【エッセイ】新幹線の乗り方忘れました

まだ夜は明けておらず暗く静かだった。仕事だと朝起きれない私だが、自分の好きな事のためだとこんな時間に起きる事ができる。修学旅行でやたら元気になる学生のような気分だった。

私は手早く着替え、家を出た。気温は二度。寒いが、最寄駅に向かうため自転車を漕ぐ。先日何故か立てこもりのニュースになった吉野家の前を通過し、改札を潜った。

前に友人がこのイベントについて興味を持っていた。重々承知だが、この季節に未経験者が行うのはいささか大変な気がくるので今回は誘わなかった。もうちょっと暖かくなってきたら誘ってみよう。

ちなみに私としても一年振りになる。今年は病気や怪我で碌に運動が出来ず、気づいたら2021年が終わりかけていた。それにしても随分とご無沙汰になっていた。もう手順ややり方を大分忘れてしまっている。ちゃんと出来るだろうか。

私は電車にガタゴト揺られながらそんな事を考えていた。これだけ早く家から出てきても現地に着くのは朝が終わる頃になる。時間と金がかかっているのだから、無駄の無いように行動しよう。

私は東京駅に着き、えきねっとで予約したチケットを受け取ろうとした。新幹線改札前で予め受信したQRコードを当日専用券売機に翳した。

しかし、券売機の画面には「コードを読み取れませんでした。」エラーメッセージが表示された。何度やっても結果は同じである。なんだ、何故読み取れないんだ？

まあ、QRコードが読み取れなかったとしても、受付コードを手入力すれば良い。私はメールで受信している受付コードを手入力し始めた。券売機画面に表示された欄に一文字ずつ確認しながら埋めていく。これは問題ないでしょ。

しかし、残り三文字を入力しようとしたところで文字数がオーバーになってしまった。入力した文字列と受信した受付コード文字列を確認したが、どうも間違っていなさそうだ。何故だ？

いや、まだ確認方法がある。私は予約時に使用したクレジットカードを券売機に挿入した。予約時に利用したカードが有れば、自動的に発行してくれる。しかし、クレジットカードを挿入しても「予約されていません。」エラーメッセージが表示された。

私はテンパっていた。十分後の電車に乗らないと、予定の時刻に間に合わない。早く予約した切符を受け取らなければ。しかしどうやって?

私はIQが100落ちた江戸川コナンになりながら考えを巡らせた。もしかして、そもそも予約出来ていない？いや、それならメールが受信されていないはず。いっその事こと、新幹線の切符を買い直したらどうだろう?もうそうしよう。考えるの面倒くさい。

私は券売機で自由席購入のボタンを押した。画面には「購入した切符、もしくはSuicaを入れてください。」メッセージが表示された。

残念ながら、私PASMOアプリで改札を通っている。挿入できるモノは無く、アプリを翳す箇所が無い。

私は券売機横の受付を見た。既に長蛇の列になっている。ダメだ、間に合わない。どうする?どうすれば新幹線の切符を買える？

その時コナン(の10倍回転が遅い)脳がやっと閃いた。メールを確認すると「みどりの窓口券売機で受取りお願いします。」とあった。私はみどりの窓口を探した。見当たらない。電車発車まで残り五分。こうなったら。私は急いで近くの出口となる改札口を抜け、券売機に向かった。想定通り「みどりの窓口」券売機を発見した。

(よし、これで発券できる。)

私は「みどりの窓口」券売機で予約した券を発券した。やった、やっとできた。よし、これで乗れる。私は先ほど来た道を戻り、新幹線改札に勢いよく切符を入れた。ピンポーンとなり、係員が駆けつける。

「すみません。指定席切符のみなので、新幹線切符の購入をお願いします。」

急いては事を仕損ずる。無情にも予定の新幹線は行ってしまった。

過去にタモリは行っていた。

「真剣にやれよ、仕事じゃねえんだぞ！」

遊びの時こそ時間を守り集中して取り組んだ方が良い。今回の私の行動は完全に失敗した。

私は待ち合わせ先に居るはずのインストラクターに連絡しようとした、が、何度試しても繋がらない。これは置いてかれるのか。どうする? 三十分以上遅れて、向こうに誰も居なかったとしてもこの先を進むのか?

私はもう一度タモリの言葉を思い返した。とりあえず進もう。誰も居なかったらトンボ帰りだ。私は「みどりの窓口」で新幹線の切符を購入した。何故こんな簡単な事が出来なかったのか、不思議でしょうがなかった。

起床してから、かれこれ三時間何も胃袋に入れてない。頭がボーッとする。何か食べたい。しかし私のメンタルは衰弱しきっていた。新幹線に乗り、ボーッと車窓を眺めていた。ああ、でも富士山めっちゃ綺麗だ。

LINEに一件の通知が来ていた。見ると、インストラクターからだった。

「待ちますよー。」

おお、神よ。同時に急にお腹が空き出した。後でおにぎり買って食べよう。よく見たら今日は何て天気が良いんだろう。空に雲はほとんど無く、富士山はくっきり見える。典型的な西高東低の気圧配置による青空が眼前に広がっていた。

今日は素晴らしいダイビング日和ですな。私は冬の海をワクワクしながら車窓を眺めた。