一流エンジニアが高度な人材を育成──“できなかった”自分だから伝えられること
教育研修部研修管理課に所属する豊田 崇史。2021年からソリューション人材を育てる技術研修の講師を担当しています。一流のエンジニアでもある豊田が、“できない”と悩んだ過去をあえて伝える真意とは。これまでの歩みを振り返りながら、仕事と向き合う上で大切にしてきたこと、人材育成にかける想いについて語ります。
エンジニアとして、講師として、成功した経験を買われてソリューション人材を育成
大学卒業後、新卒でソフトウェア企業に入社し、私のエンジニア人生が始まりました。2005年、技術をひととおり覚えた私は、自分の力を試してみたいという野心から、テクノプロに転職。車載関連の企業に派遣され、ソフトウェア開発に携わりました。
2007年〜2020年は、所属事業所が請け負ったソフトウェア開発のリーダーを任され、チームをゼロから立ち上げて3〜6名を統率しました。徹底して品質にこだわるチームで、当時、所属事務所内で2位の成績を残し、「今が人生のピークだ」と思えるほど充実していました。
そのあいだ、2013年と2015年に中国のグループ企業へ出向し、現地で技術者を育成する経験もしました。中国は、技術を身につけたらすぐに転職していく文化があり、チームリーダーが育たないことに苦悩したのを覚えています。それでも、私としては人材教育に大きなやりがいを見出し、人材が定着しなくても維持できるような中国仕様の体制を整えて帰国しました。
そのときの育成経験を買われ、2021年に研修管理課へ異動し、2022年7月現在に至るまで、技術研修の講師を務めています。
異動理由はもうひとつ。プライベートでふたりの子どもと触れ合う時間がほしいと上司に相談した結果でもあります。研修業務は自宅からのリモートワークが中心。定時で仕事を終えてすぐに育児時間に切り替えられ、ワークライフバランスがとれた日々を送っています。
技術研修講師全員がエンジニア。実践レベルに引き上げて現場に送り出す
当社では、“社員の成長が会社の成長”という理念のもと、技術研修に力を入れています。
理念の背景にあるのは、当社が技術の“質”を大事にしていること。一般的にエンジニアを派遣するサービスプロバイダーといえば、仕事の“量”をこなすイメージがあるかもしれませんが、当社では、お客様のご依頼にプラスアルファの付加価値を提供したいという想いで、“質”を重んじています。
その“質”を上げることを目的として、当社では多彩なプログラムを用意しています。専門的なスキルを身につけられる研修、データリテラシーを習得できる研修など領域は多岐にわたりますが、その中でも私は、プログラミング言語であるC言語と、ソフトウェア開発にシミュレーション技術を取り入れた“モデルベース開発”の二本柱で研修を行っています。
対象は新入社員やキャリアアップをめざす社員、期間はコンテンツによって1〜2カ月ほど。講師がていねいに指導できる少人数で行います。コロナ禍の現在は、オンライン中心ですね。
特長は、すべての技術研修講師が現場を経験したエンジニアであること。現場経験の豊富なエンジニアが、現場のリアルな空気感を伝えつつ、実践的でハイレベルな研修を行います。
また、教材も現場で実際に使う現物を使います。たとえば、C言語の研修ではRCカーを使い、自分のプログラミングどおりにRCカーを制御できるかを検証しながら、技術を習得していきます。
受講者のレベルは、スタート時点ではまちまちです。プログラミングがまったく初めてという文系出身の方もいるので、レベルに合わせてカスタマイズするのが講師のミッションともいえます。理系と文系では、初めこそ知識に差がありますが、チャレンジしたい気持ちが強い人ほどぐんぐん伸びるので、最終的には理系・文系の違いはあまり関係ないかなという印象です。
基礎理論をすでに学んだ理系出身の方にも、より実践的なノウハウを教える必要があります。すべての受講者を実践レベルに引き上げ、高付加価値を提供できるソリューション人材として現場に送り出すのが、私たち講師の使命です。
自分と同じ苦労をしてほしくない。活用シーンと結び付けて“わかりやすく”
私が講師になって2022年7月現在で1年半ほど。これまで約100人以上の受講生を現場に送り出しました。
私が常に大切にしているのは、わかりやすさ。知識を現場での活用例とひもづけて伝えるように工夫をしています。このアイデアは、私自身が詰め込み型の勉強に苦労した経験から考えたもの。受講生には自分と同じ苦労をしてほしくないんです。
