニュー・シネマ・パラダイス』と設定的には同じで、テレビが台頭してきた時代にどんどん廃れていってしまう、閉館の危機にある映画館が舞台です。主役は、マルチェロ・マストロヤンニ、 マッシモ・トロイージ、マリナ・ヴラディという3人なんですけど、マッシモ・トロイージっていう人は『イルポスティーノ』っていう映画が90年代にミニシアター界隈でヒットしましたけど、その主人公です。なので、『イルポスティーノ』に出る前に、実はこういった映画で、もうマルチェロ・マストロヤンニっていう大俳優と共演していた。 で、『ニュー・シネマ・パラダイス』は、紹介したいなと思いながらも今日はちょっと違うもので攻めてみようということで“もう一つのほう”のニュー・シネマ・パラダイスで『スプレンドール』を紹介したいと思います。
渡辺:ふんふんふん、なるほど。
有坂:ちなみに、スプレンドールというのは、映画館の名前です。スプレンドール座という劇場で、もうこの3人の悲喜こもごもの話、プラス、そこで実際にいろいろな営業をするわけです。営業というか、劇場の運営。でも、なかなかお客さんが来ないから、オーナーのマストロヤンニは、ちょっと自分の感覚が時代からズレているんじゃないかっていうことで、じゃあ若手のマッシモ・トロイージに企画を任せると言ったら、 このマッシモは、すごい“シネフィル”で映画が好きすぎて、「ソビエト映画特集」とかをやるわけです。小さな村の映画館で(笑)。でも、まったくお客さんが来ないみたいな。それで、ますます閉館の危機に追い込まれるみたいな。そういった「映画館あるある」とかも詰まった作品になります。
渡辺:うんうん。
有坂:それでこういった映画館が舞台の作品を見るときに、やっぱり面白いなと思うのは、実在する映画のタイトルとか、あとはその映画のワンシーンとかが映し出されるところがいいと思うんですね。この映画で言うと『メトロポリス』っていう映画とか、同じイタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニの『アマルコルド』とか、『木靴の樹』とか、いろんな名作映画がスクリーンに映し出されます。で、これらの映画を観たことがある人は、自分が観た過去の記憶もよみがえって楽しいし、この映画を何でチョイスしたのかっていう意味を考えるのも楽しい。 逆に、まだ観たことがない人にとっては、映画の中でわざわざ選んでいる作品なんだから、面白いに違いないっていうことで、また新しい映画を観るきっかけにもなる。そういう意味では、この『スプレンドール』も、『ニュー・シネマ・パラダイス』と同じようにいろいろな過去の名作が楽しめる作品となっています。 で、ストーリー的にあまり語ってしまうとネタバレになるので、ちょっと言葉を選ばないといけないんですけど、もし『スプレンドール』を見ようかなと思った方は、その前に、ぜひある一本の映画だけ観ておいて欲しい。それは、『素晴らしき哉、人生!』フランク・キャプラの超名作。アメリカのクリスマス映画のスタンダードと言われる、もう号泣必至の、「世の中には希望がちゃんとあるじゃないか」という最高の一本があるんですけど、この『素晴らしき哉、人生!』は観ておいたほうがいいです、とだけ言っておきます。
渡辺:なるほど!
有坂:なので、ぜひこれはなかなか観られる機会がもしかしたらないかもしれないですけど……。あ『素晴らしき哉、人生!』これですね。もう思い出すだけでグッとくるよね。 なのでぜひセットで楽しんでいただけたら嬉しいと思います。DVD自体は発売されているので。
渡辺:アマプラでやっているの? 見放題で。
有坂:『素晴らしき哉、人生!』はね。こっちはそうだね。 『スプレンドール』は、ちょっと観られないと思うので。
渡辺:さっきも、観ている人が少なかったもん。投稿数が少なかった。
有坂:それくらい『スプレンドール』は隠れた名作の一本だと思います。ぜひ、この手紙社の部員さんには、これはお伝えしておかなきゃと。「もう一つのニュー・シネマ・パラダイス」、『スプレンドール』が、僕の2本目です。
渡辺:いいね〜! なるほどね、そうきましたか。
有坂:(メッセージを見ながら)北島さんから、「『素晴らしき哉、人生!』大大大好きです。本当に今この時代に観たいですね」。本当にそのとおりですね。この時代に本当に観てもらいたい、あのメッセージを。
渡辺:うんうん、クリスマスにぜひ観てほしい!
有坂:けど、もう待てないよ(笑)
渡辺:まあ、アマプラでやってたしね、もうさっくりと観ちゃってください!
有坂:もうこれを観るとね、いろいろ自分の人生観に良い影響を与えてくれると思うので、ぜひ観てくださいね。

