HETE(GO!GO!夏おじツアー所感)

 私は泉の精。貴方が落としたのはこの「綺麗なライブレポ」ですか?それともこの「汚いライブレポ」ですか?

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・綺麗なライブレポ

□キンモクセイのGO!GO!夏おじツアー2022 at 原宿RUIDO(2022/9/4)

 コロナ禍に突入し、ライブ産業のあり方を大きく変えてしまってから3年。久々の東名阪ツアーを若干の自虐と開き直りとエネルギーを感じる「GO!GO!夏おじツアー」と名づけたキンモクセイ。そのツアーファイナルとなる原宿RUIDO夜の部を観た。
 RUIDOはキャパ300ほどだが、感染対策上の観点から恐らくその半分程度までしか発券はしていなかったと思われ、やや余裕のある状態で観ることが出来た。そのためもあってか直前に急遽昼の部の開催も決定したのだが、両公演ともソールドアウトとなったようだ。
 コロナ禍に突入してからも数える程度は彼らのホームであるまほろ座町田を利用してライブが行われたこともあったが参加出来た人数は限られており、今回のツアーが3年以上振りの有観客公演となったという観客も多かったのではないだろうか。それを思わせるように、開演を待つ間のRUIDOは皆の期待が空気中に放出されているのが分かるような、これまでにない雰囲気を纏っているように感じられた。

 そのような高揚した空気感の中、18:00になるとメンバーはぬるりと登場し、絶妙にゆるいMCの後、「SUMMER MUSIC」で爽やかにライブはスタート。アッパーな「真っ赤な林檎にお願い」と畳み掛けると観客はお決まりの振り付けでレスポンス。ベースの白井雄介も途中のMCで述べていたが、「一緒に演奏しているような、一緒に歌っているような」一体感が早くも形作られていく。と、ここで唐突にボーカル伊藤俊吾が「ウルトラマンタロウ」の主題歌をカットイン。「〜そしてタロウがここにいる」と歌うと、「太郎のおかたづけ」へシームレスに繋がりズッコケそうになるが、確かな演奏力と歌唱力あってのおふざけであり「これこれ、これがキンモクセイなんだよな」としっくりきてしまう。

 相変わらずのゆるいMCを挟んで次のブロックは、ヘヴィなギターとカビ臭い畳の匂いを感じるような世界観が絡み合う、個人的に四畳半ハードロックと呼んでいる「密室」から。楽曲のテイストの振れ幅には毎度驚かされるが、ここからディスコ調の「車線変更25時」へその名の通り車線変更をきっちり決めると、「都市と光の相対性」「渚のラプソディー」とシティポップ調の曲が続き、さっきまでのゆるさはどこ吹く風でクールな演奏を聴かせてくれた。
 Chicago調のキーボードから始まる「手の鳴る方へ」ではMegadethを意識した(?)流麗なツインリードをバッチリキメたかと思うと、アウトロではギター後藤秀人と佐々木良のカッティング合戦が始まり、そこからキーボードソロ、ベースソロ、ドラムソロへと繋いでいき、バキバキに仕上がった演奏に思わず舌を巻くものの、白井雄介がLed Zeppelin「移民の歌」のリフを挟むと伊藤俊吾が「アァア〜!」と思わず応じてしまうなど格好良いだけではなくやはりユーモアを忘れないのがキンモクセイの大事な要素なのだと笑ってしまった。
 恒例の代表曲「二人のアカボシ」はここで早々に登場し、再結成後新たな代表曲となった「セレモニー」へ新旧名刺代わりの名曲リレーへ。伊藤俊吾は事あるごとにこの「セレモニー」という曲をいかに気に入っているかという話をしているが、まるで再結成前の曲のように馴染み切った演奏を聴くと、出来るべくして出来た曲なのだなあと思わされる。確かな腕前の売れっ子サポートミュージシャン達がテクニックをひけらかすわけでもなく、下手すると「地味」とも受け取られかれない、しかしながら言い換えると盤石な演奏で良質な音楽を追求しているという点で、この曲は日本のSteely Danと言っても過言ではないだろう。
 最終ブロックは90年代ブリットポップ的な「Pocket Song」から「同じ空の下で」へと2ndアルバム「風の子でいたいね」のエンディングを踏襲した緩やかな流れから始まり、ピアノの弾き語りからしっとりと歌い上げる「ひぐらし」が、終わっていく夏の寂しさをイメージさせる。会場が夏の夜のしんみりとした雰囲気に包まれたところで、フィードバックノイズが鳴り響き張替智広のフォーカウントから今回のライブでの白眉であった「僕の夏」が始まる。哀愁漂うアルペジオのイントロからバンドがインしてくると、終わりを惜しみながらも最後まで全力で突き進む、瓦解しながら地球へ帰還する人工衛星のような、切なさを感じさせながらも勢いのある演奏があまりにも凄まじく、少し泣けてしまった。
 夏をあまりにも爽快に終わらせたところで本編ラストは「アシタ」。余談だが、この「GO!GO!夏おじツアー」というか、今年のキンモクセイのキーワードの一つが「HETE=経て」であった。これは今年がデビュー20周年ということで、20年という年月を「経て」今がある、という意味らしいのだが、これが「経た」ではなく「経て」という連用形であるところに、「これからも続いていく」というキンモクセイの決意表明が見て取れるような気がしており、ラストを「アシタ」で締めるところにもそれが感じられて未来への余韻を残す終わり方でとても良かった。
 一度メンバーが退場してからのアンコールは、まだ残っていた夏ソング「七色の風」から、伊藤俊吾が初めてギターを手にするといつもの口上「さよならするのは辛いけど」から代表曲「さらば」へ。ここで終わるのかと思いきや、アンコールラストは少し意外な「生まれてはじめて」。あまりこの曲でライブを締め括るイメージが無かったのだが、この曲はカレンダーアルバムである「13月のバラード」中で6月の曲として収録されており、本編で夏が終わったがやがて月日が巡り翌年の初夏が訪れる、という「アシタ」同様に「続き」を演出している選曲なのかもしれないと考えたりもした。
 MCでは10月24日のデビュー記念日に向けて新曲の制作に本格的に取り組んでいるという話も飛び出し、懐メロバンドなんかではなく、「おじ」になってもまだまだ先を見据えて未来志向で突き進み続けるキンモクセイの今を感じられるとても良いライブであった。これからも追いかけ続けます。

