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手紙社リスト映画編 VOL.7「キノ・イグルーの、観て欲しい『アメリカ西海岸』な映画10作」

あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「アメリカ西海岸」な映画です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつドラフト会議のごとく交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、それぞれテーマを持って作品を選んでくれたり、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。

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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。

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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今回は先月、いつも最初にチョキを出すクセがあることが判明した渡辺さんがグーを出して勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。

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渡辺セレクト1.『(500)日のサマー』
監督/マーク・ウェブ,2009年,アメリカ,96分

有坂:うーん! うんうん。
渡辺:舞台は、ロサンゼルスですね。この作品はけっこう好きな人が多いんじゃないかなと思うんですけど、内容を簡単に言うとロマンチックな男の子と、超現実派の女の子とのラブストーリー。くっつくのか、くっつかないのか、みたいな500日を追った話になります。これは本当にもうすごい、いろんなところに影響も与えている作品ですし、好きな人は大好きという。音楽もすごくいいし。あと、有名なシーンとして、あの主人公の男の子が心躍るような表現っていうのを、実際にね、ロサンゼルスの街中で踊り出すっていう。急にミュージカルになってね。今まで通行人だった人たちがダンサーとなって、みんな一緒に踊り出すっていう超名シーンなので、観ていない方は観ると「ああこのシーンか!」ってわかると思うんですけど。これあの日本の映画でもモテキっていう作品で思いっきりオマージュをしている作品ですね。
有坂:そうだったね。
渡辺:大根監督もね、なんか最初は「違う!」って言ってたっぽいけど(笑)。
有坂:そうなの(笑)?
渡辺:そのまんまだからね(笑)。そっちでは森山未來が踊っていますけど、こっちは本当にあのすごいお洒落だし音楽もいいし、何て言うんだろう、こういう文化系のラブストーリーみたいなのが、ちょっと新しいところもあったので。これはかなりオススメの作品として、取られそうだなっていうのがありましたので、先に挙げさせてもらいました。
有坂:そうだよね。まあメインの二人の魅力がね、本当にこの二人じゃないとこの空気感にはならなかっただろうなっていう。
渡辺:そうそうそう。
有坂:とにかく、ズーイー・デシャネルですよ。ズーイーは、「シー&ヒム」っていうバンドをやっているぐらいなので、もう歌えるから、かなりズーイー主演の映画って歌うシーンがあるよね。
渡辺:そうなんだよね。
有坂:監督も多分歌わせたいと思ってキャスティングしてるところもあると思うんですけど、まあね……。で、どのシーンが好き? さっきのシーン? ミュージカル的な。
渡辺:うーん、そうだね。まあ、いくつかあるけど、わかりやすいのは今のシーンかな。
有坂:僕はね、エレベーターで音楽を聴いていて、音漏れして。
渡辺:ああ! このジャケットのシーンじゃない?
有坂:そうそう、 「あれ? エリオット・スミスじゃない? その曲ってもしかして?」っなんてね。そういう文化系男子の妄想だよね。こんなふうに出会いたいみたいな。とか、あとカラオケでこんな曲を歌ってほしいみたいなね。なんか、そういうこう、妄想を本当にすごくポップにね。だから現実なのか、本当にその主演のね、彼の妄想なのかわからないような作りなので、すごいいいなって思う。
渡辺:音楽でね、けっこうつながるんだよね。それで、このサントラがすごい最高なので……
有坂:最高最高! 1曲目からいいんだよね。……持ってます。
渡辺:ね。はい。
有坂:ちなみに、このジョセフ・ゴードン=レヴィットとズーイー・デシャネルって、実際にすごく仲が良くって、撮影とはまた別に二人で、面白い動画を撮っているんだよね。クリスマスソングを一緒に歌った動画とか、けっこうYouTubeを検索すると出てくるので、ぜひ! ますますファンになっちゃうこと間違いなし!
渡辺:仲がいいんだよね、うんうん!