渡辺セレクト3.『トスカーナの休日』
監督/オードリー・ウェルズ,2003年,アメリカ、イタリア,113分

有坂:おお、くるねー! その路線だね。
渡辺:これもアメリカ映画です。アメリカ人女性が主人公なんですけど、 傷心の主人公がイタリア旅行をするんですね。 そのときに、ふと田舎町トスカーナ地方で目にした古民家がすごい気に入っちゃって、「私、ここを買う!」と言って、もう突発的に家を買って移住するっていう話なんですね。本当にボロボロの古民家で、まあ見かけはめちゃくちゃ可愛い。なんていうんでしょう、自然の中に佇んでる姿がめちゃくちゃ素敵な家で、それで一目惚れするんですよね。DIYで家を修理しながら暮らし始めるんですけど……。今ちょっとね、こういう田舎の古民家を改装して、のんびりスローライフで過ごしたいみたいなブームがあるじゃないですか? 本当にそういうタイプの作品なんですね。主人公は、もう都会でバリバリやっていた作家さんなんです。けれど、自分の作品が酷評されたり、旦那さんが浮気をしていたりということで傷ついて、田舎に行って新しい人生をやり直したいっていう女性の話になります。主演がダイアン・レインという女優さんで、前回紹介した『ボンジュール、アン』という作品、それもダイアン・レインなんですよね。そのときは南仏からパリに戻ってくるロードムービーで、いろいろフランスのいいところを巡っていくお話だったんですけど。ダイアン・レインは、やっぱりなんだろう中年になってからすげぇいい映画に出ているなっていう感じがして。
有坂:そうだね。だってハリウッドってさ、 そこの年齢からいい役がもらえないってことで、やっぱり女優さんは結構いろいろ苦労しているんですけど、ダイアン・レインはそこを逆行しているというか。
渡辺:そうそう、 で、これもめちゃくちゃいい役なんですね。ダイアン・レイン自体がとってもチャーミングだし、魅力的な人なので。言葉も、イタリア語もわからないのに引っ越してきてあくせくしていると、もう田舎町なので、周りの人たちがだんだん興味を持って協力してくれるようになってくるんですよね。それで、またイタリアなので、例の“長テーブル”でね(笑)。みんなでワインを飲んだり、食事をしたりっていうので。
有坂:いいんだよね〜、やっぱりね(笑)。
渡辺:いいんですよね。あれをやり出すと仲良くなるんですよ。それで仲良くなって、ちょっと魅力的な男性が……イタリア男は声をかけてきますからね(笑)。
有坂:あははは(笑)
渡辺:それで、また自分を取り戻していくっていう、もう話としてもめちゃくちゃポジティブだし、最初は落ち込んでるところからなんですけど、人生リセットしてやり直して行こうっていう女性の話だし、こう、環境を変えることによって、すごいポジティブな方向に行くんだっていう話だったりもするので。またイタリアの田舎の風景がすっごい綺麗で、なんかほのぼのとした感じだし、本当にザ・スローライフという感じで、時間の流れがやっぱり都会と全然違うんですね。そのリズムによって癒されていくという話なので、これも休みの間とか、ちょっと気分を変えたいとか、ちょっと忙しいから映画を観てポジティブになりたいみたいなときに、まあぴったりだと。おすすめの作品です。
有坂:うん、そうね。
渡辺:さっき、どこでやっているか見るの忘れちゃいましたけど、でも普通にレンタルもあると思うので、ぜひ併せて観ていただければと思います。
有坂:なんか3本ともあれだね、空が青い映画だね。この季節に本当にぴったりな。
渡辺:そう、なんかこう「行ってみたくなる場所」っていう感じで選ぼうと思って。
有坂:そう言われると、すごい次の映画が紹介しづらい一本なんだけど(笑)。
渡辺:いいですよ(笑)

