今こそキンモクセイを聴け

「こんにちは、ありがとう、さよなら、また逢いましょう」

 ACのCMではない。キンモクセイの楽曲「さらば」の印象的な一節である。この曲、ある程度以上の年齢の日本国民なら大方聴いたことがあるだろう。テレビアニメ「あたしンち」のオープニングテーマとしてタイアップされたからである。大槻ケンヂも「コアなファン 捨てても欲しい タイアップ」と一句詠んでいたが、やはりタイアップの力というのは凄い。どんなに好みではない曲であっても半強制的に一番美味しいところを耳にねじ込んでくる。スーパーで試食のおばちゃんが通り過ぎる買い物客の口に無理やりウインナー詰め込んでくるようなもん。強烈なクレーマー(アンチ)を生み出すリスクを伴う一方で、リピーター(ファン)を見つけられる可能性もグンと跳ね上がる、ハイリスクハイリターン諸刃の剣等価交換の原則禁忌の錬金術。しかし、有名になることと引き換えに負うリスクはそれだけではない。タイアップのついた曲が「一人歩き」してしまう……要するに、一部の太客となった人間以外にはその1曲だけの知名度が上がりすぎて、いわゆる「一発屋」となってしまうリスクも高まってしまうのだ。

 「キンモクセイ?あ〜、「さらば」だっけ?懐かしい^^え?あのチャルメラの曲(恐らく「二人のアカボシ」のことだと思われる)も同じ人たちなの?知ってる^^他の曲?聴いたことない^^」

 屋上へ行こうぜ……久しぶりに……キレちまったよ……ウインナー詰め込んでやろうか?キンモクセイは、世間的には「さらば」とヒットした「二人のアカボシ」の二発屋扱い……一部のコアな音楽好きと当時のファン以外には薦めてもこの二曲を聴いて、懐メロとして満足されてしまうのである。いや、違うから。その二曲は確かに美味いよ?だけどお前は天ざる頼んだら海老天だけ食って帰るのか?水戸黄門観るとき印籠出す所まで飛ばすのか?しないだろ?お前のやっていることはそういうこと、万死に値する。助さん、角さん、殺っておしまいなさい。とりあえず以下の曲を聴け。釈放するかはそれから決める。

 彼らのディスコグラフィーの中で最も言及される機会が少ない(気がする)2ndアルバムから。このアルバムはキャリアの中で最もロックに寄っている印象で、The PoliceやOasisからの影響が感じられる。この曲はシングルカットはされていないがリリース以前からライブでは披露されておりファン人気は高かったらしい疾走ブラスロック。歌詞はちょっとアホっぽいがそれが良い。余計なことを考えて頭が腐る前に聴け。

 10年ぶりの活動再開作のクロージングトラック。アルバム最後にこんなん流れてきたら泣くでしょ。キンモクセイは2000年代にあって昭和レトロな作風が売りの一つではあったが、当初からジャズに傾倒していたテクニカルギタリスト後藤秀人の美味しい出汁がふんだんに使われたアダルトなトラックである。旨味を出そうと思ったら昆布、鰹節、後藤。

 大滝詠一「ナイアガラカレンダー」への熱いリスペクトが感じられるカレンダー形式の4thアルバムより、8月担当のこの曲。夏の曲っていうのは常夏を感じるハッピータイプと夏の終わりの切なさを感じさせるサッドタイプがあるんですが、日本で後者の曲といえば井上陽水「少年時代」、ZONE「secret base」そしてこのキンモクセイ「僕の夏」でしょ。イントロのアルペジオだけで既に夏休みの終わりにトリップできる。宿題終わらないどころか宿題の冊子学校に置きっぱなしにしてるの今気づいて顔面蒼白になるところまでいける。

 まぁこの調子で進めると2兆年は続くので、とりあえずこの3曲を聴いて少しでも引っかかるものがあった人は名盤と名高い1stアルバム「音楽は素晴らしいものだ」(このタイトルが素晴らしい)から順に聴いていくと良いと思う。ここからはわざと選曲しなかったので素晴らしい音楽とのファーストコンタクトが出来ると思う。近年ネオシティポップブームみたいなものもあったが、それもボーカロイド出身グループの隆盛に伴い落ち着いた印象のある今だからこそキンモクセイを聴け。オレンジスパイニクラブじゃないしフジファブリックの名曲でもないから間違えるな。いいか。分かったな。ウインナーはボイルしてから焼くより焼いてからボイルした方が美味いからな。


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