キンモクセイ20周年記念に捧ぐ

 2021年10月24日、ポピュラーミュージックグループキンモクセイがメジャーデビュー20周年を迎えた。キンモクセイは10年ほど活動休止期間があるので、これはメジャーデビュー20周年と活動10周年がほぼ同時に来たことを意味する。一粒で二度美味しい。アーモンドグリコだろこんなん。

 しかし「20年」という数字、これはすごい。The Beatlesの2.5倍、すなわち2.5Beatlesに相当するし、さらに2.9BOØWY、4.0キャンディーズ、5.0Donald Trump、ということでもある。すごい。このような偉業は相模原市役所通りに銅像を建てて祝日を制定し、三日三晩飲めや歌えのどんちゃん騒ぎで祝われるべきであろう。

 ところが、コロナ禍という未曾有の大災害が被せてきたとはいえ、2020年11月のYoutube上での配信ライブ以降、年が明けて20周年を迎える2021年に突入しても、キンモクセイは不気味に沈黙を保ち続けていたのである。マジでダンマリで何も告知なし。禰󠄀豆子でももう少し喋るぞ。

 このままなんの活動も無いままぬるりと20周年記念日を迎えてしまうのか……もうだめだと諦めかけたその時、Twitterにて、いきなり怒涛の活動予定告知ラッシュが行われたのである。ピクリともしていなかったのにいきなり動くな、びっくりするだろ。晩夏の路上に横たわるアブラゼミの挙動をするんじゃない。

 いきなり「キンモクセイの約120分」と題したYoutube上のラジオ番組を無料で配信。ただの動画なのでスポンサーも無く、広告設定も無いのに120分?無料で?マザーテレサか。しかも「約120分」と題しておきながら蓋を開けてみたら再生時間140分59秒……。「約」の振れ幅大きすぎるだろ。我々は消費税2%の値上げですらヒーヒー言ってるんだぞ。17.5%増って人が死ぬレベルだろうが。悪魔的発想。こいつら、人間じゃねえ……。

 しかも、この141分、ダレることなくずっと面白い。記録魔ギター佐々木良による年表を元にこの20年を振り返るわけなのだが、ベース白井雄介の確かな記憶によるユーモアを交えたスムーズな進行に、メインソングライターとして重圧を背負っていたボーカル伊藤俊吾のその時々のリアルな空気感の独白を乗せることでバンドの歴史を追体験出来、今では想像できない若き頃のドラム張替智弘の狂犬エピソードがスパイスを添える。ギター後藤秀人はたまにしか喋らないがその一言と存在自体が旨い出汁を出しているので居るだけで良し。五者五様のキャラクターが音楽だけではなくトークにおいても黄金比を形成しているのがよく分かる。牛乳を加えた場合のコーンフロスティの栄養バランスチャートに匹敵。ミルクボーイもビビる。

 更に翌週は通常2人で放送しているレギュラーラジオに5人集結。オイオイ17.5%増の次は150%増か?インフレ率がドラゴンボールの戦闘力並。フリーザ親子をトランクスが瞬殺したシーンの衝撃に近い。このままコンテンツの過剰なインフレが続き1曲20分のプログレ曲をリリースしたり、24時間耐久配信をしたりするのだろうか。いいぞもっとやれ。ただし身体には気をつけろよ。

 そして極め付けが1日2回の配信ライブ。2回で被り無し合計30曲を披露した上、「突撃テレフォン」と称してライブ中にランダムに選んだファンに生電話をかけるという狂気の沙汰。猪突猛進すぎて伊之助もドン引き。テレフォンショッキングですら後期にはちゃんと事前にアポを取っていたというのに……。オジー・オズボーンのコウモリ食い、イギー・ポップの全身ピーナッツバター塗りたくりと共にアーティストのライブ中3大奇行の一つに数えられることは間違いない。しかもBGMが「ちゅ〜る」のCMソング。シュールすぎてもはや現代アート。キンモクセイは草間彌生に肩を並べた。

 ライブ自体の素晴らしさは最早覆うべくもないが、休止期間のそれぞれの音楽活動を経て、更に油の乗り切った演奏スキルで奏られる時にリアレンジを施した楽曲群は、配信ライブという表現上のハンデを背負ってもなお素晴らしいものであった。それは伊藤俊吾の言う「配信ライブは配信ライブで演奏に集中出来るという正の側面もある」という配信の特性と元々の卓越したソングライティング能力から生み出された楽曲群がガッチリ噛み合った結果だったのかもしれない。所謂ポップス寄りの音作りのバンド(アーティスト)というのは作り込まれた録音作品はそれはそれで良いのだが、ライブで大化けする可能性が凄く高い。彼らの敬愛する山下達郎も録音にはこだわりまくることで有名で、ライブはそれに比べて劣るとずっと思っていたものの、後に『レコードの場合は、クォリティを高める目的で何回もトライしてるんだけど、お客の前で一発勝負でドンと出してる音が、それを軽くゲット・オーバーするんだよね。(週刊FM 1989 No.23より)』と語っている。詰まるところ修正の効かないリアルタイムの緊張感の魅力が、「完成度」を上回ることを我々は知っている。そう、ライブ演奏に彩りを加える魅惑のスパイス「緊張感」を加えるため、キンモクセイは突撃テレフォンを断行したのだ。そこまでの考えでこのライブを企画したとは、キンモクセイ、恐ろしい子。

 この2週間に渡って繰り広げられたキンモクセイフェスティバルも終わりを告げてから早1週間が経過したが、年明けにもヒットシングル「二人のアカボシ」リリース20周年を記念した企みがあるそうなので要チェックである(これも上記のライブ中に突如ミーティングが始まり決定していた。自由すぎるだろ)。

 何はともあれデビュー20周年おめでとうございます。これからもその斜め上の企画力と新たな名曲のリリースを楽しみにこれからも応援していきますので、ゆる〜く頑張ってください。ズタボロの精神状態で敢行された活動休止ツアーでしか披露されていなかった「未来」が今回満を辞して披露されたのは、張替智洋の「20周年はマラソンで言うと折り返し、大手町にいるところ」という発言と相まって、これからの活動へポジティブに突き進もうという統一された意思が感じられてジーンときてしまった。

 ……ん?大手町?折り返しは芦ノ湖で、大手町はスタート地点では……?




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