有坂セレクト3.『ユリシーズの瞳』
監督/テオ・アンゲロプロス,1995年,フランス・イタリア・ギリシャ,177分

渡辺:うーん、来ましたね。
有坂:さっきの順也が選んだ映画はすごく軽やかなテイストなんですけど、この僕の一本はずっしりと重い。
渡辺:(笑)
有坂:これはテオ・アンゲロプロスという世界的な巨匠が、90年代に作った作品です。
渡辺:ギリシャ人監督だね。
有坂:ですね。で、いわゆるアート系と言われる監督って、もちろん世界中にたくさんいます。日本にもたくさんいます。でも、その中で巨匠と言われる人はごく一握り。イタリアのフェリーニとか、日本だと小津安二郎とか、そこに並ぶぐらいのアート映画の巨匠です。ジャケット写真これですね。もう見るからに重いじゃないですか。物語的には、このジャケットに出ているのが主演の映画監督です。黒いコートを着たハーヴェイ・カイテル。彼が故郷のギリシャに戻って、そこで自分の過去の作品を特集してくれると、レトロスペクティブを開催してくれるということで、故郷に戻ります。それで、戻ったついでに、昔の映画作家のドキュメンタリーも作ろうということで準備していたら、どうやら幻のフィルムが3巻あるということで、そのフィルムを探して、ギリシャからいろいろなところに旅をするっていうロードムービーになっています。実際に回った国を紹介すると、アルバニア、マケドニア、ルーマニア、ブルガリア、サラエボ……、渋い国ばっかり行っているよね(笑)。それを旅するロードムービーとなっています。
渡辺:(笑)
有坂:もうね、僕はこの映画を95年に、日比谷、もう今は日比谷 TOHOシネマズシャンテになっていますけど、シャンテシネで観て、 もうね、なんだろう。初めての映画体験だったんだよね。 なんで『ユリシーズの瞳』を観ようと思ったかというと、まさに主演のこのハーヴェイ・カイテル目的で行ったんですよ。当時のハーヴェイ・カイテルって、『レザボア・ドッグス』『パルプ・フィクション』っていうタランティーノの映画とね、あと『スモーク』っていうミニシアターで大ヒットした 映画に出演している俳優さん。で、なんだろう、本当にトム・クルーズとかブラッド・ピットとかとはまた違う渋みのあるバイプレーヤーみたいな魅力的な人で、この人の映画がもっと観たいと思った流れで『ユリシーズの瞳』を観に行ったんですよ。そしたらもうタランティーノのスタイリッシュな映画とは全く違う、例えば5分のシーンがあったら、タランティーノは5分の間に、どんどん場面を変えていって、例えば5分で10カット……もっとか、テンポがいいので20カット撮るとしたら、 このアンゲロプロスという人は、5分で1カット(笑)。
渡辺: 鬼の長回しだからね。
有坂: そうなんですよ。悪魔的な長回しで有名な人なんですよ。もう5分変わらないんですよ。ずっと固定のカメラのまま。だからコンディションが整ってない状態で行くと、めちゃくちゃ気持ちよく寝れます(笑)。それでも有名なんです。ヒーリング効果があるって。でも、この長回しっていうのが、だんだん癖になってくる人もいるんですよ。これが今日1本目のときにお話した、その人の中にある時間感覚ですね。やっぱり、普段せわしない時間を過ごしていると、自然を見て癒されるとか、どこかで自分のスイッチを切り替えるときに、この映画は本当に極端にまったく反対の自分のゆっくりしたほうに切り替えてくれる。そういう意味では、すごく効果的な映画かなと思います。
渡辺:長いけどね。
有坂:長い、これは3時間の映画。でも、3時間あってもね、ワンカットも長いからね(笑)。
渡辺:(笑)
有坂:トータルのカット数は相当少ないんだけど。確かこの『ユリシーズの瞳』の中で、ドナウ川をフェリーが移動していくシーンがあるんですよ。ドナウ川がこう流れているとしたら、カメラは手前側から撮っていて、カメラの右側から船が来てボーっと汽笛を鳴らして左に抜けていくみたいな、そのシーンが5分以上あるんですよ。しかも、そのカメラに入ってくる前に、遠くの方から汽笛の音が聞こえてきて、船が来るのかな、来るのかなと思ったら、なかなかフレームインしない。
渡辺: 体感時間はもっと長いよね。
有坂:長い、1時間ぐらい(笑)、1時間ワンカットぐらいの体感なんですけど、ただ、それも監督の中では意味があってやっていることなんですよ。 何でそれをこの時間をかけてやったのかなって考えるのも楽しいし、 やっぱり自分では想像もつかないような発見があるっていうのも こういう映画を観る上での楽しさだと思うので、 ぜひ観て欲しいです。これも『ミツバチのささやき』と同じで、 ポストカードになるような、本当に美しいイメージの連続!  なんか霧の向こう側に人がいて、倒れた人を介抱している絵とか。これ霧がなかったらこんなに美しくないよねとか、あと川沿いで祈っている人たちとか。とにかく観終わった後……観ている間はポカンとしても、観終わった後その残像が自分の中に残って、うまく言葉では言えないんですけど、なんかすごくポジティブな何かを与えてくれる映画だと、個人的に思っています。僕はもうこの『ユリシーズの瞳』に本当に不意打ちのように出会ったおかげで、このアート系映画っていうものを知って、映画のいろいろな可能性を見つけることができたので、ぜひみなさんに機会があったら、もう無理して観るタイプの映画ではないので、コンディションが整ったらぜひ観て欲しいなと思っています。そういう一本ですね。
渡辺:なるほどね。そこきましたね。
有坂:くるよね。
渡辺:まあギリシャを代表する監督ではあるけどね。 テオ・アンゲロプロス。
有坂:でもギリシャの人からしたら、ギリシャの映画監督はみんなこうだと思われたくないっていうさ(笑)。
渡辺:(笑)そうだよね。カウリスマキとかもそうだよね。
有坂:もっと普通の人もいるからって(笑)。

