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【エッセイ】KAWAMURA

長年、Jリーグを見続けていると、選手の鮮烈なデビューを目の当たりにすることがある。
初めてプロのピッチに立った選手が、少しも怯むことのない、堂々たるプレイを披露する姿。
度肝を抜かれた観客たちは、閃光のようなその選手に、たちまち心をつかまれてしまうのだ。
滅多にお目にかかることのない、奇跡のような幸運である。


ビューティフルデビュー

先日、私は素晴らしいデビューに居合わせることができた。
2023年4月16日、福島県のいわきグリーンフィールド。
J2・いわきFCのサイドバック、河村匠選手のデビュー戦だ。

私はサポーターだが、サッカーのプロフェッショナルではないので、詳細な分析をすることはできない。
しかし、しっかりと体を張った河村選手のプレイは、ルーキーのデビューとは思えないほど堂々としていた。
サイドバックとして自陣を守るだけでなく、攻撃の始点として、ピッチの左端を敵陣へと駆け上がる。
その力強い姿に、ゴール裏のサポーターたちは沸きに沸いた。

サポーターとして、その素晴らしい場に立ち会えたことが、とにかく嬉しくてたまらない。
今思い出しても、ニヤニヤ ニコニコしてしまうほどだ。
大袈裟でも何でもなく、愛するチームに灯った新しい光。
その光が輝き出す瞬間を、この目で見られたのだから。

試合後、河村選手ご本人に声をかける機会に恵まれた。
「すごく良かったです、おめでとうございます」
伝えたのはこれだけだが、嬉しそうにお礼を言ってくださった。
これからのご活躍が、楽しみで楽しみで仕方がない。

悩ましきレプリカユニフォーム

胸がすくようなデビューを目の当たりにした私は、河村選手がつけている、16番のレプリカユニフォームを欲しくなってしまった。
おそらく、同じことを考えているサポーターは多いことだろう。

私は今年、レプリカユニフォームを買い替えておらず、去年のデザインのものを身に着けている。
(もともと、ビンボーな懐事情がアレなので、数年に1度しか買わない)
ここでドカンと奮発して、16番のユニフォームを買ったとしても、おそらくバチは当たらない。
しかし、私にはお財布以外の大きな迷いがあった。
以前のエッセイにも書いたが、私がある特定の選手を推すと、必ずその年でいなくなるというジンクスがあるのだ。

これは非常にユユシキ問題である。
私が16番のレプリカユニフォームを着るということは、河村選手を推すということだ。
そうですアタシは河村選手推しですと、お天道様に宣言するようなものではないか。
ここで一発、滝行などの苦行でもすれば、この悲しいジンクスを洗い流せるのだろうか。

薄氷のピッチ

Jリーグの世界は、芸能人が引くほど厳しいと聞いたことがある。
レギュラーを勝ち取っていた選手が、その年の秋に戦力外通告を受けることなど、珍しくもない話だ。
やっとJリーガーになったのに、一度もプロのピッチに立てぬまま、引退していった選手もたくさんいる。

約8か月の長丁場とはいえ、1シーズンの試合数は40試合程度。
その中で結果を出さなければ、戦力外通告を受けてしまうというわけだ。
そう考えると、選手たちが試合をしているピッチが、薄い氷でできているように思えてしまう。

J2に限っていえば、ここまで12試合を消化し、残りはあと30試合。
選手たちには怪我をせず、強く強く進んでいってほしいと願っている。

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