有坂セレクト1.『パルプ・フィクション』
監督/クエンティン・タランティーノ,1994年,アメリカ,154分

渡辺:うーん、なるほどなるほど。
有坂:良かった、先に言われなくて(笑)。これもやっぱり舞台はL.A.でサウスベイが舞台の作品です。この映画が好きな人っていると思うんですけど、好きな人いたらちょっと後でコメントしておいてください。その間に話します。これは、1994年のクエンティン・タランティーノの長編第2作。レザボア・ドッグスを撮って、知る人ぞ知る面白いインディーズ監督ってところから、2作目にして『パルプ・フィクション』。これ154分って書いてありますよね。 ハリウッド映画で、やっぱり2時間超えのものを作るっていうのは、それなりに内容が保証されているというか、「どうしてもこの尺で見せたい」っていうものになっているか、まあ監督の力なのかがないと、なかなかね、このメジャー規模で公開はされないんですけども、タランティーノは『レザボア・ドッグス』一本で認めさせ、もうこの2作目にして154分。さらに、ブルース・ウィリスとかティム・ロスとか、ジョン・トラヴォルタとか、スターを使って作ってしまいました。で、この映画が、実際にカンヌ国際映画祭でパルムドール、最高賞を受賞して、一躍時代を代表する監督になりました。もうなんかロックスターみたいな扱いだったよね。
渡辺:うんうん。
有坂:本当にポップカルチャーの神みたいな、もうその時代を代表する一人みたいな存在になったきっかけが、この『パルプ・フィクション』です。ストーリー的にはこれ犯罪映画なんですけど、3つの話があって、それぞれの話が交錯したりしてくるんです。やっぱりこの映画が新しかったのは、交錯するだけではなくて時間軸までいじるんだよね。さっき銃で打たれて死んだはずの人が、次の場面で普通に T シャツ着て出てきて……。
渡辺:そうなんだよねー。
有坂:観ている側は、「あれ? さっき死ななかったっけ?」と思って観ていくと、その亡くなるよりも前のエピソードだったりする。だから、観ている側としては、頭の中で時間を整理しながら観ることになるんですけど、決してそんな難しいことでもなくて。
渡辺:今だとね。今は時間軸が前に戻って、また冒頭のシーンに戻ってくるって当たり前になったけど、この時は最初分かんなかったもん。
有坂:そうそう。それこそ、この『パルプ・フィクション』が与えた影響の一つは、その時間軸。クリストファー・ノーランってね、今や大監督ですけど、彼のデビュー作のメメントも、やっぱりここから影響を受けているんじゃないかと言われたりするぐらいの。もう90年代を代表する一本かなと思います。
渡辺:うん、うん。
有坂:で、タランティーノという人は本当に言わずと知れたいわゆる映画オタクの人です。彼自身がたくさん映画を観てきて、観てきた映画を自分のフィルターを通して表現するので、「あれ? このシーンってあの映画のこれじゃない?」とか、そういった元ネタ探しみたいなのも面白かったり、もっと言うと、タランティーノもやっぱりサントラがね、とにかく素晴らしいんですけど……
渡辺:うん、そうそう。
有坂:実は昔の映画で使われたオリジナルのテーマ曲を、平気で自分の映画で使ったりしちゃうんですよ。そういう意味では大胆不敵なところもあって。ただタランティーノのフィルターを通すとすごくオリジナルに聞こえる。唯一無二の存在の人かなと思います。それで『パルプ・フィクション』が映画としてとにかく面白いというのはもちろんなんですけど、やっぱりいろいろ映画界に貢献した中の一つとして、落ち目の大スターを復活させたっていう。
渡辺:そうだね。
有坂:それはつまり、ジョン・トラヴォルタです。トラヴォルタはサタデー・ナイト・フィーバーで一躍大スターとなり、そこからだんだんだんだんこう、キャリアが下り坂になっていったんですけど、タランティーノはトラヴォルタのことが実はすごく好きで、彼をキャスティングしたいと。で、脚本を持ってトラヴォルタにオファーをしたところ、あの、トラヴォルタは最初断ったらしいんですね。で、断ったのは、やっぱりすごく暴力的な映画だから、自分の子どもには見せられないし、公開後の反響が怖いってことだったんですけど、タランティーノは、そんな大スター・トラヴォルタ……タランティーノなんて映画2作目の若造なんですけど、その若造がですね、大スターに「何言ってんだよジョン、目を覚ませ!」ってブチギレたっていうエピソードがあって。トラヴォルタは、やっぱり大スターになった自分にそんな強く言ってくれる人もいないし、「本当に映画のことを思って君のために書いたんだ」っていうことで、その情熱に胸を打たれて、この役を受けたんです。そしたら、やっぱりトラヴォルタの『サタデー・ナイト・フィーバー』で形になったああいうダンスシーンとかも、また、アップデートされるような形で使って、トラヴォルタが第一線に戻ってくるきっかけにもなりました。そこは本当に素晴らしい貢献だったなと思います。
渡辺:うんうん。
有坂:あと、もうひとつだけ! あの、タランティーノって、このサウスベイで育って、生まれはまた別の場所なんですけど、L.A.で育って、映画監督になる前にビデオレンタル店で働いていたんだよね。ビデオアーカイブスっていう。そこがもうその映画オタクが集まっているお店で、実際にお客さんから、「クエンティン、なんか今日のおすすめないの?」みたいに聞かれて、タランティーノがおすすめするっていう、そういう幸せなコミュニケーションが生まれたお店も、このL.A.にあったと言われています。僕もレンタル店でかつて働いてたので、自分もタランティーノと同じキャリアだなって、勝手に妄想して楽しんでたんですけれども……まあそんなですね(笑)。そんな行き過ぎた映画ファンが映画監督になり、いまだ現役で活躍しているタランティーノの代表作『パルプ・フィクション』を1本目として紹介しました。
渡辺:なるほどね! そうきましたか。
有坂:もちろんです!
渡辺:まあ、世代的には直撃世代だからね。とんでもないのが出てきたって感じだったよね、そのときはね。
有坂:うん、もうタランティーノフォロワーみたいな監督がいっぱい出てきたもんね。わかりやすすぎるだろって(笑)。恥ずかしくないのかっていうぐらい。
渡辺:サントラもそうだし、時間軸もそうだし、 昔のスターを復活させるとかもそうだし、ここから、サミュエル・L・ジャクソンとかも出てきたし、いろんな意味で影響のある作品だったよね。
有坂:コメントきてますね。「バンクシーの絵で『パルプ・フィクション』モチーフの絵もあった」……あるんですよ。だから、そこまで影響を与えてね。
渡辺:拳銃がバナナっていう(笑)。さすがバンクシー。