渡辺セレクト4.『泥棒成金』
​​監督/アルフレッド・ヒッチコック,1954年,アメリカ,106分

有坂:おー。
渡辺:​これはアルフレッド・ヒッチコックの作品です。場所はですね、イタリアのリビエラ地方っていうリゾート街なんです。イタリアでいうとちょっと北のほうになるのかな、南仏と北イタリアの国境の辺りですね。 その辺りがリビエラ地方と言ってヨーロッパでは有名なリゾート地になっています。それで、ヒッチコックなので基本はサスペンスなんですけど、内容的にはラブロマンスです。それで、 ケイリー・グラントと、女優がグレイス・ケリーです。内容としては、ケイリー・グラントが、元“名うて”の泥棒なんですけど、今は引退して優雅な暮らしをしている。そんなとき、自分とまったく同じような手口の犯行が、次々と起こり話題になって、自分が疑われるっていう。そこで、自分の無実を証明するために、犯人を追うっていう話なんですけど、その中で宝石が狙われるので、いろいろなお金持ちだったり、貴族のパーティーだったり、そういうところが舞台になってくる。その中で出会うのがこのグレース・ケリーなんです。そこで、二人はやり取りがありながら、最初はいがみ合いながらも恋に落ちていくっていうパターン。なんか作品としての評価みたいなものは、そんなに高くないんですけど……
有坂:意外だよね。めちゃくちゃ面白いけどね。グレース・ケリーはモナコ公妃だよね。
渡辺:そう、一番言われるのがグレース・ケリーがめちゃくちゃきれいっていう。そこがやっぱり一番言われるところで。 舞台はリゾート地なので美しいんですが、やっぱりそれに負けず劣らずグレース・ケリーが美しいんですね。 グレース・ケリーの小ネタを話したくて選んだってところもあるんですけど、今、塁が言ったように、彼女はモナコ公妃になったんですね。もともとはアメリカ生まれのハリウッド女優で、ヒッチコックにミューズとして選ばれて『裏窓』とか、代表作にいろいろ出てハリウッドのスターになりました。で、そのあと、カンヌ国際映画祭でカンヌに行ったことがきっかけで、モナコの皇太子と出会う。それによって結婚してね、皇太子妃になったっていうめちゃくちゃサクセスストーリーのある女優さんなんですよね。 普通にアメリカ生まれの女の子が女優さんになって、で、なんと海外の王子様に恋をされ、
有坂:恋をされ(笑)
渡辺:王女になったっていうのがすごいサクセスストーリーとしてあるんですけど、もう一つその流れでマスコミにすごい追われる立場というのもあって。 結婚して妊娠をしたときに、それをマスコミに知られたくなくて、 大きいバッグを持ってお腹の前に置いて隠して、いつも移動していたんですね。それがエルメスのバッグだったんですけど、お腹を隠していたことで有名になったそのバッグが、グレース・ケリーが使っていたっていうことで「ケリーバッグ」という通称で呼ばれるようになった。もともとバッグの正式名称があって、だけどちょっと大振りのタイプだったので、体型を隠すために自分の前に置いて、それが写真にたくさん撮られるから。
有坂:まるで宣伝しているかのように!
