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ニューヨークタイムズが選ぶ21世紀のベスト100冊(Part 3)

ニューヨークタイムズが文学界の著名人503人に向け行った21世紀のベスト100冊のアンケート結果(実際のアンケートではそれぞれの回答者に21世紀のベスト10冊を挙げてもらい、それらを集計してベスト100冊をリストにしたもの)から自分が読んだことある16冊をピックアップして、少しずつコメントを加えてみた。今回がPart3。

24位 Richard PowersのThe Overstory
この本の主役は樹木。地球が直面する森林破壊の問題を読みごたえある文学作品に仕上げている。この作家は音楽や科学に精通しており、それらの専門的知識を物語の構成や細部に散りばめることが多い。だからと言って決して学術論文のように退屈な文章にはならない。
例えばこの作者のThe Gold Bug Variationsという小説はバッハのゴルトベルク変奏曲とDNAの構造を絡めて下敷きにした恋愛小説だ。こうやって書いても全く意味不明だと思うが、試しに読んでみてもらえばわかっていただけるだろう。

18位 George SaundersのLincoln in the Bardo
第16代米国大統領リンカーンにはエディという4歳の幼さで亡くなった息子がいた。この小説はそのエディが埋葬された墓地に棲む幽霊たちと悲しみに浸るリンカーンとの交流(?)を登場人物の発言や歴史上の事実を記した書籍からの引用などを繋いで物語を進めて行くといった独特な構成で描いている。この小説の世界に入り込むのには少し時間がかかるかもしれない。最初は何が何だか訳がわからず投げ出したくもなるだろう。
幼い息子の死を受け入れることができなかった傷心のリンカーンが頻繁に息子の墓を訪れ、亡くなった息子との交流を試みていたという話を20年以上前にどこかで耳にしたGeorge Saundersはそれ以来ずっとこの本のアイディアを温めてきたそうだ。その事実だけではあまりにもストレートで面白みに欠ける話になってしまう。自分にこの物語を、決して陳腐なものにならない形で書き上げる力量が備わるのを待っていたらしい。

15位 Min Jin LeeのPachinko
この本をいつどこで購入したかはよく覚えている。一風変わった生い立ちの幼馴染に会うため訪れた米国ウィスコンシン州にあるラクロスという大学街のBarnes&Noble。その幼馴染は彼の地の大学で教鞭を取っている。専門は戦中戦後の東アジア史。彼自身はこの本を読んでいたわけではなかったが、歴史にあまり明るくない私の認識不足に少しでも足しになればと思ったのかこの本を買うよう勧めた。別の古書店では日系アメリカ人作家John OkadaのNo-No Boyという本を勧められた。これは彼自身も読んでいて強く勧められた。PachinkoもNo-No Boyも移民(Pachinkoの場合は韓国→日本、No-No Boyの場合は日本→アメリカ)の話。いずれも人種差別が扱われた話という先入観抜きに手にとって然るべき読みごたえある優れた小説だった。

11位 Junot DiazのThe Brief and Wondrous Life of Oscar Wao
作者のジュノ・ディアスはドミニカ系アメリカ人。この本も上記のPachinko同様移民の話ではあるが、全く違ったノリの小説。Spanglish(スペイン語と英語をミックスした表現)やストリートの若者言葉を散りばめたディアスの独自の言語感覚、ラテン文学が得意とするマジックリアリズムの要素、物語の語り手の切り替え方、注釈の多用等々、独特のノリで読ませる。説明するのが難しい面白さ。
途中、主人公の姉がトモコという日本人の女の子と文通するというくだりが出てきて嬉しくなったのを覚えている。私もトモコなので。ただそれだけのことだが…

Part 4 に続く

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