渡辺セレクト2.『ラ・ラ・ランド』
監督/デイミアン・チャゼル,2016年,アメリカ,126分

有坂:わぁ、きたー!
渡辺:ちょっと新し目の映画なんですけど、もうL.A.がロケ地満載の。2016年、デイミアン・チャゼル監督の作品です。結構大ヒットしたので、観ている人も多いと思うんですけど、舞台は完全にロサンゼルスなんですよね。それで、主人公のミアがハリウッド女優を目指しているという設定なので、基本もう全編L.A. という感じ。で、2人がダンスをするシーンがあって、それが小高い山のところであるんですけど、あそこが「グリフィスパーク」。天文台のあるところで、俺、昔に行ったことがあって。
有坂:へー!
渡辺:本当にデートスポットなんですよね。坂道を上っていって、そうするともう、路駐だらけ。それでみんなカップルが夜景を楽しんでいるっていう。そこに行ったことがあったから、「おお! ここで踊ってる!」っていう「あの2人が!」って。なんかすごい印象深いシーンでもあって。本当にこう、全編 L.A.で。あと冒頭のシーンが結構印象的だと思うんですけど……
有坂:いやーすごいよね。映画史に残るオープニングだね。
渡辺:L.A.のフリーウェイがあって、フリーウェイも渋滞が名物なんですよね。そのね、渋滞のシーンから始まって、で、「プップー!」「 早く行けよ!」とかいうシーンから急にミュージカルになってね。すごいカラフルな感じの男女が、もう車のボンネットに乗って、踊り狂うっていうオープニングのシーンがあるんですけど。あれがね、本当にまさに映画史に残るような名シーン。そこから始まるというところがあって、結構そのL.A.のいろんな、確かワーナーのスタジオとかも出てくると思うんですけど、そういったハリウッドだったりとか、カフェだったりとか、グリフィス天文台だったりとか、あとフリーウェイの渋滞だったりとか、“ザ・L.A.”みたいなところが満載で出てくる作品なので。これは、ちょっとメジャーな作品ではあるんですけど、西海岸を代表する作品じゃないかなと思って挙げさせていただきました。
有坂:『ラ・ラ・ランド』の「L・A・L・A・LAND」って、そのL.A.もかかっているのかな?
渡辺:なんだっけなーそれ、なんか聞いた気がする。
有坂:(笑)
渡辺:でもそうだろうね。
有坂:そうだよね。やっぱりもう本当に多分「ロサンゼルス 映画」とかで調べると、真っ先に出てくるよね『ラ・ラ・ランド』。それぐらい、もう行く前に観ておかないとっていう映画だと思いますが……エマ・ストーンね。
渡辺:ね。あと音楽もすごいよくて。結構この映画ってね、いろんな昔のミュージカルとかから影響を受けているってのもあって、ミシェル・ルグラン(注:フランスの映画音楽の巨匠)の影響がかなり感じられる。
有坂:ねー、​​ロシュフォールの恋人たちとか。ラストシーンとか、まさにシェルブールの雨傘だもんね。
渡辺:まさに、そうなんですよね。この作曲家コンビ(ベンジ・パセック&ジャスティン・ポール)が、すごいこれで大成功して、次に作ったのグレイテスト・ショーマンっていう作品で、それがまた大ヒットして、音楽もすごくいいと。
有坂:すごいよね!
渡辺:それで、また新作があるんだよね。来月(11月)かな? ディア・エヴァン・ハンセンっていう、監督は(スティーヴン・)チョボスキー監督。ウォールフラワーとかワンダー 君は太陽とか、結構いい作品を撮ってきている監督の最新作が、11月の下旬ぐらいにあるんですけど、その楽曲がこの『ラ・ラ・ランド』の作曲家コンビが手掛けたということで。
有坂:いい情報だね。そういえばそうだった。
渡辺:偶然気づいた(笑)。
有坂:(笑)。映画音楽のあり方って、時代とともにやっぱり変わってきてて、それこそミシェル・ルグランとか、ニュー・シネマ・パラダイスのモリコーネとかは、もういわゆる職業作曲家。映画音楽、映画に合わせてもう曲をつくって。
渡辺:そうだね。
有坂:ね。……っていう人が、でもやっぱりさっきの『パルプ・フィクション』のタランティーノとか、ソフィア・コッポラが出てきてから、ちょっとそういう人の仕事がなくなってきた。
渡辺:そうだね。
有坂:要は、昔の曲を自分の感覚で、DJ感覚でシーンに当てはめてくっていう監督が出てきたんです。
渡辺:トレインスポッティング​​とかね。
有坂:そうそうそう。だから、職業映画音楽の作曲家ってメジャーな人って久しく聞かなかったけど、『ラ・ラ・ランド』の、あのコンビは久々にきたビッグネーム。
渡辺:新人でね。そうだね。ちょっとそういう作曲家目線で観てみるのも、面白いかなと思います。

有坂セレクト2.『マルホランド・ドライブ』
監督/デヴィッド・リンチ,2001年,アメリカ,146分

渡辺:ああ! あはは。
有坂:これも映画女優が主人公で映画の都ハリウッドが舞台の、そこにつなげてですね。2001年の映画です。監督はですね、鬼才、デイヴィッド・リンチ監督。まあ日本ではね、(ドラマの)『ツイン・ピークス』で大ブレイクして、その後、​​『ワイルド・アット・ハートとか、ブルーベルベットとか、たくさん作った、本当に“鬼才”っていう名称が、こんなに似合う監督はいないというぐらいですね、もう個性的な世界観をつくる監督です。で、この『マルホランド・ドライブ』は……っていうか、デイヴィッド・リンチの映画って、本当に言葉で説明のしようがない。映画じゃないと本当に感じることのできないような世界を楽しめるのが、リンチの映画の面白いところなので難しいんですけど、まあこの映画でいうと、『マルホランド・ドライブ』って実在する、ハリウッドに実在する通りの名前で、そこで起きた自動車事故をきっかけに、謎が謎を呼んでさらに謎を呼ぶみたいな。
渡辺:そうそう。
有坂:ミステリーって言っていいのかもわかんないんですけど、ちょっとジャンルを特定するのが難しい、本当にリンチオリジナルの世界が楽しめる映画となっています。ちなみに、この映画の公開当時のキャッチコピーは、「私の頭はどうかしている」。
渡辺:(笑)そうだったんだっけ?
有坂:この主人公のナオミ・ワッツとローラ・ハリングのどっちかのね、心の声だと思うんですけど。この映画の面白いところって、言語化は難しいんですけど、なんかね、はっきり言うと意味はよくわからないんですよ。シンプルなストーリーはあるんですけど、そのストーリーを追っていっても、どんどん謎の深みにはまっていって、その迷宮から抜け出せないみたいな。でも、分からないときって大体こう、観ている側がポツンと置いていかれることが多いと思うんですけど、やっぱりね、『マルホランド・ドライブ』が特別なのは、そんな状態なのに面白いんですよ。
渡辺:うんうん!
有坂:なんか、ワクワクしてくる。分からないことに。伏線も張ってあって、それを回収できそうだと思ったら、またそこから謎が深まってっていう。ずぶずぶ沼ですよ。リンチ沼!
渡辺:わかりそうでわからないんだよね。
有坂:そう。それを計算してやっているんだろうけど、あんまり計算している感じもしないんだよね。本当にこの監督やばいんじゃないかって思ってしまうような世界観なんですけど、なんかね、つじつまが合ってほしいって観ている側は思うんですけど、合わなくても楽しいっていうこの感覚って、なにかに似ているなと思ったら……夢? 寝ているときに見る夢に近い感覚で、夢だと、例えば、高校のときの友達と、社会人になってからの友達って知り合ってないんだけど、夢の中で普通に仲が良くて、仲が良いことを普通に夢を見ている自分も受け入れている。そういう不思議な状況を映画で体験できるのが、この『マルホランド・ドライブ』だと思います。なので、とにかく観てください。それで、これ何度観ても、やっぱり面白いね。
渡辺:傑作だよね。これは本当に。
有坂:あとは、リンチもやっぱり音楽の使い方が独特で、もうその固定の作曲家がいるんですけど、アンジェロ・バダラメンティって人。 で、やっぱりその人もあの世界観にすごく共感していて、やっぱり映画の世界をさらに一歩深いものにしてくれていると思うので、ぜひ耳でも楽しみながら。あと、リンチのビジュアルセンスっていうのは、本当に圧倒的で。おしゃれなんていう言葉だけじゃ片付けられないレベルのおしゃれ。
渡辺:アーティストだからね、リンチ自体がね。
有坂:画家でもあり、写真家でもあるので、その自分の感覚をもう全部使って世界を作ってくれています。これ、あのイギリスのBBCが何年か前に、21世紀ってまだ途中だけど、21世紀のベスト映画ってアンケートをやったらしい。で、ベスト100をBBCが発表したんですけど、『マルホランド・ドライブ』、なんと第1位!
渡辺:えー! そうなんだ(笑)。
有坂:おまけに、ヨーロッパでとにかく評価が高くて、フランスでパリに、「シレンシオ」っていうのはこの『マルホランド・ドライブ』に出てくるナイトクラブの名前なんですけど、同じナイトクラブがあります。そこのデザインをデイヴィッド・リンチがやっているので、『マルホランド・ドライブ』を観てこの世界観いいなと思ったら、ぜひパリに立ち寄った際には、シレンシオにも行ってみて……あ、でも会員制って言っていたな。
渡辺:あぁ、いいね。怪しくていいね(笑)。
有坂:そう。わかっているよね。ちなみに、これはカンヌ国際映画祭で監督賞も受賞しています。ということで、もう本当にハリウッドって、なんかやっぱりこうハリウッドの闇、噂では聞いていたけど本当にあるのかもなって思ってしまうような、そんな映画『マルホランド・ドライブ』が、僕の2本目でした。
渡辺:これも、そういえばあれだね、ナオミ・ワッツがハリウッド女優を目指している女優の役だよね。
有坂:そうそう、だからそこにかけた。
渡辺:そうか(笑)。そういうことでしたね。ナオミ・ワッツもこの演技で注目されて……
有坂:そうそうそう。
渡辺:スターダムにのし上がった人だもんね。確かに、この演技すごいもんね。
有坂:いやー本当に、これは。
渡辺:現実なのか虚構なのかっていう世界を行き来するところで、本当にどっちがどっちのナオミ・ワッツ? っていうね。
有坂:二面性が楽しめます。
渡辺:これは本当に、ナオミ・ワッツの演技を観ているだけでも価値のある作品ですね。

