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北欧流の暮らしと社会

体当たりNPO運営記(25)2017年9月記
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会員メルマガの発行が遅くなってしまい、申し訳ありません。犯人は、はい、わたしです。
最近、仕事のボトルネックになりつつあるのが、はい、わたしです。
ここのところ、多忙の度合いが、振り切れてきました。日中はアポや打ち合わせで詰まってしまい、いつ、原稿を書くんだろう……という状況で、方々ご迷惑をおかけしております。頭ではわかっているんですけどねえ……。

それでも、休む時は休む、遊ぶ時は遊ぶ! ということで、この夏はきっちり11日間休んで、休暇のすべてを海外旅行に費やしてきました。行き先は、ノルウェーです。2つ下の妹が学生時代に1年間、ノルウェーに留学していました。フォルケホイスコーレといって、北欧を中心に広がる「成人教育」の寄宿制学校で、成績も評価もない、工芸や芸術や文学など、社会で生き学び暮らし表現するための知恵を学ぶ場とでも言えばよいのでしょうか。今から35年前に山形にやってきたノルウェー人宣教師家族の長女・ルツさんと同じ歳で大親友だった妹が、幼い頃からずっと「将来は一緒にノルウェーに留学しよう」と約束していて、ノルウェーは今やグローバルに活躍する彼女の原点になっています。今回わたしも妹の通っていたStavernという地域にあるフォルケホイスコーレに行ってきましたが、まさにこの場が、ノルウェーの「誰もが尊厳を持ち平等に生きる権利がある」を体現しているように感じました。

わたしは12年前に、ルツさんの結婚式でノルウェーを初めて訪れ、9日間滞在しました。今回は、その時に出会った人たちを訪ね歩く旅でもありました。主に妹がプランを立て、オスロ空港からレンタカーでノルウェーの南側を車で走破し、その距離なんと、合計1500km! 慣れない左ハンドルとロータリー式の交差点で、運転手を務めた夫は大変だったことと思います。それでも、一般的なツアーでは体験することのできない、ノルウェーの普通の暮らしを味わい、またノルウェーの豊かさと課題なども知ることができました。

ノルウェーは世界中でもかなり物価の高い国です。日本の感覚からすると2~3倍。長女が驚いていたのは、いわゆるコンビニで買うコーラが、日本円換算だと450円くらいすることです。ちなみにトランジットで滞在したタイでは約50円でした。外食をするととんでもない値段になるので、妹の友人宅でごはんを食べられたことはたいへんありがたかったです。
物価が高いのは、税金が約25%含まれているからで、これが福祉の基盤になっています。90歳を超えたルツさんの祖父母をグループホームに尋ねましたが、風光明媚な場所で尊厳を持ちながら自立して豊かに暮らしています。
ノルウェーはワーキングマザーが多く、働く女性が9割を超えています。ノルウェーでの保育園の考え方は、すべての子どもたちの普遍的権利ととらえられており、満員でも断ることがないため、待機児童という概念すらないそうです。授乳中の人は、勤務時間内に2時間は有給で授乳時間をとれるとのことで、男女ともに仕事は16時に終わるのが普通で、遅くとも17時。18時には家族揃って食卓を囲むことができます。共働きではなく家庭で育児をする場合は、月間6000クローネ(約9万円)を国から支給されるため、働くか働かないかを自分で選択することができます。また、年間で5週間バカンスを取ることが法律で決められているそうで、多くの人は夏に取りますが、例えば夏に2週間、冬に2週間、春に1週間というふうに自分で決めて自由に休めると、友人は言っていました。

世界で最も男女共同参画が進んでいると言われ、職種も働く機会も平等です。フィヨルド観光をした時のフェリーを運転していたのは女性でしたし、工事現場に女性の姿もありました。「ノルウェーは、お医者さんでも、病院を清掃する仕事の人も、お給料に大きな差はなくて、同じように尊敬されている」と話してくださいました。ノルウェー滞在中は5軒のお宅で過ごしましたが、男性も当たり前のように台所に立ち、食器洗いやコーヒーを淹れるなどしていました。

物価も高いが所得も高くて生活満足度も高い、子どもも女性も男性も移民も、誰もが個人として尊重される権利を持ち、それを国が保証している。だから豊かで堂々としていて、子連れ外国人旅行者である私たちも、まったく肩身の狭い思いをすることなく、そこで生活するかのようにノルウェーに馴染んでしまいました。3歳児を連れての旅は決して楽ではないですが、1人で小学生と3歳を連れて歩くシーンでも、困った時には道行く人が声をかけてくれたり、お店でも邪魔者扱いされることはありませんでした(そして、多くの人が英語を話せ、標識も英語が併記されることが多いので、コミュニケーションにも問題ありませんでした!)。

