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vol.05 手紙にまつわる和菓子「おとし文」【手紙の助け舟】


こんにちは。
喫茶手紙寺分室の田丸有子です。
木々の緑が色濃くなり、夏の匂いが感じられる季節になりました。みなさま、いかがお過ごしでしょうか?

二十四節気 「芒種(ぼうしゅ)」

2021年の芒種は6月5日〜夏至を迎える6月21日ぐらいまでの15日間を指しています。芒種の由来は稲や麦などの芒(のぎ)のある作物の種をまく時節というところから。春に花を咲かせたものが実をつけるこの時期は、感性の赴くまま、自由気ままに過ごすことが良いとされています。芸術に触れる機会を作ったり趣味の時間を増やしたりして感性を磨きましょう。やりたいことを制限すると心や体が乱れやすくなる時期でもあるそうなので、好きなことをためらわずにどんどんやりましょう。

和菓子を楽しむ「嘉祥の日」

6月16日は「嘉祥の日」といって、厄除けや健康招福を祈願して和菓子を食べる日です。ことの起こりは西暦848年までさかのぼります。その年は疫病が流行した年で、時の天皇である仁明天皇は年号を「嘉祥」と改め、神前に16種類のお菓子を備えて疫病除けを祈願したところたちどころにおさまったと伝わっています。これにちなみ6月16日は「嘉祥の日」として厄除けや招福を願ってお菓子を食べるという風習が広がり、昭和54年に全国和菓子協会が同日を「和菓子の日」と制定しました。

ところで、手紙にまつわる「おとし文」という和菓子があることをご存知でしょうか。「おとし文」というのは秘めた想いを綴った恋文や公然と言えないことを書いたものです。昔は直接渡さずに相手の近くにわざと落として拾わせたり、叶わぬ恋心をしたためて丸めて川に流したりしていたのだとか。そう聞くとなんとももどかしいようなロマンチックな気分になります。

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和菓子の「おとし文」は、オトシブミという虫が、卵を葉っぱにくるくる巻いて、地面に落としたものを手紙に見立てたものです。練り切りで葉っぱを作りあんこを巻くタイプと黄身しぐれのタイプがあります。「おとし文」の季節は小満(5月21日〜6月5日ごろ)とされていますが、銀座にある『清月堂』では定番商品として季節を問わず扱っています。今の時期は青梅の餡を包んでいるものがあるそうなので、うんちくをしたためた手紙を添えて「疫病退散」のお見舞いとして贈ると喜ばれそうです。

「嘉祥の日」が始まってから千年以上もの時が経ち、ふたたび新型コロナウィルスという疫病が流行しています。芸術的な美しさで季節を表現する目にも舌にも美味しい和菓子をいただきながら、まさに「嘉祥の日」にあやかりたい気持ちです。

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田丸有子(たまる・ゆうこ)|喫茶手紙寺分室 note ライター
手紙文化振興協会認定 手紙の書き方コンサルタント

子供の頃から「手紙魔」と呼ばれるほどの文通好き。
切手に描かれている美術品や絵画の実物を鑑賞するための美術館巡りが趣味。目下ステイホームで始めたベランダガーデニングに夢中。
blog: CORDIALLY YOURS 手紙魔の手紙物語

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