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spin a yarn

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私の世界はどこまでも平ら、レイヤーの目を入れたり消したりして、時々君の前に現れよう。 石川葉による小さなお話の連作。
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#詩

【spin a yarn】
自分が見当たらない曇り空の今日は
歩くことや音聞くことを
丁寧に行い
それで十分、という日を過ごす
倒れるように現れる、わたし、わたし、わたし
まだ所在がない
どれもわたしだけれど、皆、少しずつ虚ろ
欲しい物を尋ねれば
囀りの翻訳
君という言葉はあるの

【spin a yarn】
夕方に手が届くこと
その喜びが思いがけず
いつから、と振り向けば
年端のいかないわたしが佇んでいる
長く待った、と言う
それはすでに、わたしを纏っている
深く息を吐く
球根を目覚めさせるのは誰なのでしょう、と

【spin a yarn】
春めく
ドラムロールが聞こえる
心は浮き、そして安堵する
悲しい記憶はあり、
ずっと見えない不安に包まれたままだけれど
春はいいな
足の裏を叩く
枯れた枝は、もう仮初めに見え

【spin a yarn】
窓にふれる
指がふるえる
音を聞くこと
いつからか、痕跡を残すことを恐れてしまって
小さく生きている
音を聞くこと
不覚に知られても
それは輪郭
指がふるえる
窓をやわらかくすると
朝の震えが白く曇る

【spin a yarn】
礼拝を終えて、雪を待つ。
わたしの緋色の罪は、主の血で贖われている。
正しくなりきれない者だけれど、それを知るので、主にあって正しいことを求めてゆこうと思う。
雪を待つ。
罪を知らないと嘯く罪を、拭ってくださる方を思い、祈る。

【spin a yarn】
わたしの心は灰青になり
鳥の声や
星の声が

はいあお、いい色
と歌うような声も

【spin a yarn】
言葉があらわれる
もう少しもう少し
気がつけば、繁茂している
そんな風景を期待している
心の冬は去った、と
まだ確信を持って言えないけれど
もし、春が来たら
どんな言葉で祝おうか
不思議な物語を束ねるから
もう少しもう少し
(楽しみに)
待っていて

【spin a yarn】
東京に雪が降る。
浮き足立つほどには、特異で、
白けた目で見られるほどには、心構えが拙い。
政治を見るように寒い、のろのろとしている。
鹿爪らしい顔をしているけれど、何もしない。
東京に雪が降る。
字面だけで美しい。
相応しい振る舞いを考える。

【spin a yarn】
喜んでいようと思う。
自分のみじめさが恥ずかしかったのだけれど、
それでも衣食があり、長く眠ることもできる。
こうやって書く場所もあること。
敬虔になることは難しいのだけれど、
その方がずっと自分らしく、楽しい。
必要なことは一つ。
良い方を私も選ぶ。

【spin a yarn】
夜の子どもたちが芽吹く
星の目配せ
帳の匂い
月影の足
夜光雲
それぞれ夜の名前を戴いて
若い呼吸をしている
やがて夜気を滴らせる時
そのインクで何を書こう
ひとりひとり
名前にふさわしい
美しい夜を書こう

【spin a yarn】
朝は、昨日の朝に似ている。
夜は、いつかの夜に似ている。
鳥の声を待つ。
文字が体の中に足りないことに気づく。
今日も少しずつ新しいわたしになり、若枝を心に見つける。
その枝に鳥がやってくるのを待つ。
囀るのか、啄ばむのか、見極め、しるしとする。

【spin a yarn】
ニセアカシアを纏ったならば、何だか偽物になれそうな気がする。
本物になるくらい難しくて、少しも報われないの。
集めたガラス玉をあげる。
わあ、という心の方が宝物なの。

【spin a yarn】
耳にとまる

はホルンを吹いて呼びかけている
群がる
わたしの頭は蝶がひしめき
新しい人になる
涙はラメ入り
ツノを持てば水の気配の強弱がつぶさに分かる
やがて頭だけ飛んでゆき
新しい蝶になる

【spin a yarn】
我が家に新しい病いがやって来た
これは完全に戦わなければならないもので
気を抜けない
それでも、日々を淡々と
過ごす、
しかし、祈りも必要としています
ふたりの人生をつまびらかにしたら
小説よりも嘘みたい
どんな風にしたい
たくさん旅行するために稼ごう