たとえば、「これ、覚えておいて~」といわれるだけでは、「実際、どんなときに使うの?」と疑問が残り、腹に落ちて理解できませんよね。ところが、「この技術は、現場ではこういう場面でこうやって使うんだよ」とひと言添えるだけで、リアルな活用シーンを想像しながらその必要性を理解でき、頭にスッと入ると思っているんです。
また、中国での育成経験もいまの研修に生きています。中国での研修は、通訳を介して行いましたが、通訳次第で伝わり方が変わるのが課題でした。そこで、言語の壁を超えて伝える方法はないかと考え、図で表現するのがいちばんだと気づいたんです。
実際に研修でホワイトボードに図を描いてみたところ、一目瞭然。専門用語を羅列したり、通訳さんの翻訳力を頼ったりするよりも伝わっていることが実感できました。
この経験から、いまも図に描いて伝えることを大切にしていて、オンラインのときも、Web会議ソフトのホワイトボード機能を使うようにしています。
研修では、このような工夫をしたり、受講生の表情を見ながら進行スピードを調整したりしますが、終了後に「わかりやすかった」といってもらうとすごくうれしいですね。
一方で、ジレンマもあります。
研修期間は、基礎知識のある人も、ない人も同じ。限られた期間内ですべての人に教えないといけません。自分が一緒に現場に行けるなら、少しずつ教えられますが、研修ではそうもいかない。かといって、短期間に詰め込みすぎるとパンクしてしまいます。
「教えたいことを全部学んでから現場に行ってほしい」という想いはあるのですが……。ハイレベルな質を担保しながら、教える内容のバランスをとるのは、難しいところですね。
最初からできなくていい──“できなかった”私が一流の技術者になれた理由
私が、研修でよく伝えていることがあります。
“できない”人でも、“点”と“点”がつながると、いい技術者になれる——
初めての知識と出会うとき、ひとつの知識をひとつの“点”として覚えることしかできませんが、あるレベルに達すると、その点がほかの点とつながり、一気に理解が進むんです。そこまで来れば、視界が開けたようにどんどん技術を吸収できるから、最初からできる必要はまったくありません。
ちなみに、その“できない”人とは、ほかでもない、私のこと(笑)。新人時代、「なぜ自分だけできないんだろう」とずいぶん悩んだものですが、あるとき、そうやって点と点がつながる体験があり、こうして曲がりなりにも技術講師としてみなさんに教えるまでに成長できました。そんな経験を受講生によく話します。私の“できなかった”過去を励みに、自分を信じて進んでほしいですね。
こうして受講生と接する中で、今後、取り組みたいことも見えてきました。
定型的な研修内容は、動画にして繰り返し見られるようにしてあげたいんです。動画でもじゅうぶん伝わる内容は動画で、じっくり教えたいものは対面で、というようにメリハリをつけて、重要なテーマをもっと掘り下げて教えたいと思っています。先ほど述べた、研修期間が限られているジレンマの改善にもつなげていければいいですね。
私個人のキャリアとしては、子育てがひと段落したら、また現場に戻りたいと思っています。現在は講師という仕事にやりがいを感じていますが、ソフトウェア開発の技術はめまぐるしく進化するため、10年後には、まったく新しいツールが主流になっているかもしれません。私の技術をアップデートするためには、やはり現場に行きたい。そして、自分の技術がどこまで通用するか挑戦し続けたい。
私が現場に戻ることは、当社の教育の拡充にもつながると思うんです。現場でさらに技術を磨けば、研修でより高度な技術をフィードバックできます。現場から新しい風を持ち帰り、伝えたらまた現場へ。こんなサイクルをくるくると回す人がいてもいいですよね(笑)。現場復帰のタイミングは……。子どもがふたりとも大きくなった数年くらい先でしょうか。
こんな具合に、私はライフステージが変化するたびに会社と相談し、上司は嫌な顔ひとつせず配慮してくれました。その上でチャンスもくれて、充実したキャリアを歩むことができています。想いを尊重し、人をとても大切にしてくれる会社にとても感謝しています。
恩返しするためにも、エンジニアとしてのキャリアを磨き、質の高いソリューションを提供できる人材を育てていきたいですね。
※こちらの記事は2022年7月時点の情報となります。
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