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ハッカーを読め (3/7) 『鷲の驕り』

過去に雑誌等に書いた記事を再掲しています。編集前のものなので、出版されたものとは異なるし、掲載にあたり若干修正している場合もあります。これは2007年に発売された、UNIX MAGAZINE Classic に書いたもの。


服部真澄『鷲の驕り』

導入部、登場人物であるケビン・マクガイヤとサソウ・ツヨシの描写が、あまりに実在の人物のまんまなので思わず笑ってしまうのだ。ハワイで開かれる I・NET というコンベンションは、1995年夏の INET '95 からの着想だろうか。翌1996年2月、サンディエゴで ISOC セキュリティシンポジウムに参加している最中にミトニックの逮捕が大きく報道されたことを思い出す。

ミトニック事件と似ているのは2人の人物設定だけで、小説のストーリーは事件と関係なく展開される。それだけに、ここまで似せる必要があったのかという疑問もわくのだが、とにかく事情を知っているとオイオイという感じで楽しむことができるのだ。

作者の服部真澄さんとは、後の作品「バカラ」についての取材を依頼されてお会いしたことがある。激しい作風からは想像できない穏やかなものごしの素敵な女性だった。その時点では本作品の内容を知らなかったので、ミトニック事件について話すことができなかったのが今となっては残念である。

ミトニック事件については当事者である下村努が書いた「テイクダウン」が出版されている。この中に、下村と一緒にミトニックを追い詰める Mark Seiden というセキュリティエキスパートの名前を見て驚いた。事件よりも10年近く前に会っていたからだ。と言ってもシリコンバレーの Mac ショップで立ち話しただけだったのだが、当時彼は西海岸と東海岸を行ったり来たりの生活をしていて、しばらくニューヨークだから留守の間西海岸の家に住んでてもいいぞと初対面のぼくに言ってくれた。はじめて異国に滞在していた日本人は、その感覚にずいぶんと面食らったものだ。さらに、彼は 4.3BSD のマニュアル作成にも関わっていて、4.4BSD の開発のために CSRG と共同作業していた時に Kirk McKusick の口から彼の名前を聞いた。その後1997年に再会して懐かしい話をすることもできたが、今だもって謎の多い人物である。


Kevin Mitnic

服部真澄

西田さん

下村努

2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩先生の息子だったということでも話題になった。テイクダウンについては、内容はほとんど憶えていないのだけど、冒頭に出てくるギークが集まる変な家みたいなのが妙に印象に残っている。なんて名前だったかな。

Mark Seiden

初対面で部屋を貸してやると言われたのは本当の話。会ったのは、ComputerWare という Macintosh 専門店。Palo Alto の California Ave. にあった。できたのが1985年らしいから、その翌年だ。

当時彼はサンフランシスコのダウンタウンに住んでいたはずだ。1986年、僕は長期出張で Mountain View の Sun Microsystems が職場だったので、毎日通うのは無理だったけど、週末だけでも貸してもらえばよかったか。

その後、1997年に IIJ でセキュリティに関する新サービスを企画していた時に、アメリカ出張中に相談に乗ってもらったことがある。この時は、家族も一緒にアメリカに渡り、1週間カリフォルニアにいた後、翌週、僕だけドイツの IETF に参加して、戻ってから休暇を取ってディズニーランドに行ったんだったかな。

Seiden 氏には、その合間に時間を取ってもらったんだけど、再会した時に、あれは本気だったのかと尋ねたらもちろんという返事だった。その代わりに、どこかに行った時には泊めてもらうのだそうだ。そういえば、コンサル料を払うからインボイスを送ってよと言ったきり返事がこなかったので、タダ働きさせてしまった。ごめんなさい。

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