初心者からのアカペラミックス03 ソフト
このエントリではアカペラミックスに必要なソフトに関して記述していきます。皆さん手持ちの環境と比較して不足する部分を強化するとよいと思われます。
DAW(音楽録音、編集用ソフト)
DAWとは何かという知識レベルの方は↓を読んでください。
DAWの選定における最重要項目は、市場シェアです。安いがマイナーなDAWは世の中にいくつかありますが、そのようなDAWは例外なくユーザー数が少なく、ネットや書籍で入手可能な情報は限定的となります。また、安いが上に機能がショボく、DAWには常識的に実装されている機能が実装されていなかったりしてフラストレーションがたまります。情報がない・機能がショボいとそれだけで習熟、機能の理解に時間がかかり、時間を無駄にします。可能な限りシェアが高いDAWを選ぶようにしましょう。
次に重要な項目は、ARAへの対応可否です。ARAに関して詳しくは↓。
はい、何のことかわかりませんね。ざっくりいうと、Melodyne(後述)による編集をDAWに統合する機能で、音程、タイミング修正のワークフローが効率化されます。ARA機能を用いた音程修正と、プラグインによる音程修正(ARA非対応のDAWによる実施方法)は下記の通り。
ARAで音程修正をした場合、音程修正した結果を維持したままWave分割してトラックを分ける等の処理が可能となります。一方でプラグインで同じく音程修正後にトラックを分ける処理を行った場合、プラグインへWaveデータを再連携したり、トラック分割結果に基づいてプラグイン内の修正処理を再度行う必要があります。これははっきり言って無駄作業で、発生するとテンションが劇下がりするとともに、時間が無駄になります。
はっきり言ってやってみないと伝わらない内容なので、わからなければとりあえず「ARAが必要なんだな」くらいの認識でOKです。
最後にDAWのエディションですが、一番上のものを買いましょう。最上位エディションにはトラック数の制約等もなく、我慢しなければならないところは少ないです。また付属のプラグインが豊富で予算が節約できます。現在のDAWに付属のプラグインは非常に品質が高く、使い物になります。まずDAW付属のプラグインで練習し、必要に応じてプラグインを追加されることをお勧めします。
お勧めDAW
Cubase
Windows / Mac両OS対応。国内シェアNo.1DAWで、日本語/英語問わず情報量が多い。VST(プラグインの形式、最も広く普及している)、ASIO(オーディオ用ドライバ)の本家なため、これらに起因するトラブルが最も少なく安心。ドイツSteiberg社のソフトだが、Steinbergの親会社がYamahaなため、日本語サポートも万全。ただし最上位EditionのProfessionalが6万円超(アカデミック版4万)と多少高額。Windowsを使用していて、価格が許せるのであればこれを選ぶのが最も無難です。
Studio One
Windows / Mac両OS対応。上述のSteinbergをスピンオフしたエンジニアが作ったソフト。国内シェアは比較的低くて情報量が少なく、日本語サポートもそれなりだが、価格は安い(最上位Editionが4万円、アカデミック版なら2万円)。さらに後述のMelodyneの最下位バージョンがおまけでついてくるため、非常にコスパが良い。時間があるが金がない学生にはこっちがおすすめ。
Logic
Apple謹製Mac専用DAW。Macとの相性は抜群で、M1Mac発表と同時に対応がアナウンスされており、比較的ユーザー数が多くトラブルシュートに困ることはないと思われます。Macユーザーのシェアは意外と高いですが、著者はWindowsユーザーで詳細な知識がないため、何とも言い難いところはあります。最上位Editionが2.4万円と非常に安いため、コスパは良好で、今後の人生でMacしか使わないと決めている方にとってはよい選択肢と考えられます。またアカデミック版は他ソフト(Final cut Xとか)とのバンドルとなるため、映像編集をされる学生の方であれば、有力な選択肢となります。
Melodyne
レコーディングされたトラックの音程やタイミングを修正するソフトです。音程修正ソフトは世の中にたくさんありますが、UIのわかりやすさ、修正された音のナチュラルさともに(2021年秋現在)最も優れたソフトです。Pentatonixのミキシングエンジニアを務めているEd Boyerも使っていますし、先日拝見したアカペラのミックスが上手な人座談会(↓)では、皆さんこれを使っておられるとのことでした。
音程修正に関しては忌避感があるかもしれませんが、みんなやっています。黙って買いましょう。
基本的には各トラック単音の音程修正ができればよいので、最も安いessential(約1万円)で問題ありません。ただしUSDでの決裁が必須となるため、国際版のクレジットカードを作りましょう。上述の通り、Studio Oneにはおまけでついています。