渡辺:そうそう、それで通称ケリーバッグって言われるようになった。そういうのが、女優とブランドみたいなところのエピソードとしてあって。
有坂:バーキンもね。
渡辺:バーキンもそうだよね。エルメスはヨーロッパ、フランスの女優さんに好かれるのか。まあ、でもね、そういうセレブたちに愛されるブランドなので、こういったエピソードがあるとということで、ちょっと選んでみました。
有坂:『泥棒成金』好きだけどね。
渡辺:ああ、そう?
有坂:ヒッチコックの中でも結構好きなほう。
渡辺:なるほどね。グレース・ケリー目的じゃなくて?(笑)
有坂:じゃなくても、おすすめです(笑)。

有坂セレクト4.『ペイネ 愛の世界旅行』
​​​​監督/チェザーレ・ペルフェット,1974年,フランス・イタリア,87分

渡辺:おっ!
有坂:これはフランスのイラストレーター、レイモン・ペイネのイラストを使った、イタリアで作られたアニメーションです。音楽が『ニュー・シネマ・パラダイス』のエンニオ・モリコーネ。モリコーネの「愛のテーマ」がね、また最高なんですよ、最高! これが全編通して、モリコーネが手がけたのはこの主題歌だけなんですけど、本編のほうで流れる、もういろんな曲が出てくるんですけど、どれも最高です。タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』という映画で、このペイネから1曲拝借している曲もあったりしますので、ぜひ音楽のほうにも注目して聴いていただけたらと思います。
渡辺:へー。
有坂:これはもう話的にはシンプルで、恋人同士のバレンチノとバレンチナという二人が、もうラブラブなんです。その二人が、エアーラブっていう名前の飛行機に乗って、時空を超えた旅に出るっていうファンタジー映画になっています。時空を越えた旅なので、旅先でね、いろんな人に出会います。ドン・キホーテとか、ヘミングウェイとか、フェリーニとか、ダヴィンチとか、エリザベス女王とか。ビートルズのライブを観たりとか、シェイクスピアにまで会っちゃったり。モナリザとか、毛沢東にまで会います。そんな二人の本当にファンタジーアニメーションになっています。ちょっと絵を見てもらおうかな。
渡辺:見えるかな?
有坂:こういう、ビートルズの『イエロー・サブマリン』っていうアニメーションが昔ありましたが、あんなサイケデリックじゃないですけど、すごいタッチ豊かで、この映画は「この二人のラブラブさについていけない」っていう男子も当時続出したんですけど、『素晴らしき哉、人生』の北島さんからのコメントじゃないですけど、今こんな時代だからこそ、すごくシンプルなメッセージ、もう「愛と平和」というものをすごくメッセージにした作品で「戦争反対! 恋愛賛成!」というね、メッセージが込められた、本当に素敵なアニメーションです。ぜひ、これは観て欲しいなあ。 第一部、第二部で本当にいろんな国を旅して日本にも来てくれます。日本人がどういう風に見えているのか、ぜひ注目して 観てもらいたいポイントです。
渡辺:なるほど、すごいの来ましたね。
有坂:これは来ないだろうなと思って。
渡辺:いやーそっか、そうだよね。
有坂:次ラストだよ、後悔のないようにね。

