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侮るなかれマングース

マングース…と言う語を聞いて、皆様はどんなイメージを持たれるだろうか。

今は動物愛護の観点から廃れたが、嘗て沖縄では【ハブとマングースの一騎打ち】なんて言う血腥いショーが名物となっていた。ワタクシが子供の頃、マングースはどのような図鑑でも毒蛇の不倶戴天の敵と言う事になっていて、ハブ(ホンハブ)との格闘ショーもそうしたイメージからのアイディアなのだろうと思う。
然し事実は巷説とは大違いで、小さなヘビならいざ知らず、ホンハブ程に大きな毒蛇(因みにホンハブは最大で全長2.2メートルに達する)相手ではマングースはその体格差からまず勝ち目は無いそうである。
あのハブとマングースとの一騎打ちは、予めハブを弱らせ(寒い部屋に入れて活性を落とす…等)マングースが勝つように仕向けてあるケースが殆どだったと言う。
全く、とんだ八百長試合である。

とは言え、マングースが優れたハンターである事は疑いようが無い。様々な小動物は言うに及ばず、時には自分とサイズが変わらないアガマトカゲやオオトカゲを瞬殺してもりもり食べる事もある。

随分昔の話になるが、スバルパーク(嘗て北海道北斗市に存在した動物園)で、水槽越しにマングースに牙を剥いて威嚇された事がある。種類は忘れたが多分ハイイロマングースと呼ばれる種類ではなかったかと思う。飼育下にあって、あれだけヒトに慣れない動物も珍しい。飼育係さんの手もブーツも傷だらけだったのを思い出す。

マングースには単独で行動する種類と、家族群を作って暮らす種類がある。前者はエジプトマングースやハイイロマングース、カニクイマングースが含まれ、後者にはシママングース(ゼブラマングース)やドワーフマングースが含まれる。シママングースの群れはかなり大胆な行動を行う事が知られ、自分達より数十倍も大きなニシキヘビを集団で襲撃して食べてしまう事例が報告されている。群れを作る種だからこそ可能な真似だろう(前述の通り、単体のマングースでは大きな蛇を屠るのは不可能だからだ)。さしずめ哺乳類版のピラニアである。幸いなのはシママングースは人間を襲う事は無いと言う事であろうか。

更にマングースの凶暴性について、インドではこんな話があると聞いた。元ネタを思い出せないのだが動物関係のコラムを集めた文庫本では無かったかと思う。

かの国では太古の昔からマングースが野生で暮らしているから、地元の人々も然程注意は払わない。然し、それが故にとんでもない事故が起きた記録があると言う。
ある家の縁側で、ちっちゃな男の子が裸ん坊で昼寝をしていた。
暑い国の事とて寝返りを打った。
その折、たまたま庭に野生のマングースが居た。
そのマングースが突然、寝返りを打って仰向けになった男の子の下腹部(敢えて露骨な表現は避ける)に飛び掛って喰いちぎってしまったのだ。
当然、男の子は出血多量で死亡した。

仰向けになった際に少し動いたのを小動物か虫と間違えたのだろうか。
自然は時に残酷な偶然を齎す。

然し、幼いとは言え寝ている人間を攻撃し、死に至らしめるとは…他に斯様な真似が出来る動物として思いつくと言ったらハイエナ位か。
日本に居る身近な動物…例えばイタチやキツネやタヌキ辺りは、恐らくこんな真似はすまい。

上記の事件を踏まえての事でも無いと思うが、インドではマングースは【庭に放せば害獣を退治してくれるが家の中には入れてはいけない】と言う風に言いならわされて居るそうだ。

マングースと言えば、冒頭で述べた沖縄での話の延長線上になるが、嘗てハブの駆除を目的に米軍が野外に放した事がある。
然しマングースはハブを食べるどころか、琉球列島固有の希少生物を片端から喰い殺し、絶滅寸前まで追い遣ってしまった。
健康なハブか相手では、マングースに勝ち目は無い。となればマングースが生きる為に、より容易く屠れる獲物に牙を向くのは当然の帰結と言うものである。
現在沖縄や、後に別経路でマングースが上陸した奄美諸島では、マングースの駆除に力を入れている。そして外来生物問題にはつきものだが…この駆除に対し、動物愛護団体から激しい反発の声があがっている。

「マングースが殺処分されて可哀想」とお嘆きの皆様に問いたい。この記事を読んでもまだ同じ事が言えますかね?
マングースって、外来種云々以前に相当危険な生き物なんですよ。

マングースに限らず、本来の棲息地に住む個体群を駆逐しろ!等とは決して言わないけれど、元々居ない地域に悪戯に放つのは愚の骨頂としか言えない。先人の言葉を借りれば、【犬馬はその土性に非ずんば養わず】これである。

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