渡辺セレクト3.『her/世界でひとつの彼女』
監督/スパイク・ジョーンズ,2013年,アメリカ,120分

有坂:ほぅほぅ。そうかそうか。
渡辺:『her/世界でひとつの彼女』は、近未来の作品なんですね。で、舞台はロサンゼルスなので、近未来のロサンゼルスが描かれています。でもこのherの世界って、いわゆる SFの近未来とは全然違って、ほぼ今と変わらない世界なんです。それで、ちょっとだけなんとなく、なんていうのかな、未来っぽい建物があったりとか、みんなが使ってる道具がちょっとだけ未来っぽかったりっていう世界ですね。それで、どういう話かっていうと、「OS」ってありますよね。iPhone 使ったりとか、そういうのにみんなあると思うんですけど、そのOSがAI(人工知能)で、どんどん学習していって、しかもしゃべるっていうね。なので「目覚まし明日何時にかけますか?」とか、どんどん喋りかけてくる、そういうAIなんですけど、ある男性が新しいOSを買ったら、それが人工知能型で、喋りかけてくれる。で、「何か不足していることありますか?」とか、どんどん質問してくれるみたいな設定で、「男性と女性選べます」みたいな。「じゃあ女性で」みたいな。そうすると、その OS が起動して、はじめまして“サマンサ”です。そうするとこう、サマンサは、どんどん便利になるようなことをいつも質問してくれて、悩みも聞いてくれるっていうね。人間っぽいOSなんです。そのうち、サマンサには何でも相談ができて、いつでもいいアドバイスをしてくれるっていう、ものすごいいい関係になっていって、やがって主人公がサマンサに恋をしてしまうっていう。人間とOSっていうね、今までになかったこの禁断のラブストーリーが……
有坂:ふふふ。
渡辺:このもうね、今までになかったシチュエーションで、「どうなる!?」っていう、そういう話なんですけど。それがなんかやっぱりラブストーリって、最初の恋に落ちていく瞬間っていうのが、すごいキラキラしていて楽しい雰囲気になるんですけど、そこの描き方がね、すごい秀逸なんです。「人間対人間じゃないのに、どうやって描くの?」っていうところあると思うんですけど、それがね、本当に声だけのやり取りなので、なんか電話している相手と恋に落ちていくような雰囲気だったりとか、あとなんかガジェットもすごい良くて、スマホみたいなやつがあって、それを胸のポケットにいつも入れてるんですよ。で、カメラが付いてるので、カメラが見えるようにちょっと浅めに胸のポケットに収まるように入れていて、「この景色見える?」みたいな、ちゃんとカメラがポケットに隠れないような位置で、入れながら会話するみたいな。そういうなんか人間と機械がデートしていく姿とか、そういうのがかなりみずみずしく描かれています。本当に舞台は、いつものロサンゼルスなんですけど、建物だけちょっと近未来的だったりとか、そういうみんなが使っているツールだったりが、ちょっとだけ近未来的な、そういう絶妙な世界観。すごい未来じゃなくて、ほんのちょっとだけ未来っていうね、そこの美術だったりとかも、めちゃくちゃ素晴らしいんですよね。ほんとスパイク・ジョーンズもよく描いたなって。
有坂:うん、うん。
渡辺:それで、主演はホアキン・フェニックスなんですけど、サマンサ役は声だけなんですけど、スカーレット・ヨハンソンが演じていて、これがね、いいんですよ。もうこの恋の結末がどうなるのかは、もう映画をぜひ観ていただきたいんですけど。そんなシチュエーションあるんだっていうね。
有坂:なんかこれ、スパイク・ジョーンズって、あのもともとマルコヴィッチの穴っていう映画でデビューして、かいじゅうたちのいるところとか、あの人はもう生粋のアナログ人間じゃん?
渡辺:うん。
有坂:ビースティ・ボーイズとか、ビョークとかのミュージックビデオも撮っている人なんですけど、基本やっぱりもうアナログの技術を、すごく彼なりのセンスで映像化できるっていう、本当にトップ・オブ・トップの映像ディレクターだと思うんですけど、その『かいじゅうたちのいるところ』だって、あの怪獣も実際に着ぐるみだからね。そんな人が近未来を舞台にした SFを作るって聞いたときに、「大丈夫か?」って正直思って不安だったんだけど、「なるほど! こういう表現の仕方なんだな」って、それでなんかスパイク・ジョーンズのね新しい一面を観られた作品かなと思います。
渡辺:ね。
有坂:お、コメント来てる。「気になってたやつだ」「Siriが自我をもったらみたいな?」。
渡辺:本当にね、そうそうそう、これ何年? 2016年だったっけな? なんだけど、今だとSiriとか、音声でね「OK Google」とか、そういうのが普通になってきましたけど、このときってまだそういうの身近じゃなかったので。だけど、すごいリアルに感じられる未来っていう世界だったので。本当に今そこに近づきつつあるっていうね。
有坂:その世界観でいうと、エクス・マキナっていう映画も、 AIと人間の心の動きを表現した作品なので、2本立てで観るの面白いかも。
渡辺:はいはいはい。あっちはね、もう肉体というか、存在はあるっていう……。
有坂:そうそう。
渡辺:だから、Siriに恋しちゃう人がね、実際に……
有坂:順也するんじゃないの?
渡辺:俺!?(笑) まさかの(笑)
有坂:してるんじゃないの? すでに!
渡辺:あの声に!? まだちょっと機械っぽいんだよなぁ(笑)。
有坂:(笑)
渡辺:Appleさんに頑張ってもらって。スカヨハでお願いします(笑)。

