マガジンのカバー画像

spin a yarn

1,113
私の世界はどこまでも平ら、レイヤーの目を入れたり消したりして、時々君の前に現れよう。 石川葉による小さなお話の連作。
運営しているクリエイター

#掌編

【spin a yarn】
「おめめのキスをちょうだい」
「おめめのキス? まぶたに?」
「そうじゃなくて、パチンとするやつ」
「ウインクね! いいよたくさん送っちゃう」
「ステラはおめめのキスがじょうずね」
「ルチアの見せる猫のキスも嬉しいよ。そうやって大好きな人に届けるの」

【spin a yarn】
月の滴る。
夜はくすぶって、まとわりつく。
星の声はくぐもって、懐かしい歌のよう。
おやすみ、おやすみ。
月の果汁はマンダリン。
夢にかける甘いシロップ。
ことさら甘い、よい夢を味わえますように。

【spin a yarn】
心のままに歩むこと。
熱烈に神を求め、至った。同じように美と物語を求めよう。
今は聖書の言葉があるのだから、もっと確か。
あなたに素敵を届けたいと願い、探す。見つけたら、あなたの心をノックする。
こんな素敵なものを見つけたから一緒に喜んでください、と。

【spin a yarn】
わたしは、星の言葉の僕にならず、聖書の言葉の僕になろう。
星のおしゃべりは、好きよ。
不思議の、不思議を語るのをまばゆく見る。
星影の歌う賛美の大きいこと。たまに人のことを歌うこと。
不思議の、不思議を語るのを慄いて見る。

【spin a yarn】
わたしの嬉しいは、誰かの苦しいに、なっていないかな。
喜びを吟味する。
炭酸水を飲みながら、彗星を見ること。
無音なのに、あまりに大きいこと。
無音なのに、とても、嬉しいこと。

【spin a yarn】
祈る。
空から降る激しい雨が、やみますように。
やまない雨も確かにあること。
人の解き放った放射線の雨が、知恵により、やみますように。
知恵による先手は、賞賛されないけれど、気づいて感謝できるように。
政治に、千里の目が与えられますように。

【spin a yarn】
泡と光。
訪ねる者、ハライハライ。
遠巻きに見つめる者、フイルムと影、数多の太陽、ハライ。
凍える、トパーズめいたその繭を。
(溶かして形になるなんて)
カーテン越しに明日の太陽。
名乗りを上げる星々。
青白い顔を見せる麗しい孤独の弧。
(ほどけば音)

【spin a yarn】
「星はどうする? トッピングする?」
「クラッシュしてまぜちゃう」
「ふうん、私はカチリカチリさせるのが好き」
「私は、スワークルの中でパチパチはじけるのが好き」
「だいぶ摘み取ったから、夜が暗くなってしまったね」
「月をトリプルスクープすればいいよ」

【spin a yarn】
インクの子どもたちがはしゃぐ。
内側の夢に住むわたしたちがそぞろにメイクアップをする。
「思うままに」
「自由に」
「大切なことを大胆に」
「そしてチャーミングに」
手を打ち鳴らす、舞台に飛び出す。
スポットライトを当てる。
わたしたちに戸惑いはない。

【spin a yarn】
7月の雨にはレモンカードが混ざるような気がするの、酸味のある黄色い幸せ。
天真爛漫はしばらくとっておくけれど、日々、目の奥に酸い喜びを届けるよ。
雨もまた、光の喜び。お気に入りの傘から溢れる音を拾って、タタタ。
レインブーツの、無敵にまっすぐ歩く。

【spin a yarn】
クローゼットに隠れる。
つんとした樟脳の匂いに慣れれば、目も明るくなる。
頬を撫でる生真面目な布の腕。その外套から漂う、ぬくもり、重い獣の匂い。
ここには冬の夜が逃げ込んでいる。暖められた煤のような冬。
外套が呼吸をする。
群がる気配。
羽ばたく気配。

【spin a yarn】
私の影がそっと耳打ちする。虹の麓へ連れていって。
宝探し? 
ううん、と言う。色をね、纏える。
追いつけないよ。
知ってる。だから、嘘だよ。
私はお菓子の小箱を開ける。色とりどりのラムネのセロファン。
透かして空を見る。
私の影が、ほんのり赤く色づく。

【spin a yarn】
夜。注がれるもの。いつも新しい。
星。またたくもの。いつも懐かしい。
今日の夜は、明日はなく、
今日の星は、いつかあった。
こういう四次の幻想をボトルに汲み、ラベルを貼る。
採取日:2020年6月28日1時47分。星渡り。

【spin a yarn】
今宵のペーパームーンはチェダーチーズ。
雲にスモークされてくすぶっている。
月に腰掛けるのを素敵だって思う人を、連れてくるんだよ。
雲に隠れてキスすることを、二人の秘密にできる人を連れてくるんだよ。
ひとかけ齧るのを見ても、それは君の秘密にするんだよ。