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美醜徒然イルカの話

(ヘッダー画像はウィキメディア・コモンズより借用)

昔の動物図鑑には、イルカとクジラの判別方法として【体長4m以下がイルカ、4m以上がクジラ】と書かれていたものである。流石に近頃の図鑑では、このような乱暴な判別方法は用いられて居ない。もしもこの判別方法が現役だったら、最小のヒゲクジラとして知られるコセミクジラ(鯨偶蹄目ケトテリウム科、4m)はイルカだと言う事になってしまうし、逆にシャチ(鯨偶蹄目マイルカ科、9m)はクジラだと言う事になってしまうからだ。

それはともかく、イルカと聞くと皆様はどのようなイメージを抱かれるのだろうか。

昔日の日本では、イルカは海の恵みであり、同時に怪異でもあった。
新潟県には【某いるか】と呼ばれるイルカの怪異が伝わっている。船で沖に漕ぎ出すと突然洋上にイルカが顔を出し「某は居るか」と人間の声で話しかけるのだと言う。その"某"の部分には必ず誰かの姓名が入るのだそうだ。何でもこの怪異、他人に殺されて海に捨てられた人間の怨霊がイルカの姿になったもので、自分を殺した者に復讐する為、船を見つける度に声をかけて回るのだと言う。「某は居ないよ」と答えると黙って去っていくそうだが、洋上でイルカに話しかけられると言うのも想像するとなかなか背筋が凍る話だ。
他方、長崎県ではイルカは平家の落ち武者の怨霊が化身したものともされていたと聞く。いずれも怨霊絡みなのが興味深い。

現代では、穏やかな顔つきと海原を優雅に泳ぐその姿から、イルカに対しては平和なイメージを抱かれる方が圧倒的に多い気がする。
特にコーカソイドはこの"信仰"が強く、しばしば『彼等には人間同様の知性がある』『彼等には人間のような醜い情念は無く、あるのは美しい魂だけ』と言ってはイルカを賛美する。
極端な例になると、食用や水族館での飼育用にイルカを捕える漁師の営みを妨害したり、甚だしきは虚構を交えたドキュメンタリー映像を作ってネガキャンを繰り広げたりする。

確かにイルカ(そしてクジラ類全般)は、野生動物としては相対的に発達した脳の持ち主であり、群れ共同で"追い込み漁"をしたり、死産で生まれた仔イルカの骸を母イルカがなかなか離さない等、知性を伺わせる行動を取る事が多い。
然し、こうした行動はイルカの習性のほんの一面に過ぎない。

皆様はイルカの口の中を間近で見た事はおありだろうか。円錐形の歯がびっしりと生え揃った、結構凶悪なあぎとである。噛まれれば深手は間違いない。
確か鴨川シーワールド(千葉県)だったかと思うが、イルカのプールに【噛みます。手を触れないで下さい】と注意書きが添えられていた。マイルカやカマイルカ、ハンドウイルカ(バンドウイルカ)はこの凶悪な顎で魚やイカを捕食するが、彼等は口の中に入るサイズの獲物しか食べないからまだマシな方だ。ゴンドウクジラ属(クジラとつくが鯨偶蹄目マイルカ科の動物である)はその獲物がずっと大きなもの…マグロやカツオ等の大型の魚に変わる。ゴンドウクジラの仲間は嘗ては【オイオクイ】(大魚喰)と呼ばれていたが、これはその食性に由来する。ゴンドウクジラ類は漁網にかかった大型魚をしばしば喰い荒らして漁師を悔しがらせた為、こんな呼び名がついたのである。

餌を食べる為に顎を用いるのは兎も角、時にイルカの顎は命懸けの闘いの折に振るわれる武器となる。
例えば、ユメゴンドウと言う小型(全長2mそこそこ)のイルカが居る。ユメゴンドウはそのなりの小ささに相反して非常に凶暴であり、英語圏では【Lesser Killer Whale】(小さな、或いは劣化版の殺し屋クジラ)と呼ばれる。ユメゴンドウはしばしば食べる訳でも無いのに他種のクジラの仔を殺し、同種間でも頻繁に血みどろの争いを展開する事が知られている。

ハンドウイルカに至っては、若いオスが数頭結託してメスを襲い【強姦】する事が知られている。
もしもメスが子連れだと、発情を促す為に仔イルカを殺してしまう。
また、同じくハンドウイルカの攻撃性を示す事例として、子連れのハンドウイルカを含む群れが、警戒心が高まったあまり接近したホホジロザメに群れ全体で攻撃を仕掛けて死に至らしめた例もある(最もハンドウイルカも捕食される危険を伴う為、稀な事例ではあると思うが)。

更にハンドウイルカには【遊び殺し】の概念さえある。例えば、サンゴの隙間に隠れ潜んだアナゴを狩る為に、先ずは背鰭に棘の生えたカサゴを殺し、それを【引っ掛け棒】のように使ってアナゴをサンゴの隙間から引き摺り出して捕食した後、カサゴの死体を食べずに放置して去ったハンドウイルカの例が報告されている。また、YouTubeでしばしば動画が公開されるが、ハンドウイルカがフグを捕まえ、突ついてわざとボールのように膨らませ、それで遊ぶ光景も報告されている。一説にはイルカがフグの毒を"ドラッグ"として楽しんでいるのでは無いかとも言われているが、これに関しては真偽は定かでは無い。

そう言えば昔、pixiv百科事典(イラスト系SNS・pixiv内の電脳百科事典)で『イルカ』の項目を編集したら、その後イルカの強姦のくだりだけがごっそり削除された事があった。 恐らく、イルカにそう言う側面がある事を知られると色々不都合な連中により削除されたのだと思われる。

生き物の隠された一面を愛せず、綺麗な側面しか愛せないような輩には、正直動物好きを名乗って欲しくない。イルカにまつわる徒然は、そうした残念な動物好きの存在をまざまざと実感させられるものだろう。

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