有坂セレクト3.『ロード・オブ・ドッグタウン』
監督/キャサリン・ハードウィック,2005年,アメリカ・ドイツ,107分

渡辺:うーん、きましたね!
有坂:これはいわゆるスケーター、スケートボード、スケボーの世界を描いた作品になります。時代でいうとこれ1975年。僕らが生まれた年の西海岸ベニスビーチが舞台になった作品です。これ実話の映画化ですね。 DOGTOWN & Z-BOYSっていうドキュメンタリーがあって、それと同じ世界を描いているんですけど、フィクションとして作った作品になります。ジョン・ロビンソンやエミール・ハーシュなどが出た作品です。これは、いわゆるまだスケボーが市民権をまったく得ていないような、本当に彼らからすべてが始まった。スケートボードの世界は始まったっていう新しいカルチャーが誕生した瞬間を描いた作品になります。こういう映画好きなんだよね。
渡辺:わかる!
有坂:ヒップホップが生まれたとか、特に僕はストリートカルチャーが好きで、自分はスケボーもヒップホップもやんないんだけど、なんかストリートカルチャーってすごくピュアで、本当に好きで始めたもの。かっこいいとか、なんか純粋な想いから始まったもの。それが、その思いにやっぱり同時代の同世代が反応して、一つのカルチャーになる。それを描いた作品になります。で、一つのカルチャーになってくると、そこに金の匂いを嗅ぎつけた企業とかが絡んできて、いろいろいざこざが起こって……っていうところまで、この『ロード・オブ・ドッグタウン』では描いています。これ初めて知ったんですけど、本当はこれはサーフショップ。サーフショップが舞台で、そのサーフショップに集まっている人たちの話なんだけど、本当はサーフィンやりたいんだけど、先輩たちがいるからサーフィンをやりたくても実際にできるスポットがない子たちが、片手間にスケボーをやっていたら、そっちがどんどん面白くなって、のめり込んできて、一つのカルチャーになったと。だから、なんかサーフィンの代替え的な行為として、もともとスケボーは始まった。
渡辺:そうなんだね? へー。
有坂:そう。やっぱりサーファーがスケボーをやっていたりするじゃん。もともと、そういう成り立ちであるってことも、この『ロード・オブ・ドッグタウン』で僕は知りました。なんか当時、これを観たときに、その最初に紹介したドキュメンタリー版の 『DOGTOWN & Z-BOYS』が、当時、マガジンハウスから出ていた「リラックス」っていう雑誌で特集されたんですよ。Z-BOYSっていうチーム。Z-BOYSっていうのは、さっき話したサーフショップ「ゼファー」っていう、その Z なんだけど、そこに集まっているボーイズたちが、Z-BOYSっていうチーム名みたいになって、彼らがアメリカを熱狂させていくわけなんですけど、 その特集を「リラックス」でやっていて。自分はサーフィンとかスケボーとかやりたくはないけど、そういうカルチャーがあるんだってことは、あの雑誌が教えてくれて。でドキュメンタリーを見たら、「よくぞこんな映像を残していてくれた!」っていうね、当時8ミリフィルムとかだったと思うんですけど。あっちのドキュメンタリーは、確か50分くらいの短いドキュメンタリーなんですけど 、さらにそこをもうちょっと詳細に描いてくれたこの『ロード・オブ・ドッグタウン』で、その時代の空気感とか、実際どういうバックグラウンドがあってスケボーがカルチャーになっていったかもわかるので、ぜひセットで観てもらえると、すごく70年代の空気とかも理解できるので面白いかなと思います。そこからね、時を経て2020年にオリンピックでね、競技として行われて、日本で今ね、スケボーブームになっているので。
渡辺:そうだよね。
有坂:「堀米くんかっこいい!」とか思った人は、そこを辿っていくと、この『ロード・オブ・ドッグタウン』の世界がありますので、ぜひ観てみてはいかがでしょうか? ちなみにこの映画のキャッチコピーは、「20年後も僕たちの夏休みは続くと信じていた」。
渡辺:うーん。へー。
有坂:「信じていたんですけどねー」っていうことですよ。そんな『ロード・オブ・ドッグタウン』でした。
渡辺:なるほどね。西海岸といえばスケボー少年みたいなのはね、時代時代でいい映画があるからね。ちょっと間違いないところはあるよね。そうだよね、スケーターものは絶対に出るよね。
有坂:そう、でも、順也がその前に紹介したスパイク・ジョーンズも、もともとはそういうスケーターの映像を撮っていたところから、キャリアを始めているので、つながってくるよね。
渡辺:そうだよね。