渡辺セレクト5.『ローマの休日』
監督/ウィリアム・ワイラー,1953年,アメリカ,118分

有坂:おおおお!
渡辺:振り切ってね、いや、路線を変えずにね、選びました。王道、ど真ん中。もうね、言わずと知れた名作ですけど、これは1953年かな。ちょっとね、いろいろあの時代のローマを描いた作品は他にもあるので迷ったんですけど、今回は、アメリカ人が監督をしたやつで……
有坂:そうだよね、全部。
渡辺:まとめようと思いました。やっぱりなんか一つの指針としては「行ってみたくなるような場所」というので選びたいなと思ったので、そうするとやっぱり、「イタリア人がイタリアを描く」とか「ギリシャ人がギリシャを描く」とかだとシリアスなものが多くて。でもやっぱり外国人が描くと、観光とか旅行気分で描くから、割と魅力的なんだよね。すごく行ってみたくなるような場所とか、良いところしか映さないみたいなところがあるので、ちょっとその路線でいってみようかなというので『ローマの休日』も選びました。本当にこれはローマの PR 映画じゃないかなってぐらい、もう良いところが満載です。で、オードリー・ヘプバーンとね、グレゴリー・ペックの作品になるんですけど、もうスペイン広場でジェラートを食べるとか、ベスパで二人乗りしてね……ベスパって原付バイクですけども、それで走り回るとか、あとは「真実の口」に手を入れて「きゃ!」っとか。今の明石家さんまさんがね、出ているCM(笑)、あれがリアルじゃないですからね。あれで知った人もいると思うんですけど、さんまさんのところが実際はグレゴリー・ペックっていうイケメン俳優ですけれども。……設定としては、オードリー・ヘプバーンが王女様なんですね。で、グレゴリー・ペックが新聞記者なんですけど、彼女のスクープを撮ろうと思っていろんなところを連れ回す、と。ただ、そのうちにだんだん恋心が芽生えてくる。だけど身分が違いすぎる。そんな二人みたいな。そういうラブロマンスなんですね。でも、本当にイタリアの良い所ばかりをね、巡るから、やっぱりイタリアに行っても未だに多分「スペイン広場でジェラート食べたい」みたいなね。今でも絶対にあるし、あそこをベスパで走り回りたいっていうぐらい、本当にローマの良いとこ取りをした作品として、やはり名作だなあと。映画としてもめちゃくちゃ面白いので。
有坂:本当に名作だよね。
渡辺:いやー、そうそう。
有坂:今観ても、本当に時代を超える名作。
渡辺:これちょっと裏話も言うと、監督はウィリアム・ワイラー。この作品アカデミー賞も獲っているんですけど、当時脚本家の名前が言われていなかった。脚本家は誰かというとダルトン・トランボという人で……
有坂:出た!
渡辺: 当時のアメリカ……これは1950年代の作品なんですけど、当時は“赤狩り”っていうのがあって、共産主義者を徹底的に排除するっていうのが映画業界にも及んで、ちょっとでもそういうこと言ってる人たちをどんどん排除していた。このトランボという人はその疑いで干されていた人なんですね。なので、干されているんだけど、偽名を使ったりして脚本を書いていた。で、実力はめちゃくちゃあるので、オファーはあるんだけど自分の名前では受けられないっていうのがあって。ゴーストライター的に書いてアカデミー賞を取っちゃったのが、この『ローマの休日』という作品です。このトランボを描いた作品というのもあって、それもめちゃくちゃいい映画なので、ぜひそれも『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』という作品なので観ていただきたいなと思います。そういう裏話もね、あるのがこの名作です。
有坂:さんまさんのCMってさ、自分が大好きな『ローマの休日』を「なんてことしてくれたんだ!」って最初思ったんだけど、でも、今の中学生とかがさ、もしあのCMがなかったら『ローマの休日』っていう映画をまったく知る機会がなかったのかもしれないと思うと、すごく意味があるなと思うんだよね。ああいうパロディCMって。複雑だけど。
渡辺:そうだね。
有坂:でも、それがきっかけで名作が語り継がれるっていうのも意味があるし。
渡辺:そうだよね。あれをきっかけに『ローマの休日』を観る人が増えたらね。
有坂:いると思うよ。 家族で食事している中でさ、子どもが「何このCM?」って、そしたらお母さんが「ローマの休日よ」って昔観たことを思い出して楽しそうに語ったら、子どもも多分観たくなると思うんだよね。きっと、すごく意味があるCMじゃないかなって。
渡辺:元ネタがあったんだねって。
有坂:「このきれいな人は誰?」ってね。
渡辺:「オードリー・ヘプバーンよ」って。
有坂:オードリーっていったら、今はあっちのオードリーだからね。
渡辺:トゥース! の(笑)

