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初心者からのアカペラミックス1 判断とカオス

本記事では、ミックスをするうえで行うべき判断に関するフレームワークを述べていきます。前述のとおり、ミキシングは判断に基づいて行われます。ただし素人ミックスを念頭に置いた場合、判断が困難なのも前述のとおりです。本記事では判断をするにあたっての障害となる録音素材の問題(=カオスと呼称します)を要因別に分解し、どのような考え方でそれを排除していくかの概観を述べます。

レコーディング・ミキシング音源の要素分解

レコーディングされた各トラック、ならびに最終的なミキシング結果としての2ミックスに関して、音楽的には音高、音量、音質、定位の4要素に分解できます。レコーディングされた各トラックに関しては、それぞれのパラメータがミックスに向けて適切な状態になっている必要があります。言い換えると、レコーディング段階でミックスに対して各要素が適切にコントロールされている必要があります。これら要素と、レコーディングされた録音素材にインパクトを与える要因との関係は下記の通りです。

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まず音高ですが、その名の通り音の高さです。アカペラでは音程、ピッチがこれに該当し、音程はアレンジで、ピッチは録音時の演奏によって決定されます。音量はその名の通り音の大きさで、演奏の音量とともにタイミングやリズム感もこの概念に含みます。これも録音時の演奏によって決定されます。音質は発声やマイキングで決定される声質ということができ、これは録音時の演奏、録音時のマイキングで決定されます。定位はパンニング(左右配置)で、ステレオ録音ではレコーディング時のマイキング等によって決定されるのですが、アカペラはの録音ソースは通常モノラルですので、2ミックスにのみ存在するパラメータであると言えます。

音楽は前述のとおりこれらパラメータの時間的変化で出来上がっています。ミキシングは、各トラックの音高、音量、音質、定位を目標に向けてコントロールし、最終的な2ミックスを得る活動ということができます。これら各項目は当然ミキシングでもコントロールするのですが、先述の通りレコーディングである程度は決まってしまいます。

素人録音におけるよくある状況

はっきり言ってピッチや音程はレコーディングで決定されるべき項目で、ディレクターが納得いくまで取り直すべきものです。しかし素人レコーディングではディレクションなんてものはそもそも存在しないことが多く、仮にディレクションがあったとしても、しばしば時間節約のためにミキシング工程で音程、ピッチ修正すること決断がなされ、音程、ピッチが怪しいレコーディング結果が出来上がります。また音量やリズム感に関しても、時間の節約のためにミキシングでどうにかするという判断が行われがちです。いわんや音質=声質の判断など期待できません。これら判断によって、素人アカペラミキシングが取り扱うレコーディング素材には、本来レコーディングでしっかり作りこんでおくべき点が作りこまれていないという状況がしばしば発生します。

一見これらパラメータに対して、例えばこの録音の音高に問題はなさそうだが、音質に問題があるといった形で独立に確認し、それらに対して適切な判断ができそうな気がしますが、素人ミックスにおいては実際はそうではありません。レコーディングがいまいちな音源をミックスするにあたって、上述要素に対して問題が多く理想からかけ離れている(=カオスが混ざっている)状況においては、どの要素のどこが良くないという判断をすることがそもそも困難です。この困難さは、各要素に紛れ込んだカオスが積み重なり相互作用することで、各要素のカオスの原因が理解できなくなることで発生します。

カオスへの対処

カオスが相互作用することで判断が困難となるため、まずは対処すべきカオスを特定しやすい状況を作ったうえで対処すべきカオスを部分的に明確化し、明確化されたカオスを徹底的に除去することを繰り返します。これにより、カオスを段階的に取り除くことができます。その結果ミキシングにおける判断可能箇所が少しずつ増加し、最終的にはミックスが可能な状態に至ります。これは、本来であればレコーディング段階で排除しておくべきであったカオスをミキシングにて排除する活動であり、ゴミのようなレコーディング済みトラックをマシにする活動と言い換えることができます。非常に後ろ向きな表現ですが、これがないとミキシングにおける判断のしようがないというのが現実だと思います。

ちなみにですが、アカペラのレコーディング後の録音素材で、まともなミックスに必要なクオリティはこの動画レベルです。ほとんどが英語の喋りですが、たまに録音済み素材を流してくれるので数分間聞いてみてください。

個人的経験からすると、素人録音からカオスを除去すると、このくらいの水準の録音になるかな、というイメージを持っています。各トラックがこの状態に近くないとカオスが多すぎてミキシングがスタートできません。

要素別カオス初期修正の方針

録音素材各トラックにおける初期修正の方針は下記の通りです。

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音高、すなわちピッチに関しては徹底的に音程修正プラグインで修正します。アカペラのチューニングは他のポップミュージックよりも繊細で、かつ極めて狂いやすいです。チューニングが狂っているとそこに耳が行ってしまい、 音量や音質、定位の判断が極めて困難となります。またYoutube等にアップロードされているアカペラ動画のうち、生演奏ではないものの多くは音程修正がなされています。安定した音程は最終的な聴き映えに直結するので一切妥協せず修正することが重要です。*

*現代のポップミュージックのボーカルチューニングは完璧な状態に修正されており、みんな大好きPentatonixもレコーディングにおいては音程修正、ボイスパーカッション差し替え等を駆使しているため、この点に関しては罪悪感を抱く必要は全くありません。詳しくはPentatonixのミキシングをしたEd Boyerのインタビューを読んでみてください。(英語ですが、Google翻訳を使えばなんとなく意味は分かります。)

https://www.soundonsound.com/techniques/inside-track-pentatonix

音量に関してはタイミング修正と全体を通じた音量のバラツキの修正が必要となってきます。タイミング修正に関しては音高と同様で、音程修正プラグインで徹底的に修正します。その後、音量のばらつきに関して安定化を図ります。ここはミックスに十分なレベルまで各種プラグインで改善を図ります。

音量まで修正が終われば、ミキシング可能となるまでカオスが削減されていることも多いです。音質においても各種プラグインである程度の水準まで高め、ミックスにおける判断が可能な状態までカオスを削減します。

ここまでやり切れば、ミックスにおける判断が可能になる=まともなレコーディング済みトラックとして取り扱うことができるようになります。今後、手順に関してはもっと詳細にまとめる予定ですので、詳しくは各項目を参考としてください。

まとめ

素人演奏素人録音のトラックには、カオスが大量に紛れ込むせいで、ミックスにおける処理判断が困難となる。

音楽は音高、音量、音質の3要素に分解可能、カオスもこれら3要素に分解が可能。

これらカオスを要素別に排除することが、素人ミキシングのスタートラインに立つためには必須。

次は製作に必要なハードウエアに関して説明する予定です。

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