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〖八花設計室〗 3月の作品ジャケットデザイン

haccaノベルのデザイナー、石川です。
haccaノベルのデザインについて〖八花設計室〗と題してお届けします。設計室はそのままでも、デザインルームと読んでいただいても結構です。

今回は、現時点で掲載されている3作品の表紙デザイン、これをhaccaノベルではジャケットと呼んでいますが、そのデザインの意図などを解説していきたいと思います。

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まず最初は吉岡雨さんの『オールドファッション』。みなさんは、すでにお読みいただいていますか? まだの方はぜひ本編をお読みください。haccaノベルのスタートを飾るのにふさわしい、甘く、きゅんとする物語です。

ジャケットのデザインにはタイトルそのままですが、チョコがけのオールドファッションをモチーフに使用しました。実際に購入し、撮影したものをイラスト風にアレンジしています。そのことによって、つかめそうでつかめないような、ガラス越しの雰囲気を醸し出しています。

中央に配置しているのは、そんなぽつんとしている少し寂しい気持ちを表現するためでした。もちろん構図としては安定感のあるものです。ガラス越しの寂しい感じと、やがて訪れる安定感、その両方を暗示させるものです。

フォントには筑紫B丸ゴシックを用いて、物語全体が纏っているやわらかさを表現しました。カーニングして、ぎゅっと握りしめるような感じも表しています。

お皿には差し色としてhaccaカラーに近いものを配色しました。背景は均一なお店の明るさを表しています。

このジャケットデザインを通して、より物語を楽しんでいただければ、とても嬉しく思います。

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続いては、haccaノベルキュレーターでもある丹宗あやさんの作品。『むげつ/有月』です。

月の満ちてゆく様子をデザインに織り込みました。こちらの月のモチーフはイラスト素材から探し出してきたものです。元々は横に並べてあったものですが、それを縦に配置しています。そして一番下の満月はボタンへと変化しています。

こちらも物語を読んでいただければ、その配置の意図することが分かります。背景はインディゴブルー。主人公の羽織っているコートの色です。そこからほつれるボタン、満ちて見える幻を表現しました。ジャケット全体でコートも表しています。

月の色をhaccaカラーにしたのは、月の色がそんな風に見えそうな、やるせない寂しさを表現したかったからです。haccaの色はチョコミントのような甘い爽やかさもあり、少し寂しい美しさもあると思っています。

haccaノベルはnoteに掲載されている小説をキュレートして紹介していますので、どうしてもディスプレイによる色の違いは生じてしまいます。そのため、ジャケットもWEBカラーで表現できるものにしています。なるべく同じように届くように調整をしたいと思っています。とはいえ、主役は物語です。その物語を引き立てるデザインになっていたら、嬉しく思っています。

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最後はわたし、石川葉の作品、『ディクショナリー』です。

元々の表紙はアルファベットのDの文字に、アネモネとラナンキュラスを自ら刺繍をしたものでした。ちなみに電子書籍版はまだその表紙のままなので、物語が気に入った方はぜひご購入いただき、ダウンロードしてください。最近は刺繍をすることから離れていますが、今後ジャケットの作成にまた針と刺繍糸を持つことがあるかもしれません。リバティープリントに刺繍するのがとても好きです。リバティープリントは、その布で作品を作ることが許諾されているので、デザイナーとしても使いやすい、というのもあります。

では、今回のデザインの方に戻ります。背景全体に花柄模様を散りばめました。こちらも素材集を用いています。少しウィリアム・モリス的なところがあるでしょうか。わたしの好きな装丁に阿部和重さんの小説『ピストルズ』があります。ウィリアム・モリスのいちご泥棒が使われているのですが、とてもいい。小説もすこぶる面白いです。自分の選ぶ10冊の中に入るんじゃないかな。

ジャケット、差し色を2箇所に入れています。ふたつの花の花弁がその色に。登場人物なつめとあんずを表しています。もちろんふたりは「舞台の華」なのでそれを表現しているのですが、背景に埋もれているのは、こんなセリフがあるからです。

「好きな花に梱包されてわたしたちは天国に運ばれる。遺言する、わたしたちは好きな花に囲まれたいと」
「遺言する。わたしたちは好きな花に囲まれて天国にゆきたいと」

しっかり梱包されて旅立ちたい。ですから、今の世界の状況が早く落ち着きを取り戻し、別れを悼む時間を持てるようになってもらいたいと願います。

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少し駆け足でジャケットのデザインをご紹介しました。それぞれの作品を読んでもらう呼び水となるように、これからもよいジャケットをデザインしていきたいと思っています。デザイナーとしては、ジャケ読みしてもらうのも嬉しいかな。

このように〖八花設計室〗ではデザイン周りのお話をデザイナー自ら解説します。次回はWEBサイトについてお話しようかなと思っています。

それでは、引き続き〖haccaノベル〗をお楽しみください。


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