それから、わたしは「エコめがね」を持っているので、エコめがねをかけるとノルウェー滞在のあらゆることがエコで紐解くことができたのも、おもしろかったです。

築100年の家でもDIYセルフビルドの家でも、窓は木製でペアガラスが当たり前。比較的新しい家は高性能の真空断熱ガラス。薪ストーブのある家も多く、暖房に限らず調理や団欒など家の中心的存在でした。ノルウェーは北海油田の開発で世界第7位の石油輸出国、世界第2位の天然ガス輸出国です。エネルギー資源が豊富なので国が潤っているという側面もありそうです。原子力発電所はなくて電気エネルギーはほぼ100%水力発電でまかなっているそうです。家庭のエネルギーでは電気の使用割合が高く、都市部の住宅では、電子レンジ、食洗機、洗濯乾燥機がある家が多かったです(田舎の古民家暮らしの女子宅や、オフグリッドでセルフビルドの山小屋には、もちろんありませんでした! ライフスタイルにより選択している感じですね)。
スーパーなどではビンのリユースが進んでおり、デポジット専用の自販機のようなものがありました(使い終わったビンを入れるとお金が戻って来る)。レジ袋は有料ですが希望すればもらえます。お買い物の感覚は日本と近いように思います。
食の安心・安全面では、NON-GMO(遺伝子組み換え作物を使わない)が徹底されており、牛乳・畜産などでは飼料もNON-GMO、成長ホルモンなども使わないそうです。食事はオープンサンドが一般的で、全粒粉の素朴なパンに、チーズやサーモン、タラコのペーストをのせ、コーヒーをガブ飲みする(笑)。外食は高いのでサンドイッチをお弁当に持ち、夜はスープとパンという感じです。食事に関しては、正直、日本が抜群に繊細でバリエーション豊富で贅沢だと思いました。

11日間、暮らすように旅をしてきて、ノルウェーと日本の違いと共通点を、様々な角度で見てきました。そして、海外を旅して戻ると、「日本も、決して悪くないなあ」と思うのです。食べ物は豊かだし美味しいし、自然エネルギーだっていっぱいある、自分で工夫してDIYやセルフビルドをやったり、働き方だって自分で決められる……そう、「自分で決められる」んですよね。
ただ、本当はあるべき権利を「社会常識」にとらわれて、自分で放棄していないか、ということが、少し気になります。なんか、日本では周りの空気を読んで、同調圧力を(自分で)自分にかけて、自己規制する向きが強いような気がします。わたしは、「普通の会社員(や公務員)として働く」ことから降りてしまったので、収入は減ったものの働き方も自分でつくっていて本当にラクなんですが(でも盛り込みすぎて自分で自分の首を絞めているんですが)、なんとなく日本全体に息苦しさや諦めや無関心のようなものが蔓延してしまっているのは、「誰もが自由に自分らしく生きられる権利」があるということを、忘れてしまっているからではないでしょうか。

最近、わたしの中で「男女共同参画」とはなんぞやということがブームなので、日本の女性がなんでこんなに生きづらいのかを考えることが多いです。ノルウェーで友人に、日本の「保活」や、ワーキングマザーの悲哀について話すと、すごく不思議がられました。子どもが保育園に入れるのは平等な権利であり、国はそれを保証する義務があると。長時間労働を強いられたらそれは不当であると裁判を起こすのが普通ではないかと。
「おかしい」ことをそのままにせず、不満の中で生きるよりも、まずは自分で選んで自分の環境を変えること、声を上げること。工夫をすれば、お金がいっぱいなくても、生きていけるのだと思います。

ちなみに、わたしは今の働き方も今のライフスタイルも自分で選んでつくっていて、仕事が大好きですし精神的ストレスもないものですが、でもわたしに与えられた時間は等しく平等で有限ですし、そろそろ物理的に限界も出てきているので、本当に働き方を変えていかなければならないなあ、と痛切に感じています。でも、森ノオト自体が今は上げ潮なので、仕事はとっていきたいし広げたい。だから、わたしが抱え込むのではなくて仕事を適切に分配してプレイヤーの裾野を広げて、チーム力を高めていく方向にわたしの仕事を変えていかなければならないですよね。
暮らしも仕事もわたし自身も一体なので、ノルウェーで得たヒントをもとに、自分がこうありたいと思えるような、広く温かくゆったりとまあるい人間になれるよう、不惑を前に努力しようと思った9月初旬でした。

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