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それは恐ろしく美しい女。

眠れずにぼうっとしていた時、ふとスマートフォンのメモに入れたままにしてあった、昔写メ日記に書いた文章を見つけた。
それがなんだか今の自分の心境にとても合っていたので載せる事にした。あ、全然更新してなかったけど、これからもポツポツと書いていくよ。

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『おい。お前のおばさん不倫してるぞ。』

まさにそれは青天の霹靂だった。当時高校三年生だった私は、いつも通り学校に着きクラスメイトに挨拶をした。すると、仲の良かった友人が開口一番こう言ったのだ。

当時私の家庭は色々なことが起こっていた。祖母が亡くなり、父は心筋梗塞で意識不明の状態が長く続いており、祖父まで体調を崩した。元々精神的に弱かった母親は昼夜泣き崩れ、大学進学で遠方へ行ったきり帰ってこない姉は我関せずで、私が母と父と祖父の面倒を見ている状態だった。
そんな時に耳に飛び込んだ衝撃の言葉。驚きすぎて言葉が出なかった。

私の叔母は、地元の洋菓子チェーン店の店長をしていた。その別の支店でアルバイトをしていた私の友人は、ある日アルバイトへ出勤すると、パートのおば様連中が噂話をしていたというのだ。

『全くひどいもんよねぇ。義兄が危篤で奥さんは精神病んでて、おじいちゃんも具合が悪くて、しかも大学進学を控えた娘さんが面倒見てるんでしょう?そんな状況で不倫だなんて、よく出来たもんよねぇ。』

友人はその話を聞き、あれ?どこかで聞いたことある話だな…と思った。そして、パートさんに尋ねた。

『それってもしかして…』

『そうそう!◯◯店の店長!専務と不倫してるんだってよ!信じられないわよねぇ〜』

そして、次の日登校してきた私に、友人は言ったのだった。

私の叔母は、愛想がよくニコニコした小柄な女性だった。決して美人という訳ではないが、明るく可愛らしく人当たりが良いので、気難しい親戚連中が多い中で上手く立ち回っている印象だった。しかし、その叔母が不倫とは。とても不倫をするようなタイプには見えない。と言うより、私も当時まだ高校生。不倫だなんて小説の中のお話だと思っていたので、どんな人が不倫をするかなんて想像もつかなかった。
しかし、先日父の病室で叔母と会った時、私は気付いていた。叔母の左手の薬指には、いつもあるはずの結婚指輪がなかったのだ。あぁ、そう言うことか。点と点が線で繋がり、私は妙に納得した。

数日後、私はアルバイト先のデパートへ向かった。実は、叔母が店長を務める洋菓子店は、私がアルバイトしていたデパートの中のテナントだった為、たまに顔を合わせることがあった。
この日、休憩中に私は食品館へ向かった。食品館の入り口には、叔母が店長を務める洋菓子店がある。私は何となく気になって、前を通る事にした。
遠くから洋菓子店の方の様子を伺う。そこには忙しなく働く叔母の姿があった。臙脂色のエプロンと揃いの三角巾をつけたその姿は、いつもと変わりがない。
しかし、私は驚いた。目を疑った。

その日の叔母の横顔は、恐ろしい程に美しかったのだ。

化粧もほとんどしていない、忙しくて髪も乱れている。しかし、その横顔は信じられないくらいに美しく、輝いていた。主婦として母親としてしばらく恋することを忘れていた女が、再び女としての喜びを思い出し、生命に満ちたオーラに包まれていた。
私はしばらく叔母の横顔に見惚れてしまった。しかし、はっと我に帰り、食品館で飲み物とパンを買い、アルバイトに戻った。

その後私の父親は回復し、今も元気に仕事をしている。母親も元気に穏やかに生活している。
叔母は、その後その不倫相手とどうなったのかは知らないが、叔父と叔母は離婚することもなく、今も仲の良いおしどり夫婦に見える。だが、実際はどうなのかは分からない。親戚とはいえ他人の家庭だ。こうして私の日常は変わらずに過ぎていく。

しかし、私はあの日の叔母の美しさを忘れられない。これほどまでに恋は人を変えるのか。その事実は、その後の私の人生に大きな影響を与えた。
叔母のした事は悪い事だ。しかし、叔母のあの輝きを見た私は、それが間違いであったとは思えない。人生であんなに輝ける瞬間があるだろうか。輝きを知らずに人生が終わってしまう人もいるだろう。そんな中で一瞬でも輝いた叔母は、素晴らしい体験をしたんじゃないだろうか。思春期に身内が不貞行為を働いていたら、普通は軽蔑するだろう。しかし、私は軽蔑しなかった。尊敬する訳でもなかったが、なぜか軽蔑や憎しみの感情は全くなく、どこか遠くの方からぼんやりと叔母のことをただ黙って眺めているような感じだった。

不倫は悪い事だ。決して肯定はしない。しかし、全てが間違いじゃないと私は思う。私もいつか、恋で自分の事をもっと輝かせられるだろうか。輝き越しに見る世界はどんなものなんだろうか。私は叔母の見たその世界を知りたい。そう強く思うのだ。

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という文章を数年前に書いていたのだが。まぁ、そうなんですよね。当時不倫してたんだよね。多分不倫しなければ、こんなに風俗の仕事を頑張らなかったし、整形もしなかったし、noteも書いてなかったと思う。心の中の恋の炎を燃やして私は綺麗になっていったのだ。努力をしたのだ。間違った事をしている自分を肯定したくて必死だったのだ。正しさとは何なのか。私はまだ暗中模索し、深く静かな海の底でひとり泳いでいる最中なのだ。


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