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「未来の教室」の今

CAI発祥の地

 2022年11月25日(金)つくばカピオで開催されたつくば市ICT教育45周年記念大会に参加した。日本のコンピュータ教育は、1977年に竹園東小学校で産声を上げた。会場で当時のビジョンがどうやら「マイコン・クラスルーム 未来の教室 CAI教育への挑戦,中山和彦 東原義訓,筑波出版会,1986/5/28」という本に書かれているらしいことを知る。帰宅後すぐに中古本をポチった。
 壇上で信州大名誉教授の東原先生が、つくば市教育長の森田先生と語る。当時からCAI研究の1丁目1番地は、学習データの利活用だったのだという。ビックデータというよりも、その場で瞬時に学習ログを活かせる環境が整った今、次の世代へとバトンを繋ぐことがこの大会の真のテーマと私は理解した。
 何人もの元同僚が登壇して実践報告を語り、同じ教科で共に汗を流した先生方が校長先生として参加していた。全てが繋がっていると感じた。そして同時にこの「未来の教室」というビジョン、本当にこのままでよいのかと直感がささやく。次のビジョンを描くことが本当の継承ではないのか。

中古本なら、今でも入手可能だ

データの利活用の視点

 私はCAI教育発祥の地である竹園東小学校の隣、竹園東中学校にて2018年度までICT担当として勤務していた。『日本のCAI発祥の地「つくば」』この言葉は私達つくば市の教師にとって誇りであると共に、先人の偉業が大きなプレッシャーともなっている。当時から読んでおくべきだった。この一冊で竹園東小学校で行われたCAI教育の概要を把握できる。
 著者である当時筑波大教授の中山和彦氏は、一人一台の環境が必須であると説く、なぜならそうでなければ学習ログは記録されず分析もできず、有効な手立てを考えることはできないからだ。GIGA端末が導入された今、当時夢みていた全ての学習履歴を残すことのできる環境が全国の小中学校に実現している。
 P154の図11にはオーサリングツールを使ってコースウェアを開発する手順についてフローで示されていた。教師が得た知見によってコースウェアは改良され続ける。そしてそのコースウェアには、どの問題を間違えたかによって柔軟に出題内容を変えていく仕組みが作り込まれていく。機器的な制限が大きい中で、今のメクビットに近い取り組みを45年前に実現していた。

 コースウェアを開発して終わりではなくて、実践後にその内容をフィードバックすることが想定されていたことがわかる。コースウェアに限らず、様々な学習履歴が残された時、そのデータをいかに利活用するかという視点は、すなわちフィードバックをいかに円滑にすることができるのかと言い換えることができるだろう。

つくば市のCAI室の机は丸い

CAIコースウェアの呪縛

 「マイコン・クラスルーム 未来の教室 CAI教育への挑戦」には、コースウェアに生徒のつまづきやその解消のための手立てを細かく作り込んでいく様子が描かれていた。
 今でいうところの個別最適な学習を実現するためのその努力は半端のないものだ。(もし今これを提唱したら働き方改革に強烈に逆行してしまう。)

 よく考えてみれば当然だが、生徒の学び全てを全てのパターンでコースウェアに埋め込むことが求められているわけで、1時間の授業のコースウェアの作成にその何十倍、時には百倍を超える時間がかかったとしても不思議ではない。
 学習は状況に埋め込まれている(状況に埋め込まれた学習 正統的周辺参加)という考え方があるが、つくばの先輩方が取り組んだコースウェア作成は、学習をコースウェアに埋め込もうとしたのではないだろうか。そう考えると、だいぶ合点がいく。生徒はそのコースウェアを使うことでその状況に埋め込まれた学びに自ら気づき、学んでいた。

 ここで沸々と疑問が湧き出てくる。

 そもそも、コースウェアを作成する教師が、生徒のつまづきを全て把握することは可能なのだろうか。新たなつまづきに気付いた時にコースウェアを修正すればよいのかもしれないが、その修正は全てコースウェアのつくり手である教師を介してしか実行できない。
 そしてさらに、学習すべき内容を理解させるためのコースウェアが提供できたとしても、「なぜ学習する必要があるのか」という根源的な問いには答えることはできないのではないか。手を動かして考えるといった身体知も、この枠組みでは扱うことはできないだろう。

次のビジョンへ

 「より高い『人間どうしの相互作用による教育』を実現するのにコンピュータが有効か」という45年前の筑波大教授中山和彦氏の課題を自分なりに捉え直してみる。
 PCやスマホとして端末がいきわたり、生徒全員にGIGA端末が配布された今、つくば市ではTeamsが学習環境として当たり前に使われている。休校時や出席停止時のオンライン接続も当たり前となり、学習端末を介したやりとりの全てがログとして記録可能となった。
 竹園東小での実践依頼地道に改良されつづけてきたコースウェアを元に開発されたインタラクティブスタディは、今年度から個人の学習履歴を残すことができるようにバージョンUPされ、つくば市全小中学校でこの冬休みから自由に使えるようになった。
 データの利活用という視点でいえば、これらの学習履歴(ログ)をいかに分析し活用していくかがつくば市の現在の課題だ。生徒のリアルな実態を踏まえて授業の展開をダイナミックに変更していくような活用が期待されている。

私の新たな課題

 そこで、コンピュータ上での学習履歴の分析や利活用の観点から、「未来の教室」を実現するための課題として次の2つの視点を新たに提起したい。

  1. 思考・判断・表現のフィードバックは、コンピュータ上で実現できるのか
    学習履歴は、知識・技能だけではないだろう。思考・判断・表現の学習履歴はどうやったら残すことができ、分析することができるのだろうか。そして、その分析結果をどのように具体的に活かすことができるのだろうか。

  2. 手を動かし考える学びは、コンピュータ上でも共有可能だろうか
    近年STEAM教育が注目されることにみられるように、手を動かして考えることの大切さが共有されつつある(例えば「作ることで学ぶ」など)。問題に答えるといった場面だけでなく、手を動かして考え学んだことはどうやって学習履歴として記録、分析し、授業に活かすことができるのだろうか。

長年取り組んできたラーニング・ジャーナルは、上記2点の内容について手書きでのフィードバックを試みたものだ。しかし、コンピュータ上でどのようなデータをどのような形で収集できるかはよくわからない。45年前の一人一端末の夢が実現したとするなら、次に目指すべきはこれまでデータとして分析されることのなかった学びをリアルタイムに活かす方法を見つけ出し、利活用の筋道を示すことなのではないか。

現在の勤務校に2台目の3Dプリンタが導入された。



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