渡辺セレクト4.『ミルク』
監督/ガス・ヴァン・サント,2008年,アメリカ,128分

有坂:あーあー、なるほど、なるほど!
渡辺:今までずっとロサンゼルスの、 L.A.の映画が続いてきたので、ちょっとここで変えてみようと思って、『ミルク』はサンフランシスコが舞台です。主演はショーン・ペンなんですけど、監督がガス・ヴァン・サントの作品で、実在するハーヴェイ・ミルクというサンフランシスコの市議会議員だった人の自伝的な話になります。それで、ハーヴェイ・ミルクがどういう人だったかというと、彼自身はゲイを公表した市議会議員で、時代はね、70年代かな。かなり前の70年代ぐらいに、まだそのゲイとかに厳しかった……アメリカでさえ厳しかった時代にゲイを公表して、そういうマイノリティだったりする人たちの人権のために活動した政治家の話です。で、えーと、ショーン・ペンは、この演技でアカデミー賞主演男優賞を受賞するっていうね。作品的にもかなり素晴らしくて、ガス・ヴァン・サント自身もゲイだし、そういう意味で、けっこうそういうマイノリティの人たちのこれだけ迫害を受けていたんだとか、でも、人権を守るためにこういう人たちがいたんだってことを表現した作品なんですけど。僕、昔サンフランシスコに行ったときに、あのね、移動しているときにめちゃくちゃごつい人が、革ジャンを肩の袖で切っている、ほんとレイザーラモンみたいな人が……
有坂:絵に描いたような(笑)。
渡辺:あとジージャンを、またスギちゃんみたいにね……
有坂:スギちゃん(笑)。
渡辺:でも、全然体格はいいし、そういう二人がガッツリ手をつないでいたので、めちゃくちゃ恋人同士っていう感じで。それ見て、さすがアメリカだと思って。
有坂:それ何年ぐらい? 90年代?
渡辺:いや、2000年くらいかな。当時、アメリカの学校に行っていた友達がいたので、そこに遊びに行っていたんですけど、友達に聞いたらサンフランシスコは多いんだという話をしてましたね。だから、そのときは、サンフランシスコにそういう文化があるって知らなかったんですけど、そういう個人的な経験ともつながって、やっぱりサンフランシスコってすごいそういうカルチャーがあるというか。そういう街っていうところもあるみたいなんですけど、そこの礎を築いたのが、ハーヴェイ・ミルクで。その彼の自伝的な作品ということで、映画自体もすごい面白いので。ショーン・ペンも、かなり熱演しているし。
有坂:これ、キャストを見ると、ジェームズ・フランコ、ジョシュ・ブローリン、エミール・ハーシュ、ディエゴ・ルナ……、もう、いいところついているよね。
渡辺:曲者ぞろいだよね(笑)。
有坂:ショーン・ペンで、しかも、そのタイトルのミルクって人を演じている、ハーヴェイ・ミルクを演じているショーン・ペンが強い中、これだけ曲者揃えれば面白いに決まっているっていう。
渡辺:ね。しかも、このハーヴェイ・ミルクの人生も波瀾万丈なので。
有坂:そうだよね。
渡辺:本当に最後まで目が離せない作品だと思うので。
有坂:チョコレートドーナツとかと時代が近いよね。そういう映画があって。
渡辺:あれも70年代かな。
有坂:僕がさっき紹介した『ロード・オブ・ドッグタウン』と重なるなと思ったのが、この『ミルク』にもドキュメンタリーがあるよね。ハーヴェイ・ミルクっていうドキュメンタリーがあって、なので本人のその姿も見ることができるので、これも2本立てでね。……それを狙って選んだんでしょ?
渡辺:は……はい!  もちろん(笑)。
有坂:両方観て、腑に落ちるところがあったから、おすすめです。たぶん、ドキュメンタリー版も観られるんじゃないかな、配信とかで。
渡辺:そうね、あるかもしれない。