必須プラグイン(無料)
Voxengo Span
スペクトルアナライザーです。どの帯域がどの程度の音量かを視覚的に示すツールです。無料なのに非常に高機能で、人気があるため日本語の情報も多数ネットに落ちてます。ミキシング初心者は耳だけで判断することが難しいので、目でも処理判断できるようにすることで判断ミスを防ぎます。
マスターには絶対に刺しましょう
ISOL8
ローファイ(低音質)チェック用ツールです。ワンタッチで特定の帯域を削除したり、モノラルにしたりすることができます。再生環境を選ばず狙った音質で聞こえるようミキシングをする必要があり、それにこのツールが非常に役立ちます。マスターには絶対に刺しましょう。
ただし特大注意事項として、刺しただけで音質が変わるので、使うとき以外はオフにしましょう。
必須プラグイン(有料)
Sonarworks SoundID Reference for headphones(1万5千円くらい)
手持ちのヘッドホンの音質をフラットにしてくれるツールです。ヘッドホンモニタリングには必須のツールで、私は常用しています。
インストールし、ヘッドホンを選択すると、ヘッドホンの特性をフラットにするプロファイルを読み込んでフラットなヘッドホンモニター環境が構築されます。フラットなモニター環境はミキシングのためには必須で、これがないとヘッドホンで聞いた際には良い音がするが、安いイヤホンで聞くとイメージが変わる、というような現象が発生し、どうミックスすればよいかの判断ができなくなります。上述の座談会でも、「常用ヘッドホンではハイが痛く感じるが、他のイヤホンで聞くとちょうどよく、どうしたらよいか悩む」とのお話がありました。このツールを用いればそのような状況が回避できます。
絶対に必要なツールです。高額ですが購入しましょう。
GOODHERTZ CanOpener Studio(7000円くらい)
ヘッドホンの右ドライバの音を少し左側に、左ドライバの音を少し右側に漏らすツールです。個人的には常用しています。
ヘッドホンでは、定位が右側の音は右ドライバから、左側の音は左ドライバからしか出ません。これによって、ヘッドホンモニターを行うと脳内に音像が定位します。しかしスピーカーで音楽を聴く場合はそうではなく、定位が右側の音も左耳に回り込み、定位が左側の音も右側に回り込んで両耳に音が届き、スピーカーの方向に音像が定位します。前者は人間にとって自然なリスニング環境ではなく、後者は自然なリスニング環境で、音に対する人間の判断も後者の方が精密にできます。
逆側のドライバに音を漏らすことで、ヘッドホンにおいても比較的自然なリスニング体験が可能となります。これにより音に対する判断力が向上し、特にコンプレッサーを使った時のアタックの変化が良く見えるようになります。
はっきり言って、使ってみないとありがたみが分からないツールです。だまされたと思って買ってください。
Waves MV2(4000円くらい)
ちっちゃい音を自動で大きくしてくれるプラグインです。音量の平準化に使用します。個人的には、ミックスで使用しないことはまずありません。
音量ばらつきの平準化には通常コンプレッサー(そのうち使い方は説明します)というツールを使うのですが、普通のコンプレッサーは大きな音を小さくする形で音量を平準化します。レコーディング時の音量ばらつきが大きすぎる場合、コンプレッサーを深く(=たくさん)かける必要があるのですが、コンプレッサーは深くかけると音質が変わってしまうため、ときには音量の平準化と音質の両立が困難となることがあります。そのような場合にMV2を使います。
MV2を用いて小さな音を持ち上げることによって、音量ばらつきがある程度平準化されます。平準化された音量に対してコンプレッサーを浅くかけることで、音質に変化をもたらさず音量を平準化することができます。
「全部MV2を使って音量を平準化すればいいじゃん!」という声が聞こえてきそうですが、ノイズが持ち上がるという副作用があり、深くかけるとノイジーになります。コンプレッサーとMV2をバランスよく使って、より良い結果にたどりつくことが重要です。
Waves Renaissance Bass
ベースをよりベースらしい音にしてくれるツール。個人的に、ベースには絶対に使用します。上で紹介した座談会でも、本ツールのプロトタイプであるMaxxBassをお使いの方がいらしており、効果に関して確信を持った次第です。
ベースの倍音を強調し、よりベースらしい音にしてくれます。詳細は↓の記事を読んでください。ここで取り上げられている飛澤氏は、日本トップレベルのミキシングエンジニアです。氏曰く、「ベースには絶対に使用する」とのことです。
聴かなければ効果はわからないので、飲み会一回我慢して購入されることをお勧めします。
次回は、ミキシングの事前準備に関して述べていきたいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?