有坂セレクト5.『悲しみに、こんにちは』
監督/カルラ・シモン,2017年,スペイン,100分

渡辺:最近だよね。
有坂:すごく最近の作品で、これはカルラ・シモンという女性のデビュー作になります。こんなクオリティの高いものをデビュー作なんだよ、すごいよね!
渡辺:デビュー作なんだっけ、すごいよね!
有坂:これを5本目にもってきたのは、 僕が今日1本目に紹介した、ビクトル・エリセの『ミツバチのささやき』とちょっと対になるというか、同じスペインで結構作風が似ています。 カルラ・シモン自身もビクトル・エリセのことをすごく尊敬していて、 同じ少女を主人公に、 あまり説明的なセリフもなく。この映画の舞台はカタルーニャなんですけど、夏のカタルーニャの美しい風景が存分に出ている作品ですね。この主人公のフリダという女性は、あることが原因で両親を亡くしてしまって、叔父叔母に引き取られて暮らすことになった。それがカタルーニャの田舎の村なんですけど、そこで、やっぱりなかなか引き取られた叔父と叔母に心も開けないし、両親を亡くしてしまったっていう心の傷がもちろんすぐに癒えることはないし、と。そういった自分の中でいろんな葛藤を抱えている少女を主人公にした映画で、そこのカタルーニャと叔父叔母との繋がりの中で、だんだん彼女の心が解放されていくっていう作品になっています。
渡辺:うんうん。
有坂:本当に今ね、なかなかこういうコロナ禍で海外に行けない中、今日、順也が紹介してくれた映画も旅情を誘われるというか、すごく海外に行ってみたいなって、やっぱり海外旅行っていいよなぁって改めて感じるものが多かったと思うんですけど、この『悲しみに、こんにちは』っていう映画も、本当にそのカタルーニャ地方の、なんていうんだろう、名所とかでは全然ないんです。本当にそこら辺の木々とか、
渡辺:田舎のね、これもすごくいい風景。
有坂:石畳とか、そういった何でもない風景をすごく魅力的に撮ってくれている。 で、さっき順也が、海外の目線、アメリカ人ならではの目線でいろんな地方の魅力的な映像を撮った映画を集めたと言っていましたけど、ごく稀にそこに住んでいながらも、その国に住んでいている人が気づかないような、海外の人も気づかないような美しいところをね、見つけられる人がいるんですよね。まさにそういうタイプの監督さんです。なので、もう本当にこの人が映画監督になってくれて「本当にありがとう」ってスペイン人もきっと思っているはずです。
渡辺:子役もすごいしね。
有坂:いやー、この子すごいねぇ。
渡辺:どうやって演出したの? って。
有坂:本当だね、裏を知りたくなる。くるくるのカーリーヘアの可愛い女の子なんですけど、やっぱりそういう……僕も娘がいるんですけど、そういう実際に娘がいるお父さん、お母さんは、その目線で観るとグッとくるどころか、感情を揺さぶられて大変かもしれないので(笑)。
渡辺:ラストやばいよね。
有坂:あとは、すごく気持ちがいい花火も観れたりするので本当にこの夏に観てもらいたいなっていう一本です。タイトルが『悲しみに、こんにちは』なんですけど、紛らわしいんですけど、『悲しみよこんにちは』っていうフランスが舞台の昔の映画とは一切関係がありません。『悲しみに、こんにちは』がスペイン映画の方なので、ぜひこちらも見ていただけたらと思います。