有坂セレクト4.『ブルージャスミン』
監督/ウディ・アレン,2013年,アメリカ,98分

渡辺:おお、きましたね!
有坂:サンフランシスコつながりで。これは2013年の映画ですね。で、ウディ・アレンって、生粋のニューヨーカーですよ。それで、この『ブルージャスミン』で初めて西海岸で彼は映画を撮ったんですけど、それまでの映画で「西海岸」っていう言葉は、結構セリフの中に出てきていたよね。でも、ぜーんぶ、西海岸をディスってるんですよ。
渡辺:(笑)
有坂:本当に大嫌いなんですよ(笑)。彼って、朝起きて目が覚めて、すごい気持ちのいい燦々と降り注ぐ太陽光とかが見えただけで、憂鬱になるっていう人で、雨が降ってると落ち着くっていうタイプの人なんですね。なので、もう「西海岸に住むなんて考えられない」とか言ってた彼が、ついに西海岸で映画を撮ったんですよ。これはもうファンにとって画期的な一本。でも、この物語がケイト・ブランシェット主演でアカデミー賞を取ったんですけど、もともとニューヨークに住んでいるセレブなんですね。 で、旦那さんが、セレブだったんですけど、実は詐欺で儲けていて逮捕されちゃって、離婚することになり、今まで贅沢三昧だった生活を捨てて「もう仕事もないしどうしよう」って、妹が住んでいるサンフランシスコに逃げ込んで、そこで生活するセレブリティの話なんですよ。それで、もう「どれだけ贅沢三昧していたのか!?」っていうくらい、その環境がサンフランシスコに変わってからも、なかなか馴染めなくて。お金ないのに飛行機の移動もファーストクラスにしちゃったり。「お金ないんでしょ?」って言われても、それが自分にとっては当たり前だったからっていうぐらい。サンフランシスコに行ってからも、またそういうお金持ちを見つけて、セレブに返り咲こうっていう、もう野心満々な女の人なんですね。そこがやっぱり面白くて、でも、やっぱりその彼女なりに抱えてる心の傷があったりとか、そういうのがね、よく観ると要所要所に出てくるんですね。で、ちょっとやっぱり心が病んできてるところもあって、一人でブツブツしゃべっちゃうっていうシーンがあって……
渡辺:やばいやつ。
有坂:それで、人から「今話かけられたけど聞こえなかった」って言われたときに、はじめて自分がブツブツしゃべっていたことに気づくみたいな。なんか、自分のことを客観視できてない、結構危険なタイプの人なんですね。で、セレブが転落していって、そこから場所を変えていろんな人の心に触れて、自分のもともと持ってた人間らしい一面を取り戻す、めでたしめでたし……っていう映画ではもちろんないんですよ。そこが、やっぱりウディ・アレンの映画の面白いところ。そういう共感をベースにしてる映画ではなくて、「こんな人もいるの?」っていう、ある意味、学びだよね(笑)。
渡辺:でも、いるよね。
有坂:いるいるいる!
渡辺:なんかさ、ほらインスタでさ、リア充を演じるがために、身を滅ぼしていく人(笑)。
有坂:(笑)。おい大丈夫か(笑)。
渡辺:すごい聞くじゃん、女性とかでさ、なんかすごい宝石とかさ、映えるために無理しすぎて、借金まみれになるみたいなさ(笑)。
有坂:そうそう、そういう事件を起こした犯人もそういうタイプの人もいるから。
渡辺:かなり、闇は深いんだけどコメディとして描いているっていう、そこがウディ・アレンっぽいよね。
有坂:そうそう、そうなの。それをとことん美談にしないところも、ウディ・アレンらしいし。でも、 なんかねこれラストを言っちゃうとネタバレになるから、言えないのでちょっと難しいんだけど。
渡辺:ラストはダメだよ! (笑)
有坂:言わないよ、言わないけど、決して突き放してはいないんだよね、ウディ・アレンは。その物語の途中をよく観ていくと、やっぱり心の無さそうなセレブリティに見える、ケイト・ブランシェットにも、こんな心の傷があるんだってのが、ちょっとね、よく観ると映っている。セリフとかでもある。そこが汲み取れると、ぐっと観ている側の感情も入る、愛おしくなる。そこのあんまり分かりやすく表立って出してない面まで、ケイト・ブランシェットは見事に演じている。だから、多分アカデミー賞の主演女優賞を取れたのかなって思います。
渡辺:いやもう、見事だったよね。
有坂:これはぜひ! そんなウディ・アレンが撮るサンフランシスコっていう風景。風景もちゃんと結構撮っているので、どんな風景を撮っているのかも含めて、ぜひお楽しみにということで、『ブルージャスミン』でした。
渡辺: なるほど、そうきましたか。
有坂:うん、きますよ。

渡辺セレクト5.『リンカーン弁護士』
監督/ブラッド・ファーマン,2011年,アメリカ,119分

有坂:おおー!
渡辺:サンフランシスコですね。ちょっとこれは、知ってる人はあんまりいないと思うんですけど、でも実はめちゃくちゃ面白いっていう映画で。
有坂:面白いよね。
渡辺:リンカーンっていう車、高級車があるんですけど、そのリンカーンに乗っている、なんていうんですかね、運転手を付けて偉そうに後部座席で出社するイケイケの弁護士の話です。 まあ、弁護士ものなので、裁判ものなんですけど、もうなんか「金のために絶対勝つ」みたいな、超敏腕弁護士なんですね。でも、悪者ではなくて正義の味方ではあって、ただもう自分に依頼してくれた人のためには、全力で勝ちますというところで。あるとき、間違えて娼婦に訴えられてしまったみたいなセレブの弁護を引き受けるんですね。「ああもう誤解を解けばいい話で楽勝じゃん!」「これでセレブからお金をもらえる」とか思っていたら、実はそのセレブにはかなり闇があってっていうことが、わかってきて、「じゃあどうするんだ?」みたいなところなんですけど、結局この敏腕の弁護士なので、そのセレブも真実を暴こうとすると、こう、闇の手が来るみたいなところを、見事にかわしていく話だったり。これはかなり、ストーリー的にもよくできていますし、そのリンカーンっていう高級車の後部座席でふんぞり返っている弁護士っていう、ビジュアルも面白かったりとか。あと住んでいるところが、サンフランシスコの坂道の上の方の家なんですね。毎回、その家が出てきて、坂道の上でサンフランシスコの夜景を見下ろすようなところに住んでいるっていう。そこでこう一杯飲みながらみたいなシーンが印象的だったりします。なので、まあサンフランシスコといえば坂道。そこを車で疾走して、段差でちょっと車がジャンプして、ガシャンとなる、そういうカーチェイスだったりとか、サンフランシスコのまさにそんな坂道に住んでいる、高級車リンカーンを乗り回す敏腕弁護士の話です。
有坂:うんうん。
渡辺:これ主演がマシュー・マコノヒーで、マシュー・マコノヒーって結構もう曲者役者ですけど、割とクセのある役をやっては結構いろんなものをこなしてきていて、アカデミー賞もダラス・バイヤーズクラブかな、あれで“がん”になって激痩せするっていう役。で、国内では認められてない治療薬を密輸するっていう、それでがん患者をたくさん救うっていう話で、アカデミー賞を取ったりしている。かなり個性派俳優、そんな彼が主演の『リンカーン弁護士』を、5本目に挙げました。
有坂:リンカーン弁護士さ、いい映画だよね。
渡辺:いい映画だよ!
有坂:今、画面に出してもらったFilmarksのジャケットはDVD のジャケットだよね。あのビジュアルは結構いいなって思うんだけど、その公開時のチラシとかポスターは、結構デザインが、あんまりこうグッとこない。
渡辺:そうだっけ?
有坂:それで、マシュー・マコノヒーが出ているから、観ようと思って観たら、「めちゃくちゃ面白いじゃん!」って。作品として面白いと思って、ちょっとデザイン的に損しちゃってるところもあるかなと思うし、なんか「弁護士」って付いてるから、ちょっとそういうものに苦手意識がある人には観てもらえないのかなあと思うんですけど、全然大丈夫。
渡辺:Amazon primeで今、観られた気がする。
有坂:だそうです!
渡辺: サクッと観られると思います!

