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Jリーグ新人補強検証 ~「目利き」が上手いのは?~

はじめに

こんにちは。

 僕はサッカーだけでなくプロ野球も好きなのですが、プロ野球で一番興奮するイベントの一つがドラフト会議です。ドラフト会議の魅力は何よりもその戦略性です。どこが誰を1位で指名するのか、競合覚悟で人気選手を指名するか、隠し玉を指名するのか、2位以降はどんな順番で指名するのか。このドキドキ感は選手・首脳陣など当事者だけでなくファンも一体となって楽しむことができます。

 サッカーにはこのようなドラフトの制度がありません。Jリーグの仕組み上、選手・チームお互いの同意があれば注目選手を何人も獲得することができます。

 この違いはどこから生まれるのでしょうか。理由の一つとして、野球にはサッカーのユースのような組織がなく、また選手の移籍も活発でないため新人選手が補強の大きなウェイトを占めていることがあります。サッカーの場合ユース出身の選手も多く、高卒・大卒新人をあまり獲得しないチームも少なくありません。

 ところで、野球の場合ドラフトの成否がチームの成績にも大きく影響することがあるためドラフト後には「検証記事」が出回ります。そして、「ドラフトの結果が出るのは数年後だ」という考えから「○年前のドラフトを振り返る」という記事・2ちゃん(5ちゃん)の掲示板も多くあります。

 一方でサッカーにこのような記事があるかと思って調べてみると、シーズンオフ中の記事はあるものの「数年前を検証してみた」系はほとんどありませんでした。(嘘です。めんどくさくてほとんど調べてません。

 ということで、前置きが長くなりましたが調べていきます。

対象と定義について

今回調べていく対象は以下に当てはまる選手です。
2010~2015シーズン(14-15のシーズンオフ)に高卒でJクラブに加入した選手と、2010~2018シーズンに大卒でJクラブに加入した選手。ただしユース出身者は除く。
・加入から5年がたち、高卒選手が23歳を迎える2015シーズン新入団選手までを対象としました。2010年からとしたのには明確な理由があって、たくさん調べるのは面倒くさいからです

 そして、判断の基準は以下の通りです。今回は極めて曖昧な基準でやらせてもらいます。
S評価:日本代表(フル代表)に継続的に選ばれるか、海外クラブへステップアップを果たした選手
A評価:J1で絶対的な主力として活躍している選手
B評価:J1で継続的に出場機会を得ているかJ2の絶対的な主力
C評価:J2で継続的に出場機会を得ているかJ3の絶対的な主力
D評価:J3で継続的に出場機会を得ているかJ1~J2で出場機会に恵まれない選手
E評価:J3で出場機会を得られていないか、Jクラブに所属していない選手(なお、以前にJリーグで十分な出場機会を得ていた選手に関してはその都度考慮する)
 以上の基準で検証していきます。素人の分際で選手に「格付け」をするのは非常に失礼だとは思いますが、あくまで客観的に、出場機会という側面から見ていくのでお許しいただきたいです。

 つべこべ言ってないでとりあえず見ていきましょう。以下とても長くなるので、よほど物好きな方々以外は気になるチームだけ見て最後の方まで飛ばすことをオススメします。

コンサドーレ札幌

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伝統的にユースからの昇格が多く、調べた期間で加入した選手は非常に少ない。更に、主力で活躍している選手はおろか現在も所属している選手が1人もいないという結果になった。近年はやや大卒選手の獲得が増加。

ベガルタ仙台

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「どのチームも札幌くらいの数だったらなあ...」と思った矢先の14人。ただ、J1で活躍し名前を知っている選手も多く西村・シュミットと2人の海外でプレーする(した)選手も輩出したので割と面白かった。


鹿島アントラーズ

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貫禄のジーコブランド。超有望株しか獲らない、といえばそれはそうなんだけど、それでも「ダメに」しないのはすごい。惜しむらくは殆どの選手が現在は所属していないこと。それがまた鹿島なのかもしれない(哲学)。ちなみに他にもバルサの安部なんかがいる。

浦和レッズ

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いない。びっくりするほどいない。宇賀神と阪野もユース出身だし。かといってユース出身者が定着しているかと言えばそうでもない。ここ最近少しずつ増えてるのは移籍市場でのブランド力低下の影響だろうか。

柏レイソル

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少ないだろうなとは思ってたけど、ここまでとは。笑 まあユースがあそこまでしっかりしてるチームなら必要ないんでしょう。逆にどうして2010は?と思ったけどそれまでは少し獲ってたっぽい。
あと移籍組だと大南と神谷なんかも所属している。

FC東京

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柏などと同じくユースがしっかりしているチームだが大卒選手も非常に多い。目立つの明治や中大など都内強豪大学からで、今季も即戦力3人が加入。また武藤や丸山、安部など下部組織から大学を経由して“復帰”するケースも多い。一方で高卒選手の獲得は少ない。

