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並行進化

異なった系統の動物が同じ生態的地位についた結果、肉体的特徴に相似が生じる現象を【収斂進化しゅうれんしんか】と言うが、これに類した語で、比較的系統が近い動物が異なった分布域や環境で似たような生態的地位についた結果、肉体的特徴に相似が生じる現象を【並行進化へいこうしんか】(または"平行進化"とも表記する)と言う。

一例を挙げると…。
先ず、アフリカに棲むイタチの仲間・ゾリラと、アメリカ大陸に棲むスカンクの仲間が挙げられる。スカンクは近年までイタチの仲間と考えられていた位にはイタチ科に近縁(現在は食肉目スカンク科に分類される)であり、白黒の目立つ体毛と、肛門付近にある分泌腺から強烈な臭気の液体を敵目掛けて放射する防御法で知られている。
ゾリラはイタチの仲間だが、このスカンクの特性をそのまま保有している。体は目立つ白黒模様であり、敵に襲われると肛門付近の分泌腺から【ガス】(実際は液体なのだが)をブッ放して撃退すると言う方法で身を護る。また、ゾリラとスカンクには【前足に鋭い爪が生えていて地中・地上の小動物を狩るのが得意】と言う共通点がある。

身近なところにも並行進化の一例と考えて良さそうなものがある。"鵜飼い"に使われ、一部の種は人間の居住地近くに棲む事もあるウ(鵜)と、喉袋になった下嘴がインパクト大なペリカンである。

ウ、またはペリカンの趾をじっくり見た事がある方はいらっしゃるだろうか。
ウとペリカンの趾は、他の水鳥の趾と異なり4本の指全てに水掻きが張っている。この為、ウとペリカンは水中を移動する時に他の水鳥よりも力強く水を搔き前進する事が出来る。

カワウ(ウィキメディア・コモンズより借用)
4本の趾全てに水掻きがある
コシグロペリカンのつがい
(ウィキメディア・コモンズより借用)
脚にご注目

実際、遺伝子的な見地からの分類が確立されるまでは、ウとペリカンは共に鳥綱ペリカンもくに分類されていた。水掻きの形状以外にも水に依存し魚を捕食する習性、卵から産まれた雛の姿かたちからそう判断されていたようだ。然し遺伝子的な分類法が確立されると、ウとペリカンは比較的近縁ではあるものの目レベルで隔たりがある系統である事が明らかになった。ウは現在カツオドリ・ヘビウ・グンカンドリと共に鳥綱カツオドリ目に含まれ、ペリカン目にはサギ・トキ・ヘラサギ・シュモクドリ・ハシビロコウがコウノトリ目から移動して含まれるようになった。

面白いのは、現行のペリカン目に含まれるペリカン以外の鳥は、皆水掻きが殆ど発達していないのである。ペリカン以外の現行のペリカン目の鳥類はどちらかと言うと渉禽類しょうきんるい(長い頚と脚を持ち、浅瀬で行動する水鳥。特に鳥綱チドリ目に含まれる鳥の内で上記の特徴を備えた鳥を限定してそう呼ぶ場合がある)であり、現行のペリカン目の鳥類で巧みに泳ぐ鳥はペリカン類だけなのだ。

こうした形態の相違が生じた可能性としては、以下のふたつが考えられる。

第一の可能性●カツオドリ目とペリカン目の共通祖先は、元々4つの趾に水掻きを持つ鳥だった。然しカツオドリ目とペリカン目に分岐後、現代のペリカンの系統以外のペリカン目の鳥類はライフスタイルの変化に伴い、二次的に水掻きを失っていった

第二の可能性●カツオドリ目とペリカン目の共通祖先は、通常の水鳥のように3本の趾に水掻きを持つか、或いは趾に全く水掻きを持たない鳥だった。その後カツオドリ目とペリカン目に分岐し、カツオドリ目に含まれるウとペリカン類とでそれぞれライフスタイルの相似から独自に四本の趾に水掻きを得るに至った。他方、ペリカン類以外のペリカン目の鳥類は水掻きを得る事無く渉禽類として進化していった

鳥類の化石はなかなか見つかりにくく、また遺伝子を分析する最新の分類法でも【どの鳥類群がいつ、どのタイミングで現在のボディプランを会得したか】までは特定出来ないので、正直なところワタクシはどちらの説が正しいのか判断がつかない。然しいずれにせよ、比較的近い類縁且つ目レベルで隔たりがある鳥類の間で、生態的地位の相似から同じような肉体的特徴(この場合4つの趾に張られた水掻き)を持つに至るのはまさに並行進化の賜物ではないだろうかと素人考えながら思う。
こうした事柄は、進化の奥深さが感じられて興味深い。

余談。
嘗て、ペリカン目は【全蹼類ぜんぼくるい】とも呼ばれていた。
ぼく】とは水掻きの事である。
言うまでも無く、ウとペリカンの共通点である4つの趾に張られた水掻きに由来する名だ。そして嘗てのペリカン目…全蹼類にはペリカン・ウ・カツオドリ等の他にペンギンモドキ(プロトプテルム類。飛翔力を失い水中生活に高度に適した鳥類の一群)とオドントプテリクス類(骨歯鳥類とも。嘴を形成する顎骨の縁が鋸歯状に発達する大型の海鳥で、最大の個体は翼開長が6メートル以上になった)も含まれていた。

プロトプテルム類の復元図
(ウィキメディア・コモンズより借用)
彼等のボディプランは、
ペンギン類との収斂進化の賜物でもある
ペラゴルニス(オドントプテリクス類)の復元図
(ウィキメディア・コモンズより借用)
顎骨由来の【歯】以外は、
現存のアホウドリに似ていた

然しこちらも遺伝子的見地から分類が見直されるに至り、ペンギンモドキはカツオドリ目に再分類され、オドントプテリクス類は諸説あるものの独自の目【ペラゴルニス目】に分類する説が有力になった。因みにペラゴルニスとはラテン語でそのまま【海鳥】と言う意味である。

この十数年の間に、動物の分類については劇的に動きがあった。化石等の新たな発見や、新しい分類学の登場により、もしかしたら遠い未来更に分類が変更されるのかも知れない。

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