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30年ぶりの再会

むかしむかし英語講師のバイトをしていた頃の友人と30年ぶりに会った。

彼女は30年前にドイツ人の男性と結婚してベルリンに行ってしまった。実際に我々が同じ職場で働いた期間は一年にも満たなかったかもしれない。職場の飲み会か何かで終電を逃してしまった時に彼女のアパートに泊めてもらった。そのアパートは井の頭線の明大前と永福町の中間あたりにあり、2階の角部屋だった。私はそのアパートがすごく気に入った。やがて、彼女のドイツ行きが決まり、私はそのまま彼女のアパートを家具付きで引き継いだ。

最初の頃、彼女との連絡手段は郵便だった。既にメールの普及はスタートしていたが、今のように家にパソコンがあるのが普通だったわけでもなく、ましてやスマホが出現するまでにはまだ10年あった。どこかの時点でメールのやり取りに移行はしたが、彼女の当時のドイツ仕様パソコンには日本語表示機能がなかったためローマ字でのやりとりしかできなかった。Sore wa nakanaka modokashii yaritori datta.  
そんなこんなで連絡も間遠になり、当時使っていた自分のメールアカウントにアクセスできなくなり、彼女のメールアドレスもわからなくなり、彼女の連絡先がわからなくなってしまった。Facebookやその他SNSが日本で普及し始めた頃、彼女の名前で検索をかけてみたがどこにも引っ掛からなかった。もう彼女には会えないと諦めていた。

今年の春先、ベルリンが舞台となる小説を読んでいて、ふと彼女を再度探してみようと思い立った。彼女のフルネームの他にベルリンというキーワードを入れてみると、ベルリンにある教育機関に彼女と同姓同名の女性が在籍している事がわかった。早速その教育機関の問い合わせ窓口にメールを送ってみた。

「ご担当者さま  こんにちは。私、〇〇△子と申します。実は、⬜︎⬜︎◯子という方を探しているのですが、そちらの△△の職に就いていらっしゃる⬜︎⬜︎◯子さんではないかと思い、問い合わせをさせていただきました。お手数ですが、ご連絡いただけますと幸いです。」

Bingo! その日のうちに彼女から返信があり、お互いの最新の連絡先を交換し、LINEでも繋がった。夏頃には一時帰国するから会おうという事になり昨日の再会が実現した。

待ち合わせ場所に現れた彼女は30年前とあまり変わっていなかった。高校時代はバスケをやっていた彼女は日本女性にしてはかなり高い170cm以上の長身。目鼻立ちもハッキリしていて宝塚の男役もいけそうな男前。

「30年前と全然変わらないねぇ!」
と声をかけると
「歳食ったよ。もうすっかりババァだよ!」
と笑う。この照れ隠しの荒い言葉遣いも昔のままで嬉しくなる。

私が何かの話で「ダンナの手伝いで…」と口にしたら、
「えっ?結婚したの?いつ、どこで、だれと?!」
と食いついてきた。
ついつい彼女が30年前と何ら変わらないノリで接してくれているので会わなかった月日の間の出来事を全てすっ飛ばしてしまっていた。

そうかと思うと食事の途中、ベルリンにいる彼女のダンナから電話が入った。30年前に彼は彼女の家族との顔合わせのため来日し、その時に私も彼に会っていた。電話の途中彼女は強引に私に電話を差し出してきたので少し彼と話をした。

"I remember you.  I think we all went to eat some delicacy from Osaka.(君のことは覚えているよ。みんなで大阪の名物料理を食べに行ったよね。)"
"Okokomi-yaki?"
"Yeah!"

30年前がまるで昨日のことのようでもある。

「じゃ、また来年会おうね。」
と片手を振りながら、彼女は故郷の新潟に向かう新幹線に乗り込んでいった。

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