川崎フロンターレ

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多い!めっちゃ多い!特徴は今も川崎で活躍している選手が多いこと。特に中村憲剛なども含めて代表にまで上り詰める選手が残り続けている。そして今年も三苫と旗手という超注目株を確保。この戦略が続くのか...?あと全然知らなかったけど楠神って今南葛にいるんだ。

横浜FM

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名の知れた選手が多いものの、J1で絶対的な主力となっている選手は少なめ。マリノスで活躍する選手…となると更に少ないが仲川でお釣りがくるか。最近は「J2で活躍した大卒2~3年目を獲得」という超効率的な手段に移行しつつあるが、と思えば興国の高2を3人も囲い込み。イチイチやってることが最先端すぎる。笑

横浜FC

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うーん。何とも言えない結果。とりあえず多い、多いけど活躍しているのはほんの一握り。もちろん佐藤のような「バンディエラ」もいるが...長年J2にいたのも大きいのだろうか。ただ近年、ユース出身者が活躍し中山や松尾など大卒選手も即戦力となっているのは良い傾向だ。
なお、大崎はルーキーではないが特例としてここに入れた。

湘南ベルマーレ

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とにかく多い。その分、J1で活躍する選手も一線から退いた選手もいる。湘南と言えばキジェ監督の築いた「湘南スタイル」が特徴だが、メンバーの入れ替わりが激しいことも特徴だろう。難しかったのは「湘南で1.2年活躍した後急に出場機会を失い、他チームに移籍」という選手が多いこと。こういう選手を評価基準に当てはめるのがすごい難しかった。スタイルの独特さゆえ、湘南で活躍した選手が他のチームでも活躍できるとは限らないのだ。

清水エスパルス

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大卒、高卒ともに長く活躍している選手が多い。また、川崎などと同じく清水で長く活躍する選手が多いのも特徴と言えそうだ(特にAの選手)。逆に言えば清水を退団した選手もその後のチームで試合に絡んでいる。個人的には2013の獲得選手が渋すぎてめっちゃ好き。藤田息吹って清水だったのか。

名古屋グランパス

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一目でわかるように、B評価の選手が多い。その中でも現在名古屋で試合に絡んでいる選手は少なく、「目利き」という点ではともかく「選手補強」という視点では芳しい成果を挙げられていないと言えそうだ。本多など単年で活躍した選手はいるものの、非常に評価が難しい。伝統的に派手な補強が目立つチームなのも影響しているだろう。

ガンバ大阪

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ユース出身者が多く伝統的に高体連からはほとんど加入していなかったので、調べた期間では非常に少ない。ただ近年U23の始動もあって高卒ルーキーを取るようになった。このリストにはないが高や髙江、また中村敬斗らも獲得。彼らの結果が出るのはもう少し時間がかかりそうだ。またU23の終了に伴う新人獲得方針の変化にも注目したい。

セレッソ大阪

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もう一つの「大阪」もユース出身選手が多く人数は少なめ。特に言及することはないですが、関西出身の選手が多い。いやそうでもないか。あまり特徴が見出しづらい...U23がなくなって大変そうだし頑張ってほしい(雑)
あと安藤は今は町田ですね。

ヴィッセル神戸

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神戸も比較的ユースからの昇格が多いチームだが、とはいえお世辞にも補強として成功しているとは言い難い。ただし、昨今のバルサ化によりユースの育成はかなり一貫性あるものになりそうだし、魅力あるチームになれば自ずと有望な選手が集まってくるだろう。

サンフレッチェ広島

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注目すべきは森島・荒木・松本泰志といった近年加入の選手たち。ここに川辺や大迫などユース出身者が合わさった若いチームは非常に魅力的だ。また、韓国の高校・大学から加入した選手が多いのも特徴。ただし、必ずしも成功しているとは言えなさそうだ。

サガン鳥栖

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A~S評価のうちの多くの選手が鳥栖でしっかり活躍しており、逆にB評価の選手は鳥栖退団後にJ2でしっかりと出場機会を得ている。福岡大や鹿屋体育大など九州の大学からの加入も多く、地方チームの新人補強としてはあるべき姿を示しているかもしれない。
また、この表にはないが原輝綺も所属。

大分トリニータ

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多くの選手が既に退団している一方で、鈴木という長年DFラインを支える主力も獲得した。J2~J3の時代も長く経済的な余裕もないため人気選手の獲得は難しいと思われる中で、これだけ実績ある選手を輩出しているのは凄い。


集計

 さて、ここまででもかなりの重労働だったのですが、ここからチームとしての評価をしなければなりません。ただし僕は統計学などは全く習っていないのでド素人なりの手法で分析を試みていきます。

 そして、色々計算して当てはめた結果、まあこんなもんじゃないかな、という式が出来たのでそこにブチ込みました。まずは結果を見てください。

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いきなりこんなの見ても意味わからないと思うので説明していきます。
 「点数」とは
「S評価の人数×10+A評価の人数×8+B評価の人数×5+C評価の人数×4+D評価の人数×1.5+E評価の人数×0.1」
の値です。それを人数で割ったものが「平均点」になります。選手1人あたりが獲得した点数ということです。
 3つ目の表は各評価あたりの合計人数とその割合です。最後のグラフはExcelが楽しくて作っただけなので深い意味はありません。

