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未来の動物園

YouTubeで興味深い動画を観た。

最先端の技術を駆使し、電脳世界の"動物"を現実世界に顕現させる試み。VTuberやVChat等、電脳世界を【もうひとつの現実世界】と捉える考え方が巷間に浸透して久しいが、遂に此処まで出来る様になったかと思うと感慨深いものがある。

この技術がもっと一般化し、世界のあちこちで行われるようになったら、恐らく【見世物としての機能しか持たない動物園】はこの世から完全に必要とされなくなるだろう。
そもそも近頃は現実世界の動物園自体、単なる見世物小屋から、動物の行動研究や飼育下での繁殖、更には人間の生産活動により負傷したり様々な背景から野生に戻れなくなった動物達の受け皿としての機能が重要視されている。
他方、疫病拡大に対する懸念や、動物の原産国に置ける保護の強化により海外から導入出来る動物の数は年々減少傾向にある。
例えば、バブル末期には日本各地の水族館で見られたラッコは野生下での個体数減少を懸念したアメリカ合衆国が輸出を全面的に禁じた為に日本での飼育頭数が大幅に減少し、今や日本全ての水族館で合わせて3頭しか飼育されていない。そしてこれらのラッコが老衰により天寿を全うした暁には、恐らく日本の水族館でラッコを見る事は永遠に叶わなくなるだろう。
これは何もラッコに限った話では無く、保護施策が強化された事により新しい個体を導入する事が難しくなり、日本の動物園から絶えてしまった動物の例は枚挙にいとまがない。

日本は、国土面積と人口に対する動物園の数に置いては世界でもトップクラスにランクインされる程の動物園大国でもある(中でもペンギンの飼育数は全世界の飼育下のペンギンの25%を超える程に多く、日本の幾つかの水族館や動物園はペンギンの原産国から【原産国外重要繁殖基点】に指定されてもいる)。
その、日本の全ての動物園が前述したような【研究機関】として機能しているかと言われると、ワタクシは「そうだね」と肯定するのに一抹の躊躇を感じる。まだまだ前時代的な施設で運営し、見世物小屋のレベルを脱却出来てない動物園は決して少なくは無い。勿論ワタクシとて、飼育されている動物に対するケアを各園で最大限頑張っている事は重々承知している。然し、後進国(もっと言えば衰退国)になってしまった日本では好い加減限界があるのでは…と、時折動物園関連の話題に触れては背筋が寒くなる事がある。

そんな世相を反映した訳でもないと思うが、近年、動物園の施設改修等を理由に【当園では◯◯の飼育継続を断念しました】と言うニュースをちらほら聞くようになった。繁殖の為のブリーディングローンだったり完全な譲渡だったり背景は様々だが、言い換えればこれは手狭な施設で多数の動物を飼育する方式から、広々とした施設で少数の動物をのびのび飼育する方式へ切り替わる過渡期と捉える事も出来よう。
恐らく、今後この流れは更に加速し、見世物小屋のレベルを脱却出来ない動物園は完全に淘汰されるのではあるまいか。

既に試みとして、神奈川県横浜市のズーラシアでは一般客には非公開の繁殖センターを併設し、稀少な動物(バクの仲間、ホホアカトキ、カグー、オオミカドバト、コンゴクジャク等)の繁殖を手掛けるようになった。また東京都の4つの動物園(上野動物園、多摩動物公園、大島公園、葛西臨海水族館)では稀少動物の繁殖に向けて日本各地の動物園と連携し、血統管理等を一手に担う等積極的な活動を継続している。愛知県熱田市の東山動植物園も稀少動物の繁殖実績には定評がある。他にも日本各地の動物園や水族館で、こうした動きに追随する風向きが強まっている。

これら既存の動物園・水族館の変遷と並行し、日本でもハイテクノロジーを活用した【電脳世界の動物園】的な催しがちらほら開催されるようになった。銀座だったかと記憶しているが、海洋生物のリアルな3D映像を壁面スクリーンに映し出し、観覧させるイベントをニュースで見た事がある。
こうした【電脳世界の動物園】には別の利点もある。生きた動物は海外から持ち込まれた際に検疫が必要だが、電脳世界の動物にはそれが必要無いのである。どんな動物であれ、スクリーンと映し出す為の機械さえあれば事足りる。また、稀少故に日本の動物園では絶対に見られない動物との邂逅を疑似体験出来るのは最大の強みだ。例えば前述の海洋生物の映像ではマナティやクジラさえ登場していた(日本ではマナティの飼育例は非常に少なく、クジラに至ってはそもそもどんな動物園でも飼育は不可能であろう)。

現実世界の動物園に取って厳しい状況が続く昨今、こうした【電脳世界の動物園】は未来に置ける新しい動物園のスタイルとして、もっと盛んになって行くのでは無いかとワタクシは密かに期待している。その【電脳世界の動物園】で得られた利益の一部を現実世界の動物園に還元し、施設維持や保護活動の一助と成す事が出来たならば、更に申し分無い。

因みに、上記を以前動物園好きの知人に打ち明けたら「本物の動物が居ない動物園なんて嫌だ」と強く否定されてしまった。嫌だ、と言われても時代がそう言う流れにシフトしつつあるのだから、受け入れて貰うより仕方が無いと思うのだが、如何だろうか。

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