──

渡辺:なんだかんだ時間が過ぎちゃうね。
有坂:過ぎるよね。
渡辺:ちょっとパンパンパンと、そんなに説明せずに進んでいるつもりではあっても、なんやかんやね 。
有坂:これ途中で時間が過ぎそうって気づかなかったら、あと30分は過ぎていたと思うよ(笑)。危なかった。
渡辺:でも、全然かぶらなかったね。
有坂:そうだね。
渡辺:俺、結構この路線で行こうかなと思って。割と塁が、ヨーロッパ出身の監督で来るかなと思って。
有坂: でも、そう来ると思わなかった。面白い! 本当に外から見た視線というのもね、その国に住んでいると気づかないようなことを教えてくれたりもあるからね。
渡辺:本当に良いとこ取りだからさ、魅力的なんだよね。
有坂:だから、どこの国が舞台っていうのを見るのも面白いし、それを作っている監督がどこの国出身かっていうのを見ると、さっき順也が紹介したような発見もあるかもしれないので、ぜひそこも注目してみてください!

──

有坂:ではでは、最後に何かあれば。
渡辺:そうですね。僕たち映画をめちゃくちゃ観ているので、観た映画についてインスタとかで随時発信しているので、そちらもぜひチェックしていただけると嬉しいです!
有坂:最後に、キノ・イグルーの夏のイベントなんですけど今年も恵比寿ガーデンプレイスの「ピクニックシネマ」は中止となりました。やっぱり、人数を限定できないイベントは、ちょっとまだ今年は難しいということで、 泣く泣くガーデンプレイスの人とも、今年は中止という決定となりました。 でも、二子玉川ライズで野外シネマをやったり、あとは水道橋にある「ミーツポート」。東京ドームシティの中にあるエリアなんですけど、ミーツポートで、野外シネマをやったりします。あと、8月15日に、代官山にあるライブハウス「晴れたら空に豆まいて」で、ライブハウスで見るアニメーション映画『音楽』の上映会をやります。

『音楽』
監督/岩井澤健治,2019年,日本,71分

有坂:これ、大橋裕之さんの漫​​画をアニメーション化した2019年に公開された話題作なんですけども、なんでもない高校生3人がバンドを始める、本当に音楽愛にあふれた、音楽愛が炸裂した最高のアニメーションです。それをライブハウスの音響で、ぜひ観てもらいたいということで上映します。さらに、このイベントはライブとシネマということで、映画の上映後にですね、SPORTS MENという、映画の3人組とは全然タイプが違う、なんだろうね、落ち着いた3人組。
渡辺:静かなロックバンド。
有坂:そう静かなロックバンドという名前でやっているSPORTS MENっていう3人がライブをしてくれるという、映画と音楽がセットになったイベントです。しかも、なんと『音楽』の監督をした岩井澤健治監督が、この日にですね来場してくれて、舞台挨拶もしてくれる、相当スペシャルなイベントになっています。8月15日(日)、キノ・イグルーのインスタと公式サイトのほうにも情報を上げていますので、ぜひそちらを見ていただけたらと。
渡辺:これは結構、人数が限定されていますもんね。
有坂:60人限定となっています。相当楽しいことになると思う!
渡辺:かなり濃い内容になると思います!
有坂:ぜひそちらも遊びに来ていただけたらと思います。

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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。




 

  




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