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spin a yarn

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私の世界はどこまでも平ら、レイヤーの目を入れたり消したりして、時々君の前に現れよう。 石川葉による小さなお話の連作。
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2020年6月の記事一覧

【spin a yarn】
クローゼットに隠れる。
つんとした樟脳の匂いに慣れれば、目も明るくなる。
頬を撫でる生真面目な布の腕。その外套から漂う、ぬくもり、重い獣の匂い。
ここには冬の夜が逃げ込んでいる。暖められた煤のような冬。
外套が呼吸をする。
群がる気配。
羽ばたく気配。

【spin a yarn】
私の影がそっと耳打ちする。虹の麓へ連れていって。
宝探し? 
ううん、と言う。色をね、纏える。
追いつけないよ。
知ってる。だから、嘘だよ。
私はお菓子の小箱を開ける。色とりどりのラムネのセロファン。
透かして空を見る。
私の影が、ほんのり赤く色づく。

【spin a yarn】
夜。注がれるもの。いつも新しい。
星。またたくもの。いつも懐かしい。
今日の夜は、明日はなく、
今日の星は、いつかあった。
こういう四次の幻想をボトルに汲み、ラベルを貼る。
採取日:2020年6月28日1時47分。星渡り。

【spin a yarn】
今宵のペーパームーンはチェダーチーズ。
雲にスモークされてくすぶっている。
月に腰掛けるのを素敵だって思う人を、連れてくるんだよ。
雲に隠れてキスすることを、二人の秘密にできる人を連れてくるんだよ。
ひとかけ齧るのを見ても、それは君の秘密にするんだよ。

【spin a yarn】
星纏い。
それはガウン、帳を裂いて羽織る。星の繋がれ方で階級が分かる。
(チンカラホイ)
星纏い。
目や耳の側で瞬く光、或いはピクシー。肩に座るそれを運命と呼んだりする。
(巡り合わせ)
(空も飛べるはず)
本当はもう少しうろんな。
病の発露。星憑き。

【spin a yarn】
星焼けの頬
繋げばヘラジカのひづめ座
頬に足音が響く

フレークル
昨日、うっかりカーテンを閉め忘れて眠った

【spin a yarn】
夜と文字に親しむ。
わたしを取り囲み、読まれようとしている文字たち。
わたしの内側でうねり、物語しようとしている文字たち。
誰彼かまわず、あてどないおしゃべりを降らす星々。
その言葉を口に含めば、弾けて舌の上で音になる。
未草、星を数える、と歌い出す。

雨の自由。
昼も夜もまたたくように降ること。
そうすれば、夜の星の自由。
昼のおしゃべりのようにやまない。
(クスクス)
(西の国が溶ける)
(どんな風に)
(ジャムのように)
(クラウドベリージャムのように)
(クスクス)
ビューラーしながら、おしゃべりする、そんな自由。