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・汚いライブレポ

□キンモクセイのGO!GO!夏おじツアー2022 at 原宿RUIDO(2022/9/4)

 バカテクおじさん達の戯れことキンモクセイの東名阪ツアー東京公演に行ってきました。元々夜公演オンリーだったのが急遽昼公演が追加されたのだが「もう1回遊べるドン!」的な軽いノリでライブを増やすんじゃない。バカテクが過ぎるだろ。
 場所は老舗原宿RUIDO。ここの出演アーティストのチケットは大体3000円くらい、高くて4000円くらいなのだが、そんな中5500円ドリンク代別という価格設定でも昼夜2公演ともソールドアウトとなったキンモクセイ、おじさんでありながら完全に原宿の街を蹂躙している。おじさんの時代が来ている。今こそ竹下通りにキンモクセイショップを作れ。車線変更25時を人気Youtuberに踊らせて変な空気にしろ。「〜おじ」という語尾を中高生の流行語にしろ。
 そんなおじさん達のライブのオープニングはやはり一味違った。ジャーン!!というギターストロークと共に気合の入ったボーカルの煽りで幕を開けるなんていうのはもう遅れている。今時のおじさんたちは演奏前にまず喋る。ノープランで。コレですよ。ライブに来ていたのか日高屋の隣のテーブルの会話を聴いているのか分からなくなるような、日常と非日常が交差する異常空間Z。コレが最先端のおじさんのライブ。脳がバグる。ちなみに喋りすぎた時のタイムキーパーはゴング。ツッコミが追いつかない。
 しかしながら「SUMMER MUSIC」から始まるタイトな演奏は年季の入ったおじさん達の飄々とした本気を見せつけられ流石の一言。簡単に見えるように凄い仕事をやってのけるというのが一番格好良い。イケオジ。ジョージ・クルーニーがバンドメンバーなだけある。しかし令和の原宿RUIDOでウルトラマンタロウをやたら良い声で歌い上げたり「丹波哲郎の大霊界」の話をするのこのおじさん達だけだろ。自分たちで原宿に来ておきながら、次の瞬間光速で原宿を置き去りにするスタイル。嫌いじゃない。「太郎のおかたづけ」とかいうテクノポップと字余りフォークのキメラが結構盛り上がるのもどうかしている。だが、それが良い。
 今回のツアータイトルは「GO!GO!夏おじツアー」なので「夏だ!プールだ!サマーランドだ!」的な健康的な語感なのだが、それでもセットリストに「密室」をぶっ込んでくるあたり、若者の頃から原宿なんて行かずに自宅前の自販機前にたむろして暖を取っていたというボーカルイトシュンの鬱屈とした心の一部が垣間見られるようでとても良いです。そういうのもっとくれ。
 今回のセットリストで意外だったのは「二人のアカボシ」が割と早々に登場したこと。いわゆる「キメ曲」な訳だがホームアローン2のトランプくらいあっさり登場しあっさり去っていった印象。「若者の冬の逃避行」的なイメージで、いわゆる「夏おじ」的なコンセプトとは真逆だったからかもしれない。一方で阿部サダヲくらいバリバリの存在感を放っていたのが「ひぐらし」から「僕の夏」へのThe End of Summer的流れ。これは「僕の夏」が「少年時代」「夏祭り」「若者のすべて」に匹敵するサマーアンセムになり得ることを証明していたと思うくらいエモの過剰供給で涙が止まらず、気がついたらRUIDOが水没しておりNevermindのジャケットみたいになってた。なんで「僕の夏」が国歌の国に自分は住んでいないのか本気で分からない。早くしろ。間に合わなくなっても知らんぞ。
 この後ラストに「アシタ」を持ってきたのもエモかったですね。「約束の時間が気づけばそこに迫ってる」「あの日の夜が答えになる支えになる」って歌詞をライブの終わり際に「あー明日も仕事かー」ってピカソの泣く女みたいな顔になっちゃってる時に聴かされたら一瞬でサンシャイン池崎と化す。寿命を前借りしないエナジードリンク。徹夜明けみんな「アシタ」を聴け。疲労感が消滅したゾンビ兵士と化せ。
 総括すると疲れ切った身体に濃厚なオジルギー(注:おじ+エネルギー)を摂取できる2時間半の急速充電器だったわけだが、終盤のMCでも述べられていたように有人ライブ=そこに人が集まるというだけで、互いにエネルギーを与え合い結果何倍にも膨れ上がるという相対性理論を完全に無視した結果をまざまざと見せつけられた。日本は今すぐこれを発電に利用し、火力、水力、音楽力を新たな電力供給の三本柱として来たる真冬の電力不足に備えるべきだろう。
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いかがでしたか。あなたが落としたのは……えっ、どちらでもない?正直者の貴方には今すぐ夏おじツアーのレポートを書く権利をさしあげましょう。さあ。早く!今すぐに!

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