分析・結論

 長々と書いてきましたが、結論に入っていきます。

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 平均点を高い順に並べてみました。これをグルーピングしていくと
グループ① FC東京、鹿島、仙台、川崎
グループ② 鳥栖、横浜FM、清水
グループ③ 湘南、大分、広島
グループ④ 神戸、名古屋、セレッソ、横浜FC
グループ⑤ 柏、ガンバ、浦和、札幌 
のようになると思います。

 グループ①はお分かりのように「目利き」において高い結果を残しているチームです。特にFC東京と鹿島は別格でしょう。評価の低い選手がほとんどいないのにあれだけ代表戦士を輩出しているのはスカウトの面でかなり優位性を作れています。また川崎は長くチームで活躍している選手が多いという特徴があり、仙台も予算や下部組織が恵まれているとは言えない中でJ1に生き残れているのはこのスカウト網が大きな役割を果たしているでしょう。

 グループ②は①に次いで良い結果を残しているチームです。安定してA~B評価の選手を輩出していますが、①と比べるとややD~Eの選手が多いため平均点が低くなってしまいました。(この中では横浜FMだけやや異質で、「AもEも少ない」という結果になっています。)

 グループ③はJ1全体の平均に最も近いグループです。共通点を見つけるのは難しいですが、若手選手を積極的に起用しているチームという印象があります。資金的には「中小クラブ」とも言えるチームなりの戦略かもしれません。また湘南と大分は大卒選手が多いのも特徴ですね。

 グループ④はあまり良い結果を残せていない4チームです。ただし神戸とセレッソはユース出身の選手が多いので大きな問題ではないのかもしれません。同様に名古屋はここ数年実績ある選手の補強が目立っています。それが出来る資金力と交渉力があれば苦労はないですね...
 少し心配なのは横浜FCです。最近は有望な若手が多いとはいえ、"外様"のベテランが多いスカッドであるのも事実です。今後J1に定着するためにはここの改善が必要かもしれません。

 グループ⑤はサンプルが極端に少なく判断が難しいチームです。この辺りはユースに自信のあるチームと特徴がよく出ています。浦和?橋岡とか関根とか...

 ただし、これはあくまで設定した期間内の評価です。サンフレッチェなどはここ1.2年で加入した選手が目立った活躍を見せていますし、3.4年後にはまた違った結果が出ているでしょう。


 その他に考察できる点を箇条書きで書いていくと

全体の最頻値はB評価で、平均を取るとBとCの間だった。当たり前だが、やはりJ1でスタメンになるというのは相当難しい。

韓国人選手はS評価が19%と平均より多い一方で、B評価(19%)が少なくD評価(23%)とE評価(12%)がやや多い。特に高卒の選手はサンプルが少ないとはいえ成功はかなり難しそうだ。ちなみにS評価は4人中2人がFC東京出身なので、FC東京が狙った選手を強奪するのが良いかもしれない。

・僕の愛読書(バイブル?)である『マネー・ボール』の中でオークランド・アスレチックスの名物GMビリー・ビーンは「高校生選手より大学生選手を指名したほうが、はるかに、笑ってしまうほどはるかに、価値のある投資と言える」(マイケル・ルイス著、中山宥訳『マネー・ボール』)と述べている(正確にはこれを述べたのはビル・ジェイムズだが)が、Jリーグの場合、高卒と大卒の選手に大きな相関はなさそうだ

ただし、アスレチックスは貧乏チームであり、ドラフト会議を貴重な即戦力獲得の場と考えている。同じく資金力のない仙台や湘南、大分などで大卒選手が活躍しているのは示唆的かもしれない。

・最近、1~2年活躍した選手がすぐ他チームへ移籍するケースが増えている(ほとんどがJ2→J1というルートだ)。この傾向が続く場合、「目利き」が正しくてもチームの戦力となれるのは非常に短い期間になってしまう。しかし、この移籍により中小クラブに多額の移籍金が入ればそれは健全なビジネスだとも言える。

反省・限界

・GKは別に考えた方がいいかもしれません。
・単年活躍した選手をどう評価すればいいのか非常に難しいところがありました。今回はなるべく高い評価を付けたつもりです。
・途中から基準がどんどん緩くなっていった気がします。
・そもそも期間設定は正しいのか分かりません。
・そもそもこの点数計算が統計学的に正しい保証は全くありません。統計に強い方、正しい方法を教えてください。
・高卒と大卒の違いを全く考慮していません。また高卒と大卒の活躍度合いの違いも、しっかり分析すれば何か有為な結果が出るかもしれません。
・この調べ方の場合、「加入後すぐ移籍した選手が表にも載らない」というバグが発生してしまいました。解決策をお持ちの方は教えてください。
・すっげえめんどくさかったので、今のところJ2・J3を調べる気が全く起きません。


以上です。さようなら。

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