有坂セレクト5.『20センチュリー・ウーマン』
監督/マイク・ミルズ,2016年,アメリカ,119分

渡辺:おー、なるほど!
有坂:これは時代的には、『ロード・オブ・ドッグタウン』と同じ1970年代。79年。カリフォルニア、サンタバーバラが舞台の作品になります。監督が、マイク・ミルズっていう人で、映画でいうとね、ユアン・マクレガーが主演した人生はビギナーズっていう映画を撮っている人になります。もともとグラフィックデザイナーで、ソフィア・コッポラのミルクフェドやっていたり、あとね、ビースティ・ボーイズとかソニックユースのジャケットデザインとかも手がけた、もう90年代を代表するグラフィックデザイナーの一人。そういう意味では、そのキャリアの後に映画監督になったん人なんですけど、『20センチュリー・ウーマン』は、彼の半自伝的な物語というふうに言われています。
渡辺:そうなんだよね。
有坂:これは、どういう映画かというと、簡単にいうとバツイチの母親が、女性2人に自分の息子のお世話を頼むっていう話です。
渡辺:共同生活しているんだよね。
有坂:そうそう、で、自分の息子にやっぱり色んな価値観を感じてもらって、すくすく育ってほしいっていう懐の広い母親。アネット・ベニングが演じているんですけどシングルマザーで。なので、一応その15歳の息子、ジェイミーが軸になりながら、同居している女性にグレタ・ガーウィグ、あとエル・ファニングがいて、お母さんがアネット・ベニング。もう本当にスーパー女優、3世代にわたるスーパー女優が集まった作品になります。これやっぱり、そのマイク・ミルズって人がどうやって育ったか。“マイク・ミルズの作り方”だと思って観ると、なんて素敵な環境で育ったんだろうって。 グレタ・ガーウィグが演じるアビーっていうのは、ニューヨークで活躍した写真家なんですよね。で、 訳あって地元に戻ってくることになって、ここで共同生活してるんですけど、やっぱり70年代のニューヨークのアート界にいた人だからセンスが地元の人と違う。それをすごく分かりやすい形に表しているのがミックステープで、ジェイミーに「これ聴きな」って、「私がつらかったときに聞いて救われた音楽だよ」って、テープとかをあげたりする。「聴いてみるよ」って、聴いた曲が、トーキング・ヘッズ。
渡辺:(笑)
有坂:​​トーキングヘッズって聞いて、あって思った方もいると思いますが、まさに今年を代表する一本アメリカン・ユートピアの主演のデヴィッド・バーンが所属していたバンドですね。トーキングヘッズって、一応パンクっていう部類に入っていますけど、そのいわゆるフィジカルな激しいパンクじゃなくて、トーキングヘッズはアートスクール出身、美大生出身のバンド。だから、同じパンクでも、もうちょっとこう表現の仕方だったりとかが、すごく 洗練されてるというか。
渡辺:なんか、不良っぽくないよね。
有坂:そう、そのトーキングヘッズを教えてもらうんですよ。 だから、この映画の中では、トーキングヘッズが割と使われていたり、他にも彼女のセンスで選ばれた曲とかが、劇中流れてきたりするので、物語を追うだけでも十分楽しいんですけど、心に余裕があったらこう耳の方にも、意識を向けて聴いてもらえると、もしくは2回目観るとすごく音楽が入ってくるので、2回、3回観ても面白いじゃないかなっていうぐらい、見応えのある一作になっています。
渡辺:うんうん。
有坂:その時代もあると思うんですけど、映画の後半部分は、わりとその時代のフェミニズムみたいなところにフォーカスしていくので。今こういう時代になってきて、改めてやっぱりその女性の権利みたいなものを、この時代から、 70年代のフェミニズムを観ることで学べることもたくさんあると思います。3世代にわたる女性が出てくるので、やっぱりこう感じる部分も学べる部分ってのは、たくさんあるのかなと思いますので、そういう感覚的にも、そういう知識部分でも、生きていく上での人生の面でもいろいろ学びの多い作品かなと思います。
渡辺:お母さんがヒッピーなんだよね。そういうところでも女性の自立っていうところが、すごいある女性で、しかもグレタ・ガーウィグみたいな、本当にこう自立した女性に囲まれて育って、そしたら「マイク・ミルズ出来ます」みたいな。そういう環境で育ったらね、すごいなんかこう女性を尊重するような感じには育つよなって。
有坂:そうだね。マイク・ミルズの映画って、本当になんだろうやさしさに包まれているじゃん。本当にこの人って根っこが優しいんだなっていう。なんかそのマイク・ミルズの原点も観ることができると思うので、ぜひ! ちなみに、これはA24(エー・トゥエンティーフォー)配給の作品なので、そういった尖った映画を探している人にもおすすめです。あと、これはオープニングシーンが最高なので。
渡辺:どんな感じだったっけ?
有坂:車ですよ。駐車場にとまっている車がさ……この先言えないけど。
渡辺:あーあー!
有坂:最高ですよ! 『20センチュリー・ウーマン』、観ていない方はぜひ観てみてください! 

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有坂:はい、そういうことで、フィニッシュ、10本!!
渡辺:なかなかいいのがそろったんじゃないですか!
有坂:けっこう被らなかったね。良かった良かった。 他にもね、やっぱりハリウッドのね、裏側の話とか、いっぱい面白いのがあったけど、ぜひみなさんも西海岸切り口で映画を観てみるのも面白いかなと思います。最後にお知らせなどあれば。
渡辺:そうですね、インスタとかで、日々いろいろな映画情報を発信していますので、そのあたりもぜひチェックしていただけると嬉しいです!
有坂:11月のイベントなんですけども、今決まっているのだと、11月2日(火)、岐阜県で「マーケット日和」という大きなマルシェがあって、そこで野外上映会をやります。11月9日(火)は静岡県御殿場にあるとらや工房で、イベントをやるんですけど、これはもうちょっと満席になってしまっているんですが、実は今回上映会だけではなくてね、展示もやります。展示はね10日間ぐらいかな、1週間ぐらいかな、ロングインタビューをまとめた文字の展示だったりだとか、あとは、僕の本棚、いつもインスタライブをやっている本棚の一部を再現したりとか、いろいろまとめた展示もやります。あとは、11月21日(日)に、六道山公園っていう武蔵村山にある、本当にもう自然豊かな公園の中で寒い時期ではあるんですけど短い時間、野外上映会とかもやりますので、このあたりの情報もInstagramホームページでアップしていきますのでチェックしてみてください!
渡辺:ありがとうございました!

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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。

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